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NO 8003    

宇宙の友人達 バズ・アンドリュース物語  


タカシ記

本山よろず屋本舗情報です。

http://motoyama.world.coocan.jp/space_01.htm


宇宙の友人達

バズ・アンドリュース物語

 今回からバズ・アンドリュース物語を紹介します。この話はカナダ人のUFOコンタクティーであるオスカー・マゴッチ氏がバズ・アンドリュース氏(仮名)が体験した驚くべき体験を書き留めたものです。
 これまで紹介してきたマイカの物語は、宇宙の偉人の物語でした。今度は現代に生きる地球人(アメリカの男性)の体験です。その八方破りの性格から、とんでもない事をしでかす男のストーリーを楽しんで下さい。

 これらは、「深宇宙探訪記(中)」星雲社 の抜粋です。ただ購入したくても、もう書店にないかもしれません。

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 第二話...バズ・アンドリュース物語

第一章 まずUFOと遭遇

バズ・アンドリュース登場

第二章 宇宙船  

壮大な宇宙の旅へ・・・

第三章 異星生命体  

異星の生命体との出会い

第四章 「宇宙空間のかなた」

ガーディアン評議会への旅

第五章 移行波乱  

思わぬ展開へ・・・

第六章 NATOの狂態

バズ・アンドリュース大暴れ

第七章 MIBを壊滅

さらに大暴れ!

第八章 逃亡

逃げろ、逃げろ!

エピローグ

お疲れ様でした...

はじめに

 宇宙人が私を選んで宇宙の神秘に初めて触れる深宇宙の旅に送り出した理由は、私に知識と英知を求める飽く無き好奇心があったからだった。だが、本書に記録した冒険の主人公である『バズ』・アンドリュース(私が一九七五年に経験した『宇宙の旅』の巡礼仲間の一人で、武術に秀でた、歴史に残る重要なことをするタイプのヒーロー)が選ばれたのは、彼が非常に強力な超能力を持っていたからだ。人それぞれ行く道は違っても、宇宙の全体系からすれば、霊的には誰しも皆、同じ様に重要なのである。

 一九八一年八月、宇宙人の友人達との秘密の会合で、私はバズ・アンドリュースの代わりに本書を書くように要請された。本書の内容はその時にバズが私に語ったことである。その後大分たってから気が付いたのだが、本書を執筆する仕事も私自身にとっては一種のテストであったのだ。この一件を秘密にしておくことも、彼の話を活字にすることが急を要するということも、今やそれほど大事なことではない。当時と比べると、状況が大分変わってしまったからである。それでも、この物語を語っておかなければならない理由がいくつかある。バズの話を公にしておく必要もあるし、この数年の間に多数起きた地球規模の奇妙な出来事を解明するためにも必要なことなのだ。だが、本書を出版するのは、何よりも、宇宙の謎を自分で解き明かしたいと思っている熱心な人々に読んで頂きたいからである。
 それでは、この信じ難い深宇宙冒険旅行の秒読みを開始することにしよう……。

         一九八四年一月一日 トロントにて
                     著者(オスカー・マゴッチ)記す


バズ・アンドリュース物語の序

 私は中流階級出身のアメリカ人だ。子供の頃、猫や犬が好きだったので、いい獣医になるだろうと父親は思っていた。一方、教会に行くのも、少年少女聖歌隊で歌うのも好きだったためか、母親の方は、立派な牧師になるだろう、と思っていた。だが私はそのどちらにもならなかった。十代の初めに武術を習い始め、何年か経ってからは、過激派の政治活動家のグループに身を投じ、ついには、革命派の都市ゲリラになった。
 その間、書物を何冊も読破し、歴史と政治学を勉強。さらには、ガテマラのジャングルのキャンプでキューバが主催した、テロリスト養成集中訓練を偽名で受け、第一級のプロの殺し屋となった。その後、私を含めて、殺しの技能に最も長けた者二十人は、中南米のある小国に送り込まれ、『特攻コマンド部隊』よろしく、その小国の政府転覆活動を支援することになった。宮殿での戦闘は激しく猛烈を極め、私のグループで生き残った者はほとんどいない有様だった。もうこれまでと思い、ずたずたになった死体の上に自分の身分証明書等の書類を置き捨て、この栄光ある仕事から永久に足を洗うことにした。超一流の殺しのプロ達にとっても、戦死率は非常に高く、戦意を失う程であったし、それに、私にはどうも場違いのところにいる気がしていたのだ。そこで、宮殿でうまくくすねた宝石の装飾のついた短剣をわずかながらの種銭として持ち、密かに脱出して米国に戻った。
 それから一年半は、くすねた短剣で作った資金で食いつなぎ、戦士としての侮り難い才能の方は、ただ錆びるにまかせっぱなしだった。それというのも、心の奥底では暴力が大嫌いだったからだ。そもそも武術を習い始めたのは、自己開発と精神修養が狙いだった。その後のことはそれこそ自然の成り行きでああなったので、好奇心とチャレンジ精神の結果であった。技能、スピードそしてスタミナという三つの基本はすぐ体得してしまったし、その後、何回か訓練を受けているうちに、まったくの偶然から自分の特殊能力にも気付き、ささやかながらもその能力を利用しようとした。たとえば、素手であれ各種の武器を使った場合であれ、その能カのお蔭で最後の最後のひとふんばりができ、最強の相手でも打ちのめしてしまう、という具合にだ。これは、運動選手がよく経験する単なる『盛り返し』というよりは、自分にとっては、『物質に対する精神の勝利』だった。そして、戦闘生活から足を洗い、長い休養を取った後、当時流行っていた『新意識運動』に参加したのも、好奇心を引かれるあの能力の真相を掴みたかったからである。ヨガ教室に通ったり、瞑想グループやEST(エルハルト式自己啓発セミナートレーニング)にも参加し、サイエントロジー(能力開発法の一)、身体意識訓練、スピリチュアリズム(心霊主義)、等々何でも経験した。さらには、『理解し難い』新興宗教に凝った時期も何回かある。こうして、自己発見の旅に出たのだが、学習速度は本当に速かった! 自分に対する感知力、理解力が高まり、自分を許せるようになり、自分も他者も愛せるようになった。さらには、なかなか言うことを聞かない自己を鍛錬してコントロールできるようになったし、自分の持っている能力を結集させて、精神力を発揚し、不可能と思えることも出来るようになったし、それこそ精神的な手段だけでカリスマ性をを滲み出したり、人を威嚇することも出来るようになった。
 こうしたことがすべて、以前に武術やテロリスト訓練で学んだこと、つまり集中力、心象化、タイミング、そして最大限の力で行動へと爆発させること、と一体化していった。それに加えて、特に難しい仕事になると助けてくれるあの『特殊能力』が私にはあった。私という存在全体を脈動させ、エネルギーを充満させる力を呼び起こす能力だ。
 この新たに発見した能力を試してみたことがある。ある時、横暴な新興宗教団体を脱会することに決め、強制収容所みたいなところを、それこそ文字通り真っ直ぐに歩いて出たのだが、その際に、ドアを蹴っ飛ばして壊し、守衛たちを威嚇して動けないようにするか一撃で殴り倒した。門に着く頃には、黒帯級の『暴力団員』風のやからが十数人、万全の態勢で待ち構えていた。私が『ハタッ』と睨みつけると、何人かは怖じ気づいてこそこそと逃げ出したが、残った者達は腹を空かした狼の群れのように飛びかかってきた。私は目茶苦茶に暴れ始めた。ハリケーンの破壊力を持った人間連打マシーンと化し、前もってイメージしていた通りに、突き、蹴り、空手チョップを繰り出した。二分もかからないうちに、一人を除いてみんな倒れて伸びてしまった。残った一人はピストルを取り出し、私に向けた。飛びかかるには間合いがありすぎたので、ゆっくりと歩を進めていきながら、超能力でじっと相手を見据える。びっくりしたことに、効いた!
 その機会を逃さず、ピストルでふざけた真似をしたお返しに直に相手の腕をへし折り、股問に蹴りを入れて黙らせ、そうしてから後ろに向き直った。前に倒した連中は打撃から立ち直りつつあった。そこで私は怒鳴ってやった。
 「俺にピストルを向ける奴がいたら、こいつよりももっと目茶苦茶に痛めつけてやるからな!」
 正直なところ、非常に楽しかった。大変に良い気分だ。何か物凄い超能力を手中にしたのが分かった。確かなことは、自分ひとりだけでも相当手強い戦力になる、ということだ。
 好奇心に駆られて、このツキを利用して町に留まることにし、近くのホテルに部屋を借りた。驚いたことに、例の新興宗教団体とはもう厄介な事は起こらなかった。その代わりに、『ディプログラマー』(信仰を捨てさせる人)と称する奇妙な男が現れ、危険な新興宗教団体から子供たちを引き離す手助けをしてくれ、と頼まれた。そこでしばらくその男の仕事を手伝った。これも経験だ、と思ったのと、気前の良い報酬も魅力だった。何件か誘拐を手伝ったが、新興宗教団体のほうで警察権力を導入し介入させることが多くなったため、仕事がやりにくくなった。そこで、ある日、荷物をまとめてその地を去ることにした。
 東海岸に移って、何かまともな仕事につく手だてを曖昧ながらも考え始めた。時間も無駄にしてきたし、漂浪者のようにくだらない旅も何度かしてしまったし、持ち金も底をつき始めていた。何か生計を立てることを始める必要があったのだ。
 一九七四年の晩秋だった。私は決心した。いろいろなアルバイトで生活の糧を稼ぎながら地味な活をして、将来のある生活が出来るようなチャンスを見逃さないようにしていこう、と。さらに、新年からは、暴力、革命、政治を始めとした馬鹿げた突飛なことには首を突っ込まないという決意も固めた。私としては、これからの一年は、極々普通の生活をして、普通の人のように幸せな人生を送りたかった。

 * * * * *

第一章 まずUFOと遭遇

 一九七五年一月一日、私はニューハンプシャー州ホワイト山脈国有林を突っ切って、ボストンの自宅に向かって車を走らせていた。ティカムサ山のスキー場近くにあるスキー小屋を出たのは午後十一時を少し回っていた。スキー小屋は友人の友人の両親のものだが、両親は不在で、そこで大晦日のパーティーを開き、どんちゃん騒ぎをして元日を迎えたのだ。車を運転しているうちに、二日酔いがやっと醒め始めた。おそらく、断り切れずに飲んだ二杯目の『最後の一杯』の精だろう。小屋に残った者達は、最後の一滴を飲み厚くすまでそこにいるつもりだった。
 滑りやすいハイウエイ四十九号線を、ボストン方面行きの主要道路に向かって走る。そのうちに、奇妙なオレンジ色の光がひとつ空中を不規則に舞っているのに気がついた。注意を道路に向けたり、光に向けたりしているうちに、曲がる場所を間違えてしまい、南下するハイウエイ百七十五号線に乗ってしまった。すぐに方向転換をせずに、このまま行けばどこかで州間道路に入れるだろうと思い、そのまま走ることにする。
 キャンプトン.アッパー村の南、数キロの地点で、例の不思議な光は大きくなり、ハイウエイのすぐ上まで降下してきた。およそ二百メートル前方だ。不思議な光は、明るく輝く円盤だった。横から見ると端から端までおよそ九メートルある。雪に覆われた地面近くに浮かんでいるので、道路を塞いでいるのも同然だ。これが一部の人がいう『空飛ぶ円盤』だと思った。
 危機一髪というような状況を避けたかったので、道路端に車を止めた。明らかに、円盤は私を待っている。一体何の用だろうか? と、突然、まさにこの地域で十年以上も前に起こった突拍子もない事件を思い出した。ある夫婦がUFOに誘拐され、UFO乗組員に調べられてから釈放されたというのだ(著者註:『バー二ー&ベティ・ヒル夫妻誘拐事件』)。だが、私にはそんな馬鹿げたことにつきあう気はさらさらなかった。
 座席の下からタイヤ交換用のレンチを掘み、助手席のドアを開け転がり出て、積っている雪の中に飛び込んだ。凍った雪面で顔が切れるのを感じ、怒り狂った私は、さっと立ち上がって円盤に向かって叫んだ。
 「捕まえられるもんなら捕まえてみろ!」
 何も起こらない。UFOは沈黙したまま同じところに浮かんで、暖かなオレンジ色の光を長閑な雪景色に注いでいる。そのうち、その光は、催眠状態を引き起こすような脈動を始めた。あたかも私の否定的な考えを静めようとするかのようだ。と同時に、自分の心が探られ、調べられているような気もする。
 白状すると、こちらも好奇心が涌いてきた。何のかのいっても、元旦ならいつでもUFOが見られるというものでもない。幻覚は見えるとしても、オレンジ色の空飛ぶ円盤は無理だ。
 しかし、いかに好奇心がつのっている私であっても、人の心にずかずかと踏み込んでくる行為は頭に来る。そこで、怒った振りをして、円盤に向かって力一杯「ワッ」と叫んで、呪縛を断ち切ってやった。すると、円盤は脈動を止め、急上昇を始めた。そして、私に向かって二度点滅を繰り返した。私はそれに応えて、相手を宥めるように、
 「新年おめでとう、このど阿呆!」
と、叫んでやった。円盤は飛び去り、曇り空の夜の帳の中に消えていった。
 だが、この出来事で私は狼狽してしまったようだ。何の目的もないメロドラマチックな行動をとったことで、混乱し、なんて馬鹿げたことをしたんだと思い、恥ずかしい感じもしたからだ。しかし、そんなこと心配しても仕方がない。どうせ、あの『円盤乗組員』に良い印象を与えなかったのだろうから。

 * * *

 数週間もしないうちに、あの遭遇事件はすっかりといっていい程忘れてしまっていた。それに、あんな奇妙な経験を誰にも話す気にはならなかった。やがてボストンを離れて、『もっと緑の濃い牧草地』(と思えた)ニューヨーク市に行ったのだが、そこの寒々としたぬかるみだらけの冬に落ち着かなくなり、二月下旬になるとフロリダに移り住むことにした。マイアミビーチでは良い部屋と、職業斡旋業者を通じて臨時雇いのウェイターの口が見つかった。大した生活ではないが、テンポの変化と今までとは違った日常生活、それに温暖な気候が楽しめた。時には、斡旋業者のはからいで、大金持ちの自宅で開かれる私的なパーティーにウエイターとして出張することもあった。
 春になった最初の日、三月二十一日には、メキシコ湾岸のナポリのすぐ南のある家のパーティーで働いていた。仕事を片付けてからマイアミビーチに向かう道路に入ったのは午前三時近かった。ちょっと涼しかったが快適な夜で、霧のかかったエヴァーグレイズの間を通るハイウエイ四十一号線を東に向かって走っていく。所々雲がかかった夜空に、星はほんの幾つかしか見えない。そのうち、非常に明るい星に気がついた。奇妙なオレンジ色のオーラが周りに見える。それが地上に向かって落下し始めた。ところが、急に空中で止まってしまった。あっと思った。UFOだ!
 今回は、興奮する気持ちを抑えようとした。物体を問近で見れたらいいな、と思ったのだ。
 「近くに来い!もっと近づけ!」
 私の声が聞こえるかのようにオレンジ色の光に向かって叫ぷ。
 すると、不思議なことに、円盤は応えてくれた。高度を下げ、ハイウエイを横切って、私の頭上を飛行していったのだ。ドーナツ型の、紛れもない円盤だ。ちょうどその時、車のエンジンが止まり、ヘッドライトも消えてしまった。急に真っ暗になったので、ピクニック場の斜め駐車区域で道路脇に車を寄せようとして、もう少しで道路の外に出してしまうところだった。(後で分かったのだが、ここはオチヨピーの東十六キロ、モンロー駅の西およそ五キロの地点であった。)
 「降りてこい、この間抜け!」
 飛んでいく円盤に向かって叫んだ。円盤のオレンジ色の輝きが不気味に明滅するのが沼地の茂みを通して見える。私の気持ちが通じたのか、光の変化がやっと静かになった。
 懐中電灯を掴み、車から飛び出す。調べてやろう、という意欲十分だった。円盤の場所は道路から三十メートル位のところに違いないと思い、ピクニック場に通じる遊歩道を歩き始める。だが、余り進まないうちに、オートバイみたいなものに跨がった黒い影に、進路を邪魔されてしまった。懐中電灯が消えてしまい、私は悪態をついた。すると、
 「何をそんなに騒いでいるんですか?」
 と、太く低い声が鳴り響いてきた。黒い影からだ。
 「その答も誰かが出してくれりゃありがたいんだがね!」
 私はその男に向かって喚いた。
 「そういう意地悪をされるのは今年になって二度目だ!見てみろ、車のエンジンも止まってしまったぞ!円盤の中にいる奴等に話がある! 奴等は、俺に何の用事があるってんだ?!」
 「叫んでも、力んでみても何の役にも立ちませんよ」
 「まさか、俺が叫んだんで奴等が墜落したなんて言うんじゃないだろうな」
 「そうじゃありませんが、貴方のその癇癪玉は、まったく役に立たないマイナスのエネルギーの干渉ですよ。それに、貴方の喚き声で、遠くの鰐までも起き出してしまいます」
 「よし、分かった。静かにしよう。だから、通してくれ」
 実際、気持ちはずっと落ち着いていた。暗闇の中で怖いほど出し抜けに黒い影に出会ったというのに、緊張感がさーっと消えて、その速さには自分自身も驚いたくらいだ。
 「戻ったほうが良いと思いますよ。本当に」
 闖入者が言う。
 「君子危うきに近寄らず、とこの地の諺にもあるでしょう」
 「というと、おまえはこの地の者ではないというのか?」
 「ええ。住んでるところはもう少し遠くです」
 「その『少し遠く』というのは、どのくらい遠いんだ?」
 その男をじっくりと見ながら言ってやった。
 「とにかく、質問に答えてくれ」
 「まあ、そんなに慌てないで下さい。やがて答が出ますから」
 「今すぐ出ないとしたら、いつだ?」
 私は食い下がった。だが、好奇心は急に冷めていく。それどころか、関心が無くなってしまい、危うく眠り込んでしまうほどだ。頭を振って眠気を醒ませたが、急に眠くなったのは黒い影が胸につけている『お守り』の輝きと何か関連しているのだろうか。
 答が返って来たのは、永遠とも思える時間が経ってからだった。
 「コンタクトは間もなくあります。お約束します」
 「いいだろう」
 自分でもびっくりしたが、黒い影の暖昧な約束を受け入れてもいいという気がした。だが、何かおかしい。心が操作されているような気がする。
 「そんなことどうしておまえに分かるんだ?!一体何者なんだおまえは?!」
 私は大きな声で詰め寄った。
 「私は、これでも、レンジャーなんです。いろいろなことを知っているのが仕事ですから。もうよろしいでしょう・・・」
 ことを荒だてずにこの場を去って欲しがっているのが分かった。そこで、黒い影の言うことに従った。私の気性からすればこんなことありえないのだが、その時は、どうみても従うしか他に理にかなった道はないように思えた。それで、その場を離れたのだ。ハイウエイの道路端から振り返ってみると、あの不思議な男の姿はもう見えない。車のエンジンをかけてみると、難なくかかり、私は走りだした。だが、どうも騒されたような感じで、落ち着かない気分を払拭できなかった。

 * * *

 それから一か月して、ニューヨークに戻った。グリニッジ・ヴィレッジでのいっもの決まりきった仕事と、一緒にいると寛いだ気分になれる友人達のところへだ。グリニッジ・ヴィレッジは、長い冬眠からやっと覚め、活気を取り戻し始めていた。
 フロリダでUF0に遭遇したことは誰にも言わなかったが、その記憶は新鮮で、それに突き動かされるように、読書や講演を通してUFO現象についてできるだけ知ろうとした。UFOに関する本ならそれこそ全部といっていいほど買い込んだが、読めば読むほど、もっと知りたくなった。単なる目撃の事例研究よりも、もっと確定的なものが欲しかった。事例研究以外の本もあった。幻覚であるとか、太陽面爆発(フレア)であるとか、沼地が発生するガスのせいであるとかと説明して、UFO現象を認めず、そんなもの信用できないとする説もある。UFO現象を言葉巧みに一蹴するのに特に熱心なのが軍部だが、私には軍部が本当のところをまだ掴んでいないとは到底信じられなかった。
 UFOの本を私と同じようにあちこち拾い読みをしている男と、長い時間大変興味を引かれる話をしたことがあった。その男は、UFO伝説については文字通りの博学で、それまでに私が読んだ書物をすべて合わせても余りあることをたくさん話してくれた。UFOの組織化された研究に参加するようにと誘われたが、私は、違ったものを追いかけているのだ、自分で直接経験してみたいのだ、と言って断った。自分がかつて遭遇した経験を暗に示すような言葉を使ってもみた。すると彼は、UFOに関する講演会に行ってみてはどうか、そうしたらUFOのことを本当に知っている人に出会うかもしれないし、宇宙の異星人とも、ひょっとしたら接触できるかもしれない、と言う。そして、ニューヨーク大学の公開講座に出席するのが一番良いだろう、とつけ加えて言う。別れる前に、名前を教えてくれた。今は住所も電話番号も思い出せないが、彼と出会った後すぐに連絡を取ろうとして、住所も電話番号もでたらめであることが分かった。
 五月下旬、近くのニューヨーク大学校舎で、UFOとその関連現象について講演があることを知った。聞きに行きたいとの気持ちが余りにも強かったので、大いに脈があるダブルデートをキャンセルして、聞きに行ってしまう。校舎に近づくと、願っていたコンタクトに絶対会えるとの確信が突然に湧いてきた。講演開始時刻の十五分前に着いたので、集まり始めたそれほど多くない聴衆の顔をじっくりと観察する機会が得られた。典型的なグリニッジ・ヴィレッジの住民達や雑多なニューヨーカーの中から『彼』を選び出すのは簡単だった。彼は背が高く、年齢は三十代と思える。髪の毛はブロンドで、射るような青い目をしており、レジャースーツを着て、大変奇妙なお守りを身につけ、今までに誰からも感じたことのないような不思議な魅力を醸し出していた。彼に真っ直ぐに向かってつかつかっと歩み寄っていき、こう言った。
 「来ましたよ。例の答を聞きにね。少しお話をしませんか?」
 「いいでしょう」
 良く響く声で応えが返ってきた。
 「良く来てくれましたね。近くのコーヒーショップにでも入りましょう」
 ブリーカー通りとマクドゥーガル通りの交差点近くの余り混んでいないコーヒーショップに入り、おいしいイタリア産のレッドワインを少し飲む。彼の名前はクェンティンといい、「外」何とかという科目の教授で、研究休暇中とのことだった。彼は、私達の奇妙な出会い方を何とか言い繕うとした。私の方は、表面的には気にしなかった。だが、心の奥底では彼の言い訳なぞ信用していない。『何気なしに出会った』どころではなかったのだから。彼の話では、私が見た円盤は地球とは違う次元のもので、母船を使い、『バミューダ三角海域』のようないわゆる『窓の領域』を通って地球に来たのだという。円盤は意のままに物質化・非物質化できるという。円盤の飛来にはいろいろな理由があるが、背後にいる宇宙人は、地球人の中から仲介者に適したものを『探し』に来ている場合もあり、それは、やがて起こる大規模なコンタクトに向けて、一般大衆を準備させる手助けをさせるためであるという。
 クェンティンは、三十分近くも驚くほど細かい説明をしてくれたが、その情報の入手先については言葉を濁し続ける。今度は、私が本当の直接体験をできるのはいつか、と尋ねてみた。
 すると、彼は銀色っぼい手帳をちらっと見てから、こう言う。
 「一番良いチャンスがあるのは、今年の八月初旬でしょうかね」
 「でも、どこで、どうやって? 八月までにはどこに行ってるか分かりませんよ。西海岸に行ってるかもしれませんしね」
 「どこにいようとも、コンタクトしてきますから、安心して下さい。時機が来れば、コンタクトはいつもあります」
 彼の言葉には申し分のない響きがある。だが、その瞬間、私は急に用を足したくなった。彼にそこに居るようにと頼んでから、近くのトイレに急いで行く。戻ってみると、彼は姿を消していた。テーブルの上には、ワインの代金として十ドル札が一枚置いてあった。

 * * *

 

七月末までに、西海岸に行く計画を立てていた。だが、何やかやの理由で苛々するほど遅れてしまい、何とか八月二日までにはニューメキシコに辿り着いたのだが、目的地までにはまだ大分距離があった。急いでカリフォルニアに行って運命との出会いを逃さないようにしなければ、という衝動を感じていた。クェンティンが喋っていた、これからやって来るUFOとのコンタクトを強く信じるようになっていたからだ。最近では、この奇妙な考えにかなり取り懸かれていたのだ。
 八月二日の午後遅い時間になる頃には、もうアルバカーキは過ぎていた。アルバカーキの西およそ六十キロ、ラグナを過ぎたばかりのところで、車のエンジンが止まってしまった。それも、交通量の多い州間ハイウエイのど真ん中でだ。路肩の安全な場所に何とか車を転がして、ボンネットを開けてみると、高圧コイルが焼け焦げて駄目になっていた。
 古い小型トラックが一台私の背後で止まり、男が二人降り、どうしたのか、と見に来た。一人は、髭を生やした若いカトリックの神父で、射るような緑色の目をしている。その精で、神父というよりも海賊のようだ。もう一人は、年老いたアメリカン・インディアンだ。嬉しそうに、にやにやしながら分かりきったことを口にした。
 「コイルが駄目になってる。全然駄目だね」
 「悪魔のように厄介なことですな」
 と髭神父が、目を上げながら信心深げに言う。
 「自動車工場はどこも週末は休みなんですよ。でも、私の友人、この老インディアン、ドン・ミゲルという名前ですが、彼なら直せますよ」
 この老インディアンが技術的なことを知っているのかという疑念がこちらの顔に現れたのに気がついて、神父がこう付け加えた。
 「彼は電気や機械関係のものなら、何でも直してしまうんです。趣味でやってるんですがね。プエブロ・インディアンには才能があるんです。ここから遠くないところにあるラグナ居留地の周辺に電子製品工場も持ってるくらい・ですからね」
 神父は、二人の目的地である別のインディアン居留地内の近くの場所まで乗せていってくれるという。コイルのスペアーを持っている人が見つかるといいがと思いながら、その申し出をありがたく受けることにした。前部座席に、二人に挟まれて座った。驚いたことに、トラック自体はおんぼろでくたびれてはいるが、運転席は、電子装置がそこいら中にたくさん詰め込まれていて、まるで飛行機の操縦席みたいだ。例のインディアンが運転をしたが、たまげるほどの猛スピードを出す。時折、私のほうを横目で見ながら、変な一言葉で何かを言ってはクスクスと笑う。
 「私のどこがそんなに可笑しいんですか?」
 「野生の馬みたいだと言ってるんですよ」
 神父がばか笑いしながら答える。
 響きわたるような神父の声は、はっきりとは思い出せないが微かに聞き覚えがあるようだ。以前どこかで聞いた声だ。
 「それも、とびっきりの野生かな」
 今度はインディアンが英語で言う。
 神父が手掛かりをくれた。
 「彼には貴方の未来の行動が見えるんですよ。ドン・ミゲルは預言者でしてね。職業は医者ですが」
 州間ハイウエイ四十号線を降り、ハイウエイニ十三号線に乗る。南下する間道だ。標識が見えた。『アコマ・プエブロとミッションまで二十一キロ』と読める。今や、飛んでいるようなスピードだ。老インディアンは、乾燥した平原の中の細い道を物凄い勢いで車を走らせていく。
 「このスピードだと、行き先は天国になってしまうかもしれませんよ!」
 私は、不安になってブツブツ言った。
 「それは、貴方だけですよ」
 神父が、気を動転させるような悪魔みたいに、二タッと一瞬笑って、こう言う。
 「私は『空中都市』で降ります。インディアンは、アコマをそういう凝った名前で呼んでるんです。ドン・ミゲルはもっと遠くまで貴方を連れていってくれますから、信頼してやりなさい。いろんなところに連れていってくれますよ」
 「ケセラ、セラだな」
 私は諦めて溜め息をついた。このスペイン語の表現がこの場にはぴったりだ。この途方もない二人組みの精で、私は本当に混乱してしまった。だが、心の奥底では、約束されたUF0とのコンタクトはともかくも実現に近づいている、という気がしていた。この二人が、何らかの方法でコンタクトをもたらしてくれるはずだ、という予感もある。それに、このような悪ふざけみたいなことや心が乱されることも、みんな単なる煙幕ではないのかという気もする。
 「全く同感ですな、兄弟。成るようにしか成らぬものです」
 神父が真剣な調子で言う。
 道路は平原を離れ、そのまま行くとメサ[周囲を崖で囲まれた岩石丘]に出た。アコマの家屋が初めて視野に入ってくる。巨大な砂岩の岩石層のうえに、空を背景にして劇的な姿を際立たせている。太陽は地平線に沈み、刻々と暗くなっていく。ドン・ミゲルはスピードを落とした。周囲には日干し煉瓦造りの家屋が立ち並び、そこに住むインディアンの活動で騒々しい。神父は何も言わずに車から抜け出していった。
 そこの小さな町を抜けると、『整備された未舗装道路』が続いている。くねくねと曲がるその道路を車で三十分以上も揺れて行く。周囲には、大きな石がごろごろと転がっており、植物はまばらにしか見えない。西部劇のロケにお誂え向きの風景だ。出し抜けに、小さな指示器の光がダッシュボードの下で光った。老インディアンが、ボタンをいくつか押して、相手と簡単な言葉のやり取りをする。まったく理解できない言語だ。暗号めいたやり取りについて、老インディアンは、二分半後にランデブーだ、と呟いた。
 ありがたいことに、やっと車が止まった。外に出ると、そこは渓谷入口近くの荒れ果てた小屋のそばだ。現地時間で午後九時四十五分。ますます暗くなってくる。ひとっこ一人いない平原には何も動くものがない。何も……。だが、その静寂の中に、オレンジ色っぽい明るく輝く光が見える。空の高いところから、急速にこちらに向かってくる。それが、例の見憤れた空飛ぶ円盤の形となり、およそ十五メートル離れた地点に着陸した。
 私の目玉は驚きで飛び出さんばかりだ1物凄いスピードで物事が展開していく。速すぎて追いつけない。私は、言葉で表せないほど驚いて、まったく沈黙したままそこに突っ立っていた。だが、ドン・ミゲルは違った。私の脇腹をつっ突きながら、誇らしげにこう言う。
 「間抜けの老インディアンにしては、上出来のランデブーのタイミングでしょう、え? さーてと、そんなとこにボサッと突っ立ってるんじゃないよ! あれに乗って、いろんな遠いところにこれから行くんだからね」
 私は動かなかった。酷くショックを受けていることに気づいたドン・ミゲルは、酒瓶を差し出し、一口飲め、という。促されるままに、一口、流し込む。スコッチだ。
 「効果てきめんの薬だよ」
 と言いながら、安心させるように、ニヤッと笑いかけてくる。
 そして、私の背中をドンと叩いて、こう言った。
 「さあ、乗った、乗った。旅行に出発だ。うまくやんなよ! あんたの車は大丈夫だ。帰ってくるときには、ここであんたをお出迎えしているから。私と一緒にな」

 * * *

 円盤の直径は約七・六メートル。非常に軽い金属質の色で、ファイバーグラスの感触だ。タラップを上がり、中に入る。と、背後でドアが自然に閉まり、離陸した。突然、遅まきながらパニックに襲われた。何てとんでもない窮地に飛び込んでしまったんだ?! そう思っているうちに今度はパニック状態が消え、胸がわくわくするような冒険にすっかり魅了されてしまった。それは、円盤の底の円窓を通して、地面が凄い勢いで下に遠ざかっていくのが見えたからだ。私を乗せた円盤は、円弧状に上昇してから水平飛行に移り、高速で飛び去って行く。
 円盤には私の他は誰も乗っていない。ロボット円盤の類なのだろう。ビーチボールの大きさの球体が、円盤中央部の目の高さの位置に浮かんでいる。ロボット操縦用のようだ。球体内部では、多色光が凄い速さで点滅している。まるで、作動中の巨大頭脳の感じだ。大きく見えるように近づいて覗き込むと、位置と方向を示すパターンの変化の読み方も分かった。示されている予定進路によると、太平洋を横断して極東地域に向かっている。西に向かって高速度で飛行しているので、日没の逆転が目撃できた。徐々に、太陽に追いつき、ついには追い越してしまった。腕時計は、円盤に乗り込んだ時点で機能を果たさなくなってしまっているが、感じから言うと、飛行速度は毎時四千八百キロを越えている。現地時間の正午頃、東南アジアに到着。高度およそ三千メートルで、カンボジアの沖合にいる米国海軍の戦闘艦艦隊の上空を通過。米国海軍は円盤が近づいているのを大分前に探知していたに違いない。戦闘艦も艦載機も、いろんな種類のロケット弾を円盤めがけて発射してきた。こちらが視野に入るか入らないかの段階でだ。円盤は、驚くほど簡単にロケット弾をかわし続ける。何らかの防御用の『フォース・フィールド(力の場)』が円盤の周囲に巡らされているのが分かった。円盤に被害が及ばない十メートル位離れたところで、ミサイルが爆発したからだ。スリルを感じると同時に、大いに感心もした。
 戦いに敗れた艦隊が後れをとるなか、円盤は鋭く方向を変え、次の目的地に向かった。例の球体の『地図表示』によると、向かっているのはチベット内部の地点、首都ラサの近くだ。(この大体の場所が分かったのはずっと後のことだ。)間もなく、ヒマラヤ山脈の雪に覆われた峰々の上空を飛行して、不毛の山腹の岩棚に着陸。真っ昼間である。
 円盤のドアが開き、冷たい空気が入り込む。荒涼とした風景のど真ん中に一群の僧が現れ、私の体を毛皮で包み、近くの地下僧院へと連れていく。この僧達は、沈黙の誓いをしているに違いない。ずっと誰も話しかけてこない。どうも全てが前もって仕組まれている感じがする。先に偶然を装ったように軍艦と『出くわした』のとまったく同じだ。外から見たらまったく分からないほどうまく隠されている僧院の中に入ると、いろいろな部屋に連れていかれ、そこで聖なる『高僧達』の綿密な吟味を受けた。それから、読経をしている一群の僧達の前に座らされる。香の煙のたちこめる寺院の中だ。そこで私は知らぬ間に、奇妙な深い眠りに落ちていった。
 その魔法が奇跡を起こした。体が非常に軽くなり、頭も冴え、ずいぶんと若返った感じになったのだ。全てが終わると、私を待っている円盤へと送り返された。僧が一人ほんの暫くの間円盤に乗り、宇宙用装具を身につけるように、と動作で示す。ブーツとベルトとヘルメットだ。僧の指示に従って装具を身につけると、すでに高揚している生体機能がただちに高まるのが感じられる。
 僧が立ち去ると、円盤は夕日の光りの中へと飛び立っていった。物凄いスピードで『近くの』モンゴルのゴビ砂漢へ飛行していく。そこで、大変恐ろしいことが起きた。砂漢の黄昏の遥か上空で、私を乗せた円盤が火のような霞からなる地獄のような渦巻きの中に吸い込まれていったのだ。それから、数分して、投げ出されたところは、惑星地球から何千キロも離れた深宇宙の中だった。(後で分かったのだが、円盤はゴビ砂漠の『シャンバラ』の移行窓をわざと使い、素早く深宇宙へと移動したのだ。)近くには大きな円盤型母船がいる。その母船に、非常に奇妙な方法で乗船した。私を乗せた円盤はすっかりといっていいほど非物質化してから、母船の胴体を通過したのだ。母船内の七つの円盤駐機区画の一つに入ると、今度は物質化して以前の状態に完全に戻った。円盤を出て、次から次へと続くドアを通って歩いていくと、六角形の部屋に出た。周囲の壁は斜めになっていて窓が一つ付いている。そこから素晴らしい光景が見える。明らかに、この旅行の間ここが私の居住区になるのだ。
 それから間もなくすると、母船は次元間移動を行った。私の次元から徐々に消えて行き、別の次元に入った。そこは驚くほどきれいにはっきりと見える星群で一杯の次元だ。そこから、私の地球時間では約『三日間』の、未知の宇宙への旅に出発したのである。

 * * *

 私は部屋を調べ、隣接している『サンルーム』式の石庭を探索した。中央部の巨大なドームの下だ。時間を費やすのに頭脳ゲームをしたり、テレパシーで円盤と意思の疎通を図ろうとしてみたりしたが、後者は無駄だった。母船を操縦する中枢知能からは何の応答もないし、さらに、私の目に見えないところに隠れて乗船していると思われる他の六人の乗客からも同様に何の反応もない。もちろん、見る度に惹きつけられたり驚嘆したりする宇宙の光景がそこにはあるのだが、少し身体を動かしたり、仲間がいたりしたらいいなと思った。この円盤輸送機に乗っている間の唯一の仲間は、夢の中に現れた。三『晩』とも、同じ激しい性的な幻想を体験したのだ。相手はいつも同じ官能的なブルーネットの美人で、場所はハワイのある島だ。薄気味悪いことに、余りにも『はっきりとしている』ので、単なる夢とは思えない。
 旅の終わり近くになって、猛烈な電気嵐に出会った。それを通過すると、目的地だった。惑星が見え、その背後から二つの太陽が昇ってくる。それに、信じられないほど巨大な宇宙船が近くに浮かんでいる。部屋と円盤駐機区画との間のドアが開く。円盤に乗るときが来たのだ。到着したときと同じ過程を経て、母船を離れる。母船の胴体を半非物質化状態で通り抜け、外に出るとまた物質化する。そして、巨大な宇宙船に向かって飛行していく……

 * * * * *


第二章 宇宙船  

 間もなく、異宇宙の光景全体が、長さがニキロ近い巨大な超大型宇宙船の半透明の胴体に隠れて消えてしまった。私を乗せた円盤は『半移行』モードでその宇宙船の胴体を通り抜け、船内に多数ある着陸区画の一つに入ると、完全に物質化した。円盤のドアが開き、私は外に出た。何かを期待するように、初めて異星の生物に会う覚悟をして、気密室を通り抜ける。
 そこは、幅が十メートル位のなだらかにカーブしている管みたいな通路だった。そして、手の届く距離には、プラスチックの泡のような車、バブルカー、が待っている。と、何かにぶつかりそうになった。かなり小さな空飛ぶ円盤が目線の辺りに浮かんでいた。直径は約一メートル。胴体が厚いミニ円盤だ。アンテナがあちこちから突き出ていて、光を点灯させている。表面は鏡状で、小さなテレビスクリーンも付いている。小さな『ビーッ、ビーッ』という変な音を私に向けて出し続けている。
 「そんなのどうってことないよ」
 そう言ってから、このような場面で昔から使われてきた科自が口をついて出てしまった。
 「首領に会わせろ」
 すると、ミニ円盤は、仕事をしているスチュワーデスのような声で完壁な英語でこう答えた。
 「はい、分かりました。そのために参ったのです。どうぞバブルカーにお乗り下さい。ご案内致します」
 その小さなホバークラフトに入って座ると、透明な天蓋がパチンと閉まり、音もなく離陸して、ミニ円盤の後について行く。
 暗号のように色分けしてある迷路のような通路や、エスカレーター、縦に走る通路、さらには、進行方向を直角に変えるゆっくりと回転するドラムも何度か通った。車体の姿勢が水平であろうが垂直であろうが、問題にはならないようだ。だが、私にしてみれば、いつも足の下が『下』の感じだ。重力も空気も温度も、私にとってはすべてが完全に正常だった。
 四車線からなる管のような通路の中は、交通量が多い。体にぴったりとしたユニフォームを着た人間のような姿が、両方向に急いで移動して行く。背丈は約一・三から二・一メートル。体色は虹の七色のようにいろいろとある。中には体の特徴が、私が慣れている純粋に人間の特徴ではなく、猫や犬、鳥、爬虫類、さらには昆虫に似ているものもいる。ヒューマノイドの異星人に問違いない。ひょっとしたら、さまざまな異環境や、進化の過程が異なっているところから来ているのかもしれない。私に注意を払っているものは誰もいない。明らかに、こんな雑多な群の中では、私にもこれといっておかしなところはないのだ。ヒューでノイドの他に、ミニ円盤も何機か行き交っている。単独か、物体を従えているかのどちらかだ。あらゆるものに私は興奮を覚え、とても楽しいドライブだ。
 十分位すると、異国情緒風な『家具付きの』球状の部屋に入って行く。そこは、毛足の長い敷物があちこちに敷かれ、けばけばしい色をした賛沢な長椅子がいくつか置かれており、食べ物と飲み物を満載したワゴンも置いてある。まるで東洋の君主の私室にいるみたいだ。部屋の中央の台座の上には、大きな透明な『泡』があり、その中に人間の姿が横たわっている。きらきら輝くボールが、解き放たれたクリスマスツリーの装飾のように空中に浮かびながら、その男の頭を取り囲んでいる。
 「ここでお待ち下さい」
 ミニ円盤が言う。
 「主人は間もなく参ります。ただいまは、御覧のように、思いがけなくも、星間念波通信会議が緊急の保安問題について開かれていますので」
 「念波通信?」
 私を降ろして出て行くバブルカーから離れながら、尋ねた。
 「それに、このふわふわと浮いているボールは、いったい何のためなんだい?」
 ミニ円盤の説明はこうだ。
 「念波通信とは、ESP方式のテレビ電話です。このエネルギー・ボールは、会議参加者の念波中継の役をし、さらにそれぞれに対応する星系から呼出すことができて、通信の相互交流と情報の蓄積が、こうすれば即座に、大変効率よく行えるのです」
 どうやら会議は終わったようだ。ボールが一つづつ非物質化し、台座が泡の部分と一緒に床に沈んでいく。人間の姿が前に出てきて挨拶をする。完壁に人間の様子をした髭面の男だ。素敵なシャツジャケットとダンガリーのズボンを身に着けている。
 その男が私の手を暖かく握り、完壁な英語で話しかけてきた。
 「良くいらっしゃった。サイキアン連盟世界の宇宙部門へようこそ。今乗っているのは連盟登録の宇宙研究室船で、長さは約二・四キロ。中規模の宇宙船です。本当に大規模な宇宙船は、この十倍から二十倍はあります。超大型の大きさは言うとびっくりするでしょうから、言うのは遠慮しておきましょう。現在、我々は二重『オム・オン系』の惑星アルゴナの周囲を回っています」
 そう言いながら、私達がいる球状の部屋の引き戸式の部分を指し示した。開口部からは、乗って来た円盤からすでに垣間見た惑星が見える。その一部が、昇ってくる二つの太陽に照らされている。まったく驚く光景だ。
 だが、主人役の男には、もっと仰天した。すぐに彼の正体が分かったのだ。つい数日前、ニューメキシコで軽トラックに乗せてくれた、あの奇妙な若い神父だ。
 「単なる神父にしては本当に神出鬼没だな」
 これだけ言うのがやっとだった。
 「神父というのは都合の良い隠れ簑にすぎませんよ」
 こう言って、男の子のようにニヤッと笑う。造り付けのバーのカウンターを彼が指し示すので、スコッチを頼んだ。彼は、ダブルをオンザロックで二人分作り、話を続ける。
 「私は一般的に宇宙人と呼ばれるものです。もっと具体的に言うと、サイキアンです。名前はアーガス。貴方がこのようなところを訪問するのを許可する任にあったのが私です」
 「『税関と入国管理』のようにですか」
 スコッチを一口飲みながら、こう訊いてみた。
 「とんでもない。どちらかといえば『歓迎をする者』として、公式の招待主としてですよ」
 「それはどうも。まー、とにかく、申告するものは何もないし、不法な意図もありませんよ」
 「さあ、それは今後を待つことにしましょう。私達が心配しているのは二重底のスーツケースのようなことではなく、貴方の本当の気持ちや考え方なのです。でも、今のところは合格です」
 「何ですか、今頃そんなこと言って! この数日間、私を監視していたんですから、あんたがたはすでにこちらの奥底まで分かっているはずでしょう」
 「そうですね。確かに、決まり切った行動についてのデータは少し集めましたけど、変わった状況で貴方がどういう行動をするかはまだ未知数です」
 「たとえば、知事のパーティーに招かれたとして、果たして私が銀の食器を盗むかどうかという可能性についてですか?」
 「まったくその通りです。ご存知ないかもしれませんが、『反対勢力』との『冷戦』は非常に油断がならないんです。『トロイの木馬』のような犯罪計画は、宇宙のこの辺りでは、非常に手がこんだものになるんです」
 アーガスの話し方は、生真面目そのものだ。
 「余談になりますが、ドン・ミゲルは貴方のことを、荒っぼすぎる、私達の安全保障にとってリスクが大きい、と考えています」
 「そんな馬鹿な! それに、仮に危険がほとんど無いとしても、なぜ危険を冒してまで私をここに連れて来たんですか?」
 「好奇心、気まぐれ、天の邪鬼、運命。何とも言えますが、その理由は大事でしょうか?追々私達のことが分かってくるでしょうし、私達も貴方のことが分かってくるでしょう。結局は、みんなが幸せなのです」
 「そんな戯言を言って! まー、でも、私も仰せのようにしましょう。あんたが幸せだということに私も満足ですよ」
 私は皮肉っぼく言ってやった。
 「こちらも同様です」
 ニヤッと笑いながらアーガスはそう言い、空になった二人のグラスにスコッチを注いだ。
 「正直なところ、一緒にいると楽しいのですが、今はやることが色々とありましてね。宇宙艦隊諜報部が私を必要としていることは別としても、貴方と同じような訪問者を何人か歓迎しに行かなければならないんです。惑星の方に行く時刻なんですよ。そこで、貴方を別の者に任せます。これから三日間位、貴方がこの宇宙船にいらっしゃる間、ドクター・モーニングスターが貴方の案内役を務めます。でも、これから数時間しないと、ドクターは勤務に就きませんので、どうでしょう、お一人で外に出て、もう少し探索をなさったらいかがでしょうか? 時間が来たら、ドクターに貴方を見つけさせますから」
 こう言って、彼が手をひょいと動かすと、覆いのドームの一部がゆっくりと開き、なだらかな丘陵が目の前に開けた。そこには青々とした亜熱帯の植物が生い茂り、それがハワイのような島を覆っている。人の足に踏み固まれた下り坂の小道が、樹木の深みへと続いている。
 アーガスが説明する。
 「今ご覧になっているのは、私の故郷である、地球に似た惑星アンクの環境をかなり良く再現したものです。占めているスペースはこの宇宙船内部のほんの一部に過ぎません。貴方のような人問にとってはまあまあ安全ですが、とにかく、例のミニ円盤に同行させましょう。貴方に快適に過ごして頂くためですが、必要とあらば情報を得たり、ビデオ電話をかけることも出来ます。後ろの長椅子に、着替え用の衣類を置いておきました。宇宙旅行用の装具はここに置いておいてくだされば、ちゃんと管理をさせておきます」
 私が着替えを済ませると、彼は握手をしてから出て行った。彼が気に入った。お互いにそう思った、と感じた。これから何度も会うということが、心の奥深いところで分かっていた。私はドームから歩いて外に出て、熱帯の楽園で嬉しい休憩を取ることにした。音もなくついてくるミニ円盤をお供に従えて。

 * * *

 どこまでも続く青空に、太陽らしきものは何も見えない。だが、快適なのだが非常に暑い。そこで、すぐにシャツを脱ぐ。大分長く歩くことになりそうだ。
 「ここでは、距離は当てにはなりませんよ」
 訊きもしないのに、ミニ円盤が教えてくれる。
 「宇宙船内部に与えられた百メートル位の範囲で、光学的幻影を使って広大な広がりのある感じを作り出しているのです。周囲の広がりは数キロ位あるように見えますが、実際には、せいぜい幅百五十メートル程、高さ四十五メートル程の空間に過ぎません。風景の細かい部分は本当に本物です。これは、貴方の感覚全体が騙されていることを償っても余りある位、正真正銘の本物です。すべてが幻影かもしれませんが、少なくともほぼ完壁に近いものです」
 本当に感心した。細心の注意を払って敷設されている小道は、一ヶ所とて同じ形のない地形を通っており、時には逆戻りするかのようになったり、限りなく円形に近い状態に走っていたりする。本物の低木の植え込みや小さな森、岩石層が小道の両側に並んでいる。空き地を通りすぎて茂みに入ると、小道は幅十一メートル位の回廊(だと後で知らされたもの)の内部を走っている。回廊は、まったく実物そっくりのディズニー・ワールドのように整えられている。前方と後方との間にはホログラフィーの投影物がたくさんあり、それで綿密さが増している。その結果、全体的に素晴らしい環境が生まれている。暫くすると、もはや、これが幻影であろうとなかろうと、そんなことどうでもよくなって、ただただ楽しく過ごした。本当にすばらしく感じられたのだ!
 三十分程歩くと、広い空き地に出た。その中に澄みきった水をたたえた池がある。向こう側には滝があり、水を池にほとばしらせている。この大きな池の水は、私のいる反対側の岩壁にある半分水中に沈んだ数個の穴にゆっくりと吸い込まれていってるようだ。滝の近くで、現地人の女性が一人、花輸を作っているのが目に入った。私が近づくと、その女はさっと立ち上がる。眩い笑みを浮かべながら、ハワイの習慣にあるように、花輸を首にかけてくれた。
 上品な「サロン(腰布)」を身に纏い、自い花を一輸、長い流れるようなブルーネットの髪に差し、はっとするような美しい娘だ。白人系アメリカ人の血をひいている感じだ。お互いの頬にキスをする挨拶を交わした後も、私は彼女をしっかりと抱きしめながら、自分の名前を囁いた。馬鹿みたいなロマンチストである私は、彼女に一目惚れしてしまった。前に一度も会ったことがないことは分かっている。だが、どういう訳だか、初めて会った感じがまったくしない。
 「私はアンジェラよ」

 恥ずかしそうに笑いながら私の腕をやっとすり抜けて、そう言うと、手をさっと振ってミニ円盤を追いやる。
 「私と一緒にピクニックなさる?」
 「喜んで」
 そう応えて、辺りにおいてあるピクニック用具に目をやる。小さなキャンプファイヤーが燃えており、近くには空のフライパンが置いてある。
 「何を食べるんだい?」
 「魚よ……。貴方に捕まえられたらね」
 そう言ってから、かなり原始的なやすを手渡す。
 「動きが速すぎて私には無理なの」
 私は、花輪を首からはずし、靴を脱ぎ、ズボンをたくし上げ、やすを構えて浅瀬に入っていった。魚はたくさんいる。大方は、大きくて、丸いサンフィッシュだ。金色をしている。素早い動きで巧みに突きをかわす。そこで、立ったままじっと動かずに待つ。一分もしないうちに、側を大きな群れが注意深く泳いで行く。タイミングを十分に見計らって、太った魚にグイッとやすを突き出す。一・四キロ位はあるだろう。
 「早いわね!」
 アンジェラが感心しているのが分かる。
 私は軽く受け流そうとする。
 「こんなの、トレーニング・キャンプの生き残り訓練の基礎だよ……。いろんなスポーツのキャンプでやるやつさ」
 私が魚を捌きフライにする間、彼女はお皿や食器を毛布の上に並べ、二つのグラスに冷やしたワインを注ぐ。ワインはおいしいクラレットだが、瓶にはラベルが付いてない。確かに彼女は十分な準備をしてきている。
 「この辺りに住んでるの?」
 と訊いてみたが、すぐ何て馬鹿な質問をしたんだと気付いた。現実の熱帯の島にいるのではないことを忘れてしまっている。
 だが、彼女は笑ってこう答える。
 「いいえ、私も貴方と同じようにここを訪問しているんです。貴方は、地球から来た新しいグループの一人でしょう。習熟旅行に来たばかりの。私は地球からではなく、遠くの銀河系の別の世界から来たの。ここには仕事で来たのよ。その仕事の一部は、地球に派遣されたらいつでも地球生まれの人間として通用する技術を身に付けることなの。地球では、カリフォルニア出身という振れ込みよ。念の為言っておきますとね」
 本当に騙されてしまうところだ! 彼女が異星人、その言葉が実際に何を意味するとしても、『エイリアン』だとは信じ難い。完壁な地球人振りを誉めようとしたそのとき、何かがこの牧歌的なシーンを荒々しくぶち壊した。
 何かガサガサと動く音が空き地の端から聞こえた。かと思うと、突然、ジャガーみたいな動物が現れた。私達の近くの、高さ六メートルの岩が露出しているところの上だ。もったりとした獣だ。明らかに、後ろから追いかけてくる何者かから逃げようとする途中で、逃げ道を私達が邪魔しているので怒り狂っている様子だ。ぞっとさせるようなシューツと言う声を出しながら、アンジェラに向かって飛び掛かった。
 「この、パーティー潰しの、馬鹿野郎!」
 大声で罵りながら、アンジェラを横に突き飛ばし、ジャガーの襲撃の方向に身を投げ出した。ジャガーが着地したのは、アンジェラと私の間で、わずか数センチしか余裕が無い。待ってましたとばかり両手でジャガーの首の端を何とか掴み、そのまま弾みをつけて、びっくり仰天しているジャガーの背に飛び乗る。腹を両脚で締めつけ、両手を前脚の『脇の下』に深く差し入れ、しがみついた。この方法を教えてくれたのは、カウボーイをやめてサーカスに入った南米のインディアンだ。
 「見てくれ、母さん、全然噛まれてないぞ!」
 私はニヤッとした。ジャガーの牙と爪が私の体に触れないように出来たので、大いにほっとしたのだ。猛り狂ったジャガーは、暴れに暴れ、地面を転げ回り、私を振り落とそうとする。と、ジャガーの体内が痙撃し、突然グニャリとなった。アンジェラが立って私とジャガーを見下ろしている。手にはピストルみたいなものを握っている。
 「もう大丈夫よ。眠らせたから」
 「この間抜けの獣を殺してしまうとでも思ったの?」
 意識を失い、どっしりと重いジャガーの体の下から這い出て、立ち上がりながら訊いた。背中と両脇に引っ掻き傷が何か所かあり、そこから少し血が流れている。ズボンもぼろぼろだ。ジャガーが私の体ごと、小枝や砂利の上をのたうち回ったからだ。
 「違うわよ、お馬鹿さんね。貴方が殺されてしまうんではないかと、心配だったのよ」
 そう言う彼女の声が、震えている。
 突然、低空飛行してくるホバー『トラック』が視野に飛び込んで来た。私達の近くで止まると、男が二人降りてくる。レンジャーみたいな格好だ。身動きしないジャガーを、黙々と引きずって荷台に乗せ、間もなく去って行った。
 ミニ円盤が現れ、あれは動物園から逃げ出したジャガーだ、と教えてくれた。
 「お助け出来なくて済みませんでした。でも、よほどの緊急事態でない限り、介入してはいけない、という指示を受けていたものですから」
 「いやー、まったく、大助かりだ! ありがとさんよ」
 肩をすくめてこう言い、ミニ円盤に退散しろと言うと、円盤は素直に消え去っていく。今のは仕組まれたテストだったのだろうか? という疑問がちらっと心を過ぎった。
 「さて、体を洗ったほうがいいな」
 サッと裸になると、池の深いところに向かって飛び込む。ちょっとためらってから、アンジェラも着ているものを脱ぎ、池に突き出ている岩のほうに歩いていく。何て素晴らしい裸体なんだ!
 アンジェラが優雅に池に飛び込む。それから、反対側の岩壁にある半分水中に隠れた空洞の中を泳いでいき、見えなくなった。私も後に続く。体がやっと通れるくらいの『青い岩屋』のような地下の運河を通り抜け、地下の池の浅瀬に出た。頭上の割れ目から入ってくる一条の光線の中に、アンジェラは両手両足を伸ばして、魅惑的な姿態を横たえている。つるつると滑りそうな石板の上だ。彼女の足元で水からあがり、熱い空気の中に立ち上がる。男性自身が勃起して大きくなっている。と、突然、気が付いた。そうだ、まさにこのシナリオは、すでに何度も経験していたのだ。あの円盤の母船でみた夢だ。そうか、正夢だったのか。幻想ではなかったのだ。
 夢の中とまったく同じだ。アンジェラは、興奮した男性自身を見て小さな喜びの声を出しそうになり、それを押し殺した。そして、上半身を起こそうとして滑ってしまい、私の腕の中に倒れ込んできた。しかも勃起した男性自身の真上にだ。私達は、思う存分に愛の交歓をした。大分経ってから、またお互いを求めあう。優しく、探し求めるように。奔放なセックスの幻想が現実になったことがなかなかぴんとこない。悦惚とした幸福感があった。
 その後、アンジェラが強く言うので、池に戻り、ピクニックしていた場所へと帰っていった。彼女の指示に従い横になると、医療キットから探しだした物質で傷の手当てをしてくれる。動きはプロのようだ。
 「君は医者か何かなの?」
 疑問を抑えきれずに訊いてみた。
 「ええ、そうよ。私はドクター・アンジェラ・モーニングスターです。貴方を担当する案内役でもあるわ。何でも用事を言いつけてくださいね」
 「今までのところは素晴らしい勤務ぶりだよ。ありがとう」
 と言ってから、突然、口をつぐんだ。いろいろな意味合いに気が付いたのだ。
 「ここで起きたことはすべて前もって仕組まれたことなのか? 何もかも、君達宇宙人がいろいろな状況下でこの私を調べたいということの一部に過ぎなかったのか? 私はモルモットのように操られているだけなのか?」
 突然、私はまったく恥ずかしくなり、意気消沈してしまった。アンジェラは私を抱き締め、情熱的にキスをし始める。
 「お願い。早まった断定をしないで。貴方を調べたり評価したりすることについて本来の意図がどうであったにしろ、そんなことどうでも良いと思うの。確かに、私は何千人という宇宙人の女性から慎重に選び出されたわ。貴方にぴったしということでね。貴方の心を開くためだったの。でも、私は心底、貴方に『恋してしまった』の。ずっと前からだわ。貴方のことを記録ファイルで研究している間にね。貴方と愛の交歓をするのも夢に描いていたわ。まさにこの場所で、この地下の池でよ。その夢の精神投影に、貴方が円盤の母船に乗っているときに感応したに違いないわ。信じて頂だい。貴方がここに来て下さって、私、一人の人間として、本当に嬉しいの。科学者として一言うなら、魚の件にしてもジャガーの件にしても、貴方のスピード、運動機能、力強さには惚れ惚れするわ。あんなにすごいの見たこと無いわ」
 「ああ、あれは大したことないさ。まあ、得意な分野には違いないけど、まだまだ上には上がいるさ」
 「私にとっては貴方以上の人はいないわ」
 彼女が囁くような声で言う。
 「つまり、これ以上望むところの無い最高の一括取り引きということだけど。いつまでも貴方と一緒にいたいくらいだわ」
 私にしても同じ気持ちだ。だが、それは口に出さないで、アンジェラに熱烈なキスをし始めた。すると、彼女はそれを押し止め、ここは切り上げて、私にはそれが何処にあるのか分からないが、『べース』に戻ろうという。彼女が、てきぱきと手際よく、小型の『ホバー』コンテナに一切合切を詰め込むと、ミニ円盤がやって来て、コンテナを引っ張っていく。それを見送ると、アンジェラと私は一緒に歩きだした。

 * * *

 私達は球形の『応接』室に戻った。ソファの上にズボンが置いてある。ボロボロになってしまったズボンを脱ぎ、履き変える。アーガスはいなかったが、飲食物がたくさん置いてあったので、勝手に飲み食いをする。アンジェラの話だと、飲食物はすべて合成だが栄養があるという。いろいろな形状に作られていて、本物に似せてある。
 飲み食いする間、ミ、二円盤が、私達が乗っている巨大字宙船について長々と説明をしてくれる。ミニ円盤は、図解が必要になると、ドームの一区画にたくさん嵌め込まれている大きなテレビスクリーンのひとつに、適当なスケッチを映し出す。
 「貴方がお乗りになっているのは、中規模の『宇宙研究室ノアの箱舟』(連邦登録番号SLA8701)です。円筒形をしており、複数の種(しゅ)からなる乗組員と科学者達が搭乗しています。総員三千人です。葉巻の形をしたこの構造物は、長さが約二・四キロあります。(各セクションがそれ自体巨大円盤で、独自に航行可能な)十八の『重ねられた』セクションで構成され、それが結合した形になっています。この規模の集合体ですと、最大三十三のセクションを『積み重ねる』ことが出来ますが、複数の一般サービス・モジュールと円錐頭の指令モジュールは勘定に入っていません。それぞれの円盤部分(モジュール)は、その故郷の惑屋環境を細心の注意を払って配置した、ミニ複製となっています。本船を構成している惑星環境は、私達の『連盟』(つまり、『自由世界次元間連盟』)が探査している幾多の非ヒューマノイド世界の諸文明から無作為に選び出した標本です」
 「この『宇宙研究室ノアの箱舟』は文字通りの移動展示船、十二の異なる世界を納めた宇宙ショーケースといえます。それ以外に、相互を連絡しているサービス・モジュールがついています。各『世界展示』モジュールには、その故郷の惑星の最も代表的な地理的特徴、植物相と動物相、さらには歴史・文化などが展示されており、他の世界からの訪問者に開放されています。訪問するときには、必要とあらば、適切な保護装置を身につけます」「各モジュールの中心部は密閉されていて、そこに行くには、中心部の『トーラス環』の業務用回廊から移転室を通っていきます。そうした回廊と連絡通路はすべて、酸素呼吸型人間の環境に合わせてあります。それは、このSLA(『宇宙研究室ノアの箱舟』)を運行しているのが四百人の人間型の乗組員であること、それに『連盟』所属のヒューマノイド型の科学者が二百人乗船しているからです。各モジュールは完全に独立しており、それぞれの『故郷の』百人からなる乗組員が世話をしています。更に、『故郷の』科学者が百人づつ乗っています。塩素呼吸型もいればメタン呼吸型もいますし、火のように熱い環境や氷のように冷たい環境出身もいます。故郷の惑星の重力もまちまちです。彼ら非ヒューマノイド型『現地生物』には、水生類、両生類、甲殻類、爬虫類、哺乳類、鳥類、大型昆虫類、各種の多足類など、いろんな可能性があります」
 「各モジュールは、それぞれの惑星が建造しますが、『連盟』SLAの集合体と連結できるように、要請された規格に従って造られています。その目的は、ヒューマノイドであれ非ヒューマノイドであれ、お互いの世界を学ぶための施設を提供することにあります。この出し物で『旅に出ている』問に、お互いの生活様式を探究できますし、他の世界に立ち寄って調査することもできます。SLAは銀河系間旅行も次元間旅行もできるのです。また、どの惑星の大気圏にも入ることができます。それだけでなく、水中『着陸』すらできるんです。その場合は、大体が連結解除モードで、つまり、モジュールごとに別れて行います」
 「『連盟』が物理的に接触したことのある異星の知性は何千種にも昇りますが、その四分の三とは意思の疎通が完全に不可能です。それほど異種だということです。残りの四分の一とても、意思の疎通はひどく不十分です。したがって、人間種にとって、まったく異質の知性が何を考え、どういう行動をとるのかを推測するのは極めて難しいことです。ですから、明らかにこのことが、種間貿易や交流を行うのに深刻な障害となっています。『連盟』が他種と意を通じようとするそのやり方は、もっぱら人間の論理と経験に基づいています。しぱらくの間は、他の思考枠組みを使おうにも、そうしたものが無かったのですが、この『種間連絡船』SLAという方法ができてからは、お互いの生活や行動思考様式がもっと分かるようになりました。しかも、本船に搭載している特別な『一対一の意思連結装置によって、今や、どのような異星の生活様式であれ、その目立つ要因のほとんどすべてを知ることができます。こうして得た新しい情報は翻訳されて、コンピュータ・データ・インターフェイスに使えますし、最終的には普遍的な相互参照事業にも結びつけられます。このように、『連盟』は前よりも少し賢い方法で異星の生命形態に対処できるのです。こうしたことが行われているのには、良い理由があります。つまり、全宇宙的協力と平和的共存のためなのです。長期的に見れば、誰しもが恩恵を受けることです」

 * * *

 このような図解付き講義を『応接』室で受けてから、私達はSLAのオリエンテーション・ツアーに出かけた。バブル・カーにアンジェラと一緒に座り、通路や横道や回廊からなる迷路を音も無く滑走していく。ミニ円盤が先導しながら、だらだらと絶え間なくデータをしゃべり続ける。しばらくすると、おせっかいなミニ円盤の説明が耳につきだしたので、それを馬耳東風と聞き流し、アンジェラの手を握っていることに意識を集中した。だが、SLAの圧倒するような規模には深く感銘せざるをえなかった。細部に至るまで素晴らしく優れたできばえには目を見張った。理解できないまでに進んだ技術を物語るものだ。
 食料工場になっている区画を通っていく。そこには、ハイドロポニック槽のシステムがたくさん並び、蛋自質生産の生化学装置があり、各種の食品加工・合成の小工場もある。小工場からは無数の連結パイプラインが出ていて、多種多様のヒューマノイドや『ゲストとして搭乗している種』の需要を満たしている。この圧倒されるような迷路全体が、完全自動に近い状態で機能している。『気違い科学者』みたいな人聞型がほんの数人、監督しているだけだ。
 食料工場と同じく、修理工場も、その巨大な機械類と手に負えない複雑さで、私にとっては仰天するほど不可解な代物だ。機械工学について私が知っている基礎知識をもってしても、ミニ円盤の余りにも細かすぎる説明を聞いても、全然理解の助けにならない。多肢機械工を目にしても大して役立たない。多肢機械工、つまり、三本以上の腕と三本以上の足を持った人間というのは、驚く程新奇に映った。ミニ円盤の説明によると、通常の本数以上の手足は装甲作業着の一部であるか、あるいは、効率向上のためにバイオニックの手足を『単に継ぎ足したもの』であるという。
 同じように異質のものであることに変わりは無いが、少なくとも後甲板にある『多種円盤』(マルチ・スピーシージ・ソーサー)用の区画のほうが、大いに私の興味を引いた。責任者は牧羊犬のような、直立した紳士で、その姿を見ていると墓掘り人を思いだす。悲しそうな表情をして、搭乗手続きを私の知らない言語で説明する。それをアンジェラが通訳してくれる。
 『異種の』科学者が搭乗したい場合、まず、幅と高さがそれぞれ約三・六メートルの、六角形の密閉式水晶容器に入れられる。その容器内の環境と重力は、前もって入居者の故郷の諸条件に合わせてある。ここまでの準備は、その科学者に適したモジュールの中で行われる。この準備ができたら、密閉された容器は船尾に運ばれ、他の六角形の容器と一緒に円盤の床の上に積み込まれ、円形状に蜂の巣を組み合わせたように並べられる。こうするのは、飛行中の『荷崩れ』を防ぐためと、円盤の透明な底から外が最大限見れるようにするためである。どの容器にも入居科学者の故郷に固有の装置や記録機器がついており、SLAに搭乗している同僚や円盤と連絡をとるインターコムが設置されている。六十一メートルの特殊『多種円盤』は、五十個もの容器を乗せることができ、しかも十分な床スペースを残せる。もちろん、それより小型やずっと大型の特殊円盤もある。これは、いくつかの部門が同時に直接研究を行いたい場合に使うためだ。同一のゲスト種から数名の科学者が惑星旅行に出かけることも時折ある。
 以上でSLAのオリエンテーション・ツアーが終わった。今日はこれで御仕舞いとして、私達はアンジェラの居住区に行く。感じの良い部屋が二部屋に、キチネットとバスルームがついている。彼女のところに勝手に『引っ越し』て来ても歓迎されるな、と思う。大歓待されるというこの思いが気に入り、それから数時間というものは、私が知っている一番良い方法で彼女を幸せにしようと努めた。愛の交歓の合間に、アンジェラと私はいろいろな話をしたり、バハマ諸島の首都ナッソーのカジノで繰り広げられる華々しいフロアー.ショーの素晴らしいビデオを見て楽しんだりした。全体として、非常に充実した一日だった…。

 * * * * *


第三章 異星生命体

 『連盟標準時問』の一日は地球時間で二十時間であることが分かったので、彼らの夜のサイクルに至極簡単に慣れ、SLAに乗船してから非常にたくさんのことを経験した第一日目が終わった夜は、ゆっくりと熟睡できた。
 翌日、非常に対照的な環境の三つの異なるモジュールを見物に出かけた。それぞれのモジュールの世界に入るには、移転室を通っていく。私達に適した気候と重力に調節された特殊なエアー・カーにアンジェラと一緒に座る。この透明なバブルにはミニ円盤も入り、私達の背後の天蓋の部分に取り付けられている。おそらく、ミニ円盤の回路は非地球型の環壊では機能しないのだろう。ミニ円盤が同乗するのは『ツアーガイド』の務めがあるからだ。もっとも、大体は私のためで、アンジェラの方は異星の世界を熟知しているはずだ。最初に入ったモジュールは、硫黄の世界だ。黄色と深紅の煙霧に覆われた広大な地域を通って行く。間欠泉があちこちで噴出しており、活火山もひとつある。重力二・七のこの世界の『住人』は蟹みたいな格好をした甲殻類で、岩石の多い地形のあちこちにできている割れ目を、素早い動きで出入りしている。植物は、紫色っぼい色をした海綿状の物しか目にできない。ある場所で、甲殻類が奇妙な格好をした機械を使って、露天掘りみたいなことを忙しく行っている。その近くをゆっくりと進んでいくと、『蟹のようなもの』の中には私達に向かって手を振るのもいる。その二匹』がホバーカーを爪で親しげに叩く。私は体中が震えてしまった。観光に訪れるにはいい場所だが、こんなところに住む気にはとうていなれない。ミニ円盤が終始しゃべり続け、いろいろなデータを投げつけてくる間も、私達は『蟹のようなもの達』の生活様式や文化を示す展示館をいくつか通って行った。
 次に訪れたモジュールは、『急速冷凍の』惑星の世界だ。空は氷片の色のように緑色がかかった淡青色で、暗い所には驚くような虹の光のパターンが見え、昼間の『北極光』の感じも若干する。大半が氷と雪の極寒の世界だが、剥き出しの岩石の表面もあちこちにたくさん見え、様々な色の水晶の巨礫石が飛散している。地下の迷路もあちこちにあり、繁茂している菌類にたっぷりと覆われている。巨大で毛羽立った北極熊みたいな『人々』が、あちこちに散らばっている水晶を集め、輸送し、処理をしている。彼ら『毛羽立ち人』は、動物のような手の指も含めて、何もかもが大きい。だが、彼らは非常に複雑な機械装置を使って水晶を粉砕したり、小さな断片を計器に嵌め込んでいる。聞くところによると、これが彼らの主要技術輸出品だそうだが、私としては、どうせ買うならスイス製の腕時計のほうが良い。それは別として、菌を食べるこの『毛羽立ち人』や、メタンかアンモニアの大気を持つ重力一・九の彼らの世界が、少し気に入った。
 最後に訪れた三番目のモジュールは、汚い青色をした沼の惑星の世界だ。背の高い木々に似たオレンジ色の成長物や紫色っぼい茂みがある。背景は不毛の山脈だ。『生命』はごつごつした山々から自分の『翼力』で移動してくる爬虫類と、蛙のような『泥を好む』両生類だ。この感覚が繊細な二種類の生命が、塩素を主とする世界で非常に平和に共存している。実際のところ、この二種類の生命体は補完的な形で協力して、気体や液体の各種の化学物質を生産しているのだ。そして、その大半が輸出用だ。彼らが共同して建造した化学工場は工学の奇跡だ。絡み合った共生の歴史を通じて、彼らが協調して成した技術・文化的偉業の数々には驚かされる。爬虫類の『軽快さ』と両生類の『のろさ」という、相対立する性格を考えると、まったくの奇跡としか言いようがない。だが、彼らには共に工学技術に対する大いなる情熱がある。奇妙なことだが、『疑似蛙』の願望の方が強く、それが大きな牽引力となったからこそ、この二種類の生命体は宇宙旅行を開発したのであった。

 * * *

 三つの世界のモジュールを見学し終える頃には、もう半日以上経ってしまっていた。頭は、異星の印象で一杯で、はちきれんばかりだ。そこで、ミニ円盤を解放してやり、私達はアーガスの故郷の世界の空気呼吸型モジュールに出かけて、ゆったりと散歩をし、のんびりとピクニックを楽しみ、その後で前日と同じように愛の交歓をした。二人の呼吸がぴったりと調和しているので、一日が経過するのが、まるで一年間のように感じられる。アンジェラも同じ気持ちで、私達二人はお互いのために創られたのだ、この二人の絆をもっと強くしよう、と言う。絆を強くするための具体的な手段として、アンジェラは『マインド・リンキング(意思結合)』という方法を説明してくれた。そして一緒に経験したいと言う。これを使えば、相手の内面が実際どういう様子なのか直接知ることができ、二人が心の奥底から打ち解けて密接な関係になると言う。私は大賛成だ。すでにアンジェラを非常に愛しているのだから。それだけでなく、宇宙の友人の世界や彼らの物の考え方などを知ると同時に、自分の本心を知るのにも、これ以上良い方法があるだろうか? それに、アンジェラの方でも、私についての彼女個人の好奇心と科学者としての好奇心の双方を一挙に満足させることも出来そうだ。
 私達はまた出掛けた。今度は徒歩でSLAの前部の方に向かう。アンジェラが説明する。向かっているのは円錐頭の中のマインド・リンク・チェンバー(MLC、意思結合室)というところだ。そこにはカーニバルの催し物会場のように四台のフェリス観覧車みたいな奇妙な機械が置いてあり、周囲にはサイケデリックな光のパターンが気が狂ったように揺れ動いている。この光の爆発を引き起こしているのは、円筒形の壁に埋め込まれた無数の人間の大きさの水晶からの反射光であり、また、物凄い勢いで流れているエネルギーで光り輝く、直径約十メートルの透明な中央シャフトからの反射光でもある。ここは、SLAの端から端まで走っている大きな中央シャフトの一部が見えるところなのだ。おびただしい数のプラットフォームや環状モノレール、支持梁が、この幻覚をおぼえるような場所全体を縦横に走っている。フェリス観覧車のゴンドラは半透明の四面体の形をしている。それぞれが前もって選ばれた一対の水晶製ピラミッド型タンク(底部の面積が約四メートル四方で、それに釣り合った高さがあり、一人用)で構成されており、タンクの『底部と底部』が結合されていて、水平に置かれた軸で支えられている。つまり、マイド・リンクのパートナー同士は、ゴンドラ内部では『背中合わせ』に座っていることになるのだ。酸素呼吸の人間類は即座に開始できるが、その他の種類の異星人は、自分達に適した気候に調節されているピラミッド型タンクに既に密閉された状態でここに輸送されてくる。
 マインド・リンクの実際のプロセスは、テレパシーによる浸透で促進されるが、これを引き起こすのが、動力を供給された中央シャフトと周囲を取り巻く水晶との間に生まれる静電気の場だ。こうして、お互いのマインドに入り込むこと(というより、一種の『心霊的交わり』)によってお互いが相手の存在の本質を知ることができるのだ。そうすると、すでに意識が高まった状態が更に高まり、次の動的な段階によって鮮明になる。動的な段階では、マインド・リンクを行っているペアー毎の振動の特徴の組み合わせにすでに調節・同期されている周囲の水晶集合体の中を、変調電流が急速に回転する。(電流を回転させる方が、フェリス観覧車自体を物理的にぎこちなく回転させるより良い。)この動的段階の助けを借りて、パートナーはお互いの経歴や特定の知識分野を具体的な細部に至るまで学ぶことができるのだ。
 四台のフェリス観覧車のそれぞれに関して、電流を個別に切ることもできるし、各搭乗プラットフォームを適切なシールドで密閉することもできる。各観覧車は最高二百個の四面体のゴンドラを収容することができる。MLCを行う場合、各参加者はセッションとセッションの間に、一般的には、最低一日の聞隔を置かなければならない。これは、新しい印象を消化する時間が必要だからだ。
 最初の観覧車は、試験用の『マインド・タッチ(意思接触)』専用で、一ラウンドが三分間。これで、パートナーについて簡単な全体的印象を得る。一ラウンド終了すると、参加者を収容しているピラミッドは場所を変えて、新たな組み合わせを作る。こうして五ラウンド回転すると、セッションが終わる。
 二基目の観覧車は『マインド・プローブ(意思探究)』用で、セッションは一時間。お互いを深く探究し、深く知るようになる。
 三基目の観覧車は『マインド・フュージョン(意思融合)』用で一セッションが二十時間続く。この間にパートナーは切っても切れないシャム双生児みたいになる。お互いの人格に無限に溶け込み、お互いの間に隠し事が何もない状態になるからだ。
 四基目の観覧車は、いわば国連式の多種マインド会議に使われ、即座に全体との念波通信が行われる。宇宙全体にとって重要な各種問題を熟慮するのに使い、セッションの長さは全員の同意によって決められる。会議参加者はSLA内のそれぞれの故郷のモジュールと常につながっており、コンセンサスが生まれつつあるときは、それについて要約されたフィードバックをMLCのコンピュータから定期的に受ける。
 アンジェラと私は『マインド・プローブ』の観覧車に乗った。それからの一時間は、一時間というより一年間に思えたが、アンジェラの人生と世界について驚く程たくさんの知識を得た。他方、私の方でも、アンジェラが私の『存在』に入り込み、私について知識を得るのが感じられた。彼女とひとつになれて、私は非常に嬉しかった。たとえそれがたった一時間のことであってもだ。これまでに出会った中で一番相性がよい人との完壁な合体だ。また、その人と深く相思相愛の仲であるということも疑いのない事実だった。感情面での強い衝撃は別にしても、百時間語り合っても知ることができない程たくさんのことを、彼女の人生と世界について知ることができた。彼女の一部となり、(私にとっては)いろいろな素晴らしい未知の場所で彼女が人生の節目節目で経験してきたさまざまな出来事を私が再体験し、『連盟』の宇宙社会の生活様式や構造についての知識分野をいくつか想起するのは、大変におもしろいことだった。二十世紀後半の惑星地球全体の社会・経済構造が複雑に見えるとするなら、『連盟』のそれは、その百万倍も複雑だ。私にとっては、ほんの少し垣間見ただけでも言語に絶するほどの驚きだ、と言うだけで十分だ。その説明だけで何冊もの本が書けるくらいだ。どこから書き始めたら良いのかが分かればの話だが。
 部屋に戻ると、私はフラフラで、完全に疲れ果てていて、ベッドに倒れ込むと翌朝までぐっすりと眠り込んでしまった。

 * * *

 翌日、目が覚めると、気分は爽快で精気に満ち溢れ、自分でもびっくりするくらい、多種『連盟』の諸世界や生活様式をもっと知りたいという好奇心で一杯だった。だが、何はともあれ、アンジェラと私は、まず朝食をとり、そして昼食もとった。食事と食事の間には、たっぷりと愛の交歓を楽しんだ。
 やっと部屋から出ると、アンジェラはMLC(意思結合室)にまた連れて行ってくれた。今回は一時間の『マインド・プローブ』ではなく、短い三分間の『マインド・タッチ』を五ラウンド行った。相手は非人間型の各種の異星生物だ。『マインド・タッチ』による交流を希望する者のリストをMLCのコンピュータで比較確認すると、相応しい組み合わせがその場で決められる。アンジェラの強い希望で、私達はそれぞれ単独ではなく、人間のカップルとして一緒に登録した。そして、手に手を取り合って、水晶の容器に乗り込むと、吊り上げられ、所定の位置に置かれた。私達の相手は志願してきた異星生物だ。間隔を十分に取って、三分間の短いラウンドを五回行った。すごいスピードでぐるぐる回り、その間に異星生物と私達(つまり、アンジェラと私で一単位でもあれば、私達二人がそれぞれ単独でもあるが)とが相互認識を行いながら、同時に、お互いに精神交流をもするのだ。各ラウンドは非常に勉強になり、いろいろな情報が得られたが、疲労困憊するほど強烈でもあった。次のラウンドまで約十五分の休憩があり、その間に新しい相手との組み替えが行われる。アンジェラにとってマインド・リンクは別段目新しいものではない。だが、彼女のマインドの状況から推断すると、私達のパートナーとなった異星生物達は彼女にとっても全くの新体験だし、『人間のカップル』として参加することも初めてのことだ。アンジェラは非常に興奮して、あらゆることを海綿のように吸収していた。ひょっとしたら、私の方がもっと興奮していたのかもしれない。私が得た新知識の量は仰天するほど膨大で、そのほとんどは言葉で表現することすら叶わない。だが、少なくともその要点だけをここで述べておこう。
 最初の異星生物のパートナーは、背丈が約二・一メートル、コウモリと鷲と天使を一緒にした感じで、色は白みがかかった灰色だ。『それ』の筋肉は大変強く、脚には鍵爪があり、複雑な操作指のついた腕のような付属肢が付いていて、尖った嘴と大きな頭蓋骨を持っている。肉体能力の多くは、サイボーグ的に強化・増強されている。ここでは、鷲と一緒に空高く舞い上がる方法や、窒素を主成分とする空気の吸い方、儀式的な飛行(交配と社交的なゲーム)と戦闘飛行の方法などを経験した。私達の鳥類の友人は、建築と都市計画を職業としていた。それで、山のような構造の多数の洞窟の中にある、巣に似た住居を垣間見ることができた。彼らの独創的な製造センターは、宇宙港から遠く離れたところに建てられている。一方、この鳥類生物の方でも、私を通して、ニューヨーク市の産業街と住宅街が混ざりあった雑踏と喧騒(あんなに狭い場所で何といろんなものが動き回っていることか?)や、アイスホッケー、スキューバダイビング、乗馬といった人間のスポーツなどいろいろな経験をして大いに楽しんでいた。人間の交配の過程も勿論のことだ! 異星生物が人間の愛情行為を徹底的に調べているのだと思うと、ぞっとしたが、この鳥類生物と一緒になって心の中で『笑って』しまった。結局、お互いに調べあっていたのだから。
 二番目のパートナーは、子牛の大きさで、クモみたいな生物だった。皮は固く、目がたくさんあり、目の他にも無数の感知器官がある。マインドの中で『彼』と束の間ひとつになったとたん、この生物が持つ移動能力と操作能力の素晴らしさに驚嘆した。乗客用のエレベーターなど彼らには不要なのだ。どんな高層の建物でも、壁を走り昇れるからだ。機械類の組み立てや修理では、人間の二本の手の代わりに多数持っている付属肢を使うその様には、目も眩むほど唸ってしまった。彼らは高性能のロボットをたくさん造り、数多い銀河系の中で最も複雑で用途の広い宇宙船の建造にも誇りを抱いている(彼らの宇宙船は、現在でも標準的に使用されているサーボ機構型では最高の設計だ)。大体が『小さな』昆虫を食料にしているのは余り好かない(が、それとて、『彼』と『マインドがひとつ』になっている時は、全く違和感はない)。勿論、これは相対的なことで、『彼』の方では、人間の料理は全く馬鹿げている、と思っていた。一方、スケート、スキー、ヨット、合唱、ロマンチックな考えなどの人間の活動には魅了されていた。『彼』に代表される種族は、大変規律正しく、非常に知的で、幾何学的デザインや聴覚的調和が大好きだ。
 三番目のパートナーは、長さが一・五メートル位の、つやのある茶色をした昆虫型の生物で、複数の付属肢と大きな頭を持ち、巨大な蟻とゴキブリとを足して二で割った昆虫みたいな生物だ。私達はお互いの姿に感じた嫌悪感を抑えたが、そのこと自体、生物の嗜好の相対性を考えて思い直してみると、非常に可笑しいことだ。私達のパートナーは、実際は政府の高官で、ハイクラスの社交界の名士でもあり、彼女の種族では『美の女王』とみなされていたのだ。さて、容姿や嗜好はこれ位にしておこう。この昆虫女史の社会的役割や性慣行は女王蜂のそれに幾分似ている。これは、アンジェラと私にはとんでもないことに思えたが、他方、私達の友人の昆虫女史にしてみれば、アンジェラの一夫一婦制の性向や人間の自由奔放なロマンス、さらには(必ずしも常に実践されているとは限らないが)人間が普遍的な理想として抱いている民主主義的世界観は、なかなか理解し難いことだ。だが、昆虫のような社会の硬直的・独裁的様式にも拘らず、彼らは、何十億もの住民を居住させている地下都市の設計・建築やその組織については、極めて効率が良い。(ニューヨーク市の複雑さを一千倍して、その大半が地下にある状態を想像してみて欲しい。)彼らの生産・輸送システムも同じように素晴らしい。それを見ていると蟻塚と蟻の精神構造を思い出すが、彼らは彼らなりに、自分達の様式や現状に大変満足していると思う。人、皆、それぞれだ。
 四番目のパートナーは虫みたいな生物だった。長さは、一・五から一・八メートル位で、百足か毛虫みたいだ。厳格な菜食主義で、自然を愛することこの上なく、神秘的傾向が強い。この虫の社会の主な関心事は生態学・倫理上の問題である。全体論的医学(ホリスティック・メディスン)やあらゆる種類の生物の治癒に高度な専門知識を持っている。関心の度合いが一番低いのは工学だが、それでも、工学に対する適性はあるし、すでに(地球の一九四十年代の水準に匹敵する)原子力以前のテクノロジーを持っている。彼らは異星からの訪問者によって宇宙旅行を初めて経験して以来、間もなく多種族宇宙船乗組員用の医師や生態学者として引く手あまたとなった。虫は地球の暴力志向の様式に肝を冷やしたが、人間の競争精神や、冒険心、地上のレクレーション活動には魅了された。人類の生活様式とは対照的に、虫族は愛し与えるという特質を備えた気高い存在だ。
 私達が最後に経験した五番目のパートナーは本当に『現実離れ』していた。形の定まらないジェリーみたいな物質で、太った、人間の大きさの塊なのだ。色は紫がかった青。頭もなければ、付属肢もない。ある惑星全体の表面を覆っている生物から分離した塊だということが判明した。大体が、岩石を『食べて』その鉱物分を摂取する。その歴史において、生ける表面にたまたま着陸した宇宙船を何隻も貧り食べたことすらあるという。その後、。宇宙を航行するある種族が、この惑星生物は文明を造ることはできないが知性はある、ことを発見した。どの種ともテレパシーで交信するのに熟達していて、相手の意思を操作して、意に反した行動をとらせることもできる。この能力が大変有用であることを宇宙を航行する多数の種族が発見して以来、この惑星生物から分離した塊をテレパシー通信とその促進の優れた専門家として『契約』し、未知の宇宙領域を科学探険する際に同行させているのだ。報酬は岩石や希少鉱物だが、時には惑星に似たもの全体を定住用に与えることもある。塊は、いくら離れていようとも、すべてを包括する惑星マインドの一部であると同時に、それぞれの塊が主体性を持って思考し機能する。好奇心が大変に強く、何でも知りたがる。完全な共感体であり、他者のマインドを生き抜き、親生物の中枢に貯蔵されている膨大な宇宙知識の読み出し端末機に、ゆっくりとなっていく。この惑星生物は、身代わりとなって生きるという自己の目的のために、今述べたことを熱心に行っているが、同時に、超巨大宇宙図書館などの役目も喜んでする。私は、仰天のし通しだった。
 五回のセッションを終えると疲れ果ててしまった。有り難いことに、私達は再活性化室に移され、そこで一時間ほど、ほとんど意識を失ってはいるが心が安らぐような快適な状態に置かれた。それが終わると、私達二人はアーガスの故郷の世界に出掛けて、ピクニックをし、遊び戯れた。

 * * *

 その後で、アンジェラが『町に遊びに』連れていってくれた。つまり、SLAが周回している惑星アルゴナヘの訪問だ。その準備として、銀色っぼい宇宙服とベルトとヘルメットのブースターを身に付ける必要がある。アンジェラも同じような格好をする。私をここに連れてきた円盤に乗り、中間移行プロセスで出発した。SLAの胴体を幽霊みたいな状態のまま浮かんで通り抜けていくのだ。いったん外に出て『正常化』すると、惑星アルゴナの夜側に向かって急降下し始める。二つの太陽が沈む素晴らしい光景にしばし驚嘆してから、包み込むような暗闇の大気に突入して行く。ドームに覆われた構築物の遠くの灯りが間もなく目に入ってくる。『ガラス』管の道路で相互に結ばれている多数の見上げるような構築物や高層の建物は、一群の巨大ドームに納まっている。ひとつのドームの中に入り、ある建物の上に着陸し、それから徒歩で進む。アンジェラに引きずり込まれたエレベーター・シャフトの中を、ゆっくりとスローモーションで下に落ちていくと、道路のある階に出た。
 私達は手をつないで、文字通りの宇宙『万国博覧会』に展示されている多数の奇跡の中を歩き回った。ここは『レクレーション・シティー』と呼ばれ、『連盟』の遠い所から来た沢山の人で混雑している。大半が空気呼吸型ヒューマノイドで、形状、大きさ、人種、体色、皮膚の肌合いなどがまちまちだ。大変素晴らしい多様性を見せていて、進化のいろいろな過程を窺わせている。アンジェラの話だと、彼らは皆『銀河系間標準語』を使って、お互いの意思疎通を図っているという。
 この都市自体は、この惑星にある多数の複合体の中のほんの小さな一つに過ぎない。他の複合体は田舎に散在し、それぞれが相応しい環境に取り巻かれていて、芸術や科学、精神・心霊分野、ヨガなど、ここを訪れるものが選ぶ分野での各人の自己啓発・発展用の実験センターとなっている。明らかに、『連盟』の人達は、陽気に楽しく創造性を発揮することと全般的な自己向上以上に良い時間の使い方はないと考えている。『実際の労働』をする特権を与えられているのは、人口全体のほんの数パーセントに過ぎない。これは、彼らの理想境杜会では、財やサービスの生産がロボット化されているからだ。
 この都市で、私にとっては新奇な印象を受けたり、物凄い人混みに圧倒されたりしたので、かなり疲れを感じた。それで、軌道を周回しているSLAに戻る途中、アンジェラが色のついた小さな立方体を呉れた。指示に従い飲み込むと、随分と元気が出た。

 * * *

 SLAに到着すると、待機していたミニ円盤が、円錐状の頭部にあるコマンド・モジュールに行って、『提督』に会って欲しい、という。好奇心がわいたので、ミニ円盤について行くことにする。一方、アンジェラは居住区の方に向かう。
 ミニ円盤は遠回りの『景観ルート』をとったが、それはそれでちゃんとした理由があった。コマンド・モジュールはそれ自体が一つの世界になっている。MLC(意思結合室)用の『奥の部屋』の水晶製制御装置からなる膨大な調整設備を突っ切って進む。いろいろな休息室や事務室を過ぎ、艦橋がある巨大な円形のプラットフォームを回っていく。そこでは、無数の計器類が点滅したりブーンという音を出していたりして、『スター・トレック』の映画からそのまま抜け出てきたみたいだ。多種族からなるヒューマノイドの乗組員の活動でざわついている。乗組員は、それぞれの職務内容を示すいろいろな色の制服を着ている。透明なドームの外には、異質な宇宙の光景と惑星アルゴナの一部がはっきりと見える。
 やっと、円錐状の頭部の最上階の部屋に入るように言われる。そこに、提督の指令室と私室があるのだ。この場所は、円形のラウンジの趣で、快適そうなソファやリクライニング式の椅子が配置してある。中央は複雑な計器盤とバーかカウンターを兼ねたものが占めている。体にぴったりした優雅な制服を着た、背の高い、ブロンドの男が、温かい握手で迎えてくれた。その男が『提督』なのだ。目も眩むばかりの装飾を身につけ、胸には見覚えのある三角形の金の大メダルをぶら下げている。
 ハッと気がついた。クェンティンだ。ニューヨーク市で三か月前に会ったあの『教授』だ。あまりのショックで、腰を降ろさずにはいられない。
 クェンティンは、ブランディーを一杯と、今煎れたばかりの強いトルコ・コーヒーを勧めてくれた。両方とも有り難く『飲みほす』と、たちまち元気が戻った。
 クェンティンの役割は、適した訪間者をこうした遠くの宇宙領域に連れてくる手筈を整えることであり、アーガスの役割は、訪問予定者を保安の面から選択し、訪問を細部にわたって調整することである。クェンティンは、(スペクトランという)別の高次元からサイキアンに顧問として『出向』しており、一時的に『提督』の位を与えられている。私は、訪問時間が終わり、間もなく惑星地球への帰途につくことを知らされた。アンジェラは、命令で、すでにSLAを離れており、『ノヴァ・テラ』で新たな訓練を受けに向かったという。それを聞いて私の心は沈んだ。『さよなら』を言う間も無かったのだ。だが、クェンティンの見方の方が、納得がいった。つまり、別れの時が無い方が双方にとってずっと楽なのだ。それに、将来、いつかまたアンジェラと出会うかもしれないのだし。
 私が少し落ち着くと、クェンティンがこう言う。すぐ地球に戻ることになるが、更に『遠く』に旅する気があるなら別だ、と。『ガーディアン評議会』が私に会ってみたい、と興味を示しているのだと言う。彼ら『ガーディアン』は肉と血のある生物ではなく、時空を超越した非物理的領域に住む純粋エネルギーの存在だと言う。天国の主人役のように、彼らは『兄』であり、広大な秩序ある体系としての宇宙全体を通じて、ありとあらゆる次元と宇宙に存在する人類の運命を導いている。もし、私が行くと決めたなら、体ごと、存在の非物質的次元へと移送され、その間、最終移転地点で変質を遂げなければならないのだと言う。
 唸ってしまった。それどころか、実際のところ、持ち出された話の途方もない大きさに、びっくり仰天してしまった。言うまでもなく、もっと遠くに行きたい! 自分の人格構成や正気、さらには自分の生命自体に危険が及ぶということをはっきりと述べられたにも拘らず、私は新たな旅に狙われたカモだった。それでも私にとっては『O.K.』であり、早ければ早い程よかった。この概略説明が終わったら直ちに出発しなければならない。銀河系の中心部の星雲状態の部分の状況が、刻々と変わりつつあるからだ。例の『大混沌(カオス)の障壁』として知られているところだ。

 * * *

 円盤に乗り込み、『大混沌の障壁』の測り知れない空問へと入って行き、怪物のような電気嵐を幾多も通り抜けて行った。円盤では対処できない状況になると、半透明のロボット操縦の宇宙輸送機関に移転された。毛虫のような格好をした『幽霊船』だ。そこで、ダイバースーツみたいな保護服に着替えなければならなかった。その模様のせいで外観が蛇のように見える。また、『幽霊皮膚』とも呼ばれている。魚雷管のような七つの部屋の一つに入り、ガラスのような弾丸型のキャプセルに納まって出発した。ひどくワープした宇宙空間を幾つか通り抜け、火のような激しいエネルギーの嵐にも幾度か遭遇した。無事に生き延びられたのが意外なくらいだ。やっとのことで、嵐の目に到着。そこで『幽霊船』から、全くぞっとするように恐ろしい『黒い渦巻き』の中へと、実弾の詰まった魚雷のように発射された。それから、全くの暗闇に近い状態で、私のキャプセルは(私の肉体もろとも)ばらばらになり、『無』になった。
 地獄の辺土だ。
 死んだことは分かっていた。ひどい不快感だ。苦悩も大きい。だが、マインド(意思)は依然として機能している。すべてが失われた訳ではなかった! 頭の中であれこれと試行錯誤的実験を延々と続けた後、やっとのことで、自分の存在が持つエネルギーの場が光を出しているのが知覚できた。そして、かなりのスピードで自分が全面的に再統合されてきた。大分あちらこちらと漂流し『模索』をしてから、何とか浮かび上がり、物質的世界とも思えるところに入って行く。自分自身が(肉体も含めて)、保護の泡の中に密閉されている。そして、入り江から海原へと漂い出て行く。
 頭の中で、遠くから、ある声が響いてきて、非物質領域に到着したことを教えてくれる。ここでは、目に映るものはすべて、固体化した想念形態に過ぎず、それが現実世界の見覚えのあるイメージとして知覚されているのだ、という。保護膜の役目をしている『幽霊皮膚』に包まれた私の肉体は、宙ぶらりんの変質状態だ。いつもと変わりなく機能しているようだが、心理的な習慣からそうしているだけであって、実際に必要性があって動いているのではない。例の声がこう言う。『秘密の七つの海』に入りつつあるが、それを横切り、それから更に、山脈のずっと高い所へ登って行かなければ、ガーディアン達に会うことはできないのだ、と。全く、楽しいことのように聞こえる……。

 * * * * *


第四章 「宇宙空間のかなた」

 泡乗りを楽しみ始めたとたん、泡がはじけて、深い青い海に落されてしまった。それだけでもひどい状態なのに、何とその海には鮫がうようよしているではないか! どうやら、私はこの『かなたの領域』にあまり長く滞在できないようだ。
 出し抜けに、中世から飛び出してきたようなスクーナー船が、のしかかるように近づいてくる。甲板上の船員がロープを投げてよこす。素早くロープを伝って船によじ登る。辺りを泳ぎ回っている鮫が実際には『現実のものではない』とは、なかなか納得がいかなかったのだ。現実のものであろうとなかろうと、ぎしぎしと音をたてる『時代後れの代物』の甲板の上で、中世人に囲まれて立っているのもまた非常に奇妙な感じだ。だが、彼らは気高く、知的な顔だちで、私にも完壁に理解できる言語を話している。
 彼らは、私が身につけている風変わりな『蛇の皮膚』の衣装を用心深くじろじろと見詰め、どこから来たのか、と訊いてきた。そこで、漠然と水平線の方を体で示しながら、「大障壁のかなたから来た」と眩くと、彼らは一人残らずひどく興奮した。一人が『唯一聖なる書の』偉大な預言について何か喚き始める。だが、話がそれ以上進まないうちに新たな出来事が起き、それで私のことなぞどうでもよくなり、皆の関心がすぐそっちの方にいってしまった。
 『邪悪な反逆者』と呼ばれる一群の海賊が、これまた古めかしい船から、私達の上に降り立ってきたのだ。大砲が火を吹き、こちらの船にどしんとぶち当たってから、手摺を飛び越えて乗り移ってくる。まるで映画そっくりだ。周囲で繰り広げられる戦いに、夢中で見とれていた。だが、しばらくして、私を助けてくれた船員達の分が悪そうなので、助太刀をすることにした。
 棒を引っ掴むと、修羅場のど真ん中に飛び出して行き、近くにいる海賊達を思いっきり次々と打ちのめす。だが、刀を持った男に棒を切られてしまった。そこで、素手で戦い始める。すると、彼らの驚いたこと、驚いたこと! こんなのを目にするのは初めてに違いない。高性能の人間連打機械と化した私の前には、すぐ敵がいなくなった。かれらの大半はすでに打ちのめされ意識を失い、残りのものは投降した。
 素晴らしい奇跡が起こり、古代の預言が現実になった、と敵も味方も皆がそう思ったようだ。救い主が現れた! 彼らの畏敬に満ちた顔つきからして、私のことを言っているのだ、と悟る。ひどいショック! こりゃ、大変だ! 救世主になってしまった!
 中世の船乗り達の『聖都』に着くと、私の『奇跡の』助太刀が大騒ぎになった。彼らが長い間待ち望んでいたアヴァター(つまり神の化身)、彼らにとっての真のメシア、と思われてしまったのだ。彼らは、私が『出現』するという話を、『唯一聖なる書』でよく知っているのだ。それだけでなく、長い間失われていた数頁が最近見つかり、そこに書かれている将来についての預言にもその話が出ているという。そういうことで、あちこちで盛大な祝宴が催された。その中でも、中心はパレス・ヒルで開かれたガーデン・パーティーだ。その宴で、私は地元の名士達と一緒に自分のためにビールを飲みまくる。彼らの共通した望みは、私に救われることなのだが、私にはこの自分すら救えないことが分かっていたし、それがまさしくその通りだったのだ!
 その晩遅く、ロイヤル・ユリナルズの庭園の奥で反逆者達に誘拐されてしまった。意識が戻ると、陰鬱な地下牢に入れられ、壁に鎖でつながれていた。間もなく分かったのだが、支配階級の暴君どもが反逆者達に対抗するのを、結果的には手助けしてしまっていたのだ。『唯一聖なる書』の最近見つかった一頁を見せられる。そこには、こうした局面になることが預言されており、私が先頭に立って蜂起し、情勢を是正するとも書いてある。
 最初はどうも気が進まなかった。こうした出来事が一見すると現実のように思えることにも、また、私の役割が逆転することにも混乱してしまった。だが、その反面、預言や歴史の邪魔をする自分は一体何者なのか、とも考えてしまう。そこで、心ゆくまでたっぷりと朝食をとってから、宮殿を攻撃することにした。そして、夕食時までには、暴君どもを追放してしまったのだ。
 革命が成功して間もなく、召し使いから、新しい支配者達が前の支配者よりもずっと酷い暴君に早々と変貌しつつある、という情報を得た。穏健派との秘密会議で、もう一度『正義に勝利させる』ための戦いに弾みをつけることに同意した。もっとも、この『善玉対悪玉』の対決にはもう飽き飽きしていたのだが。とにかく、この最後の革命は迅速に遂行され、ほとんど苦痛を伴わなかった。
 その後で、私は総括的な恩赦を宣言し、相対立する陣営の双方を等しく含めた本当の連合政権を形成するように主張した。この新体制はうまくいくようだ。政治の世界で素晴らしい産婆役を演じることができた、と当然のことながら自慢に思っていたら、誰かが、この結末も『まさしく預言通り』だと言い張るので、私の自尊心も一気につぶれてしまった。だが、少なくとも、すべてが順調に行っていたので、これで皆も幸せに暮らせるだろうと思った。ところが、それも大間違いだった。
 どうやら、取らぬ狸の皮算用だったようだ。残念なことに、新たな反対グループが台頭してきた。神職・統制官の集団で『カウンセラーズ』という。彼らは私が打ち出した新しい民主的枠組みを直ちに覆し始めた。グループの司教が言うには、どの社会変革も、下からではなく上からの認可が必要なのだそうだ。『上』というのは、『城』の護衛官達が神の啓示を受けて定める指令に合致しているという意味だ。護衛官たちは新しいサイコトロニック・パルスを通してこの指令を受ける。パルスは、『城』で七年毎に公開展示される『聖石』が発している。(このパルスを使って、『現状』を適切に変革させるように大衆の行動をコントロールするのだ。)
 チーフ・カウンセラーの話では、七年毎に新しくなるパルスはそれぞれがランダムで予測不可能であり、そもそも、一政党が権力を永久に持ち続けないようにするため、以前に出現したアヴァターがそう『プログラム』したのだそうだ。だが、護衛官達は『有益な変革』のために、『聖石のスピリット』が次に出すパルスの形態に、神に頼んで影響を及ぼす方法を身に付けているのだという。
 こう説明しておいてから、チーフ・カウンセラーは、協力するようにとおおっぴらに要請し、私が本当に新しいアヴァターだと証明する、これも失われていて見つかったという一節を見せた。彼らの世界は『アポカリプサ』と呼ばれているが、新しいアヴァターが現れ、彼らの神職制度を強化し、この王国を支配する、と(七千年前に)約束されているのだと言う。
 チーフ・カウンセラーとこのような話を少しした後で、連合政権に参加している友人から次のことを知った。つまり、神職・統制官からなるカウンセラー達は、歴史を通じてずっとアポカリプサ社会を自分達の目的を達成するために操作して、自分達の神政・マフィア型の権力を国民に押し付けているのだ、という。遵合政権の友人達は、彼らのためにまた彼らの民主主義のために、私が『聖石』を『城』から盗めば、あらゆる政治的虐待が一掃される、と信じている。自分の本当の気持ちはどうなんだ、としばらく考えてから、盗むことに決めた。すると、これまでと同じように、失われていて見つかった新たな一節を誰かが直に取り出した。それには、この行動は大昔から預言されていることだ、と記されている。
 それから間もなくして、『聖石』の七千年祭に招かれた。『城』の設傭は技術的には理解を絶するほど進歩している。アポカリプサの中世的状況とは際立った対照をなしている。だが、カウンセラー達はこの『ハイテク』設備の基礎的運用知識は持っているものの、本当の能力は全然分かっていない。あちこち案内されて分かったのだが、彼らは偏向用の壁迷路を建設して、『聖石』の純粋なパルスから高調波波動を作り出することは何とかできる。そして、それを適当に不正変更したものを、恰かも神意であるかのように全国に送信している。だが、この神意は、神職階級の利益にしかならないのだ。背筋が寒くなるような怒りが沸き上がってくる。この忌まわしい不正を吹っ飛ばしてやりたい。
 チーフ・カウンセラーが、聖都を見下ろす『城』の残りの部分を見せてくれたので、この『城』が実際には七千年前に墜落した、遺棄された宇宙船であることが分かった。宇宙船の操縦士、つまりアヴァターは、助かり、『聖石』を据えつけ、さまざまな規則も定めた。そしてある日、この操縦士は忽然と消え去ってしまったのだ。
 遺棄宇宙船の内部をあちらこちらつっ突きながら、シヨツキングなことを発見した。標識や指示書きがどれもこれも英語で印刷されていて、私には完壁に理解できるが、ここの人達には全くちんぷんかんぷんなのだ。自滅用ボックスと無傷の救命ボートを見つけたとき、この『要塞』を吹き飛ばして脱出しよう、という素晴らしい考えを思い付いた。だが、私につきまとっていたチーフ・カウンセラーが(テレパシーでか、あるいは、私の知らないことを知り得たためか)この悪だくみに気が付いたらしく、衛兵に私を取り押さえさせた。
 そうしておいて、失われていたが見つかった一頁をまたまた新たに取り出した。このひどくしわくちゃな頁(彼の話だと、最後の一頁がまだ残っていて、それは寿命があるものは見てはいけないのだという)を証拠として、私は新たなアヴァターなどではなく、『唯一』本来のアヴァターが、預言通り、ここに永遠の王国を樹立するために、再来したのだ、と言う。『失われていたが見つかった』頁を使って相手を思い道理に扱おうとするやり方をせせら笑って取り合わないでいると、チーフ・カウンセラーは隠しボタンを押しながら、「それなら、究極の証明を見せてやろう!」と芝居がかった調子で言う。
 すると、ホログラフィーの画像がコンソールから飛び出した。体にぴったりとした宇宙服を着て、不気味なまでに私に似た男が見える。画像が私の声で喋りだす。
 「やあ、諸君! 諸君の敬愛するアヴァターだ。声紋確認などのために喋っている。私の分身にも挨拶しておこう。君が、例の約束の再来の時にこのメッセージを見つけた場合に備えて…」
 この成り行きには本当に動揺した。このひどい混乱状態に、私は驚き、怒りも感じた。実際、ひどく腹立たしかったので、チーフ・カウンセラーとその衛兵を、一連の動きで、打ちのめしてやった。そして、預言の最後の一頁を見せろ、さもないと何もかも吹き飛ばしてしまうぞ、と脅かしてやった。
 チーフ・カウンセラーは、壁の金庫に這って行き、最後の頁を探して取り出し、私の要求に従って声を出して読みあげた。この最後の節によると、私が裁きを行い、アポカリプサ(の国土ではなく、その統治体制)を破壊し、そこから黄金時代が始まる、となっている。全く素晴らしい考えではないか!
 この預言を実現することにした。それ以上に良い行動はないように思えたし、また、祝典はまだ数時間先だが、開催の公式の挨拶に代えて私の方からの相応しい見解発表の役もなすと思えたからだ。
 私は例の自滅装置を三分後に作動するようにセットし、始動スイッチを入れ、救命ボートに乗って逃げ出した。
 『城』が次々と起こる爆発で吹き飛ぶ中、私は下の近くの町に上陸し、公共広場に救命ポートを置いた。その近くには一段と高くなった演台があり、そこから連合政権の首脳陣が、記念祭に集まった群衆を相手に熱弁を振るっている。爆発を続ける『城』と演台に駆け寄る私。ドラマの一シーンみたいだが、その場の雰囲気を壊す感もある。連合政権の首脳陣に、この数時間の間に私がなした劇的な功績をかいつまんで話した。彼らの最初の反応は、神政マフィアの本拠地を破壊したということで喝采をしてくれたが、『聖石』も破壊することにしたと私が言うと、バリ雑言でやじり始めた。「聖石がなければ、乱用する誘惑もない」と言う私の意見に納得せず、また、民主的統治の方が良いという考えにも賛成しないのだ。
 『聖なる伝統』を私が理不尽にも破壊したことにぶつぶつ文句を言い始め、群衆を宥めるのに私の首を欲しがった。これを潮に逃げ出すことにして、救命ボートに向かって走る。高官の反感を買ったらしく、式典の祝砲用に用意されていた古風な大砲が私を目がけて火を吹き始める。残念なことに、急いで逃げる間に、砲弾が一発まぐれ当たりをして、救命ボートが損害を受けてしまった。

 * * *

 こうしてアポカリプサの島々を離れ、煙を吐きぐらぐら揺れる救命ボートで海を飛び越えて行った。下界が陸地になると、ガーディアン達に会うため大山脈へと進路を取る。丸裸の尾根をいくつか飛び越えて行くうちに、私の乗り物が遂に『息が切れ』、物凄く高い山の斜面に墜落してしまった。幸いなことに、投げ出されはしたものの大怪我はしなかった。近くに山道があるので、それを辿って行くことにする。どんどん上に登って行く。(歩くのは大嫌いなのだが)永遠とも思える長い間、上に向かって歩き続ける。この一人っきりの状態は奇妙な感じだ。何しろ、長い間しかも強烈な形で大衆の目に晒されていたのだ。アポカリプサの国には少なくとも三週間はいただろう。それに加えて、一週間位は円盤や母船、それにSLAに乗っていたのではなかろうか。そうすると、惑星地球を離れてから四週間くらい過ぎた勘定になる。
 山道は台地に続いていた。岩壁の中に幅広い出入り口がある。中に入ると、松明に照らされた通路があり、そこを行くと円形の部屋に出た。僧衣を纏った人影が暖炉の側の椅子から立ち上がり、向きを変えて私に挨拶をする。クェンティンだ。かつては教授であり、提督になり、そして今は宇宙の終わりのかなたを担当する世話係の僧になっているようだ。

 「これは、これは、我が友、元ゲリラ、ウエイター、そして神の化身アヴァターではないですか」
 クェンティンは、私の心を見透かしでもしたように、知っているよ、と言わんばかりの顔つきでニヤッと笑いかけてくる。
 「貴方の光栄ある役割の終焉がどう公式説明されているか、御覧になりますか?」
 彼が手をさっと動かすと、壁にはめ込まれたテレビスクリーンのスイッチが入り、連合政権議長が代議員達と満席の傍聴席に向かって私が消えたことを報告している姿が部分的に再生され始めた。
 「……そして、私がこの国の皇帝の地位を受け入れると、しかもこれは私達が敬愛するアヴァターの最後の執拗な願いを受け入れたわけですが、アヴァターは、涙ながらの別れの言葉と雷のような礼砲の響きの中を、天のお住居へと光栄ある昇天を始められたのであります」
 ここまで映し出すと、テレビモニターのスイッチが自動的に切れた。
 「あの野郎、何て汚いんだ!」
 腹の中が煮えたぎるのを感じながら、口を開く。
 「前の状態に戻ってしまうのなら、もっと悪い状態になってしまうかもしれないのなら、あの苦労は何だったんだ!?」
 「これもそうなのですが、人間性に基本的欠陥があるということですよ」
 こう言って、クェンティンは肩をすぼめる。
 「でも、気にしないように。貴方が苦労して成し遂げた英雄的行為から、やがては、価値ある変革が生まれてきますよ。馬鹿じゃないですからね。それを忘れないように」
 「それにしても、あのアヴァター騒ぎは何だったんですか?」
 私は、まだ少しプリプリしながら訊く。
 「想念形態に過ぎません。現実のことではないのです」
 「私には地球の存在と同じような現実でしたが、あれも想念形態に過ぎないんですか?私は本当に彼らにとって最初のアヴァターだったんですか?あの地球製の宇宙船はどうしてあそこにあったんですか?」
 「いつか貴方にも分かる時が来るでしょう」
 クェンティンが、私の質問を穏やかに遮りながら言う。
 「一年前と比べると貴方の知識はもう大分増えています。そのうちに、もっとはっきり分かるようになります。やがて、自分で悟る時が来ますよ」
 「でも、貴方は時とか空間とか物質といったものは存在しないとおっしゃったではないですか」
 「もちろん、そんなものはこの超越した世界では実際には存在していません。ただ、さまざまなシナリオを行動に表すための幻影の舞台としては別ですがね。他方、あちらの宇宙ではそれがまさに現実なのですよ。つまり、『他の場所』と『他の時』では、ということですがね。複雑に聞こえるかもしれませんが、いつか、いかに単純なことかが分かるようになります。さて、ガーディアンとの謁見にお連れしなければなりません」
 私が僧衣を身につけフードを被ると、クェンティンが松明を手にして先に立つ。迷路のようなトンネルを通り、山の反対側に出る。そこは大理石の柱が両側に建っている巨大な高台の庭園で、何百というフードを被った僧衣姿で一杯であった。見上げるような頂の間に心地よく挟まった感じの美しい渓谷が、ずっと下の方に見え、遥か遠くへと広がっている。ここでクェンティンは、何も言わずに、私を残して去ってしまった。
 私の方はと言えば、パラダイスにいるような気分だ。暗闇が訪れると、非常に平安な気持ちに包まれた。それから、目が眩むような天使のようなエネルギー生物体が、物凄く高いところから列をなして降りてくる。純粋の『光の存在』という『形態』でだ。同時におよそ五十ほどのパステル色をした光球が周囲の高台に現れた。ガーディアン達だ。すると、『光の存在』−−グレイト・マスターズ達−−の光り輝く降下が、藍色の空から降り注ぐ金白色に輝く光に圧倒されてしまった。そのさまは、喜びと慈しみに満ちている。こうした状況をすべてとり入れながら、私の意識はこの上なく幸福な気持ちのまま拡大し、すべてを包み込む金色の光の中にあるあらゆるものと騒合していった。同僚の巡礼者もガーディアン達もマスター達も、金色の光に包まれている。栄光に満ちた一瞬の間、私はすべてと『ひとつ』になった。その瞬問、あらゆる存在の『理由』が理解できた。自分自身の存在の理由も、アポカリプサで変革を促進し『帳尻を合わせる』ために演じなければならなかった、あの目を見張るような心理劇の理由も、分かってしまった。その時は、非常に単純かつ明瞭に思えたのだが、今となってみると、その本質だけでも掴もうとしても、到底容易ではなく、まして他人にそれを伝えることなど到底できそうもない。
 謁見と『大いなる祭礼』という幸福感に満ちた行事は終わった。参加者も一人残らず去ってしまった。後に残ったのは私と、私と同じような巡礼者六人だけだ。
 私達を帰りの旅路に送り出すべくクェンティンが見送りに来た。ダイアモンド型の『エーテル船』に乗り、各人が別々の部屋を占める。航行自体は飛行というより落下に近い。『ブラックホール』を通り、その反対側に待っている『幽霊船』に戻っていくのだ。『かなた』から物質的宇宙へと戻る交差点に近づくと、ダイアモンド型の船は七つの部屋に分裂し、次にそれもばらばらになってしまう。すると、『幽霊船』が私達一人一人の幽霊皮膚の服に『向かって行き』、牽引ビームを作動させ、一人ずつ船内に運び入れた。

 * * *

 まだ『エーテル船』に乗っている間に、出発時にクェンティンが話していた『マインド・リンク(意思結合)』プロセスのことを知った。間もなく、連れの巡礼者六人の本質的な心の態度や気質、考え方を心霊的に知ることができた。六人の大半は人格神ないし非人格神の側面に、すなわち『外なる神』という枠組みに依然として囚われている。また、グループの中には不可知論者が一人と徹底した皮肉屋が一人いる。その他のいろいろなタイプもいるが、六人皆に共通して見られることがひとつある。それは、誰かに教えて貰わなければならないということ、つまり権威に頼る心がある、ということだ。彼らのこうした状態は正常であり、私の方が、紛れもない変わり者なのだ。責任は私にあることが分かっているので、気にせずに勝手な判断を下した。その結果がどうであれ、そんなの糞食らえだ。勿論、はっきりしたのは、自分が他に類を見ないほど強情で、意志の力が驚くほど強いということだ。こうした性格の故に、このUFOオデッセイの多様な七人の一人に選ばれたのだろうか? 私達七人は、一人一人がそれぞれ異なった表出光線に乗って機能している。例えば、この私は意志のカの光線に乗っているし、オスカー・マゴッチは知性の光線上にある、というようにだ。
 その後、『幽霊船』に乗り移った時、それから各人の円盤と母船に乗り換えた時、(さらには、起こる可能性がある大量脱出を想定して『ノアの箱舟』に乗った時も、)私達の全人的なマインド・リンキングによって、それぞれの船を動かしている中枢知性を取り込んだ。そうして、各船を精神的手段だけで操縦する方法を教わったのだ。運行原理と精神的手段による操縦の基礎知識をこうして学んでから、『手動』運行にと切り替えられた。大型宇宙船の大半には『手動補助装置』が既に内蔵されており、小型円盤の場合は、私達の必要性に合わせて内部が改造されている。この『手動』というのは、いろいろなコンソールやパネル、計器類や制御装置があって、それをいじくり回すということだ。というのは、言うまでもなく明らかになったことなのだが、私達地球人(それに、『連盟』のサイキアン以外の多くの加盟種族)にとっては、余り慣れていない心霊的方法で『処理』する代わりに、指を使って操縦した方が『気楽』なのだ。実際、私の場合、『自分の』円盤に乗り込むと、グラフィク・ディスプレイ・スクリーンを作り、地球条件での航行に関した時空座標を簡単に読み取れるようにしたほどだ。他の種類の飛行データに関してはすべて、密接結合した円盤の駆動知性から、心霊的な方法で直接貰った。特に際立っているのは、私達地球人に、越境優先権が与えられたことだ。これは、深刻なトラブルや差し迫った宇宙的緊急事態が起きた場合に、『銀河系司令部』が遠隔操作で撤回しない限り、使える優先権である。

 * * * * *


第五章 移行波乱

 やっと母船から別れて『単独飛行』になる。惑星地球の大気圏に近づき、『バミューダ三角海域』の次元間移行ゾーンに焦点を合わせる。降下する間、NASAの衛星をひとつ調べ、自分のディジタル・スクリーン・ディスプレイを正確な時刻に合わせた。一九七五年八月七日午前七時(グリニッジ標準時)だ。ニューメキシコで初めて円盤に乗ってから地球時間では四日半たっている。だが、少なくとも四カ月半たった感じだ! 異次元と地球次元の転換率は大体七対一くらいだ。勿論、宇宙空間の彼方の時の無いあの世界に滞在していたことは計算に入っていない。それが永遠かそれ以上の何か−−全く信じ難いような何かであったとしてもだ!
 ニューメキシコに間もなく着陸するが、実際に着陸してこの記憶すべきオデッセイが終わるまで、円盤を完全にコントロールするのも訓練の一環だった。自分がコントロールするというのは、実際には単独の『私』や『それ』が操縦するというよりも、むしろ、融合した『私達』による混合型操縦方法だ。つまり、円盤のさまざまな能力と航行知識が、私という人間の判断に基づいた操縦と結合しているということだ。
 バミューダ三角海域の霞で曇った移行の窓をもう少しで通り抜けるという、大事な再物質化の瞬間になった。いわば『素っ裸で晒される』状態になる瞬間だ。センサーも、パワーも、シールドも効かない、次元間移動の瞬間だ。決まり切った手順で行う簡単なことに過ぎないのだが、出し抜けに、強烈な、裂くようなエネルギーの稲妻に打たれ、『完全に』ノックアウトされてしまった。『意識を失う』直前の一瞬に、突然襲って来た爆風は補給船団を護衛している敵対的な駆逐艦が発射したものだと分かった。
 制御不能のままで一分間ほどもひどくスピンしただろうか。やっとのことで、意志の力を思いっきり発揮して何とか円盤のバランスを完全に回復することができた。だが、まだ移行領域内のどこかにいる。スクリーンの拡大地図を見ると、中国北東部の『満州の窓』だと分かった。再物質化して吉林の近くに出てしまったのだ。スクリーンの時刻表示は、一九七六年三月の日付を示している。これは驚いた! 信じ難いことだが、一分も経たないのに、惑星地球の反対側に投げ飛ばされてしまった。しかも、七カ月も未来に行ってしまったのだ!
 円盤は、全能力を急速に回復しつつある。敵対する宇宙艦隊が近くにいるのを感じ取ったので、先頭の巨大母船を次元間移動の瞬間に急襲した。あらん限りのパワーを一条の集束エネルギーにして、母船の指令橋と水晶の制御部分に向けて発射する。母船の脆弱性が一番大きい、移行の窓から再物質化し始める瞬間に捉えるのだ。集束エネルギーの威力は物凄いの一語に尽きる。母船はとてつもない大爆発を起こしてばらばらになってしまった。(『ファクツ・オン・ファイル』一九七六年四月二十一日の項には、「地球への落下物としては最大の岩が、一九七六年三月、満州の吉林市の近くで爆発した。集められた断片の総重量は四千ポンドに達した」と記録されている。)
 残骸の大半は地面に到達せず、吹き飛ばされて『窓』の中に戻ってしまった。不運なことに、私達も一緒だ。円盤のメモリー・データバンクからの回想で分かったのだが、私達がしたように敵対的航空機・宇宙船と『無許可』で交戦するのは、珍しいことではない。ある時、日本のヤマトという名の若い侍が円盤のマインドと自分のマインドを融合してしまい、宇宙の旅から帰還して地球次元へ移行の途中に、侵入してくる敵対的宇宙船団に出会った。彼は『神風』特攻隊風に、旗艦の駆動部分の中心に真っ直ぐ飛び込んで行って、その自滅行為で核爆発を引き起こしてしまった。その頃には、旗艦は『シャンバラ』の移行の窓を過ぎ、ふらりふらりと不安定飛行をしていた。そして、最後の爆発を起こした場所がシベリアのツングースクだった。一九〇八年六月三十日のことだ。その後の混乱状態の中で、宇宙の侵入者達は進路を反転して編成をし直した。他方、連盟艦隊は完全警戒態勢を取った。やっとのことで、敵対的な異星人達(暗黒の勢力に仕える『正義を任ずる諸世界帝国同盟』)は、侵略を中止して、連盟との大規模な宇宙対決を避けることにした。その後、正式な一九〇八年休戦協定』が調印され、それ以降この協定はずっと効力を持っているという。
 さて、歴史はこれくらいにして話を元に戻そう。私と円盤は吹き飛ばされ、『満州』の移行の窓に戻されてしまったのだが、今度はバランスを崩したのはほんの何分の一秒かで済んだ。それでも、コントロールが回復されてみると、現在地は前の位置からずっと離れたところで、時間も半年ずれてしまっていた。移行を終えたのは日本海上空、ソ連の太平洋岸のウラジオストクの近くだ。現地時間は一九七六年九月六日午後一時を少しまわっていた。
 センサーでさっと調べてみる。これといって差し迫ったトラブルはない。ひとつだけ動いているものが探知された。遠くの方だ。単発のジェット機が大分苦しい状態で急いで飛んでいる。拡大画面で見て心的調査をしてみると、ソ連の亡命パイロットが貴重なミグ25を駆って、日本に向かっているところだ。パイロットが安全な場所まで到達するのを助けてやることにする。そこで、その地域内のレーダーをすべて効かなくして追跡機を撹乱してやる。そうしてから、ミグの上空を守るように飛行し、ぎこちないながらも何とか北海道に着陸するのを見守ってやったのだ。(『ファクツ・オン・ファイル』一九七六年版の六九五頁E−3を読むと、「一九七六年九月六日、ソ連のミグ25のパイロットが、日本に亡命し……」と書いてある。)
 眼下のジェット機にまだ注意を向けている間に、突然、上空から何かに『バシッと打たれた』。そして、目も眩むような閃光の中{忘却の移行状態へと吹き飛ばされてしまった。が、円盤の内蔵自動対応装置のお陰で、一瞬のうちに非物質化することができた。完全破壊されるよりもこの方が良いが、それでも全く不愉快だ。
 数秒後、コントロールを取り戻し、移行状態から安全に元に戻ったが、今度は何と何千キロも離れた場所で、時間も数日先に進んでいた。一九七六年九月十日午前十一時五分過ぎだ。場所は北極圏。どうやら北極洋の『スバルバード』という移行の窓を通ってきたようだ。すぐに、何かが近くを飛行しているのを感じる。敵対機でもないし、サンタクロースでもない。SAS(スカンジナビア航空)の飛行機が北極圏を横断して南に向かっているのだ。行き先はコペンハーゲン。おもしろそうだから、ちょっと接近飛行しておどかしてやろう。『つけまわして弄ぶ』のは、ちょっとした気分転換になる。ということで、接近飛行を十五分ほど続けた。その間、パイロットが無線で喋るのを盗み聞きしていたが、大体はこちらには理解不能の暗号だ。
 出し抜けに、ジェット迎撃機が数機、空から飛びだしてきた。こちらを狙ってくる。別の『追いつ追われつ』が始まった。迎撃機が撃ってくる。体当たりをしようとする。遂には無線で罵ってくる。だが、何をしても無駄だ。こちらは、すいすいと身をかわし続ける。燃料が残り少なくなったのだろう。迎撃機が方向転換をして、ノルウェー本土の方に向かう。彼らの編隊の一部であるかのように、ぴったり背後について飛行することにする。彼らの怒ったこと、怒ったこと! 有らん限りの汚い言葉で罵ってきた。私の方は大笑いだが、彼らに聞こえるような下手なまねはしない。
 遂に、迎撃機がNATOの飛行場に着陸する。ナムソスというノルウェーの港の近くだ。ジェット機と一緒に私も着陸する。下からも横からも上空からも無線で叫んでいる、その大混乱の真っ只中にだ。NATO航空隊の少なくとも半数が、迎え撃つために急発進したようだ。そのため、上空はひどい交通渋滞みたいだ。私は空いている夕ールマカダス舗装の部分に円盤を止めた。管制塔のある夕ーミナルの近くだ。時刻は正午頃になっている。私は、円盤を中心として七・六メートル位離れた周囲にドーム状の『フォースフィールド(力の場)』を展開した。これは透明だが誰にも良く見える。気分が高揚するのを感じる。ところが円盤のマインドの方は、このスカンジナビアの戯れが始まってからずっと、私の馬鹿げた行為が果たして賢明なことなのかどうか不安を感じていたのだ。そこで、円盤のマインドを抑え、自分が全面的な責任を取ることにして、ショーが始まるのを寛いで待った。
 最初にやって来たのは、MPらしき数人の屈強な男達だ。スピードの速いジープで円盤を取り囲む。次に、装甲車が逃げ道を遮断する。それから、数人の将校がハンドマイクをもってやって来る。差し出がましく大声で怒鳴りたて、身元を明らかにせよ、登録書類を見せよ、などの要求を始めた。
「当飛行場に許可なく着陸したのは全くの違法行為であり、重大な結果を招くことになる!」
 と、高級将校の一人が厳しい警告を発する。
 私は沈黙を破って、丁寧にこう訊いてやった。
 「駐車券を頂けるのでしょうか、閣下?」
 この言葉で、彼らは本当に動揺してしまった。兵隊達のやじる声や囃し立てる声があちこちから聞こえ、全員が叫び始めた。先程厳しい警告を発した将校が、今度は、唾を飛ばしながらこう言った。
 「何だって?」
 「何だって、も何もないさ。もっと話の分かる頭の良い奴はいないのかい? たとえば、伍長さんなんかどうかな?」
 兵隊達がまたドッと囃し立てる。すると、別の高級将校がハンドマイクを掴んだ。
 「このNATO基地の司令官だ。ちゃんとした説明を要求する」
 「貴方は何も要求できる立場に無い。別に軽蔑している訳ではないですよ、閣下。ですが、静かに聞いて下さい。地球の主要国、敵も味方も含めて、主要国の代表達と話がしたい。会議を開くためここに集合するように伝えて下さい。期日は今からきっかり十日後、九月二十日の正午です。軍人や政治家や科学者を何人連れてきても構いません。どんな装置や装備を持ってきても構いません。私は定刻に、今と同じ場所に現れますから、この場所は空けておいて下さい。期日が来るまでの十日間、私は数カ国の首都と重要な軍事施設を何カ所か見てきます。以上、終わり」。
 これを聞いた司令官が話しだした。
 「貴方の言葉に正式に留意し、それを記録し、伝えた。さて、公式に通告するが、追って通告があるまで貴方を勾留する」
 司令官の合図で、戦車が包囲してくる。その一両がキャタピラの音を響かせて頑丈なフォースフィールドにぶつかってきた。エンジンが止まってしまう。何て恥ずかしいことだ。兵隊の中には、警棒やライフルでフォースフィールドを突くものもいるが、全く無駄な努力だ。だが、その一方、私の方は確かに四方八方取り囲まれてしまっている。すぐ上空には六機のヘリコプターが浮遊飛行をしており、他にもいろいろな機種の航空機がもっと上空にいる。そこで、円盤を非物質化して、地球の次元から徐々に消え去り、封鎖している航空機群の少し上空で再物質化した。それから、交通渋滞を逃れるためもあって、物凄いスピードでその場を離れ去った。

 * * *

 それから十日間、世界『大旅行』に出掛けた。その大部分は低空での普通の観光に過ぎない。時折、雲に見せかけたりもした。特にリゾート地域やヌーディストのキャンプではそうした。南太平洋の無人の島々では休憩を取り、のんびりと過ごしたり日光浴を楽しんだ。そういう時はいつもアンジェラのことを夢に見ていた。
 勿論、真面目な『仕事』もしたことは言うまでもない。夜間に、接近飛行デモンストレーションを何度かワシントンやモスクワで行った。九月十五日の真っ昼間には、バイコヌール・コズモドローム地域の『ソユーズ22号』の打ち上げ現場で、接近飛行もしてやった。(『ファクツ・オン・ファイル』一九七六年版六八四頁C−1「ソ連『ソユーズ22号』を打ち上げ……」を参照。)多数の国の防空システムと鬼ごっこをせざるをえなかったことも何度かある。だから、私の存在は、一般国民には隠されているとしても、官界には良く知られるようになった、と確信している。あるいは、確信ではないとしても、テレビをよく見ていて、そういう結論を引き出したのだ。円盤の膨大な知性のお陰で、どんな言語でも理解できるので助かる。
 ミグ戦闘機に追跡され攻撃を受けたので、『ソユーズ22号』への接近飛行を止め、バイコヌールのコズモドロームから、近くにあるソ連の最高機密のミサイル・センター、セミパラティンスクに飛んだ。そこでは、ソ連の油断のならないミサイルやその他もろもろの兵器から、本当に『温かな』歓迎を受けた。何メガワットという強力なレーザービームが地上から発射されたのだが、これは全くの驚きだった。幸いにも、実際に当たって衝撃を受けるよりほんの一瞬早く、円盤の自動中枢システムがエネルギーのシールドを即座に最大限強化して、ビームの衝撃をそらすことができた。
 と同時に、別の手強い地上兵器が使用された。サイコトロニック・ビームという兵器で、人間の脳波と電磁体の場を混乱させることを狙うものだ。だが、これも円盤に対しては大した効果がない。このビームに長時間晒されれば、破壊力が極めて大きくなったであろうが、実際には、頭の中が目茶苦茶に撹乱される『脳波変調』を一分間やられただけでもう十分で、私はすたこら逃げ出すことにし、地球の次元からパッと消えてしまった。神経が完全にやられてしまう危険を冒したくなかったのだ。この時だけは、本当に危機一髪だった……。

  「中国で隕石の雨」

 中国の新華社通信杜が四月二十一日伝えたところによると、三月に中国北東部で百個を越える隕石の雨が降った。この中には地上に落下するのを目撃された隕石では最大とされるものも含まれ、この最大の隕石はかつての満州の吉林市の近くにあるチンチュー集団農場上空で爆発したという。報道によると、調査隊が収集した断片の総重量は、三千八百九十四ポンド。南アフリカの重量十二万ポンドのホバウエスト隕石のように、今回のよりもっと大きな隕石が地球に達したことはあるが、落下中に目撃されたことはない。


第六章 NATOの狂態

 一九七六年九月二十日。会議の日だ。正午少し前、私はナムソスの上空およそ一万五千二百メートルから、NATOの飛行場に向かって急降下中だった。その高度からだと、周囲何キロものものがほとんどすべて目に入る。それに加えて、私には拡大透視装置と赤外線透視装置がある。NATO空軍基地に着陸する前に、ごつごつしたノルウェーの海岸線の上空を、少し飛行してみることにする。どうも少し気になってしょうがないのだ。
 その地域一帯には軍隊が結集していた。まるで、ヨーロッパ侵入に備えているかのようだ。(『ファクツ・オン・ファイル』一九七六年版七六〇頁D−2を参照。一九七六年九月二十日、NATOはスカンジナビアで最大規模の軍事演習を行う。ミサイルを搭載した艦艇百七十隻と航空機九百機がノルウエー中央部の沿岸沿いのナムソスで新兵器をテストする……。)『応対』委員会、と言うよりも『威嚇』委員会といった方が良いのか、その規模には本当にうなってしまった。私が(およそ千五百メートルの)低空で上空通過をしてNATOの軍隊を『閲兵』している間、脅しをかけてくる動きは全然見せない。私が来ていることなぞ、言わなくても分かっているのに、無線でぺちゃくちゃと報告しているだけだ。
 地上では、各種車両からなる大規模の護衛隊がこの空軍基地に集結しつつある。基地はもう既に大混雑の駐機場の有様だ。西側世界の航空機の混成部隊の中に、ソ連や中国の航空機も見える。
 ゆっくりと飛行場の上空に降下しながら、円盤の広範囲センサーで地形を慎重に調べる。私を迎えるNATOの主人役達は、親切にも、円形の中に真っ赤な十字をペンキで描き、円盤の着陸予定地点を示してくれている。非常に手際のいいことだ。照準器か爆弾投下目標点のように見える。
 NAT0側には不意打ちの用意もしてあることが分かった。コンクリート舗装の下にいろいろな仕掛けが隠してある。神経ガスや腐食酸の液体を詰めた容器が無数あるし、レーザー装置もある。高性能爆発物や破砕性爆弾も何段にも積んである。こうしたものがすべて遠隔操作できるようになっている。つまり、着陸地点を示す円形は、文字通りの死の罠なのだ!
 そこで、円盤を危害の及ばないところに着陸させた。数百メートル風上のコンクリートのエプロンの上だ。そしてすぐに、多層・微細網目状のフォースフィールドを円盤胴体の周囲およそ六メートルのところに張り巡らして、水も空気も漏らさないように円盤を包み込んだ。この他にも、標準型の耐爆発・放射能保護膜も周囲に配備してある。
 伝わってくる物凄い苛立ち感から察すると、主人役達は完全に混乱してしまっている。下級将校がせっつかれてマイクに向かう。
 軍隊のオープン・チャンネルから将校の声が聞こえてくる。
 「円盤へ、円盤へ。ちゃんと印をした場所に降りてくれないと困ります。カメラもマイクも計器類も、何もかもそれに合わせてありますので……」
 「確かに、何もかもですな!!」
 将校の言葉を遮って、私の声がオープン・チャンネルを通る。
 「でも、気を変えたんですよ。なぜだか当ててみませんか? まあ、苛々しないで、装備を配備し直したらどうです。私の方は待ちますよ」
 彼らは配備をし直した。それも、あっという間にだ。サーカスの人達が幕間に衣装をさっと変える様子を思い出した。歩兵達がタッタッと走ってきて、フォースフィールドの周囲に移動照明器を置いて境界を示す。重戦車がごとごとと近づいてくる。カメラも音響機器も、要人達を満載した移動式演台も、戦車に挟まれる場所に移動し、円陣を完成させる。
 再配備が完了する頃には、私の方もショーの準備ができていた。円盤を回転させて、ドアが演台に向かうようにする。さあ、晴れの舞台だ。銀色の宇宙服を着たままタラップを降りて行く。ヘルメットの色のついたヴァイザーはおろしたままにして、顔を見られないようにする。
 民間人が演台のマイクに立った。基地の拡声装置を通して声が響いてくる。
 「来訪者よ。貴方が公式の接触をするこの歴史的な瞬間に、惑星地球からのご挨拶を送ります。私はこの会議の議長を務める国連事務総長の代理です。貴方の要請に従い、私達はこの会議のために当地に集まりました。私達は貴方が地球外からの訪問者だと考えています。従って、ここに地球の指導者達の代表者を集めたのです。貴方の前方にある演台には、地球の主要国と一部の重要な国々を正式に代表する当局者達が座っています。実際の指導者達は、本人自身がこの会議に出席するのは賢明ではない、あるいは、必要ではないと考えたからです。しかし、彼らも閉回路テレビでこの会議の進行状況を見ることになります」
 この民問人が言っている広範な代表というのは、冗談でも何でもなかった。円盤の広範囲視覚装置と連結してみると、多数の重要国のいろいろな制服が判別できる。私が召集したこの会議の出席者の数は、大いに満足がいくものだ。
 制服を着た高級将校がマイクに歩を進め、話しかけてきた。声には敬意が表われている。
 「私はNATOのこの連合機動部隊の司令官であります。貴方が着陸される際の扱いについて、不手際があったことをお詫び申し上げます」
 「私を殺そうとしたあの仕掛け爆弾のことを隠すのに、なかなか凝ったお言葉ですな」
 と、冷ややかに言ってやった。私の声が大きくはっきりと基地の拡声装置を通じて聞こえるようにしてだ。
 「将軍、貴方は政治家になれるいい素質をお持ちですよ」
 「道徳云々を持ち出して我々に怒るのは、止めにして貰いましょう!」
 将軍が言い返してくる。
 「何たって、侵入して来たのはあんたの方なんだから! 我々には、当然、この世界を守る権利があるんだ!」
 「まあ、そう興奮しないで!」
 私はこの威勢のいい武人を宥めて、そう言った。
 「私は何光年も離れた世界の超高度文明から、平和の心でやって来ました。皆さんの物理的・物質的宇宙とは別の次元にある世界からです。いろいろな次元に出入りすることができますが、私の有機的組織はみなさんのと良く似ています。私は炭素を基盤とする酸素呼吸型のヒューマノイドです。とはいっても、皆さんの世界から見ればエイリアンであることは言うまでもありません。名前を使いたいのでしたら、アンドリュースと呼んで下さい。いやー、そうですね、むしろ、私を追跡している人達や軍部から既にバズ・アンドリュースというあだ名を頂戴しているので、そう呼んで下さい」
 「アンドリュースさん。確かに、貴方の声は普通のアメリカ人のように聞こえますね」
 と、民間人が声を張り上げた。何かの科学者だろう。
 「貴方の声は、三十代半ば、中流階級の下の方の出で、ある程度教育を受けた人の声だ。白人で、大西洋岸の出身、そう、ニューヨークから遠くない所の出身でしょう」
 「アメリカ人として通用するとは嬉しいですね」
 別に愉快ではなかったが、愉快さを装ってそう答える。この科学者の判断は、図星だ。
 「私は皆さんの世界の言語を多数、同じように楽に話せますが、それは数年間にわたって、生の会話やテレビ番組を盗聴してきたからです。皆さんの行動や文化様式を観察するのも私の仕事の一部なんです」
 例の将軍がまた口を挟んできた。今度は、少し皮肉っぽい喋り方だ。
 「訪問の目的をお訊きしてよろしいかな?」
 「よろしいですよ。私が来たのは、私達地球外生物の存在を皆さんに気づかせ、私達異星の優れたテクノロジーを実証し、そしてある重大な警告を伝えるためです」
 こう言って、それが十分に理解される間を置いてから、話を続けた。
 「私が代表しているのは、宇宙を旅する多様な文明のグループです。これは、さまざまな銀河系に存在する遥か遠くのたくさんの星体系やいろいろな次元の文明から成り立つグループで、『自由諸世界次元間連盟』と呼ばれています。略して、単に『連盟』とか時には『連合』と言います。『連盟』は地球人に大変失望しています。まず、地球人の間に否定的態度や精神汚染が広範囲に浸透しています。自然の力をみだりに弄くり回したりしてもいます。さらには、全面的な破壊と宇宙規模の連鎖反応をもたらすかもしれない攻撃的・好戦的な性質が地球人にあります。こうしたことに『連盟』は強い不満を抱いています。ですから、地球人は明らかな攻撃性を捨てる方が良いのです。そのために、心の奥深いところを探り、根本的原因を取り去ることが必要だとしてもです」
 「そうしないと、どうなります?」
 東側陣営のお偉いさんが尋ねる。
 「皆さんがやらなければ、私達が止めさせます。皆さんの核ミサイルを無力化することもできます。もちろん、核兵器を最初に不当に使用する国が、私達が最初にパワーゲームから脱落させる国となるでしょう」
 西側の将校が発言する。
 「過剰な攻撃性や戦争を限定すると言うのははっきり理解できますが、大規模な否定的態度や精神汚染とはどういうことですか?」
 それに答えて、いくつか列挙してやった。
 「まず、基本的人権の侵害があります。それに、貪欲な行動、憎悪に満ちた行為、偏狭な行動、こうしたことが大目に見られてしまっていて、それが公共部門に影響を及ぼしています。また、政府のお墨付きを得て、非倫理的な策略が行われています。さらに、ポルノやいろいろな倒錯行為で若者達が堕落するのが看過されていること、などもあります。政府や機関は、人権や人命についていろいろと手を打つことができるんです。手始めに、公衆道徳や個人レベルでの道徳観を高めることです。皆さん、少し自分を見つめて反省する時がきているのです。いまさら、私の方から事細かに説明する必要はないでしょう」
 後ろの方でぶつぶつ言う声が大分聞こえてきて、無礼な、軽蔑するような意見や発言がいろいろと耳に入ってくる。
 「皆さんの声は、はっきりと聞こえますよ」
 こう言って、手袋で隠された手で指を振る動作をした。
 「皆さんは私のことをこう言うわけですな。自分の方が気高いと思っているボーイスカウトだとか、宇宙の自警団員だとか、地球の外から来た空想的社会改良思想家だとか。いいでしょう。私の方は発言しました。警告も、一応出しました。最後通告ではありませんが、しかし、襟を正した方が良いですよ。さもないと、結局は滅亡することになります」
 例の共産圏のお偉いさんが、また口を開く。
 「たいそうな話をしているが、あんた独りしか見えないな。残りはどこにいるんだ?」
 「貴方の軍隊を持ってしても、この小さな私一人を相手にできませんよ、同志。艦隊がどうして必要なんですか? 当然のことですが、艦隊を呼ぶこともできます。必要になればですがね」
 「あんまり生意気な口を利かない方が良いぞ。おい、兄弟」
 と、西側の国の将軍が言う。

「この地域一帯は、非常に強力な軍隊で一杯なんだから」
 私は笑い出してしまった。
 「皆さんの兵器は物の役に立ちませんよ。弓矢が近代戦車に向かっても無駄なようにね」
 「それは分からないぞ」
 と、悪鬼みたいな別の将校が口を挟む。
 「いいか、良く聞け! 私はこの空軍基地の司令官だ。いま受け取ったばかりの許可によって、これ以上つべこべ言わずに円盤もろとも投降するように命令する。こんなくだらない会議なぞもう十分だ! 逮捕部隊を迎える準備をして待ってろ!」
 白いヘルメットをかぶった憲兵の部隊が速足でフォースフィールドに駆け寄り、殴ったり押したりして何とか私に近づこうとする。
 「あきらめて投降しろ!」
 と赤ら顔をした憲兵隊軍曹が、拡声装置につながっている携帯無線器に向かって怒鳴る。
 「投降しなかったらどうする?」
 楽しそうに言い返してやった。
 「(『三匹の子豚に出てくる』)あの悪賢い大狼みたいに『ぷりぷり怒って』この家を吹き壊すつもりですかな?」
 憲兵隊は諦めたのか、物も言わずに引き下がる。すると今度は、戦車隊が強力な火炎放射器で攻撃してきた。使ってる暗号名も状況に相応しい『フライド・チキン作戦』ときた。多少熱気が漏れ出てくるものの、フォースフィールドの耐熱力は素晴らしい。円盤の中に戻り、後ろ手にドアーをぴったり閉め、円窓から外の状況を見続けることにする。
 ちょっとフォースフィールドを調整し直して、鏡のように、熱を反射するようにしてやる。反射熱の精で、戦車隊は火炎放射を中止せざるをえず、急いで相当遠くまで退却する。だが、間に合わなかった一両が燃え出し、乗組員が急いで転がり出て来る。
 ほんのしばらく静かになった間に、お偉いさん達を乗せた演台とカメラ陣が円盤の近くから退いている。その理由は間もなく分かった。『主人役』の一人から流れてきた想念衝動によると、ナパーム弾による攻撃がすぐ始まるのだ。急いでシールドの反射力を強化し終わるや否やすぐに、円筒型の爆弾がフォースフィールドに落下し爆発し始めた。外側のものが残らず火の海に包まれる。
 ナパーム弾攻撃が数分間続いた後は、何百発という装甲貫通弾が航空機から投下された。こちらにしてみれば、まるで燃え盛る巨大な炉の中にいるようなものだ。シールドは大変良く持ちこたえてくれている。円盤のセンサーによると、フォースフィールド内の温度は摂氏八十二度を越えている。
 基地の有線テレビ回路に入り込み、指揮センター内部を覗いて見ることにした。軍のお偉方達が、超大型スクリーンで繰り広げられる、目を見張るような花火のショーにうっとりと見入っている。宇宙服を着た私の姿がスクリーンのひとつに大写しで現れ、私の声にお偉方達がびっくり仰天する。
 「やあ、やあ、諸君、楽しんでますかな?」
 こう優しく訊いてやった。
 「まさか、こんなこと信じられん! あんなに猛爆撃してやったというのに、まだぴんぴんしているとは!」
 と、白い顎髭をつけた民間人が、たまげた声で叫ぶ。爆撃が突然止んだ。
 「どんなフォースフィールドなんだろう」
 「そうですな、自分で考えてみるんですな。本当のところは、私もちょっと驚いているんですよ。あの耐久性にはね。そもそも、主に対エネルギー兵器用に作られているんで、皆さんが使ったような粗製爆発物やバーベキュー扱いに対抗するようにはなっていないんでね」
 こう言うと、今度は意地の悪い将軍が嘴を挟んできた。
 「よーし! お望みなら、核兵器で相手してやっても良いぞ」
 「どうぞ、どうぞ。遠慮なくどうぞ」
 こう返答してから、付け加えて言ってやった。
 「核兵器を使っても無駄ですよ。それに、分が悪くなったら、いつでもこちらは非物質化できますからね。でも、こんな所で核兵器をぶっぱなすような馬鹿な真似はしないで下さいよ。この地域一帯を、部下もろとも、目茶苦茶にしたいというのなら別ですが。そこで提案ですが、テストは本土から遠く離れたところでやるというのは如何でしょう。例えば、定期航空路帯から離れたベア・アイランドの東、およそ三百二十キロ辺りでどうでしょうか。今から一時間後ということで。その時間で核爆撃機を派遣するのに十分ですかな?同志達がムルマンスクに配備してある航空機を緊急発進させるのに足りますかな?」
 「よし、相手になってやる!」
 例の将軍が意気込んで同意する。
 「居場所はどうやったら分かるんだ?」
 「レーダーに写るようにゆっくりゆっくり飛行してあげますよ。目標地点に着いたら、高度約六干メートルで、二十分間じっとしています。専ら防御役に徹し、目に見える状態でいます。ですから、その間、お好きなように料理して下さい。以上、通信終わり。それでは後ほど」
 私は円盤を離陸させると、低空飛行で、何百機というヘリコプターと航空機で一杯の封鎖空域をゆっくりと通り抜けて行く。抜け終ると北東に向けてのんびりとしたスピードで約束地点に向かった。だが、ありとあらゆる戦闘機がつきまとい、接近飛行をしてくる。およそ千五百メートルの眼下には、NATO艦隊の戦闘艦艇が散開していて、「射撃練習の絶好の機会だ。これを見逃す手はない」とばかり、近接自動信管式の砲弾を撃ってくる。各種のミサイルも撃ち込んでくる。それに続いて、戦闘機も「俺にも楽しませろ」とばかりに参加して、各種兵器を発射してくる。相手は私だけの、飛び入り制限なしの乱闘だ。
 最初は、当たらないようにひょいひょいと身をかわし、大きな砲弾やミサイルは円盤の上段ドームからレーザー光線を発射して爆破処理をする。その間、航行時用の軽いシールドを円盤周囲にめぐらしていたのだが、なにしろ飛んで来る砲弾などが多すぎてこの方法では処理仕切れない。そこで、すぐさま重厚なフォースフィールドを配備して、空中で停止する。この保護用の『繭』の外で、砲弾などが爆発するままにさせておくことにした。これなら、こちらに危害が及ぶことはない。ほどなくして、軍部は攻撃しても無駄なことに気づき攻撃を止め、申し合わせたテスト地点に、私を向かわしてくれた。
 これで一人っきりになれた。つきまとっていた戦闘機が消えて大分経つし、あれっきり姿を現していない。辺りはごく自然で何の変哲もなさそうだ。だが、感じる、何かおかしい。およそ十六キロ後方で、一群の航空機が北から近づいて来る。ソ連空軍だ。多数の戦闘機がノールカップとムルマンスクの方角からじわじわと迫って来るのだ。
 指定の集合地点までまだ百六十キロ程あるところで、私を取り巻くように、興奮した想念の爆発がグワーツと起きてくるのを感じとった。私を追跡してきた者達のマインドが発する想念だ。分かったぞ。私を目がけて、核弾頭搭載ミサイルの一斉発射を何度か連続して行ったところなのだ。この卑劣な奇襲は、周波数帯変換をした極めて不規則な通信チャンネルで盗聴を防止し、『密かに』計画したに違いない。それで、彼らの無線交信と心の動きに対する私の弛んだ監視体制を騙そうとしたのだ。推断すると、向かって来るミサイルはどれもこれも、いわゆる放射性降下物の少ない、低爆発力『戦術核兵器』だ。だが、それでも、密集して航海している船団を一掃するに足る破壊力を持っている。ましてや、単独飛行している航空機なぞ、ひとたまりもない。ミサイルは近接自動信管式で、三十秒もしないうちに到達する。
 私は空中でピタッと停止し、すぐさま、円盤動力の限界ぎりぎりまで使って、多層フォースフィールドを配備した。そして待った。数秒も経たないうちに、辺りは地獄のありさまと化した。右から、左から、上から、下か
ら、四方八方から次々に起こる大爆発で、円盤がぐらぐら振動する。いくつもの太陽からの強烈な光で目が潰れそうだ。円盤の床に俯せになり、目をしっかりと閉じ、手で覆っていても役に立たない。円盤はすべてのセンサーの機能を停止し、ほんの僅かな内部動力で補助動力状態をかろうじて維持している。
 集中核攻撃は、第五波の爆発で止んだ。だが、依然として巨大な炉の中にいるようだ。まだ大量の静電気がパチパチと音を立てており、無線交信もできなければ、円盤の特殊センサーも到底使える状態ではない。この状態を脱するには、非物質化して半移行状態になるしか無い。フォースフィールドが駄目になるという必要悪も生じるが、それはしょうがない。こうして、再物質化したところは、約十九二一キロという『短い』距離をひとっ飛びしてからで、円陣をなしているNATO航空機の少し南側であった。私がひょいと飛び出して間もなく、彼らも気がついた。
 「あの野郎、まだ生きてやがる!」
 苛立った高級将校がオープン・チャンネルでうめく。
 「あの灼熱のフライパンから飛び出しやがった!」
 「こんなの朝飯前だよ、あんちゃん!」
 と、さりげなく言い返したものの、内心はそんなに確信はない。何かがまずい、と第六感で分かった。明らかに、変だ。おそらく、苦境はこれで終わり、どころではないのだろう……。

 * * * * *

「NATO軍事演習を実施」

 北大西洋条約機構(NATO)は九月二十日、ノルウェー中央沿岸のサムソスで、ノルウェーが敵の攻撃を受けたという想定で救出作戦の演習を行った。
 同演習はNATO北部方面司令部では最大規模のもので、水上艦艇百七十隻、潜水艦三十隻、航空機九百機、およそ八万人の兵員と文民が参加し、戦争体制に近似した状況下で行われ、地対地ミサイルや電子戦などの新戦術が実戦環境で初めてテストされた。
 ノルウェーで実施されたこの演習は、一九七六年夏と秋、ノルウェーから地中海東部にかけて行われた二十七の作戦のひとつで、機動性と装備の質が共に向上したワルシャワ条約軍に対抗するのが目的である、とNATO司令官アレクサンダー・M・へーグ将軍は述べた。九月二十五日のインタビューでヘイグ将軍は、ワルシャワ条約軍の戦力が整備されたため、攻撃された場合、西側が使える警告時間が短縮されてしまっていた、と語った。

第七章 MIBを壊滅

 円盤のセンサーをひとつ残らず能力一杯に働かせ、自分の全感覚も緊張させて、新たに敵対行為が起こりそうな気配がないかどうかを調べていると、突然、NATO航空機群の中心から何かが稲妻のようなスピードでこちらに向かってくる。その進路の邪魔になっている二機の大型機を光り輝くレーザー砲で粉々に粉砕し、私に奇襲攻撃をかけてきた。戦闘態勢に入っていたお蔭で、何とかシールドを強化し、強烈な爆発を吸収できた。攻撃してきたのは、『帝国同盟』の三角形をした地球外の戦闘機だった。『悪魔機』として知られているものだ。猛スピードで一直線に逃げていく。
 「あの狙撃機は宇宙に巣くう『悪の勢力』の一味だ。恐怖と破壊をもたらす恐ろしい悪魔だぞ!」
 と、大声でオープン・チャンネルを使ってNATO軍に知らせてやった。
 私は致命的打撃を受けコントロールを失った振りをして、ずっと下に見える冷たい海に向かって落ちていく。だが、その一瞬の後、半移行状態に入り姿を消し、走り幅跳びのようにスピードを出してあの攻撃機を追跡する。相手は南東に向けて飛行している。明らかに、私がある距離を置いて追っているのに気がつかない。相手の基地まで追跡していき、それから今までのお返しをしてやるつもりだった。だが、数時間何事も起こらぬままに飛行を続けると、相手は突然にパッと姿を消し、超空間ジャンプをしてしまった。オーストラリアのメルボルンの近く、バス海峡の上空だ。
 緊急追跡をしているうちに小さな『窓』にスッと入る。と、新たな目に見えない敵機が強烈な『攻撃』を加えてきた。今度は素早く立ち直る。だが、地球時間で五週間先に進んでしまった。出てきたのは一九七六年十月二十五日、ニュージーランドはウエリントンの近くだ。
 北極海での核対決からずっと追跡してきた悪魔機は見失ってしまったが、しばらく辺りをぶらつくことにした。クック海峡の小さな『窓』を通ってやって来るか出ていく敵の円盤を見つけられるかもしれないからだ。そこで、リラックスして地元のテレビ番組を見ながら、円盤にその地域一帯を走査させた。問もなく、待った甲斐があって、新手の悪魔機が視界に飛び込んできた。通常の飛行モードで南極地域に向かっている。そこで、慎重に距離を十分にとって追跡することにした。
 荒涼たる広がりが凍てつく南極大陸の上空、エレバス山を少し越えたところで、『暗黒の勢力』を中心とする敵性宇宙列強の秘密本拠地にやっと到着する。例の悪魔機は急降下していく。とっぴな衝動から、素早くジャンプして悪魔機にすぐ続いて人っていく。基地の保護用フォースフィールドが束の間開き、そこに出来た小さな穴に悪魔機が入っていく間に、私も潜り込む。中に入るや否や、すぐに重要な攻撃目標を探し始める。十分にカモフラージュされたパン型のフォースフィールド発生装置に、本能的に狙いを定める。ほんの一瞬だが、発生装置の動力の急増から発せられたものが私の注意を惹いたからだ。物凄く強烈な『同期』パワー電光で、発生装置を爆破してやった。発生装置をオーバーロードさせ、壮観なスパークのシャワーを浴びながら燃え出させたのだ。
 方向転換をした。近くの見上げるような崖に、危うく突っ込みそうになる。怒り狂った戦闘悪魔機の群れが、崖のなだらかな表面に出来た多数の洞窟から飛び出して来る。私の心は二分していた。一方では、『反対勢力』に反撃できることに一種の残忍な興奮と爽快な気分を感じると同時に、他方、(円盤の知性は)条約違反と違法な攻撃であることを指摘し続ける。だが、事実はどうかといえば、敵の方が先に条約違反をしているのだ。向こうが攻撃を何度か仕掛けてきたのだから。
 周囲を見回すと、このままでは数秒で敵に圧倒されやられてしまう、と分かった。そこで、何とか敵機をかわし(基地にももう少し打撃を加え)てやろうと思い、必死になって、惰性降下した。まず、崖の中にある、スイッチが入ったばかりの補助発生装置を狙う。ブンブンとうなっている補助装置は洞窟の奥深い所にあるが、そこにつながるぽっかりと開いた開口部と一直線に円盤を並ばせると、補助装置の回路を焼いてしまおうというまたもや残忍なパワーのうねりを解き放つ。一瞬の間の空中停止状態から、あの巨大な洞窟内部に向けて殺傷力の強い放射能ビームを発射する。これが引き金となって、洞窟内部に修理のため駐機していた巨大宇宙船の剥き出しの駆動室内に原子力の連鎖反応が起きた。その結果、大爆発が何度も続いて起こり、崖の中に作られていた巨大基地がばらばらに吹っ飛ぶ。基地が破壊され始めるのをちらっと見届けると、私は物凄いスピードで飛び出し、灼熱の地獄からも、追跡してくる無数の敵機からも逃げ出した。敵機は、その多くが次から次に起こる強烈な爆発の中で、あるいは、雨あられと降り注ぐ基地の残滓の中で破壊された。(これは、『南極大陸に大量の隕石が雨のように降った』という形で地球では報道されたはずだ。もっとも、当局がこの出来事を公表したらの話だが。)
 全力かつ半移行状態で『近くの』南極点に急行する。すでに、追跡してくる生き延びた悪魔機に、半分ほど包囲されている。その数は、相手にするには多すぎる。だが、幸いなことに、敵機の兵器はこちらが半移行状態にある間は役に立たない。勿論、どの次元であれ、こちらが『正常な』状態になったら、敵機はこちらを破壊することができる(し、そうすることはほぼ確実だ)。だが、敵機にとってはがっかりだが、私を壊滅しようたってそうはいかない。私は見かけほど無謀ではない。ずっと前から分かっていたのだが、地理でいう南極点のところにある次元間の大きな『窓』は、すでにしばらく前に作動を開始しているのだ。
 正に予想通りだ。次元間の『窓』の場に入るやいなや、ぼんやりとした忘却の大渦巻きに吸い上げられ吸い込まれていった。追跡してきた悪魔機も同じだ。敵機はこちらが再物質化したらすぐにでも殺す機会を窺っている。彼らにとっては残念だろうが、そんな楽しみはあげられない。その代わり、私は多数の連接点を出たり入ったりし続ける。次から次へと固体次元に飛び込む素振りを見せては、すぐに飛び出すのだ。敵は私を見失いたくない一心で、その一機が必ず私についてくる。その度に、私の方は『サイドステップ』して身をかわす。また別の次元に飛び込む振りをしては、敵機を誘い込み、身をかわす。これを、気味の悪い迷宮みたいな何千という次元間連接点で繰り返す。こうするうちに、追撃機を一機残らずうまくまくことができた。自分自身も何処にいるのか分からなくなるくらいだが、円盤のジャイロ・アップデイトのお蔭で、目が眩むような旋回や回転もすべて把握できていた。
 敵機が辺りに一機も残っていないことを確認した時点で、地球次元に戻ってロックする。無謀なUFOでの冒険を止めにして、アメリカ合衆国に戻り静かな一市民の生活に戻るつもりだった。そうした『自宅に帰る』動きを誰かが先取りし(忘れてはいけないが、NATO基地で例の科学者は私がニューヨーク地方の出身だと分かっていた)、最も当然と思える『窓』(バミューダ三角海域の移行の『窓』、つまりニューヨークヘの主要進入ルート)で待ち伏せしているといけないので、そこは使わないことにし、ハワイ地域の次元間の『窓』を通って移行することにする。幸いにも、太平洋上空はすべてが『安全』だ。それでも、この上なく慎重に注意を怠らず、ニューメキシコに向けてジグザグの『帰路』をとる。こうして、私は自らの意志で、忘れられない宇宙の探訪を終えたのである。時は一九七六年十月二十六日。出発してから一年余りの時が経過していた!

 * * *

 円盤が着陸する大分前に、普通の地球の衣服に着替える。テレパシーで要請して物質化したものである。それと大体同じ頃、円盤のコントロールを放棄し、普通の乗客に戻る。円盤とのマインド・リンクが徐々に弱まる中、最後に、円盤の知性から興味の尽きないある情報を貰うことを気がついた。それは、人類の起源についてと、反対勢力である『暗黒の勢力』の正体と目的についてだ。
 円盤がそんなに詳細な情報を持っていないことは分かってはいたが、太陽系内のどの仲間のデータバンクであれ、それも利用できることも分かっていた。数秒も経たないうちに、連絡がとれたに違いない。要請した情報の断片が入り始めた。マインド・リンクをしていないため、円盤の知性は合成した人間の声で私の要請に応えてくれた。声は天井のコイルの方角から出てくる。こうして得たのが次に述べる事実だ。
 地球人類の起源は、プレイアデスの散らばった系に由来する。地球人類が地球に移住してきたのは『多数の千年期』の昔である。それ以来、私達の『後に残された』人間の親戚達は、銀河系と他の次元領域の至る所に広がった。さまざまな次元に存在する何千という星系からなる彼らの緩やかな『共通利害団体』は、『自由諸世界次元間連盟』(略して『連盟』)と呼ばれ、多次元宇宙の三十三の広大な領域に及んでいる。
 八・六光年離れたシリウスは、夜空に一番明るく輝く星であり、『人間』の親友である犬にちなんだ『大犬座』にある。このシリウスの二重星系にっいて非常に正確なデータが、バビロンの神話やエジプトの神話、さらにはアフリカに一部生き残っている部族の神話にも見いだされる。ある原始部族はシリウスの二重星である黒い小星(実際にはブラックホールで、タイムトラベルないし多次元間移行ルート、あるいはその双方に使われている)のことを知っていたが、これは、最新式計測器を使った近代天文学による発見よりずっと以前のことである。ロバート・テンプル著の『シリウスの神秘』には、シリウス人が物理的な宇宙船に乗って紀元前四千五百年ころ地球に来た、と記されているが、テンプルが出している証拠は、シリウス系と地球との星間テレパシー通信の方法がその当時発見されて(エジプトの大ピラミッドを通して促進されても)いたこと、さらには、それ以来多数の人々がそのテレパシー・チャンネルを聞いていること、をも示している可能性もある。実のところは、そのどちらの想定も正しいのだ。何度か物理的に地球を訪れたこともあったし、星間テレパシー放送も継続されているのだ。シリウスは、私達に向けた『連盟』の送信センターとして使われている。私達を高め、迫り来る宇宙的なコンタクトとその結果として起こる変貌に対して、この世界を準備させるためなのだ。何千年にもわたってシリウス人は地球人とコンタクトしてきたが、その際、彼らとその仲間は『ホルスの目』というしるし(三角形の中に目を配したデザイン)を用いてきた。
 『暗黒の勢力』とその地球の『光明派』の召使達は、シリウスのセンターから来た『善玉』になりすましている。これは、地球人を混乱させ利用せんがためで、本来のシリウスからの送信内容を歪めたものに変え、自分達の悪の教えを植えつけようとしているのだ。そのために、シリウスの『ホルスの目』のデザインのしるしも使っている。『暗黒の勢力』に支配されているMIB達、すなわち、あの恐ろしい『黒服の男達』は、一つの目ないし一条の稲妻を中に配した例の古典的な三角形を、自分達が使用する黒塗りのキャデラックのドアにつけている。
 『暗黒の勢力』は、自分達の基地はオリオン大星雲にある、と私達に思い込ませようとするが、彼らは単にそこからやって来たに過ぎない『落ちた者』で、依然として周辺にまつわりついているだけなのだ。実際は、オリオン座は『光の主達』の故郷であり、『銀河系委員会』の故郷でもあるのだ。そして、アルクトゥルスを中継基地に使っている。

  私たちがいる宇宙領域において、『暗黒の勢力』と彼らが支配する悪の帝国(正式名は『正義を任ずる諸世界帝国同盟』)の本拠地は大熊座にあり、ドラコニスを主要作戦センターとしている。私達の太陽系においては、冥王星を中継基地に使い、地球から見えない方の月面を地球への侵入基地に使っているが、両基地とも昔から存在している協定に違反している。地球ミッションの人員は『連盟』にしろ『帝国同盟』にしろ比較的少なく、その役割も大半が『監視活動と互恵的平和維持活動』に限定されている。これは、(サイキアンのような連合系すべてを含む)『連盟』陣営と(すべての『反対勢力』からなる)『帝国同盟』陣営との間で締結された昔(一九〇八年)の休戦協定の規定に沿ったものである。どちらの陣営もしょっちゅう規則を曲げてはいるが、これは証明し難いことで、特にまったく平気で悪事を行う『反対勢力』についてはそうである。とはいっても、大きな協定違反や地球とのおおっぴらなコンタクト、それに大規模な戦闘行為については、宇宙規模の大惨事の引き金になることを恐れて、両陣営とも回避しようとしている。言うまでもないことだが、『帝国同盟』が純軍事的手段で地球を乗っ取るのは望ましいことではない。したがって、内側から堕落・破壊をもたらして征服するというのが『反対勢力』の主目的であり、それを地球でMIBや『光明派』及びその他の部下に代行させているのだ。
 その他の部下とは、悪事を平気で行う厚顔無恥の政治家や秘密組織で、一見すると自らの欲深い目的達成のために行動しているように見えるが、実のところは、『光明派』という監督機関に操られて利用されているのだ。『光明派』が常に目的としているのは(腐敗と不和によって)精神汚染を最大限広め、混乱と騒乱を引き起こすことである。これが『社会主義的世界政府』を樹立するのに必要な前提条件であり、そうした政府の下では、あらゆる物と者が、億万の富を抱える大富豪や国際金融家が『光明派』に成り代わって運営する独裁『世界国家』に所有され、支配されてしまうのだ。『反対勢力』は、地球の邪悪な精神放射物を(強力に増幅して)利用し、宇宙の他の系をも混乱させ、ゆくゆくは、征服することを目論んでいるのだ。
 経済恐慌や革命や戦争が、社会秩序を崩壊させるために画策されている。『光明派』に操られた、『見えざる政府』の仕業だ。R.A.ウィルソン等によると、この『見えざる政府』を構成しているのはCFR(外交関係評議会)、連邦準備制度理事会、三極(日米欧)委員会、それに国際ビルダーバーガー・グループのメンバー達である。一九七六年五月、アリゾナ州ノガレスで、『世界政府』樹立を推進する提携グループの会議が開かれたが、それを主催したのはディヴィッド・ロックフェラーや当時のアメリカ合衆国大統頒補佐官ブレジンスキー、それにソ連のいろいろな大物達であった。問題は、ロックフェラー家の人々は共産主義者の手先なのか、それとも、共産主義者達が実際にはロックフェラーに雇われているのか、ということだ。ついでに言うと、CFRの理事長職にあったとき、ロックフェラーはモスクワに『休暇』の旅に出た。一九七四年十月のことだ。その数日後、ソ連の首相であったフルシチョフが休暇先から呼び戻され、『首』を言い渡された。一体誰が絶対的独裁者を首にできるのだろうか? あるいは、面倒を起こす従業員をロックフェラーが解雇したに過ぎない、ということなのか?(ゲーリー・アレン著『誰もそれを陰謀と一言わない』を参照。)
 法律や道徳を覆し、行動を管理するために、いろいろな手段が使われている。たとえば、マスコミ操作、政治的急進主義、悪魔的行為、ポルノがそうである。さらにはロック音楽すらも利用されている。『エーリアン・クリティック』誌の一九七四年五月SF号で、リチャード・S・シェイヴァーは、『最新のロックサウンドに見せかけた、麻痺させるような強力な振動』による破壊行為について警告を発している。こうした振動に加えて、宇宙からは、強力な否定的振動や(恐怖心、憂鬱感、暴力などを引き起こす)暗示が地球側の反対の月面から、悪の勢力によって送信されており、それを『中継局』の役を務める複数の宇宙船が選択的に増幅して地球に向けているのだ。一九七一年出版の『悪魔が送った暗殺者達』では、著者のブラッド・スタイガーが、行動管理が一九六十年代に各地で起こった暴動や混乱と政治に絡んだ暗殺事件に一役買っていたのかもしれない、という考えを考察している。(ついでに言えば、ジョン・F・ケネディはダラスで一命を落としたが、その訪問時に、ディーリー・プラザでは多数のMIBが目撃されている。)
 MIBすなわち『黒服の男達』は、嫌がらせや威嚇、テロや殺人を専門とする『暗黒の勢力』の手先だ。報酬を得ていたり強制されていたり、あるいはその両方の場合もある。手先となった人間か政府に雇われた人間傀儡か、あるいは、洗脳されバイオニック操作されている消耗品同様の人間ゾンビか、そのどちらかであろう。時には異星から来た全くのロポットのこともある。(実在している人間の、短命複製クローンである)『生霊』のことも多い。さらには、『ポルターガイスト』の悪霊やホログラフィーによる投影像のこともある。仕事の内容次第で何にでもなる。彼らMIBは地球在住の主人達に取り仕切られており、いろいろな基地(通常の地球基地は南極大陸のエレブス山中にあり、太陽系内の基地は地球から見えない月面やいろいろなアステロイドや冥王星にある)から調整・統合を図られ、活動についての指示は『反対勢力』の宇宙艦隊の知性に仰ぎ、背後では地獄のような次元に住む『暗黒の主達』に支配されている。時たま、『暗黒の主』が肉体を持って具現化することもある。(たとえば、かつての『ダース・ヴェイダー』がそうだ。この『宇宙人』は実在していたのだ!)『暗黒の勢力』の『帝国同盟』UFO飛行士は、地球任務では大体三角形をしたコウモリ型の偵察機や戦闘機を使う。昼間は鈍い黒色で、夜間は消防車みたいな赤色に輝き、いみじくも『悪魔機』という名で呼ばれている。『暗黒の勢力』は残忍な破壊行為を行ったり、人間に危害を与えたり誘拐したり、動物をばらばらに切断したりするので悪名が高い。
 『暗黒の勢力』は、(一九七九年に起きたジョーンズタウンの大虐殺や一九八0年のミシソーガ爆発事件など)大規模の悲劇や惨事も引き起こしている。こうした出来事を表立ってはコントロールしなかったものの、否定的な感情をフィードバックする等の手段で操作し、誘発するのに一役買っている』。捨て石に過ぎない殺し屋や現場の責任者の中には、ときおり『除去』される者もいるが、しばらくすると新手が現れてくる。これは地球の通常の霊的・精神環境が否定的だからだ。従って、悪と闘い、撃退するということは、(どの大都市にもみられる『害虫駆除』と同じように)継続して行わなければならないのだ。
 だが、事態はそんなに悪くはない。『光の勢力』からの強力な対抗措置が働いているからだ。たとえば、地球に根本的にプラスの、好ましい変化をもたらそうとしているネットワークが現在ある。リーダーはいないが、この強力なネットワークは『水瓶座の陰謀』と(社会学者マリリン・ファーガスンの同名の著書[邦訳名は『アクエリアン革命』]で)呼ばれ、政治ドクトリンもなければ宣言書もない。人間が成すべき課題を追求するこの善なる『陰謀』は、改革より広範囲で宗教より奥深く、歴史上類を見ないスピードで文化再編を引き起こしてきている。私達を圧倒している大きな変化は何かというと、それは新しい政治制度や宗教体系や哲学体系といったものではなく、新しいマインドの出現だ。つまり、驚くべき世界観が優勢になってきているということなのだ。
 『水瓶座の陰謀者達』には、あらゆる所得・教育水準の人や、最下層の人から最高の身分の人まで、いろいろな人がいる。目分の持ち場が何であれ、知識の量や洗練さの度合いがどうであれ、『陰謀者達』は、発見したものの内容や心の姿勢が共通しているということで、お互いに結ばれ親類となっている。こうした状態は、他の方向に行く可能性などまず考えられそうもない一連の歴史的出来事から生まれてきた。今の時代の危機に対処しようとしているのは、変身し、革新し、進化した人達の新しい視点なのだ。
 では、この新しい視点はどうやって出現したのだろうか? こうしたいろいろな思想家、著述家、活動家等の考えが人々に影響を及ぼしているが、彼らはこのインスピレーションをどこから得たのだろうか? すべては『光の勢力』に由来しており、それを『宇宙の同胞』やシリウス・センターから継続して行われている送信を通じて、さらには、『グレート・ホワイト・ブラザーフッド』とその仲間達の疲れを知らぬ活動家達を通じて得ているのだ。
 この危機への対応策は講じられている。『新時代』に平和裏に飛び込める希望も強まってきている。従って、いろいろな人に預言された最後の破局は、まだ回避できるかもしれない。あるいは、少なくとも、最小限に食い止められるかもしれない。他の道、つまり世界の滅亡と永遠の暗黒というのは、恐ろしすぎて考えることもかなわない。
 考えるべき問題はこうなのだ。現在の混迷状態の先にあるのは、果たして、世界全体の社会の崩壊なのか、それとも、人間の進化の次の段階への突破口なのか? ということだ。

 * * *

 眼下は暗い。だが、円盤は砂漢に建っているドン・ミゲルの小屋を難なく見つける。近くの磁力の強い地点を目標にしているのだ。円盤が着陸しドアが開く。内部をしみじみと眺め回し、一抹の悲しみを抱きながら外に出てニューメキシコの土を踏みしめる。円盤の方はさっさとドアを閉め、これを最後と夜空に飛び立っていく。
 確かに地球に戻った。だが、奇妙な感じは否めない。年老いたドン・ミゲルが小屋の戸口の明りの中に立ち、招くように両腕を振っている。どうやら、私の到着予定時刻をよく知っていたようだ。
 ドン・ミゲルと二人して、すでに用意されていた温かい食事が待つ食卓につく。質素だが美味しい料理に舌鼓を打ち、地元産の良質のワインで流し込み、たいらげる。
 「何かどえらい馬鹿げたことをやるとは思っとったよ」
 ドン・ミゲルが優しく諭す。
 「でも、空飛ぶ円盤を操縦したって? その筋の権力者達が震撼したことは間違いない。それも、当然の報いじゃ。NATO諜報部は、あの忘れようにも忘れられないノルウェーのショーにはかんかんに怒っとるわ! CIAやKGBを始めいろいろな情報機関が躍起になってあんたを追っかけとるよ。合成の声ではなく自分の声を使ってしまったんで、あんたは詐欺師とみられとる。それで、どの情報機関もあんたを捕まえたがっとる。しかも、殺さずに、生かしたままな。それに、怒り狂っている『反対勢力』とMIBのことも忘れないようにしないといかんな。奴等の南極大陸の秘密基地は、まったく使い物にならなくなってしまっている。まったく、良くやったもんだ」
 「サイキアン達も怒ってますかね?」
 と、心配になって訊いてみた。
 「いや。抑えが効かなくなったモルモットの『ふざけた真似』に唖然としてるだけさ。だが、外交上の理由から、あんたとの関係を否定し、あんな短時間にあんたが作り出した混乱状態とは関係なしとしたがっているよ」
 「ドン・ミゲルさん自身はどうお考えなんですか? ひょっとしたら友人のサイキアン達の罠にはまってあんなことをしてしまったんではないですかね?」
 長い沈黙があって、老インディアンは口を開き、こう言う。
 「この儂もその可能性をしばらくの間考えてみたんじゃが、そんなことはない。たまたまそうなったという偶然が重なりすぎたんじゃよ。ところで、あんたは大変困ったことになったぞ。あんたを追っかけているのは、この上なく優秀な奴等だからな。しばらくは、落ち着いた静かな生活はできんぞ。朝になったら出発した方が良いな。奴等もあんまり離されてはおらんからな」
 その言葉に少しショックを受けたが、余り心配はしなかった。なにはともあれ、逃げている間は型に嵌った単調な生活にはなり得ないし、将来は何とかうまくいくだろう、と考えた。
 「もちろん、ここへはいつ来ても構わんぞ」
 ドン・ミゲルが暖かく言い足す。
 「来る必要があるときはいつでも歓迎だ。その時は、儂はここで待っとるよ……」

 * * * * *

第八章 逃亡

 翌朝、自分の車に乗り込み、カリフォルニア州サンフランシスコ地方に向かった。途中、ビッグ・サーで休憩期間をとる。毎日、森の中を長時間散歩しなが石、海岸の岩場に打ち寄せる波の音を何時間も何時間も聞く。これが自分の元の世界に、つまり地球の感覚に戻るのを助けてくれた。そこから、バークレーに行き、大学周辺に落ち着くことにした。殆ど全ての事物に馴染みがある行きつけの場所に戻るというのは、素晴らしい気分だ。
 そこでおよそ三ヶ月間、インテリや活動家たちとつき合ったのだが、暫くすると、完全に『いつもの』自分に戻った。活気と刺激がたくさんあり、時として持て余す位だ。十二月の初旬、ある過激派の集会に出掛けたところ、極左翼の男と激論になり、とうとう殴り合いの喧嘩になってしまった。その男は武術の汚い手を使うのに驚くほど長けていたが、何とか打ちのめすことができた。すると、数人いた仲間のうちの二人が助太刀に飛び込んできた。喧嘩が非常に巧いので、こちらの形勢が不利に思え始めた。と、出し抜けに、バッジを光らせ拳銃をぶら下げた男が二人、私を掴むと大きな黒塗りの車に押し込め、サッと走り去って行くではないか。
 私を『救出してくれた人達』はCIA要員だった。彼らは、一体どうして私が奴等とほぼ互角にやり合えたのかを知りたがった。私を攻撃してきたのはKGBのプロだったのだ。CIAは、私もKGBと同類か、あるいはもっと質の悪いやからではないか、と疑っていた。私は頑として身分証明書の類を何も出さなかったが、今後CIAに協力すると厳かに約束すると、通り一ぺんの尋問をしただけで自由の身にしてくれた。一時間後、私は荷物をまとめ町を出た。ちょくちょく後ろを振り返りながら。

 * * *

 ネヴァダ州ラスヴェガス。身を隠すには格好の場所のように思える。荒れ狂う貧欲と欲望の雰囲気が満ちあふれ、観光客がたくさん群れをなして出入りしている。そこで、この町に腰を落ち着けることにした。いろいろな半端仕事をする傍ら、スポーツをして肉体面の摂生を始めた。だが、それ以外は、目立たないようにする。
 三か月ほど経ったある日、いつもの生活パターンが目茶苦茶になった。ウエイトレスをしている友人が両親を訪ねた帰りに、フーバー・ダムの近くで偶然にUFOを目撃し写真を撮ったところ、ラスヴェガスに戻るやいなや、変な男から「フィルムを駄目にしろ、さもないと……」という脅迫電話がかかり始めた。その翌朝、今度は気味の悪い顔付きをした黒いビジネス・スーツ姿の男が二人、彼女に近づき、脅迫を繰り返す。そこで、その夜は、彼女を私の所に泊まらせたのだが、それでも嫌がらせは止まず、今度は私の電話が鳴り続け、奴等に近所をうろつき回られるはめになった。
 仰天して度を失った女友達は、間もなく跡を残さず姿を消してしまった。だが、MIB達は相変わらず煩くつきまとってくる。何故なのかどうも合点がいかない。だが、あるきっかけでそれが分かった。隣の家がバーになっているのだが、そのバーで、バークレーで私を『救出する』手助けをしてくれたCIA要員を見つけたのだ。理性的に考えれば、『慌てる必要はない』のだが、本能の方は『逃げ出せ』と言う。結局、荷物をまとめ、真夜中になって静かに町を去ることにした。

 * * *

 次に行ったのはネヴァダ州のリノという、これもギャンブルの町だ。ここでも、半端仕事をしながら、倹しい生活を始める。
 非常に安い部屋を見つけた。古びた、今にも倒れそうな家で、町の郊外にある。年老いた女家主の外見は、幽霊でも出そうな気味の悪い古い家の雰囲気にぴったしだ。だが、見かけに似合わず、女家主は親切で暖かい。土曜の夜になるといつも決まって、いろいろな友人を招いて降霊会を行う。そして私も招かれるようになった。
 ある晩、好奇心に駆られて参加してみると、思っていたよりもずっと興味を惹かれた。降霊会自体は楽しくかつ気味悪いゲームを沢山するに過ぎないが、参加者にはいろいろな人物がおり、つき合っていると刺激になる。ということで、間もなく土曜日の夜の常連になった。
 そうこうするうちに、このサークルの優れた透視カを持つ女性が半トランス状態になっていると、私自身について、いろいろと驚くべきことを語り始めた。私が遠くの様々な不思議な世界に旅したことがあり、悪の勢力と戦い、暗黒の人物達に追われているのを、彼女は『見た』のだ。その後間もなくして、心霊現象的攻撃が私の周辺に起こり始めた。コップや窓ガラスが粉々に砕けたり、各種の物体が落ちてきたり、がらがらとくずれてきたり、重くのしかかるような憂鬱な様々な存在が感じられるのだ。
 十二月中旬のある土曜日の夜、物凄く赤い光の反射光が、居間で行われていた降霊会に一瞬飛び込んできた。続いて、数秒間ソニックブームが轟く。私も含めて一人残らずひどく動揺する。サークルの常連である空軍退役将校が私を引っ張って脇に連れていき、重々しくこう言う。
 「今のは敵性UFOがこの辺りを接近飛行して、隠れている誰かを追い立てようとしているんだ。私には、暗黒の勢力が狙っているのが君だってことは、言うまでもなく明らかなように思えるがね。この頃は、黒塗りの車や奇妙な連中がやけに沢山この辺りをうろうろしている。だから、皆を巻き込まないうちに、ここを出ていって下さらんか」
 大変残念だが、言われた通りにする。その家とも、降霊会の参加者とも別れて、用心しながら車で町を去った。

 * * *

 自分の車が余り人の目に晒され過ぎ、追跡されやすいことについて被害妄想的になってきた。それで、東海岸の方角に向けて走って行く途中(のソールトレークシティー)で、乗っていた車と交換に大体同じ位の値段の車を手に入れる。その後、ロッキー山脈に入ってからは、雪道走行の危険は高まったが、呼吸の方は楽になった。クリスマスの四日前に、ニューヨーク市に到着。グリニッジ・ヴィレッジに『身を隠す』ことにする。
 クリスマス・シーズンというのは、昔の記憶と昔馴染みのつき合いなどを蘇らすのに、うってつけの時期だ。一九七八年の元旦が来て、去っていった。驚くべき冒険の発端となった三年前のあの日を思い出す。空飛ぶ円盤に関連したあの出来事はもう随分昔のように思える。この一年位の体験も、記憶がどんどん薄れていく。
 自分本来の都会の居住環境に戻れたことを満喫している。間もなく様々なパートタイムの仕事をするという生活パターンに落ち着いたが、それも楽しい。グリニッジ・ヴィレッジの住人やニューヨーク大学のキャンパスに集まる人々とつき合い、あちこちの刺激のある場所や集会にも出るようになった。肉体の摂生を続ける一方で、瞑想と自分自身の頭の『整理』にも大分時間を割く。普通とはかなり違いかつ混乱した、あちこち移動するライフスタイルを余儀なくされてきた訳だが、それについてもじっくり考えたし、自分の様々な行動には何らかの建設的な目的や目標があるのか、あるとすればそれは何なのかを理解しようともした。ニューエイジのいろいろな教えを通して見ながら、様々な宇宙的影響も考慮して、断片を繋ぎあわせてみた。UFOの秘密と関連現象の研究も密かに始めたが、これは、同じテーマの連続講演会に触発されたことによる。
 しばらく前から、後ろを振り返って見るのをやめている。『暗黒の勢力』は遂に私を見失った、との想定からだ。そのため、追跡者がまた現れたのを知ったときはひどい痛烈なショックだった。一九七八年七月下旬のことだ。最初に私の目を引いたのは、数台の黒塗りの大型車だ。それがゆっくりと辺りを走っている。それから、手先らしき男が二人、一枚の写真を手に、コーヒーショップや店を片っ端から聞き回っているの見つけた。路上で商売をしている友人が手招きするので行ってみると、
 「奴等はあんたを捜しているぞ。逃げろ!」
 と囁く。
 もう疑う余地はない。また逃げ出さなければならなくなった。だが、今度はどこへ行けばいいんだ?
 荷物をまとめるのに五分しかかからない。本と書類を積んだ大きな山の中のあるものに目が引きつけられた。UFOに関する会議がオハイオ州デイトンで開催されるという案内だ。これに勝る考えはなさそうだ。そこに行ってみよう。サイキアンの宇宙からの友人にひょっとしたら出会える可能性も高い。そうしたら、『反対勢力』の殺し屋達を永久にまく方法を教えてもらえるかもしれない。それにしても、ニューヨークの片隅に得た居心地の良い場所から、強制的に退去させられるのは本当に頭にくる。残りの人生を逃げ回って過ごすようなことはしたくない。それでは、無法者ジェシー・ジェームズの現代版みたいになってしまう。

 * * *

 オハイオ州のデイトンに着く。七月二十八日のタ方だ。一九七八年UFO会議はコンベンション・センターで開催されるが、そこから数キロ離れたホテルにチェックインする。会議は翌日始まる予定だ。万が一のことを考え、脱出ルートを確保するために車をホテルの駐車場に入れる。そうしてからタクシーをつかまえ、コンベンション・センター地域に行き、コンタクトする相手がいるかどうか嗅ぎ廻る。周辺のホテルのロビーやレストランやバーを一周りし、人々の顔をじっくり調べた。
 何かが『起こっている』のは確実だ。公共の場所という場所は見張られているようだ。戦略上重要な地点にはそれぞれ、陰鬱な男が往来を観察している。その夜遅く、一台の公共事業用の感じのヴァンが路上に囲いをしたマンホールに止まるのに気がついた。作業員達が物を降ろしている間、一人がヴァンの中の薄暗がりで三脚にのせたビデオカメラをいじっている。カメラはコンベション・センターの正面入り□に真っ直ぐ向けられている。どうやら『反対勢力』がUFO会議参加者を一人残らずモニターするようだ。まだ見つけてはいないが、他にも監視場所がいろいろある可能性が高い。
 こういう状況では、会議関係者の誰かに接触しようとするチャンスもない。がっかりして、今夜はこれで切り上げ、ホテルに戻ることにする。道路を横切りタクシーの列に向かおうとしたところ、黒塗りの車体の長い車がライトもつけずに突然現れ、ハイスピードで私に襲いかかってきた。何とか飛び避けたのも束の間、今度は威嚇するような黒い姿が三つ、足早に迫ってくる。
 体の向きを変え、走って逃げる。数ブロック走って暫くたつと、やっと奴等を振りきることができた。その後も、かなり気分が高まってしまい、その夜はぐっすり眠れず、夜中に何度も目を覚ましてしまう。とうとう夜明けを待たずにデイトンを離れることにした。ひどく意気消沈してしまった。一体どうしたら宇宙の友人達にコンタクトして助けを求めたらいいのだろうか。その時、恰かも合図でもあったかのように、ドン・ミゲルの顔が出し抜けに頭に飛び込んできた。そこで、車をニューメキシコの方角に向けたのだ。

 * * *

 一九七八年八月二日(円盤に乗り冒険旅行に出発した日からまさに三年後)の夕暮れには、もうアコマの南の『改良された』泥道を跳ねながら車を走らせていた。何とかドン・ミゲルの小屋に辿り着く。奇跡としか言いようがないが、車を壊さずにだ。
 道路の近くに、古い軽トラックが青林檎色をした小型車の脇に止まっている。ドン・ミゲルが小屋の入り口に立ち、手を振りながら私に向かって叫んでいる。
 「早く来ーい! タ食が冷めちゃうぞ」。
 「ど、どうして……?」
 私は吃ってしまった。
 「言っといたろうが。あんたが来るときは何時でも居るって。さあ、食事だ!」
 後で分かったのだが、ドン・ミゲルは、私が逃げ回っている間に経験した『いろいろな苦しい試練』を、かなり良く知っていた。
 「そもそも、野生馬みたいなあんたの性格が原因で(こんなことになってしまったんだ」
 と、ドン・ミゲルが話し始める。
 「だから、堪え忍ぶんだな。とにかく、もう少しの辛抱だ。宇宙の友人達が何とかあんたを救出しようと一生懸命やっているが、ここしばらくは、一番疑われそうにない地域に『身を隠し』た方がいいな。また北に戻って、ニューヨーク州かヴァーモント州に行くのがいい。あそこには素晴らしいリゾート村や森林や山脈がたくさんある。大都会は避けたほうが良いぞ。一か所に腰を落ち着けないようにな。厄介なことに巻き込まれたら、このニューヨークの番号に電話するといい。受信人払いのときは、この暗号名を使うんだ」
 こう言いながら、紙切れを一枚よこし、書いてあることを覚えたら燃してしまえというので、すぐ指示に従う。
 「それから、車と身分証明書はここに置いていったほうがいい」
 と、彼が話を続ける。
 「外にある緑の小型車を使いな。グローブボックスに、あんたの新しい名前が書いてある身分証明書一式を入れておいたよ。甥っ子に、あんたのポンコツ車でワイオミング州の友達のところに行かせる。その車が後をつけられているなら、それであんたは安全なわけだ。甥っ子に少しばかし厄介な問題が降りかかっても、甥っ子にとっては丁度良い訓練になるさ」。
 ドン・ミゲルの好意に甘えて、それから二日間一緒に過ごした。その二晩とも、彼が殺風景な荒涼とした土地に『いつもの散歩』をしに行くのにつきあった。時々俄雨が降ったが、それも彼には気にならないようだ。時には、私には分からない理由で彼が選んだ地点で、無言のまま座っていたこともある。また、時折、何かの麻薬を吸い、霊魂や霊気について話し合いもした。こうして夜を過ごした後は、小屋の下の地下室みたいな場所で半日寝るのであった。
 この心温かな老インディアンを相手の逗留のお蔭もあって、私はリラックスし、落ち着きを増し、強くなった。暇ごいを告げるときが来た。私は以前の『向こう見ずな』自分に完全に戻り、刺激と冒険をもっと心待ちにするようになっていた。このようにあっという間に自分自身が一変したのには本当に驚愕した。

 * * *

 晩秋になるまで、ニューヨーク州ウッドストック・アーツ・コミュニティのはずれに住んでいるアーチストの振りをしていた。いろいろな芸術作品や手工芸品に道楽半分に手を出しては楽しんでいるうちに、熱心な初心者になった。その間、生活のために次から次と半端仕事を見つけてはこなしていく。
 その後、十二月初旬から三月初旬にかけては、ニューヨーク州北部のレイクプラシッドのスキーリゾートで働く仕事が見つかった。何基かのスキートーを只で利用する方法をうまく見つけ、勤務外の時間に大いにスキーを楽しんだ。スキー技術が飛躍的に上達したので、あるスキーヤーなどは本物のプロと勘違いするほどだった。そのスキーヤーが、ある日私に近づいてきてこう言う。
 「貴方のスキーのスタィルを見ていると、元チャンピオンのスタイルを思い出しますよ。あの『スパイダー』何とかと言う名前の人ですよ。そのチャンピオンは、ソ連のスパイ裏切り事件と関係していて、可哀想に三年前にコロラド州のアスペンで非業の死を遂げてしまいましたがね。まったく惜しいことです!」
 その男の言葉には悪い気もしないではなかったが、同時に不安感も生まれた。後になって、その男が大型高級セダンに乗せられ、連れ去られるのを見かけた。車にはソ連大使館の小旗が翻っていた。ソ連大使館の車の後には普通のセダンがぴったりとついていて、その車のずっと後には別のセダンが尾行している。KGBの護衛車とCIAの尾行車か? 私も、急に不安になり落ち着かなくなってしまった。
 近くの公衆電話に走っていき、ドン・ミゲルがくれた緊急電話番号に受信人払いで電話する。交換台を通す音やカチッカチッという音やブザーの音が何度か聞こえてから、暗号名の確認があり、やっと男の声で、話をするように、との指示がある。
 起こった事件を話し終えると、電話に出た男がこう言う。
 「どうやら、ソ連が『現地習熟』旅行と予備的な保安調査をやってたようですな。ソ連チームが一九八○年冬期五輸に参加するのでね。後からついていった車は、CIAのいつもの尾行ですよ。特に貴方を狙っているということではないと思いますが、何ならこうしたほうがよろしいかも……」
 「まったくおっしゃる通りだよ!」
 と、相手が終わらぬうちに口を挟み、こう言ってやった。
 「情勢が悪くならないうちに、私はここを出ますからね!」

 * * *

 ほとんど止まらずにマイアミビーチまで走った。そこから、北に向けて大西洋岸に沿って戻って行く。何かしら臨時雇いの仕事とまあまあの宿泊施設は必ず確保しながらだ。いろいろなリゾート地でウォータースキーをたっぷりと楽しんだし、ヴァージニアビーチではエドガー・ケイシー財団の辺りの人々と刺激になる議論もたくさんした。楽しい生活で、幸福感を感じた。
 七月下旬に、部屋のドアの下に暗号のメモが挟んであるのを見つけた。「ニューヨークのオフィスに電話乞う」と書いてある。宇宙の友人達からだ。疑いの余地はない。私をモニターしていたに違いない。そうでなければ、私の居所は分からないはずだ。公衆電話から電話すると、私を取り巻く状況の最新情報を教えてくれた。
 「貴方がレイクプラシッドを発ってすぐに、いろいろなところの『秘密工作員』のせいで町は大騒ぎになってしまいましたよ。奴等は貴方を本当に捕まえたがっているに違いありません。そこである考えが浮かんだんですが。貴方の円盤物語を全部本に書いたらどうでしょう。それで、貴方を追っかけている人達の全般的な好奇心を満足させてやるんです。後は私達に任せてもらえれば、圧力を徐々に少なくしていけます。先ず、西側で恩赦を取り付けるため、アメリカ合衆国や国連の高官とのコネを使うんです」
 「それは素晴らしいな!! でも、ひとつ問題がある。私は物を書くのが嫌いでね。手紙を書くのも駄目なくらいですから」
 「それなら、書き手を見つけて、その人に細かいことをみんな話してから、書いてもらうというのはどうです?」
 「私の方は構いませんよ。こっちの正体がバレなければね」
 「そう、この仕事にうってつけの人がいますよ」
 と、実体のない声が言う。
 「カナダのトロントにいる男で、貴方と一緒に宇宙の旅に行ってきた巡礼仲間でね、オスカーという人です。彼はあの忘れられない冒険のことを自分で本にして出版するところなんです。彼の気を引いて、貴方と協力させることができると思いますが」
 「結構。いつ、どこで彼と会うんですか?」
 と、訊いてから、すぐにこう付け加えた。
 「もちろん、私の正体を明かさないでですよ!」
 「うまくいけば数週間以内に会えると思います。場所は、アメリカ合衆国の北東部のどこかにしますから、すぐにナイアガラ瀑布の辺りに引っ越して、どこかに場所を借りて下さい。電話のあるところがいいですね。そのほうが連絡しやすいですから」
 ということで、指示通りにする。引っ越しをして、廊下に共同電話がある安い下宿屋を見つける。その地域は絵のように美しく、観光名所も沢山ある。日課の長い散歩をするにも、大変楽しめるところだ。八月中旬になると、私の連絡係の男が電話をしてきて、すぐに会合があるから準備をするように、と伝えてきた。場所はエリー湖沿いのダンケルクの近くの『安全な家』だ。その所有者は、地球外生物とのコンタクトのパイオニアで論争の的となっている故ジョージ・アダムスキーの友人であり崇拝者でもある。
 その夜大分遅くなってから、会合がキャンセルになった。『安全な家』の近所は『反対勢カ』がうようよしていたのだ。電話連絡してきた男が、最初の目的地ではなく、インディアナ州のチェスターフィールドヘ車で行き、そこから連絡を取って再度指示を仰ぐようように、と言う。チェスターフィールドかその近くで、地元の心霊主義者のキャンプで開かれている形而上学セミナーを隠れ簑に使って、会合を行おうというのだ。
 町に到着し風変わりなモテルにチェックインしてから、連絡相手に電話するのを遅らせた。電話をする代わりに、まずキャンプ・チェスターフィールドの状況を『探り』に出かけた。キャンプで友好的な宇宙人ではないかと思える二人の人物をすぐに見つけ、その一人を近くのキャフェテリアで何とか捕まえた。筋肉質で堂々とした雰囲気がある黒人だ。ヒンズー教の何かのシンボルのついた三角形の金色のペンダントをしている。
 さりげなく『やあ』と言ってから、文句も前置きも言わずにおおっぴらに喋りだした。
「ニューヨークのオフィスは、未だ貴方から連絡がないので心配してます。でも今回は、疑い深い貴方の方がまったく正しかったですね。なぜか『反対勢力』が『安全な電話回線』を盗聴していたんですよ。ここでの会合予定も知られてますし、この地域一帯は大変危険です。特に、黒塗りの大型車が多すぎる葬列には注意して下さい。さあ、逃げて、捕まらないようにして下さい」。
 彼の忠告に従い、町の商業地区の方に向かってさっさと歩いていく。大通りを横断していると、黒い霊枢車に危うくひかれそうになった。葬列がかなりのスピードを出してつっ走ってきたのだ。黒塗りのキャデラックが一台、道路端で停車し、黒服の男が二人降り、私を追いかけてきた。急いで横道に走り込み、狭い裏通りや建物の裏の空地などを走り抜け続け、やっと二人を振り切る。隠れ簑が吹っ飛んでしまったのは確かだ。それからの一時間というものは、MIBの探索隊に見つからないようにするのが大変だった。やっとのことで密かに抜け出し、車に辿り着く。宇宙の友人達に会おうとしたり、辺りをうろうろしていたりしたら、大変に危ないと分かっていたので、ここを出ることにした。行き先を決めずにだ。

 * * *

 今度は本当に遠くへ、太平洋岸の北西部まで真っ直ぐに行った。オレゴン州で、見晴らし台のある地点に立ち寄り足を伸ばしていると、数人のUFO観測家のグループに出会う。双眼鏡をフッド山の山頂に向けている。こんなところで愚図愚図してはいられない!
 数日後、ワシントン州のヤキマ・インディアン居留地を通り抜けていると、一年前にニューメキシコで捨てた自分の古い車をガソリンスタンドで見かけた。ドン・ミゲルの甥が、何らかの理由であのオンボロ車を捨てることにしたのだろう。車にはワイオミング州のナンバープレイトが付いており、老婦人が運転席に座っている。まったく、世界は小さい。
 ワシントン州に落ち着くことにした。トゥートルという小さな町の近くだ。町から三キロ程離れた小さな小屋に住み、厳しいが大変に満足の行く生活をした。セントヘレンズ山の陰にあるべーカー・キャンプで、貯蔵庫の事務員や大型製材ノコのオペレーター、さらには伐採搬出基地の人夫の仕事をした。いろいろな樵達と仲良くなった。ある時などは、近くにあるロングヴューの『盛り場を遊び回って』いて、樵達と一緒に取っ組み合いの喧嘩に巻き込まれたこともある。
 八十歳を越えた老人とも仲良くなった。ハリーという名だ。猫を十六匹も飼っているのを自慢にしている。鱒釣りに役立つこつをいくつか教えてくれた。セントヘレンズ山のスピリット湖側の麓に四十年も住んでいるという。
 ハリーと最後に会ったのは十二月三十日だ。日曜日の夕方、お喋りを楽しもうと思い家に行くと、彼は外に出ていて、低く垂れ込めた不規則な雲を、どうも気に入らない、という感じで眺めていた。その時、コウモリ型の黒い物体が空をさっと飛んで行くのが見え、二人とも驚いてしまった。おそらく、敵牲UFOだろう。
 「そうさな、もう何年もこの辺りにいるよ」
 と、ハリーが目撃について語る。
 「じゃが、最近では、いろんな種類のUFOの往来が多すぎるわい。非常に奇妙なことがこの山の内側で起きているに違いない。地下から気味の悪いゴロゴロというような音が聞こえてきたりするんじゃ。厄介なこと、それも大きなやつがきっと起きる。あんたみたいないい若者がいるところじゃないよ、ここは」
 「ありがとう、じいさん。私も嫌な感じがするんですよ」
 悪魔機が上空を飛んで行くのを見たので、私も落ち着かなくなっていた。私と車が見つけられてしまった可能性が大きい。
 「間もなく、もっと静かなところに行こうと思ってます」
 と、付け加える。
 「じいさんは、どうするんですか?」
 老人は穏やかな笑みを浮かべてこう言う。
 「儂はここに残る。何が起ころうともな。儂とこの山は一体なんじゃ。たくさんの人がここに登ってきて、儂達を見に来る。どんな人達がここにやって来るか、それを知ったら驚くぞ。時には、黒服を着た変な奴等もやって来て、いろいろ訊いていく。二日程前にも奴等が来ていたよ。どうも人捜しをまたやっているようじゃった。あんたに関係があるとは思わんが、この辺りに余り長く居ない方が良いようだぞ」
 翌日、地元のディーラーに車を『二束三文』で売り払い、銀行預金を全額引き出した。タ方になると、大体は徒歩で、この一帯にいる数人の友人を訪ねて回った。やはり大晦日だけあって、あちらこちらに人が集まり、パーティーが行われている。だが、私は騒ぐ気分にはなれず、長居はしない。心の中では大きな悲しみの気持ちを抱いて、既に『さよなら』を言っていた。間もなくこの地域一帯がセントヘレンズ山の噴火で完全に破壊されてしまうことを、心の奥深いところで感じてもいたかのように……。

 * * *

 一九八0年元旦の朝九時頃、私は出発した。着替えと本を二冊ダッフルバッグに詰め、お金と身分証明書類はベルト状の物に入れてシャツの下に身に着けた。小屋のドアを引っ張ってパタンと閉め、歩き始める。湿った季節はずれの暖かい天気だ。三キロ程離れたトゥートルという小さな町に向かって、ぬかるんだハイウエイ五百四号線を歩く。ヒッチハイクで町に出て、それからどこかの幹線道路に出るつもりだ。
 車が後ろから近づいてくる音が聞こえる。大きな黒塗りの車だ。真っ直ぐこっちに向かってくる。なんとか横に飛んで除ける間に、車は滑って停車し、四つの黒い影を降ろした。黒塗りの車がもう一台うなりながら走ってきて、少し手前で止まる。新手の四人の黒服が飛び出し私に向かってくる。八人の男と二人の運転手にきれいに挟まれてしまった。運転手は車の側にいて、嫌な感じのバズーカ砲みたいな兵器を私に向けている。
 はっと気がついた。悲しい。残念だ。私にとって道路はここで終わりなのだ。チャンスは無いことは分かってはいたが、それでも、闘って逃げてみよう、と心に誓う。バッグをMIBの一グループに投げつけ、腕と脚を目にも止まらぬ速さで激しく動かしながら、残りのMIBに飛びかかる。立て続けに二人を倒し、残った二人もノックアウトさせようとした時だ。鋭い命令が遠い方に止まっていた車から発せられた。それを合図に、敵は一人残らず火線の外に急いで飛び出す。バズーカ砲みたいなエネルギー兵器が、二基同時に私に向かって発射される。
 その瞬間、微かに青っぼい色をしたプラスチックみたいな管が、私を囲むように突然現れた。というより、上から私の周囲に落ちてきたのだ。放射された目も眩むようなエネルギーは、透明かと見間違えてしまうこの保護管に当たり、跳ね返され、飛散し、無力になってしまう。それと同時に、私の体が目に見えない牽引ビームの力で引っ張り上げられるのを感じる。MIB達は、上昇していく私に向かってエネルギー兵器を発射し続ける。だが、私の体は急速に浮かび、上昇し、ちらちら光る半物質化した大型空飛ぶ円盤の底の円窓を通っていく。蜂の巣模様の床が足元で固体化する。円盤の底部の中だ。およそ十八メートル下の地面が、どんどん落ち込み、遠のき始め、散開しているMIBも黒塗りの大型車もあっという間に小さくなった。
 頭の上から、聞き覚えのある男性の声が聞こえてくる。
 「上の船橋に昇ってらっしゃい」
 見上げると、直径約一・ニメートルの円窓みたいなレンズが天井に嵌っている。保護管のフォース・フィールドと牽引ビームを発生させる装置の一部であることは明らかだ。側面に目を向けると、壁に梯子段がある。そこを昇り、人間が一人通り抜けられる大きさの開口部を通っていくと、そこは多数の乗客を輸送するのに使う中間デッキになっている。誰も座っていない座席がおよそ百基、背と背を合わせた形で、車輪のスポークのように放射線状の列に並んでいる。(円形状の壁の代わりに)『ぐるりと取り巻く』窓がついていて、完壁な展望が得られる。観光に、あるいは、動きが取れなくなった人々の救出に、最適のデザインだ。
 梯子段を最後まで昇ると、円盤の実際の『船橋』に出る。上部デックだ。そこでは、友人のアーガスとドン・ミゲルの二人が、複雑そうな二重システムの各種制御装置をてきぱきと操作している。そして、交互に、言葉は乱暴だが本当に優しく情熱的に歓迎をしてくれた。心温まる歓迎で、涙してしまった。こうして、三年間にわたった逃亡生活は、ハッピーエンディングを迎えた……。

 * * * * *

エピローグ

 次々と回避飛行をして、追跡してくる二機の『悪魔機』を振りきり、私を乗せた円盤は着陸した。カナディアン・ロッキー山脈のルイーズ湖=バンフ地域の『小さな窓』を通過し、方向転換をして、悪視界の中、ヴァーミリオン峠の近くの舗装をして無い道路から離れた場所に降り立つ。時刻は正午少し前。ドン・ミゲルは円盤に残りすぐに離陸する。アーガスと私は、待機している車に徒歩で向かう。車は優雅な銀色のスポーツカーで、カリフォルニア州のナンバープレートをつけている。
 スキーウエアを身にまとった女性の姿が運転席を離れ、両腕を伸ばしながら私を迎える。大きな喜びで心が弾む。アンジェラだ。数年前の宇宙の旅で、私が恋に落ちた相手の宇宙人女性だ! 懐かしい思いで胸が一杯になりながら、お互いに目を見つめる。昔の炎が依然として燃えているのが分かる。以前より強く燃えているのかもしれない。
 「新年おめでとう、お二人さん」
 大きくニヤッと笑いながらアーガスが言い、後ろの座席に乗り込み、私がアンジェラの隣の助手席に座れるようにしてくれる。
 数キロ走り、人里離れたスキー用別荘に着く。宇宙の友人達が臨時基地として使っていた場所だ。そこで、有り合わせのもので作った昼食を一緒に取ってから、アーガスが出かける。馬力のあるトレイルバイクをガレージから引っ張り出し、『辺りを偵察』しに猛スピードで飛び出していく。翌朝の遅い朝食には戻る、と一言う。アーガスが出かけたのは、身を守るために辺りを警戒するためなのか、それとも私達『恋人同士』が二人きりで過ごせる時間をたっぷり持てるようにするためだったのだろうか。何はともあれ、アンジェラと私は与えられた時間を非常に効率よく使った。ほとんど抱き合ったままだったのだ。天国だった。至福の波が後から後から押し寄せてきては私を洗い流し、逃げ回っていた年月で蓄積された緊張感が解けて消えていく。
 翌朝、約束通りアーガスが戻ってきた。疲れは全然見えず、ドン・ミゲルを従えてきた。アーガスが大きな封筒を渡す。中身は、お金と新しい身分証明書類、それに私が偽名で使うクレジットカード数枚だ。さらに、私が使う偽名の人物の履歴を書いてあるタイプ打ちの説明書と、所持品も何点かある。
 朝食を腹一杯食べてから、私達はスポーツカーに乗り込みバンフに行く。目的は買い物で、大半は、私が着る新しい上品な衣類だ。買い物を終えて、『景観地』を少しドライブして回る。その日の仕上げは、ルイーズ湖岸のすばらしいスキーロッジでグルメのディナーだ。
 アーガスの話では、『上層部』の決定があって、私の身の安全がもはや確保できなくなったので、地球配属のサイキアンのティームの一員として留まった方が良い、との判断が下されたそうだ。さらに、後になって、地球の普通の生活に安全に戻れない場合は、『連盟宇宙艦隊』にずっと留まっても良いし、ノヴァ・テラのレセプション・センターで働いても良い、と言う。(ノヴァ・テラというのは、『近くにある』一時避難用惑星で、中間次元にあり、地球型の環境と施設を有し、余りにも危険な全地球的規模の災厄が起こった場合に多数の地球避難民を収容するためのものだ。)まず手始めに、私は(アンジェラと一緒に)サイキアン・ティームの活動の地上部分を手助けすることになった。他方、アーガス始め他のものは、近くの空飛ぶ円盤に『護衛として同乗』する。私達二人はゆっくりと東に向けて旅をし、それからカナダの東部とアメリカ合衆国北東部を、移動通信基地つまり特別改造のウィネベーゴ・モービルハウスに乗って担当することになった。私達は任務を遂行した。しかも、ゆったりと休暇中であるふりをして、楽しみながら仕事をした。一九八0年の後半になると、アンジェラと私は北東部担当の『世話人カップル』となり、その仕事は一九八三年から八四年にかけての寒い季節の現在でも続いている。公式には、私達はカップルとして、五大湖グリッド担当の在住コオーディネーターに任命されている。このグリッドは西半球で最も重要な次元間移行地域なのだ。ナイアガラ地域に本部を構えた私達二人が監督と指示を任されているのは、地球外宇宙交通、訪問者の割当、地域監視とモニタリング、並びに防衛・隠蔽対策だ。従って、二人はいつも忙しい。だが、お互いに満足しており、幸せでもある。
 『連盟』の宇宙艦隊司令部は、地球生まれの私がサイキアンの養子となり、彼らの『在住コオーディネーター』として五大湖グリッドを担当していることを大変に嬉しく思っている。以前の経歴と最近のさまざまな冒険のお陰で、私にはこの地域一帯を扱う力が十二分にある。戦略や後方支援にも対処できるし、命令に関する決断も素早く下せる。それだけでなく、各種の策略、ごまかし、防衛・戦闘局面にも対応できる。そもそも、彼らは似たような仕事を私のために考えていたのだが、政治的に対処するメサイアだとか、戦闘的に忙しく動き回る厄介者、さらには頭の回転が早い当意即妙な逃亡者として私が示した実績は、有能なコオーディネーターに対する彼らの期待や夢を、大幅に上回るものであったのだ。(時々思うのだが、彼らはずっと先の将来にはもっと高遠な任務に私を就かせようとしているのではなかろうか。それというのも、彼らは私を何らかの理解できない目標に向かって熱心に訓練し続けているし、その一方では私の分子構造を変えて、無理でない範囲内で私の寿命を最大限伸ばそうとしているからだ。)

 * * *

 以上で私の話は終わりだ。秘めていたことを喋って胸が軽くなった。とうとう話してしまったのだから、心の安らぎが感じられる −− 明日という日が何をもたらそうとも。

 了

 * * * * * * * * * * * * *

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