国際協力
タイ・チェンマイのパン工房建設

はじめに

平成17年10月に特別非営利活動法人プロ・ワークス十和田(以下「NGO」)では、青森地域のチャリティー募金をもとに、タイ国チェンマイ県ドンチャン寺で生活している山岳民族の孤児達に食事をふるまい、衣服を贈るNGO活動のため現地を訪問した。これはタイ人女性と結婚したNGO会員がタイの孤児達の現状とその救済を訴えたもので、その現状の把握のために理事長以下2名が現地を訪問した。

理事長達がタイのドンチャン寺を訪れ、小学生から高校生までの約380名の孤児達の歓迎を受け、一人ひとりと言葉を交わしながら食事を提供した際に、言葉は通じないながらも子供達の笑顔や明るい振る舞いに感激し、恵まれないこの子供達のためにNGO活動としてプロ・ワークスで出来る支援をしてやりたいと考えた。

ドンチャン寺の住職と対談
校長先生を訪問し事業の説明
ドンチャン寺に住む孤児たち

寺院住職との対談により、ミャンマーとの国境付近に住んでいる山岳民族は数十人単位で暮らしており、タイ語以外の独自の言葉を持ち山岳地帯を移動しながら生活している。生活がとても貧しく子供達がある程度の年齢に達すると、育てることが出来ないためお寺などに子供達を託す事例が多く見られ、孤児たちの生活が困窮を極めていることが分かった。

また、親や兄弟家族と別れ、小さい頃から山岳民族独自の言葉を話しているため、タイ語も十分に話せない子供達が多くいることも分かった。多くの孤児たちは寺院で生活しながら、勉強や団体生活をしているが、その生活の資金は寺院への寄付で賄われている。

しかし、その寄付も一時的なもので食事や日用品・学用品が慢性的に不足しているのが現状である。また、高校を卒業すると必然的にお寺から出て独り立ちしなければならないが、その際、進学や就職がうまくいくか心配である。NGOではそういう現状を何とか打開できないものかと協議した結果、子供達にパン作りの技術を身に付けさせることが出来れば、就職など将来の生活に役に立つものと考えた。

2 事業の目的

寺院内にパン工房を設置し現地の安い穀物の原料を購入し、子供達にパン作りの技術を修得させること。また、技術を修得した先輩が後輩達にその技術を伝授し、何年にも渡ってパン作りの技術が伝授される仕組みを作ることが大きな目的である。パン作りの技術が伝授され、将来的にはパン工房の運営を軌道に乗せ、パン製品の販売体制を確立できれば孤児達の食生活の向上や技術習得にもつながり、さらには販売による現金収入による生活の充実が期待できる。

そこで、十和田市の国際交流担当課とNGOとの協議により、子供達の現状を解決するための取り組みを市とNGOが協力して行い、その活動を広く周知することで十和田市を中心に幅広い関心と支援の輪を広げることが出来るものと合意し、本事業を計画した。

3 実施内容

3−1 事前調査(平成18年6月)

NGOの国際交流事業で日本に数度招聘したタイ民族舞踊団の団長や、前述のNGO会員と結婚したタイ人女性の姉等を連絡員として、ドンチャン寺の孤児達の現状について調査してもらった。また今回の事業を実施するため、NGO理事長を経営指導員として派遣することとし、訪問の日程や訪タイした際世話になる通訳、運転手、宿泊所の手配等を依頼しながら国際電話やメールで協議した。

3−2 第1回目経営指導員の派遣(平成18年7月)

経営指導員として今回の事業全体のコーディネートをしているNGOの中野理事長を派遣した。第1回目の現地訪問では11日間の派遣で、今後のスケジュール調整や現地担当者との綿密な打合せを行った。ドンチャン寺の住職及び学校長との折衝のほか、商品開発・販路開拓が円滑に進むよう現地NGOと共にパン屋の市場調査、パン焼き機等の調査、パン工房の改築等に向けた協議を行った。

昨年訪問した際に住職に申し入れた孤児たちへの支援事業について、今回正式に支援することを住職と学校長に伝えた。その際、土地建物の所有者であるドンチャン寺院の住職から、寺院の敷地内に新たな建物を建設することはできないが、隣接している建物(食堂)をパン工房及びショップに改築して使用することについては了解を得た。また、パン作りの授業はNGOが学校側と連携して行なうことと確認された。パン工房を改築とすることにより、パン作りの材料を予定より多く購入することが出来たため、孤児達へのパン作り授業を重点的に実施することが出来た。

パン工房の改築について地元NGOと相談し協力を要請した。その際に地元NGOから中古のパン焼き機の提供があり、パン工房の改築や備品等を8月中に搬入設置することを確認した。さらに、現地建設会社と折衝しパン工房の改築について、設計図の作成や工事費の確認、備品等の購入の相談を行なった。

現地スタッフと今後の運営を協議
パン作りの指導員と
理事長と指導員

3−3 パン製造技術指導員の要請

日本から技術指導員を派遣する予定をしていたが、報酬面や派遣期間について了解を得ることができず、現地の指導者を採用する事が決まった。地元パン屋の経営者の紹介を得て、チェンマイの職業訓練校でパン作りを指導していた元教官に、今回の事業の目的を説明してパン作り指導員として協力してくれるよう要請し了解を得た。パン作りの技術指導は学校の授業が終わった後の2時間とし、週4回行なうこと、8月から12月まで実施することで報酬面や送迎などについて協議し合意を得た。

また、指導員にはパンづくりの授業がスムーズに行なわれるように授業で必要な道具や材料などの購入も依頼した。道具や材料を購入した際は後でその金額を清算するので、購入した金額が分かるようにメモしたり購入時の書類を忘れずに保管することをお願いした。

3−4 生徒の募集

また、校長先生を通して生徒達の担任の一人である先生をパン作り授業の責任者にお願いした。中野理事長と通訳、現地担当の先生とパン作り指導員と打合せを行い、パン作りに興味のある生徒たちに授業に参加してもらうよう要請した。その結果中学校1年生から高校1年生まで男女40名の申し込みがあった。パン作りの授業は今回の事業の柱となるところなので、先生や指導員と授業の内容や進め方について、通訳を交え何度も打合せを行なった。パン工房で一度に授業を受ける人数には限界があるので、班編成をし希望する生徒が全員指導を受け技術を修得できるようにして欲しい旨話した。

3−5 カウンターパート(現地パートナー)の採用

住職や校長先生との対談では日本語から英語、英語からタイ語への通訳が必要であり、言葉の壁のため当方の思いが伝わらずなかなか進まない場面もあった。日本の援助を期待する余り過大な提案もされたが、今回の日本の支援は孤児たちの将来のために行なう国際協力に伴う社会奉仕活動であり、支援には限度があることやいつまでも続く援助ではなく、最終的には生徒たちの自主運営を目差していることなどを話し理解をしてもらった。

事業を進めるに従い日本人とタイ人との認識に大きな違いがあることに驚かされた。金銭の交渉や約束を守るということ、時間を守ることなどに関する感覚は日本人とタイ人では大きく違うことが次第に分かってきた。また、日本からの援助ということでいくらでも支援が続くという誤解があり、通訳を通して説明してもなかなか理解してもらえなかった。

今回の接触の中で言葉の壁と金銭が絡むことによる現地の対応が非常に敏感であると感じ、現地日本人会の協力を得ることが必要であることを痛感した。そこで、タイ語を話せる日本人としてドンチャン寺院で日本語を教えているタイ国チェンマイ県に住む日本人会世話人をカウンターパートとして採用することとした。

タイに長年住んでいてタイ語を話せる日本人とカウンターパートの契約を結ぶことが出来たことにより、それからの交渉はとてもスムーズに進んだ。カウンターパートを通して、タイ人と交渉する際には前提条件として「約束したことは必ず守ること、与えられた役割は責任を持って実行すること、そしてそれらをきちんと守ることにより次の仕事が与えられること」などを念押ししてくれるように話した。信頼出来るカウンターパートの採用により日本とタイの言葉による障害や文化や習慣の違いによる行き違いの解消が出来た。

3−6 第2回目経営指導員の派遣(平成18年9月)

2回目は9月に10日間派遣した。前回の訪問の際協議したパン工房の改築やショップの開設に向けた作業状況の確認とパン作り機械の整備状況を確認した。また、お寺の住職や学校の校長先生と事業の進捗状況の説明をし今後の協力体制の確立とスケジュールの確認を行った。

パン焼き機を操作する生徒
パン生地をこねる機械を操作
パン作り機械の搬入
パン生地を延ばす作業

建物は汚れていた内装や外装がパン工房にふさわしくきれいに塗装されていた。
またパン作りに適するように扇風機やガス設備が設置され、冷蔵庫、パン焼き機、カーテンの設置、作業台などが搬入され、必要な道具や材料も買い揃えていて実際の授業が始まっていた。

学校側のパン作り教室担当の先生と、ショップの責任者である宿泊施設の寮母と販売戦略について協議した。近隣にあるパン屋さんの情報収集や販売店の視察などを行い、ショップでの価格設定や製品の展示の仕方など通訳を交えて指導した。

3−7 パン作り授業

パン作りを開始する前に授業を受ける子供達や担当の先生、パン作りの指導員、ショップの責任者である寮母さんに対して、中野理事長から日本の実施した今回のパン工房建設運営事業の意義を説明し、一日も早くパン作りの技を身に付け将来役立てて欲しいと話した。

パン作りは30℃を超える工房の中で扇風機を回しながら作業をするが、お湯を沸かしたり、ガスでパン焼きをするので室温が高くなってしまう。窓には網戸があったので空気が入って来ていたが、外気温が高いので窓を開けても冷たい風が入るというわけではなかった。一度に作業できる人数は10数名と限られていたので生徒達の割り振りを学校の先生にお願いし、希望する生徒たちが全員一人前にパン作りの技術を身につけることができるように配慮してもらった。

先生の話している内容をメモする熱心な子供もいるし、友達同士おしゃべりをしながら授業を受けている子もいるが、みんなとても明るく目を輝かせながら楽しく授業を受けていることが印象に残っている。

ロールケーキの作り方を学ぶ
いろいろなパンを作ってみる

パン作りの指導は年配の女性指導員にお願いしたが、十数名の生徒達に役割分担をさせテキパキと作業が進んでいた。小麦粉を量る係り、ふるいにかける係り、塩や砂糖、バターなどを適量に量って小麦粉に混ぜる係りなどがあり、それらをみんなで水を入れながらおしゃべりをしながら楽しそうにあちこちで捏ねていた。指導員は職業訓練校で長年パン作りの指導をしていた経験があり、レシピに従がって子供達に役割分担をさせスムーズに授業が進められていた。

パン作りを参観した時には中学生の男女が民族衣装に身を包み、指導員の授業を熱心に受けていた。この学校では曜日により民族衣装を着る日が決められており、その衣装の上にエプロンをして授業を受けていた。生徒達はこれまで何度か授業を受けていたのでパン作りに必要な材料や道具は、作る種類により準備ができるようになっており、子供達の動きには無駄が無くスムーズだった。

授業では色々な種類のパンやクッキー、お菓子なども作っていた。同じ材料や道具、機械を使って出来るだけ多くの種類の作り方を身に付けさせたいという配慮がなされていた。子供達にとっても同じ作業ばかりではなく、機械を操作しながら大量の材料を捏ねたり、時には木の棒を使ったり、時には竹で出来た道具を使ったり、全工程が手作りだったりと、少し工夫をすることにより全く違った形のパンやクッキーが出来ることは驚きであり、大変興味を惹くこととなった。

タイの民族衣装に身を包んで
お菓子の材料を軽量
パンの焼き具合をチェック
パンを一口サイズに切って試食

子供達は今までパンやお菓子を作った経験が無かったのでとても楽しいと話していた。また、一日も早く一人前になって将来はパン屋さんで働きたいと話す子もいた。

授業の内容について聞くと、参加している子供達みんながパン作りにとても興味を持っていること、先生の教え方が良いのでパンの作り方が分かりやすいこと、出来たパンやお菓子を試食して食べることが出来るのでとても嬉しいこと、自分達が作ったパンやお菓子をお寺にいる幼児や小学生、友達たちに食べさせることが出来るので喜ばれていることなどを話していた。

まだこの段階の授業ではパンの形が不揃いで売れる製品にはならないが、味は良く試食した人達はとても美味しいと話していた。授業では多くのお菓子などが出来るので、お菓子を作った生徒たちが竹篭やお盆などに入れ、低学年の教室に配り子供達のおやつとして食べさせていた。

3−8 第3回目経営指導員の派遣(平成18年11月)

3回目は10月末に14日間派遣。お寺の住職や学校の校長先生に対して事業の進捗状況の説明をし、今までの協力に感謝していることを説明した。また今回が最後の訪問であるが、指導員は12月まで採用しているので授業は12月まで続けることを説明した。その後の活動についてはショップの売上を原資に材料を購入し子供達だけでパンやクッキーの製品作り、販売を行い、後輩への指導をしてもらえるように話した。

パン工房に設置した機械や道具、備品などは全て学校へ寄付するので今後有効に使ってもらえるようにお願いした。その際住職及び学校長からは今後も継続してパン工房に対する支援、また日本からの援助を要請された。

ショップの製品展示を考慮中
ショップの責任者が、販売員を指導します

パン作り指導員への報酬や通訳、カウンターパート等への支払、パン作りの為の材料や道具等の支払など経費の最終確認を行った。

今回の訪問はパン作りを始めてから3ヶ月以上が立っており、生徒達はパンやお菓子を製造できる基礎的な技術は身についたと思われた。生徒たちが自主的に作業を進めることが出来ていたことに感心した。ただし製品として販売するにはまだまだ技術不足であることが分かった。味はひけを取らないながらも形が不揃いだったり、時間が掛かり過ぎたり、ある程度の量と種類を継続して製造できなければ販売には向かないと思われた。

ただ、子供達による手作りのクッキーやパンは、寺院に隣接しているショップで安く販売しており、寺院を訪れた信者や観光客達には大変評判が良かった。ショップでお菓子などを販売することにより中学生になったばかりの生徒達は笑顔での接客やお金のやり取りなどを経験していた。民族衣装に包まれてお店で販売員として接客する姿はとても新鮮で観光客達には喜ばれていた。

4 国内への活動の報告

(事業実施期間中、定期的に随時)

寺院で進行する取り組みの模様を幅広く周知し、関心と支援の輪を広げることが今回の事業の市の役割であった。

そこで活動の周知は十和田市の「広報とわだ」の国際交流紹介コーナーで2回紹介した。また、地元の地方新聞紙上に掲載されたり、十和田市で発行している多言語情報誌で紹介した。その他に三沢市で行なわれたミニインターナショナルフレンドシップフェアーで中野理事長の説明とパネル展示を行った。

また十和田市多文化共生フォーラムで平成18年度十和田市国際協力事業として、パン工房建設事業のパネル展示とスライドを使った報告を中野理事長にしてもらった。NGOでは十和田地域での地域づくり活動やボランティア活動などを通して、今後もパン工房建設事業の経過を必要に応じて学校や各種団体などで事例発表を行っていきたいと考えている。

現地を訪問した、地方公務員視察団一行と
微笑みの国 タイの子供達

5 将来展望

事業期間内にパン工房運営を軌道にのせ、孤児達自身の生活を向上させるため、自らの意志で技術を習得させることが目的だった。

その中で、パン作りを希望した40名の子供達はパン作りやお菓子、クッキーなど十数種類の作り方をマスターした。先生の指導された内容をノートに取りそのノートを見ながら生徒たち自身が自主的にパン作りが出来るまでになっていた。その味や品質は大変高く評価され、地元の人たちばかりではなく外国から訪れたフランス人や日本人からも評判が良かった。そういった意味で子供たちへの技術習得の目的は大きく達成できたと思っている。指導員の派遣は12月に終了するので、今後は技術を修得した子供たちがその技術を後輩に受け継ぐような体制を作り、将来に渡り今回の事業が引き継がれることが望まれる。

しかしながら、パン製品などの販売についてはドンチャン寺院の一角で小さなショップを開いているだけなので、寺院を訪れる信者や近所の人達、時折訪れる観光客に時々売れる程度で、仕入れを上回る売上には至っていない。また、道路から離れた寺院のショップだけでは販売に限りがあるため、道路に面したところに小さなショップでも開設し観光客や一般の人たちにも販売することができないものか話し合われたが、建設資金の目途は立っていない。

また、パンやクッキーお菓子などは作れば売れるというものではなく、多くの人たちに購入してもらうようにするために、見た目を良くし包装したり付加価値を高める箱に入れるという必要があり、これからの課題となっている。今後はショップの管理を任されている寮母さんと子供達が如何にして販売実績をあげることが出来るか、カウンターパートを通じて指導していかなければならないと考えている。

十和田市を中心として、学校や団体、事業所など幅広い住民に対して、国際協力活動の実施状況を伝えていくことで、今後とも現地を暖かく見守り、お互いの声が行き来するような状況を作り出すことが必要だと考えている。そのことにより現地での自主的な運営の励みになれば良いと思っている。

お菓子作りの技術が、子供達の将来のために・・