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宇宙の友人達 オスカー・マゴッチ氏の体験  


タカシ記

本山よろず屋本舗情報です。

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宇宙の友人達

オスカー・マゴッチ氏の体験

 「宇宙の友人達」シリーズ第三話はカナダ人オスカー・マゴッチ氏の話です。第一話のマイカの話は、マイカの人生をホログラフィーで見せられたものをマゴッチ氏が書いたもの。第二話は、バズ・アンドリュース氏(仮名)から聞いた話をマゴッチ氏が書いたものでした。第三話はマゴッチ氏自身の体験です。ここでは第五章から話を始めます。個人的判断でここからの方が話がおもしろいと思ったからです。第一章から第四章は、マゴッチ氏がUFOの目撃から徐々にUFOに近づいていく話です。気になる訪問者の為に、一応その目次を紹介します。
 第一章...「まず目撃」
 第二章...「都会での手掛り」
 第三章...「そして接触」
 第四章...「調査」

 

 これらは、「わが深宇宙探訪記(上)」星雲社 の抜粋です。ただ購入したくても、もう書店にないかもしれません。

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第五章...世界旅行

オスカー・マゴッチ氏、初めてUFOに乗る

第六章...深宇宙

第七章...宇宙旅行

第八章...異星

第九章...異星人使節

第十章...ゼロ点での逆転

第十一章...逆説領域

第十二章 超越


 第三話...オスカー・マゴッチ氏の体験

第五章 世界旅行

 第五章に述べられている一連の出来事が起きたのは1975年7月30日、同31日で、帰りの旅行は同年8月1日である。トロント、ニューヨーク、中東の上空を飛行し、シリアとヒマラヤの寺院に降り立ち、翌日はペルー、カリフォルニアに飛び、そしてオンタリオ州のハンツヴィルに戻る、という世界飛行である。

 ちょっとの間、タバコを一服して休みながら、テレパシーで円盤の「心」に向かって、円盤に乗りたい、乗る準備はできている、と念じてみた。自分はずっと監視されている、自分の一挙手一投足が評価されているのだ、と固く信じて疑わなかった、もっとも、例の球体は、何の動きも見せず、テレパシーの「沈黙」に包まれたままであった。一息入れた後、中に戻り、心待ちにじっと立って待った

 ・・・・・

 すると、ぞくぞくっと感動することが起こった。円盤が反応を示して、「動きだした」のだ。最初の時は恐怖の余り逃げ出してしまったが、その時とまったく同じように、天井の螺旋形のものが始動し、オレンジ色の輝きを増してきて、脈動を始めた。次に、中央部のシャフト内の流れが下に向かい、それと共に、球体そのものの内部の光のパターンが少し変化を始めた。離陸は間近い、と思った。
 そして、かすかなショックを感じさせながら、円盤は私を乗せて離陸した! 円盤は、地上約30メートルの高さで浮遊姿勢をとった。円窓から下の木の梢を見ると、その高度がわかる。驚いたことに、森林がはっきりと見える。下は、ほの暗い日中の光に照らされているかのようだ。ただ、何もかもがオレンジ色っぼく見える。おそらく、円窓の「ガラス」の内側の赤外線ヴァイザーが、作動したのだろう。それと一緒に、強力な増幅器も働いているに違いない。オレンジ色の弱い光が、円盤の外部から反射しただけでは、景色がこんなに明るく照らしだされるとは、考えられないからだ。
 円盤は、ゆっくりと高度を上げて浮遊した。内部の照明はかなり暗くなり、私は曲面のベンチの部分に腰をおろした。そこからは、床の円窓を通して下が見える。今は、地上300メートルくらいの高さだろうか。それでも、下界の様子がはっきりと見える。私の所有地にある庭小屋も展望デッキもよく見える。下界はそれこそ真っ暗やみに違いないのに。円窓に顔を近づけて下界の視野を広げようと体を乗り出した時、無意識に、中央部のシャフトの周囲にある手摺をつかんでしまった。すると、またまた驚いたことに、下界の景色に「ズーム・イン」するような感じだ! 手摺に触ったので、作動したに違いない。今や、思いのままにクローズアップで、いろいろなものが強力に拡大されて見える。これは実験してみてすぐ分かった。すてきだ、全くすてきだ! 道理で、円盤が暗闇の中でも私を見れたわけだ。しかも、かなり細かいところまで。
 私の座っているところから壁の円窓を通して、何マイルにもわたってオレンジ色がかった暗い景色が見える。灯りが点在して見える所は周辺の小さな人□密集地だ。だが、空自体はというと、地平線の上は真っ暗だ。天井のドームを通して上を見ると、広大な星空が暗闇に包まれている。オレンジ色をした幾つかのはぐれ雲を除いては暗闇だ。
 どの円窓から外を見ても視野は広角で、しかも円窓の視野の縁がお互いに重なり合っている。実際に、周囲全体が何物にも全く妨げられずに見ることができる。目を五つ持っていないので、同時に全部の円窓から外を見れないのが残念だ。あの球体なら、こんな芸当も、きっと楽々とやってのけるだろう。
 飛んでる円盤の中にいるなんて、身震いがするくらいに素晴らしい! 陸地の上空を飛行し始めたが、動きは大変に無理がなくスムーズで、しかも音もしない。室内温度と空気圧は、全く正常に感じられる。飛ぶのは非常に楽しい。今、ますます速いスピードで移動し始めたが、それすらも楽しい。何らかの重力補正装置が内蔵されているに違いない。急に加速しても鋭角に方向転換しても、影響は全くといって良いほど感じない。もちろん、前に見たような、円盤の物凄い曲芸飛行とは比べ物にならない。だが、それでも、私にとっては、どんなジェット機に乗った時よりも、何倍もスピードがあり、動きも激しい。当然のことながら、大いに楽しんだ!
 トロントの上空を飛んだ時、高度は3000メートルを優に越えていた。それから、鋭角に方向転換をして、静かに300メートルまで下降した。そうしてから、どこかの大きな交差点の上空でほんの少しの間浮遊した。奇妙なことだが、下界で誰かが私たちを見つけて興奮しているのを感じた。例の装置の力を借りた私の視力は、さっとズーム・インして、路上の女性を正確に捉えた。彼女の上向きになった顔は、非常にびっくりした表情を見せている。その顔は、心にしばしば浮かぶほど見慣れた顔に思えたが、それ以上詳しく見ることはできなかった。円盤がスピードを上げ、そこを離れて上昇したからである。腕時計を見た。無駄だ。動いていない。でも、午前1時半位だろう。
 偶然に「計器」盤を見やると、二組のオレンジ色の点の集団が速いスピードで変化しているのに気がついた。そうか!あれは速度計と高度計に違いない。大変に役立つものだ。だが、航行に使う地図はどこだ? 高密度のあの球体の内部の、明滅する光の何らかの配置の中に隠されているのかもしれない。よし、オレンジ色の目盛を試してやれ。一、二度しくじったが、「選択」視野を使って、大半のオレンジ色の明滅する光とパターンを何とか分離した。有ったぞ。思った通りだ。航空写真みたいなオレンジ色のかかった地図が、下界の地形を示している。そして、その地図の上を移動している明るいオレンジ色の光点がこの円盤の位置を示しているのだ。手摺を掴んで、地図上で、ズーム・インしてから今度はズーム・アウトして、大陸半分が見えるようにした。明るいオレンジ色の光点は、トロント地域の近くに留まっている。円盤の現在地を示しているのは明らかだ。
 地図でニューヨーク地域を見ながら、ちょっとそこに旅行できたらいいな、と束の間思った。と、その瞬間、オレンジ色の点線が円盤の現在地を示す印からするすると伸びて、トロントとニューヨークを結んだ。その点の数を数えてみると、10個有る。距離は600キロ余りだ。ほうー、私が心の中で思った飛行コースを、円盤は何て風変わりな方法で示してくれるんだろう。
 「有難う」
 親切な点線に向かって声を出さずに感謝した。小さな親切ということで球体が私に同調してくれたのか、それとも内蔵されている自動機能なのかは分からないが。
 「そこに行ってみたい」
 と、今度は大きな声で、付け加えてみた。
 すると、これはすごい、円盤は何て親切なんだ。それとも、今は自分が操縦しているのかな? 実は、円盤がニューヨークの方向にすぐ飛んでいったのだ。拡大地図の上で、位置を示す印の動きからそれが分かる。
 ニューヨークに着くのに10分もかからなかった。計器盤の点時計の表示で時間を計算したのだ。民間ジェット機のスピードの約5倍の速さだ。それでも、動きはほとんど感じられない。この速さは音速障壁を優に超えている。でも、なぜUFOはソニックブーム(超音速飛行による衝撃波)を起こさないのだろうか?
 一方、円窓を通して見る際には、「赤外線」方式のほかに、「正常の」光学方式も使えることが分かった。これは、そう思うだけでできるのだ。ニューヨークの町を遠くから見つけて、正常視野を使うことにした。ズーム・インしたりズーム・アウトしたりして、望みの画面を選ぶ。何とすばらしい景色だ! エンパイアー・ステート・ビルのてっぺんにいるよりもずっとワクワクするし、ずっといい。ブロードウエイを示す明りや、暗く見えるセントラル・パーク、42番通りの映画館街の赤々と燃えるような庇などが見える。路上は、かなり遅い時間だというのに、まだ往来が激しい。
 高度6000メートルではないかと思えるあたりで浮遊した。おそらく見つからないようにするのと、民間航空機の路線を避けるためであろう。十分に下界の景色を堪能してから、子供のような満足感を覚えて、体を後ろに寄りかからせた。今度はどうしよう? ニューヨークの後は、どこにいこう? ピラミッドかな? そうだ、それがいい。ピラミッドにしよう。私は熱狂してきた。でも、どうしてこれを思い付いたのかな、とも考えていた。自分の思い付きとして思い付くことが、自分の心に密かに入ってきたのか、それとも、理由は分からないが、この思い付きは本当に自分の心から生まれたのか? ええい、どうでもいいや! 時間はたっぷりある。それに、今は休暇中だ。ピラミッドを見に行ってもいいだろう。
 言うまでもなく、自分の気持ちをテレパシーで伝えるのに成功した。沢山の点からなるオレンジ色の線がニューヨークからカイロまでするすると伸びて、私が思った旅路が視覚的に投影されたのだ。
 「そう、そう」
 と、心の中で頷いた。
 「それが、次の飛行目的地だ。なぜそこに行くのか、私には全く分からないが、とにかく、どうしても、そこに行こう」
 そして、円盤は私の意に応えてくれた! 円盤はスピードを上げてニューヨークを離れ、上昇した。大西洋を越えて東へと向かった。エジプトまで3時間位かかるだろう。
30分もすると、夜が明けだした。私は、もっぱら正常視野を使った。色が深いスミレ色から、パステル・ブルーに変わり、さらに薄いピンク色に変わっていく、色彩の大パレードに驚嘆した。このうえもなく荘厳で、魂を捉えて離さない光景だ。詩を思わせる絵画のようなあの夜明けに、目を十分楽しませることができたろうが、残念ながら、昇ってくる太陽でいろいろな色が霧のような白色と青色に変わっていく。
 私は立ち上がって体を伸ぱし、気分転換のためちょっと休憩することにした。食べられる物をむしゃむしゃと食べ、立方体の物を数個飲み、一服した・・・

 その後、上空の何もない広大な空の広がりと、眼下の殆ど白っぼい霞とを見ているうちに、ベンチに座りながら眠り込んでしまったに違いない。はっとして目を覚ますと、エジプトの砂漠の上空を浮遊しているのに気がついた。10キロも離れていないところに町が見える。カイロだろう。円盤の真下には、かの大ピラミッドが見える。高度6000メートルから見るとかなり小さい。
 現地時間では正午に違いない。地上には陰が全然見えない。円盤の垂直シャフトは、上空の太陽と眼下のピラミッドの頂点とを、正確に一直線に結ぶ軸のようになっている。
 太陽光線はシャフトを真っ直ぐに射ている。だが、同時に、シャフトの中では何かエネルギーの流れが起きているようだ。それも、上向きにだ! 間違いない。青っぼく輝く、ある種の流れが、脈動しながら光を放っている天井の螺旋形の物に吸収されていく。その流れをグイグイと吸い込んで何処かに入れているかのようだ。でも、何処へ? エネルギー貯蔵庫がきっとあるはずだ。壁の中か、床の中かもしれない。目を下に移すと、床の蜂の巣のパターンも光り輝いている。だが、ほんの微かにだ。ひょっとしたら、これが蓄電池かもしれない。
 どんな力を円盤は吸い上げているのだろうか? それにしても、なぜピラミッドからなのだろう? 死んだ石の集まりではないか。また、太陽光線が必要なのは、もしかしたら、ある種の分極効果のためなのだろうか?
 この不思議な充電は15分程も続いたであろうか。そして、終わった。円盤が「満杯」になったか、太陽の角度が変わって「充電」を終了せざるをえなくなったのか、そのどちらかの理由だろう。とにかく、円盤はその位置から離れて、南の方向に進路を取った。さあ、今度は何処へ行くのか? だが、新たな考えは何も浮かんでこない。いっそのこと、円盤が行きたいところに連れて行ってもらうか。どうせ、ピラミッドのところに来たのも、円盤の考えではないか、という気が強くしてならなかったのだ。
 球体を覗いたが、進路は示されていない。ナイル渓谷の上空を本当にゆっくりと飛行中だ。この地を観光旅行しているのか、あるいは、円盤の次の「仕事の約束」まで時間潰しをしているのだろうか。いずれにせよ、私の方は構わない。別に、急いでいる訳でもないし、エジプトを見たいといつも思っていたのだから。円窓を通して、エジプトの有名な古代の遺跡を沢山見ることができた。それも、良い角度から、事細かに見れた。人口密集地も、スエズ運河地帯の軍事施設さえも垣間見ることができた。
 でも不思議だ。なぜ即応態勢をいつも取っている空軍に未だに探知されず、誰何もされないのだろう? エジプトの上空には少なくとも2時間はいたのだから、探知されるのは避けられないはずなのに。円盤に遮蔽装置があって、探知されない方法を選んでいたとしたら、話は別だが。
 私たちは進路を変え、「聖地」に向かった。途中で、地中海や、砂漠、人の住んでいる地域が数か所、都市が一つか二つ、ちらっと見えた。数分間、死海の近くの上空で止まり浮遊した。次は、その「近くの」小さな町の上空でも、また、何処かの大きな湖の近くの町の上空でも止まって浮遊した。拡大視野を使ってみたが、良く分からない。たぶんベツレヘムとナザレだったのかもしれない。あの高度から見ると、聖書の地の町は非常によく似ていて区別がつかない。
 それから、不毛の砂漠地域に行き、そして、沢山丘がある地域の、岩がごつごつした丘の上に降りていった。何処かの未鋪装道路の近くである。完全に着陸して、ただ待っていた。理由は私には分からない。10分位経つと、荒廃した、岩があちこちに散らばっている風景が、ぎらぎら輝く灼熱の日光でからからに干上がっているのを見ているだけで、退屈してきた。そこで、立ち上がって足を伸ばし、気分転換のため外に出てみることにした。
 ドア開放器を作動させ、タラップを降りて行き、生まれて初めて聖書の地を踏んだ。灼熱の熱気は、大槌でぶん殴られる感じだ。全く信じられない。燃え盛っている炉の中にいるかのようだ。ここに取り残されたら1時間もしないうちに死んでしまうだろう。ある馬鹿げた考えが頭をよぎった。仮に、円盤が私をここに置き去りにしたいと思い、そして、愚かにもこの私はのこのこと自分で外に出て来た、としたらどうだろう? 脱水状態で死ぬのは全くひどい死に方だろうな。ハゲワシのことは言うに及ぱずだ。
 着陸した小さな高台の周辺を歩いてみた。1、2分で戻るつもりだ。土煙が舞っているのが私の目を引いた。未舗装道路の遠くの方、10キロばかり先のところだ。無鉄砲なドライバーが車を飛ばしているのだろう。車が近づくのを待って、UFOが着陸しているのを見たらどんな反応を示すか見てみることにした。そう、確かに、反応があったことはあった。が、驚くほど滅多に見られない反応であった。埃の中から出てきたのは、何と、一列縦隊に並んだ戦車だったのだ。それが、扇のように展開して、円弧状となり、およそ1キロ先で止まった。
 次には、砲撃してきた! 気が触れているに違いない、と思ううちにも、最初の数発の砲弾が、距離が若干足らないところで爆発している。円盤に走って戻ろうとした刹那、第2の砲弾の雨が空中で爆発した。私のすぐ前、10メートルと離れていないところでだ! 押し殺された爆風が聞こえてくる。大地が少し揺れる。だが、ショック波は無い。普通だったら、あんな近くで砲弾が爆発したら、殺されているところだが、私は無傷だ。ただ、一瞬目が見えなくなっただけだ。
 とにかく、私は手をこまねいてただ突っ立ていた訳では無い。半狂乱になって、円盤の中に急いで駆け込んだ。中も焼けるほどに暑かったが、ドアが背後で閉まると、温度は驚くほど早く正常になった。本当に素晴らしいエアコン装置だ。それに、言うまでも無いことだが、砲弾が当たるのを防ぐのに、円盤が使っているに違いない「力の場」システムもまた素晴らしい。相当な保護の傘に違いない。というよりも、保護ドームと言った方が良いのか。砲弾は周囲のあらゆるところで爆発しているのだから、「力の場」も、どの方向からも円盤を守れる盾を提供しなければならないからだ。
 砲撃が止んだ。周囲には、厚い埃がうず巻いているのしか見えない。円盤は離陸し、垂直におよそ300メートルまで上昇した。何台かの戦車のハッチが開き、乗組員が頭を出して、私たちを見上げているのが見える。その一つにズーム・インしてみる。油に汚れた顔が、こんなことは信じられない、と言う非常に仰天した表情をしているので、私は急に笑い出さずにはいられなかった。
 その後、上昇を続け高度を上げた。高度3000メートル位のところで、新たなハンターのグループに遭遇した。ジェット迎撃機の3機編隊だ。私たちの片側をすごい勢いで通り過ぎ、180度の方向転換をすると、またこちらに向かって来る。その瞬間、円盤は急に、目が眩むような垂直上昇を始めた。私は息も継げないくらいになり、床に押し潰されそうになった。先頭の迎撃機から二筋の煙がこちらに向かって突進して来るのがちらっと見える。凄いスピードで上昇すると、二筋の煙もカープして追って来る。誘導ミサイルだ! そのことに気が付くと、私は恐怖に襲われた。迎撃機は、私たちの下をさっと通り過ぎる。次に見えたのは、青白い光線が、円盤から二度短く噴射されるところだ。そして、二基のミサイルは私たちから遠く離れたところで、誰も傷つかないところで、撃破されたのだ。
 私たちは、パイロットにまた見つからないうちに、スピードを上げて遠ざかり、上昇して彼らの視界の外に出た。私は安堵感を覚えたが、吐き気も催していた。私の肉体は、このようなスピードや曲芸飛行に耐えられないようだ。円盤は、私に対する影響を少し和らげようと、補償の場を使ってはいたのだが。
 このように、いろいろなことがアッという間に起きたので、私は大分ぼーっとしてしまっていた。それに、戦車や戦闘機に攻撃されるのには慣れていない。そういえば、UF0で飛ぶのにも慣れていないのだ。だが、少なくとも、今にして思えぱ、なぜ中東に来たのかその理由が分かる。円盤は、その防御システムを見せたかったのだ。それも、かなり劇的な形で。そのために、わざと挑発して攻撃させたのだ。戦車も戦闘機もアラプのものの可能性が高いと思った。アラブなら、領土内で奇妙なものが動いていたら、それが何であれ、攻撃してくるのも当然の話だ。
 あの「力の場」には、凄じいまでに強い印象を受けた。ドームのような場が外側に少なくとも20メートル投射されたが、それは信じられないほど大量のエネルギーを使ったに違いない。それに、あの「レーザービーム」だか何だか、ミサイルを爆破させたものも。あの光線の青っぽい色は、ピラミッドの上で円盤が充電したエネルギーの流れの色と極似しているように思える。

  * * * * *

 明らかに中東での用件を終えた円盤は、何処か別のところへと向かった。例の球体を覗き込むと、予定進路が何とか見えた。アジアの奥深いところを指している。ヒマラヤ山脈のど真ん中だ。チベットに向かっている! 目的地は、その地域の全般的な地形から推測した。地図には国境も示されていないし、名称も書き込まれていないのだ。
 一体全体、何のためにチベットくんだりまで行くのか? 朧げながらも、チベットは中華人民共和国の中にあることを思い出した。でも、あんなひどい環境の、凍った山脈では、中国人はおろか誰にも出会いはしないだろう。こんなことを考えながらも、飛行はずーっと楽しく、私の目は、円窓、特に床の円窓に張り付いたままだった。地形は確かにごつごつしていて、起伏が多い。砂漠や不毛の山並みだが、それこそキャラバン隊や軍隊が古代から使ってきたに違いない道も見える。
 肥沃な低地をしぱらく横切ると、間もなく、山頂が雪で覆われたヒマラヤ山脈の山並みに入った。人間が住んでいる兆候はだんだんと少なくなって、ついにはそれも消えてしまった。飛行高度は、非常に高い峰々からそれほど上空ではない。太陽は、背後にかなり落ちていて、陰は眼下の渓谷をすでに暗くしている。
 その時、円盤は浮遊しながら止まった。下には、これといって注目に値するものは何も見えない。ただ、ごつごつした山腹が続いていて、至る所に雪がたくさん見えるだけだ。太陽は、地平線に没しようとしている。そこで、私たちは降下を始め、薄暗い黄昏に包まれて着陸した。峰の線より遥か下のほうである。
 明らかに、着陸したところは、見上げるような山腹の湾曲部をなしている岩棚だった。300メートルも離れたところにもごつごつとした山が大きく不気味に見える。その山頂の一部は雲に隠れている。前を見ると、疲なしの谷だ。まったく人里を離れたところだ。
 時が経っていく。外は、刻々と暗さを増している。何を待っているのだろう? その答は間もなく分かった。湾曲部の向こう側から、奇妙な行列が目に入ってきた。松明を掲げた多分10人ぐらいの人間の姿が一列縦隊になって、真っ直ぐこちらに向かって来る。彼らは毛皮の冬服を着ている。
 それから、大変驚くことが起きた! 行列が、数メートル離れた地点で止まり、儀仗兵のように並ぶと、円盤がドアを開け、タラップを降ろしたのだ!
 松明を持っていない人影が、こちらに歩いてきた。出入り口に頭を突っ込み、毛皮の衣類の束を私の足元に向かって投げてよこした。チベット僧のようだ。思い直してみると残りの者もやはりチベット僧のように見える。彼は、衣類を身につけてから自分についてこい、と動作で示している。もう、どうでもいいや! 私は捕虜になるのか? それとも、ここは異星人の墓地なのか? あるいは、何なのだろう?
 言うまでもなく、ここに着陸したことも、あのような出迎えを受けたことも、すべて予定されていたことだったのだ。こうなったら、指示に従うしかない。そこで、毛皮の衣類を着、帽子を被り、ブーツも履いた。体内でゾクゾクッとする興奮の気持ちが徐々に涌き上がってくるのが感じられる。これは、第一級の、信じられないほどの冒険だ。UFOの秘密について、坊さんたちが知っていることを全部喋らせてしまうのに、またとない絶好の機会だ。
 ついて来い、と身振りで示す坊さんの後に続いて、急速冷凍機のように感じられる外へと足を踏み出した。上空では風が凄じいうなり声を上げ、渓谷を半分消してしまっているごつごつした雲の上に更に雲を運んでいる。何てひどいところだ。体を引き裂かんぱかりの突風が吹き、松明が吹き消されそうになる。そうした中を、岩棚に沿ってのろのろと歩き始めた。カーブを周りながら、後ろを振り返ると、円盤はだだじっと鎮座している。微かに光っているが、タラップはしまわれ、ドアも閉じている・・・
 曲がりくねった、ますます細くなる道を数分歩くと、トンネルに入った。そこを歩いていくと、山の内部の、松明に照らされた大きな部屋に出る。地下にある、チベット僧院か何かの中にいる感じだ。動作で促されて、厚手の衣類を脱いで、灰色の上っ張りを身につけた。そこで、チベット人らしい老僧の出迎えを受けた。黄色い僧衣を着た老僧は、仰々しい挨拶を動作でしたが、一言も発しない。老僧は、先に立って石の階段を上り、古めかしいドアを通って、もうひとつの部屋へと私を案内してくれた。
 この部屋は、蟷燭の灯で明るくした会議室みたいだ。12人の老僧が異なった色の僧衣を着て、木の床の上に結跡朕座で座っている。彼らは半円形を作っていて、その前には高座がある。一つの椅子には非常に高齢の老僧が座っている。彼の反対側の椅子は空席だ。不思議なことに、彼らの中には、東洋人のほかに、白人も黒人も大分いる。普通のチベット僧院の光景とは趣を異にしている。私は、空席になっている椅子に座らされた。誘導してきた老僧は私に、黙ったままでいるように、と動作で示した。
 私は誰かが話し出すのを待っていた。が、沈黙は破られない。ただ、時折、読経のようなはっきりとしないつぶやきが聞こえるだけだ。誰も私に特に注意を払ってはいないが、それでも、つぶさに観察されているという不気味な感じがしてならない。

 この沈黙のもてなしは、何時間も続いた。やっと、例の最長老格の老僧が立ち上がり、温かな微笑みを私に向けて頷いた。そして、他の老僧を従えて、出ていってしまった。私一人だけが残された。一時間位であったろうか。奇妙なことだが、苛々も感じず、安らかな気分だ。浜辺で何もしないでただ時間を過ごしているかの感じである。それに、待つしかすることが無いのも分かってたし、別に急ぐ用事もないし・・・
 若い僧が入ってきて、私の近くにお盆を置いた。その上には、茶とパンが幾つかと干しイチジクがのっていた。話をしようとしたが、その若い僧はただ頭を振るだけだ。仕方なく諦めて、出されたものを食べた。その後で、最初に私を案内してくれた老僧が戻ってきて、今度は迷路のような廊下を先導していく。着いたところは、天井がアーチ形の大広間だ。そこは、少なくとも100人の、ありとあらゆる人種や体色の僧で一杯だ。僧たちは薄い金色の僧衣を着ている。一人残らず、木の床に結跡蹉座で座っている。周囲には大量の蟻燭や線香が燃えていて、広間の空気は息も出来ないほどだ。
 私はまた高座に座らされた。二つ空いている椅子のひとつにだ。暫くすると、ゴングが鳴り響き、例の「会議室」で会った長老格の老僧が儀式張って歩いて入ってきて、もう一つの椅子に座を占めた。この老僧は、最もチベット人らしく無い恰好の僧で一杯のこのチベット僧院の、いわゆるラマ教の高僧なのだろう。この僧たちはどうやってここに来たのだろう? こんな異常な環境で、何をしているのだろうか?
 読経が始まり、僧院がその声で満たされる。100の喉から出てくる厳粛なまでにゆっくりとしたリズムに、時折、ガラガラとなる楽器とゴングの音がはさまる。こうした読経が極めて心地よい感じで、何時間も続いた。暫くすると、自分の体が空中に浮遊するのが感じられ、心の中が、喜びに満ちたようにうずうずとした感覚に、完全に洗われる気がした。その後では、有り得ないことすら目撃した。軽度の幻覚によるものかもしれない。例のラマ教の高僧の体がゆっくりと空中に浮き、支えも無いと思われるのに、空中に留まっている。その間、僧院の壁の一つがだんだんと消え去って、オレンジ色っぼい色の脈動する円盤が見える。それが、広々とした渓谷の上を浮遊している・・・
 私は寒けを感じた。突然気が付いたのだが、私は外にいた。渓谷を見渡す小さなテラスに立っていたのだ。円盤は空中に浮いている。どうやって、いつ外に出たのかは分からないが、毛皮の防寒着を着ていないので、凍えるほど寒い。例のラマ教の高僧が私の傍らに立っている。私と同じように軽装だが、まったく寒さを感じていないようだ。高僧は、両手を挙げて、雪に覆われた頂きに顔を向けている。その頂が、日の出の最初の光に触られて、眩しいばかりのオレンジ色にパッと燃えあがった。ラマ僧の側に控えた僧が、物凄く長い木製のホルンを吹く。その不思議な響きが、大分長い間こだまし続ける。
 ラマ教の高僧の身振りに促され、彼の後に続いて小さなドアを通っていくと、そこは天井がアーチ形をしたさっきの僧院だった。ガランとして、きれいだ。そこで、高僧は、あたかも祝福するかのように私の頭に一寸触れ、そして出ていった。また、一人になった。このチベットでの不可思議な出来事を少しでも理解しようとした。言葉による意思の疎通がまったく無いのは何故だろう。ここでは、行動のほうが、一千語の言葉よりも大事なのかもしれない。そして、何か素晴らしいことが私に起こったに違いない。私は今までに感じたことが無いほど強くまた活力に満ちているのを感じる。自分の存在全体が高度の状態へと変貌を遂げたのだ。言葉で表現出来ない状態へと。
 案内役の老僧が入ってきて、私を最初の部屋に誘導する。そこで、老僧はまた防寒着を私に着させた。一群のこれまた防寒着を着た僧達が、私を、曲がりくねった道を通って、湾曲した岩棚に連れていってくれた。そこに円盤が待っていた。私に付き添ってタラップを昇って来た一人の僧が、そこで待って、私から毛皮の防寒着を受け取る。それから、僧達は一列縦隊になって去っていった。後ろをちらっと振り向くことさえしなかった、
 円盤は離陸すると、峰々より高く、早朝の光の中へと上昇していった。眼下には、僧院の形跡はまったく無く、何かの入り口を示すものさえも無い・・・

 * * * * *

 球体の投写像によると、今度は南米に向かっている。西海岸のペルーと思われる。円盤の新たな任務だ。これも円盤なりの理由による任務で、私にとっては、これも多分謎になるのだろう。
 南米までおよそ5時間かかったが、長いとは感じず、退屈もしない。視界が雲に遮られていない時は必ず、眼下を流れるアジアやアフリカの風景を見続けた。まるで旅行映画みたいだ。「赤外線」ヴァイザーを使わざるを得なくなった。下界はますます暗くなった。日の出と昼間の時間帯を離れ、物凄いスピードで夜の時間帯に入ったからだ。円盤は航行するのに「目に見えるもの」には頼らないのだろう。おそらく、それに頼るのは、最初の方向設定だけではないのか。円盤は、違う標識に頼っているのだ。「照準を合わせる」ことが出来る、特定の特性を放射している標識だ。ピラミッドや僧院に行く時に使ったのと同じである。
 南米の内陸部上空で降下して、高度1500メートル位で飛行した。すると、スピードも落ちたのに気づいた。どうやら、円盤が「固体化」しているときの胴体は、飛行機とまったく同様に、空気抵抗による影響を受けるようだ。機動性も同じに違いない。円盤の機動性は、人間である私の肉体の耐久度を考慮に入れて、更に落ちた。「エーテル状態」ではなく「固体犬態」で飛行している理由も私にあるに違いない。おそらく、私の肉体は「他の次元の」旅行形態に適していないのだろう。少なくとも、今のところは。
 南米に接近中に、太陽が西の水平線から上がってきた。今日は確かに私にとって奇妙な日である。何しろ、太陽の行動が「おかしい」のだから。アマゾン川流域の熱帯雨林は、地上の物が何も見えないほどに見通しが悪い。山脈に来ると、円盤は高度をどんどん上げていく。植物に覆われた山腹を飛び越え、更に、何も生えていない、人を寄せつけないような尾根を幾つか越えて、沈みゆく太陽の中へと飛んでいく。
 高い台地に湖が見える。チチカカ湖と思われる。古代のインカ文明の名残りも数か所見える。マッチョ・ピク城の遺跡が目に飛び込んでくる。だが、円盤は飛行を続けていく。今は、暗くなっていく山々の上空およそ1500メートルで旋回飛行中だ。まるで、着陸許可を待っている飛行機のようだ。
 今や、7回目の旋回飛行に入った。下界の風景は完全に暗闇に包まれている。その時、びっくりすることが起きた。物凄い緑の稲妻が、ずっと下から、円盤を襲ってきたのだ。緑の稲妻? それも、下から? 奇妙極まりない。その瞬間、円盤の中央部のシャフトが輝きだした。緑色がかった青っぼいエネルギーが上向きに勢いよく流れている。天井の螺旋形の物も、同じスピードでますます輝きを増していく。
 今度は、地上の別の方向から、また緑の稲妻が襲ってきた。更にまた、稲妻が光る。これも違う方向からだ。数分の間に、合計7回、それぞれが違う場所からで、間隔もばらばらで、強度も異なる。そして、稲妻は終わった。
 円盤は緑色っぼい露に包まれた。所々、高電圧の放電みたいに孤光が続いている。見たところ、中央のシャフトはこの霧を吸いこみ、天井の螺旋形の物に送っている。露はそこで変質されて、円盤のバッテリーに貯蔵されるのだ。この処理が、少なくとも10分間、緑色の露が全部消え去るまで、続いた。
 外は、何もかも暗く見え、正常に戻ったようだ。遠くからだと、何か電気の嵐が通過したように見えたに違いない。だが、これは、円盤が故意に起こしたか、あるいは、下から意図的に円盤に向けられたのに違いない。もし後者だとしたら、誰が、あるいは、何がそうしたのだろうか?
 この種のエネルギーを蓄えるために此処に来たのだ、と私は確信した。日没直後に到着したことも、暫く旋回飛行したことも、エネルギー「爆撃」を引き起こすのに大事な要因だったのだろう。それは別にしても、この出来事全体が、私にとっては新たな不可思議な謎である。それでなくても、もう既に、山ほどの謎を抱えているのに。
 円盤は、どうやら任務を完了したとみえ、飛行を再開した。球体の進路投写像から推測すると、今度は米国の西海岸地域、カリフォルニア北部の何処か、に向かっている。飛行時間はおよそ2時間だろう。今度は、ずっと自分の家の近くになる。
 カリフォルニアに近づくと、暗闇の西の水平線の所がますます明るくなり、そして、太陽が戻ってきた! 日没情景の逆回しだ。これは、複数の時聞帯を速いスピードで移動しているからにほかならない。地球を周回した初期の宇宙飛行士達は、同じような奇妙な光景を何度も目にしたに違いない。目的地に近づくと、太陽は新たに沈み始め、今度は戻ってこない。間もなく、暗闇がまた訪れた。
 円盤は飛行を止め降下し、およそ1000メートルの高度で浮遊した。周囲全体が比較的平らな風景に一つだけ聳え立つ山の頂の上空である。暗闇の中でも見えるようにスイッチを入れた「赤外線」ヴァイザーを通してみると、少なくともそう見える。シャシュタ山か、あるいは、その数百キロ辺りの地域に一つだけ立っている山に違いない。これは、ずつと後になつて、球体のディスプレィの記憶を辿りながら、実際の地図で場所を調べた結果である。
 さて、螺旋形の物がオレンジ色っぼく光り、中央部のシャフトと一緒に脈動を始めた。円盤は下にいる誰かか何かに信号を送っている、という気がする。私に対して、以前に、何度か信号を送ってきた時と同じだ。あたかもそれが合図かのように、焚き火が三つ、山腹に一つずつ灯った。それぞれ少なくとも1キロ位離れていて、三角形の頂点を形作っている。これは決して偶然ではない。これは信号だ。円盤の信号に対して応えているのだ。
 拡大視野で見ると、それぞれの焚き火の周りに人間の姿が幾つか見える。殆どが何か聖職者のような口ープを着ているが、それも、他の細かい点も確かではない。円盤が少し動いて、三角形の中心の真上に移動して、山の頂と一直線に並んだからだ。円盤はオレンジ色の輝きから緑色っぼい青に色を変え、そのために視野がぼやけた。
 今度は、目も眩むような明るい緑色っぼい青色のエネルギーの流れが、シャフトを勢いよく下向きに流れ出した。外から見たら、直径1メートルの反射ビームかエネルギーの流れが、シャシュタ山に当って、「充電している」と見えたに違いない。信じられないほど強力なエネルギーの流れは30秒ほど続いてから、ピタッと止まった。
 1、2分して目が回復すると、外は何もかも正常に戻っていた。見るべき物も大してない。ただ、例の3つの焚き火が夜の帳の中に見えるだけだ・・・
 この任務も完了した円盤は、また飛行を始めた。球体のディスプレイはトロントの北の地域を指している。
 1時間ほどすると、夜のトロントのCNタワーが見えた。間もなく、ハンツヴィル地域上空となり、私の所有地近くの森に向かって降下。そして、着陸した。前日の真夜中に離陸した地点と同じところだ。円盤はドアを開け、タラップを降ろした。言うまでもなく、私に降りるようにと促しているのだ。
 こうして、私の最初のUFO旅行は終わった。大変に素晴らしく、記憶すべき旅行だ。ある意味では、精神が高揚されもした。UFOの秘密のほんの小さな一部だが、それを私は今や「知っている」のだから。とはいえ、実質的にはまだ何も知ってやしない。だが、そのうちにもっと分かるし、今回の旅行は、これから間もなく起こってくる沢山のことのほんのさわりに過ぎないのだ、と思った。
 別れ際にそんなことを考えながら、私は円盤から歩み出ていった。マスコカの夜は涼しくて暗かった。故郷の地に戻ったのだ。いろいろと遠くの場所や、不思議な出来事の数々を経験した後で、故郷に戻り、気分は爽快だ。だが、同時に、冒険が終わってしまって、残念な気もする。
 切り開かれた土地の端で立ち止まり、円盤が離陸して、地上10メートル位まで上昇するのを見ていた。そこで、円盤はゆっくりとこの次元から消え去っていった。それを見ながら、これはヒントだ、と自分の希望も入れて解釈した。たぶん、次に乗る時は、あの別の次元に行けるのではないか・・・

 * * * * *

 

第六章...深宇宙

 第六章に述べられている一連の出来事が起きたのは、次の日時である。1975年8月3日午後11時45分、円盤着陸。同4日午前零時10分、円盤がピッカリング原子力発電所(オンタリオ水カ発電公社)の上空を浮遊。同4日午前1時、著者の最初の次元間移動。場所は、オンタリオ湖上空、ナイアガラ・オン・ザ・レイクとオンタリオ州ミシソーガの中間点(「著者のノートから」の地図を参照)。他の次元では2週間だが、地球での経過時間は何と3日間であった! 旅行から戻ったのは8月7日午前1時半。以上の日時は、第六章から第十二章の終わりまでが対象となる。

 最初のUFO旅行から戻った夜は、眠りたいという気に全然ならなかった。丸一日の長旅で疲れているのだが目が冴えて仕方がない。円盤が地球の次元から徐々に消え去ってしまってから、私は何時だろうと考えながら、ゆっくりと自分の所有地に歩いて戻った。
 車の中に入ってラジオをつけた。間もなく、深夜放送の局が時刻を知らせているのをとらえることができた。午前2時45分だ。すると、およそ27時間起きていたことになる。腕時計がまた動いているのに気がついたので、時間を合わせた。それで不思議に思った。何でこんなに時間が気になるのだろうか、と。多かれ少なかれ、同じことが、いろいろのことを知りたがる自分の性格についても言える。スピード、高度、位置。円盤の機能の本質は何なのか。その推進力、各種のエネルギー、そして最後に、といっても大事なことだが、円盤の全般的な目的と動機は何なのか。
 言い換えれば、何でも知りたいのだ。説明が、少なくとも、何らかの言葉による意思の疎通が、欲しくてたまらないのだ。これは、人間だから至極当然のことだろう。しかし、言語に頼らない意志疎通の領域とか、円盤が金属ではできていないことや、手動ではない「操作」、更には、次元間旅行という人間的では無い様態等々の異質な事柄をすべて十分に理解できるかどうか、私には自信が無い。
 とはいっても、この段々と明らかになってくるドラマで、私にはこれから果たす役割があるのではないかとも思える。そして、もし、自分の凡庸さを超越してもっと高いレベルの存在に到達できれば、何とかそのことが分かってくるのではないか。おそらく、チベットに連れていかれたのも、一つにはそれが目的だったのだろう。私のESP能力を刺激して、円盤と十分に意志疎通できるレベルまで私を高めようとしたのだろうか? でも、私が望んでいる次元間旅行の前提条件はどうなのだろう? 次元間旅行には、私の振動率や肉体の化学的性質をいろいろと大幅に変える必要があるのは確かだ。その面も、ひょっとしたらチベットでやってしまったのかもしれない。
 今現在自分に分かっているのは、時機が来れば、そして、自分の方で準傭が出来ていれば、もっと見さしてくれて理解が深まるかもしれないということだけだ・・・

 * * * * *

 次の日は一日中、ぼやけた状態だった。非常に暑い日で、日中は浜辺で過ごし、夜は焚き火の側で、体験したことを考えていた。
 ゆっくりと、「正常な状態」に戻ってきている。次の日は土曜日で、その夜は少し落ち着かず、監視をするのを止めにして、リゾート・ホテルに行き、はめを外して一晩中踊り明かした。
 そして、日曜日が来た。1975年8月3日である。寛いで、静かな気分だ。十分休養も取った。すると、心の中で何かはっきりしない興奮をまた感じた。あたかも「宇宙からの呼び声」かのようだ。だが、これは、新たなUF0の冒険に出る準備が出来ていたということと、行きたい気持ちがあったことによるものに過ぎないと思われる・・・
 夕暮れになると、私は例の「黄昏の地点」で静かに空想に耽っていた。期待感が心の中で刻々と強くなっていく。用意は出来ている。どういう訳か、時機も到来した、という予感もあった。
 午後10時になった。自分の土地に戻って、食事を済ませ、道具を片付けた。暫くここには戻らないだろう、と分かっていた。腕時計と車のキーを安全な場所に置いていくことにした。それから、「誰のものでも無い土地」に歩いて行き、例の切り開かれた場所近くの切り株に腰を下ろした。
 私は待った。心の中には確信に近いものがあった。美しい夜だ。気分も爽快だ。心の準備も最高に整っている。
 多分20分位経った時だろうか。突然、円盤がたった今切り開かれた土地に到着した、という気がした。暗闇の中に目を運ぶと、1分位経ってから、知覚出来ないほどの光が現われてきた。徐々に光が強くなってくる!
 私は、意気揚々とした気分になった。円盤がやって来るという私の勘の正しさが証明されたのだ。ESPで分かったに違いない! 初心者にしては、上出来ではないか。
 円盤は完全に「物質化」し、降下して岩のごつごつした地面に降り立った。そして、ドアが開き、タラップが降りてきた。私は立ち上がり、胸をワクワクさせながら搭乗した。今度は本当に興奮する冒険を期待しながら・・・
 内部を見回すと、何も変わっていない。ドアが背後で閉まる。天井の螺旋形の物の光はゆっくりと脈動している。どうやら、離陸準備が出来ているようだ。私にも依存は無い。私は上機嫌だった。新たに劇的な旅に出る用意も出来ている。
 円盤は離陸すると垂直に上昇した。私は床の円窓の側に座った。その間、円盤は上昇し続け、どんどん高度を上げて、6000メートル位に達した。下界の点在する灯りはもう見えなくなり、近くの町々の光の集合体が見えるだけだ。
 円盤は水平飛行に移り、間もなくトロント上空に来た。それから、高度約2000メートルまで降下した。ピッカリング地域の町のすぐ東側である。その時だ。別の円盤を目撃したのは。私の乗っている円盤とかなり似ている。近くの原子力発電所の方向に降りて行く。発電所の上空約200メートルで止まった。そこに数分間浮遊していたが、その間、円盤の光は脈動し、その色をオレンジ、ピンク、赤、そしてまたオレンジと変え続けていた。それから、上方へ飛び上がると同時に消え始め・::・そして、非物質化してしまった。
 その瞬間、ドアの側の入口台の方角から、微かにはじける音が聞こえてきた。高さ60センチの輝く立方体が何処からともなく魔法のように出現し、私の目の下でちょうど完全に固体化するところだった。明らかに、入口台は「伝送」装置の機能も持っているのだ。輝く立方体のところに行ってみると、それは継ぎ目もなく閉じられた、半透明の運送用の箱で、中には折り畳まれた衣服等が入っている。この衣服は何のためだろう? 例の円盤が「送って」きたのだろうか?
 一方、私の乗っている円盤は、原子力発冒所上空の、例の円盤が浮遊していた場所に移動した。中央部のシャフトが光り始めた。ピンク色っぼい流動体が勢いよく上向きに流れる。天井の螺旋も同じスピードで輝きを増している。一見すると、原子力発電所の遮蔽された放射線からのエネルギーで充電しているようだ。
 「エネルギーの再注入」を終えると、そこを飛び去って、オンタリオ湖の上に出た。トロントの遠くの灯りはまだ良く見える。そこで、また浮遊姿勢を取った。びっくりしたことに、例の運送用の箱が徐々に消えていき、中の物が入口台の上にこぼれ出した。何て賢い、品物の包装の解き方だ。また、その入口台に行って、出てきた軽い物体を拾い上げ、一つ一つ調べた。人間用の字宙服のようだ。おそらく私のためだろう。半透明のヘルメットがある。バックル式のベルトも、短いプーツ一足も揃っている。それに、体にぴったり合うズポンとハイネックの上着もある。ズポンと上着は、伸縮性のある銀白色の布地で出来ていて、外側は鱗状でメタリックの感触だが、内側は柔らかな裏地がついている。
 この装備一式は、明らかに私が身に着けるためのものだ。これは、これから本当の宇宙へと旅立つ兆候ではなかろうか。ひょっとしたら、別の次元へさえ行くのかも知れない! 装備一式をトイレに持っていき、そこで裸になって着替えた。それから、脱いだ衣類を置く場所を捜したが、衝動的に、入口台の上にきれいに畳んで置いてみた。大変興味をそそられて見ていると、「プラスチック」の容器が衣類の周りに物質化してきて、完全に包んでしまった。すると、「ポン」と音がして、中身の詰まった立方体は消えてしまった!
 宇宙服は私の体にぴったりだ。奇妙な青みがかかった灰色のプーツも足に合う。ヘルメットも、軽量で被りやすい。気分は上々だし、気持ちも寛いでいる。ファッション・ショーみたいに誇らしげに、気取って歩いてみた。宇宙服を身に着けてから、自分が大きく変化しているのに気が付いた。驚くほど強く、活力に満ち、陽気で、幸せな気持ちになり、頭も冴えてき始めたのだ。何て見事な変わりようだ! これは一つには、著しいエネルギーが太陽叢から湧き上がって、それが体全体に広がっていることによるのだろう。このエネルギーは、腰と胸の間に巻いているベルト、特にバックルから出ているに違いない。違う種類のエネルギー、もっと捉え難い種類のエネルギー、がヘルメットの額の辺りから出ている。そのせいで、頭が涼しく、はっきりとしているのが感じられる。
 ベルトとヘルメットは、私の精神と肉体の各種の力を増幅するためだと確信した。チベットヘ行ったのも、全体的な増幅処置の不可欠な一環だったのだ。ことによると、私の肉体の化学的性質の調節は、すでに終わっているのかもかもしれない。そうすると、次元間旅行は間もなくと思われる。ベルトの「増幅装置」は私の分子構造を変えて、肉体の移動が出来るようにするためだし、ヘルメットの「増幅装置」は私の知覚及び精神機能を向上させて、理解力を増進させるためなのだ。

 増幅装置を身に着けた私はすでに、以前よりずっと良く「見え」、理解出来るようになっている。見るものは何もかも、以前は気が付かなかった細部と色彩が、ずっとはっきりとまた豊かに見える。それが特に当てはまるのは、球体を覗いた時だ。色のついた光のパターンの膨大な組み合わせが、一目見ただけで、突然に、全部取り込めるのだ。そして、パターンが象徴的に何を表わしているのかが、直感的に「分かって」しまった。一部の印は地理的参照点あるいは空間的参照点を表わしているに過ぎず、それらは、航行用の「自動誘導用シグナル」である別のグループの印と一緒に解読すべきものであった。こうした「自動誘導用」の印は、様々な種類と強度を持った純粋な力の源である。中には、精神的なものが出ているのを示しているのもある。例えぱ、チベットの僧院のような深遠な場所は紫色を示しているし、中東地域の敵意を示す濁った赤茶色もある。ペルーのある場所からは鮮明な黄色っぼい緑色が出ている。人口大密集地からは、雑多な色調が見られる。例えぱ、病院のある場所からは淡い緑色の靄が出ているし、教会からはパステル調の青色の靄が、また、犬学からは淡黄色の靄が出ている。もちろん、こうした基本的な色の濃淡には、大きく異なるパターンや強さがあることは言うまでもない。
 以上のことを、私は比較的短時間で推定した。前回の旅行で訪れた遠隔地を、トロントの特徴的な場所の細部拡大画面と比較してみたのだ。地理のディスプレイは大雑把なものだが、トロントの主要な場所は良く知っている。例えば、大学の近くには病院団地があるし、その周辺には教会が集まっている、というように。
 ヘルメットの助けがあるので、推論が素早く出来る。部分的には、多分、霊感による推測の可能性もあるし、あるいは、円盤からのテレパシーによる伝達に過ぎない可能性すらある。だが、その時点では、いろいろと新しい事実が分かり続ける限りは、どうして分かるのかはどうでもよかった。
 ある考えが頭をさっとよぎった。もし、場所がその特徴を示すものを発しているなら、人間についても同じことが言えるのではないか。何と言っても、人間の活動が、様々な場所を特徴づけている精神的な場を生み出しているのだから。これは真理に違いない、とすぐに悟った。そうでなければ、他にどうやって円盤は、無数にいる中から、それも非常に遠くから、一人の人間を見つけて特定出来るのか? 円盤はきっと、そのような探知手段を持っているに違いない。
 間違いない。球体が円盤の感覚装置なのだ。決定を実行したり、複雑な環境諸要因を示したりもするが。だが、こうした目に見えることはおそらく、円盤が持っている膨大な内部知識のほんのささやかな一部分に過ぎないのだろう。こうしたディスプレイは、あくまでも乗客やパイロットの便宜上置いてあるだけで、読み方を知っている者がいれば読んでもらうため、というだけなのだ。更に、もし方法さえ見つけれぱ、円盤が持っている知識をもっと、あるいは、そのすべてさえも、知ることも可能だ、という気もした。
 いま私には、その知識全部が蓄えられている場所が分かる。円盤の頭脳がある場所だ。以前に計器盤と勘違いした二つの物、それが実際には、円盤の「頭脳」の二葉(左右両半球)、あるいは、それと同じ働きをするコンピュータが納まっている場所なのだ。
 自分の頭が、複数のレベルで同時に、楽にしかも素早くく回転するのにはまったくたまげてしまう。好奇心から、でたらめの四桁の数字と別の四桁の数字の掛け算を暗算でやってみた。楽に出来る。しかも、掛け算の細かい部分もすべて、答も、心の中で「見る」ことさえ出来る。次に、長い間忘れていた対数値と数学の公式を思い出そうとしてみた。すると、明瞭な正答の洪水がわっと押し寄せてきた。疑門の余地はない。自分の想起力は素晴らしく向上している。
 自分の知らぬ間に、他のどんな能力が向上したのだろうか、あるいは、変化したのだろうか、と思った。おそらく、想像つかないほどの、自分一人の力では考えられないほどの変化が起きているに違いない。だが、時機が来ればもっと分かるようになるさ、という確信があった。というのも、円盤に関するかぎり、私がここにいるには十分な理由がなければならないからだ。ということで、今のところはこれで納得して、次に何かが起きるのをじっと待った。別の次元への旅行のようなことが起きるのを・・・
 正に、その瞬間、トロントの灯りがゆっくりと薄れ始めた。ほんの一瞬、自分の体のいろいろな部分がちくちくと痛む感じだ。自分の素手を見ると、視野が少し揺れる。レントゲン・カメラで見ているように、自分の両手が透けて見えるようだ。だが、それもつかの間のことで、すぐに両手は普通の状態に戻った。だが、トロントの町は完全に消えてしまっている! それどころか、オンタリオ湖沿いの陸地も全部消えてしまっていて、円盤と私は深宇宙にいるではないか! 深宇宙のどこかを漂っている。異質の宇宙の、信じられないほど星が密集している場の「近く」に浮かんでいるのだ。
 別の円窓からは、ハッと息を飲むような壮観な星雲が遠くに見える。間違いない。本当に、別の次元にいるのだ。地球という惑星も見慣れた星空も、ここには存在していない。
 円盤内部を見回しても、基本的には何も変化していない。ただ、何もかもが前と比べて驚くほど活気を増して、色彩も豊かになっているようだ。そうか、振動率が高くなると、こういう効果が感覚に出てくるのか。だが、円盤内部の物は、自分も含めて、何もかも固体のままだ。何かもっと手掛かりが得られないかと思い、球体を覗き込んだが、何の手掛かりも得られない。だが、興味あることを発見した。白い光点は、私達の太陽系の惑星を示しているが、もう一組、微かではあるが、「惑星群」を示している印が見える。拡大しても、光のシャボン玉のように見える。地球を含めた太陽系の各惑星に対応する「泡」のような惑星が、太陽の反対側にあるのだ! こうした「泡」の印は何のためだろう? 更に別の次元に、私達の太陽系の各惑星に対応する工ーテル体の星が存在しているのか?
 実は、今いる次元は、球体のクリーム色っぼい黄色の印で表わされている。このことを推論するのは簡単だった。この異次元の高密度の星々に面しているあの壮観な星雲と、地球の相対的な位置、から推論したのだ。
 それから一、二分すると、トロントの灯りがゆっくりとまた見えてきた。地球の次元に戻ったのだ。今度は、あの異宇宙が存在「しなくなった」。このように、私は次元間移動を初体験した。だが、実際には何処へも行かなかった。というのは、円盤は以前と同じ場所を依然として浮遊し続けているからだ。嬉しくて有頂天になっていることと方向感覚を失った感じがあることを除いては、自分には実質的な変化はなかった。
 さて、今度は実際に何処かへ向かって飛行を始めた。地球の次元内で、トロントを離れたのだ。球体のディスプレイによると、バハマ諸島海域の大西洋を目指している。何か海底に沈んでいる宝物を狙っているのか、それとも失われたアトランティスそれ自体が目的なのか? あるいは、ひょっとしたら、今回の旅行は、バミューダ三角海域のいわゆる「窓の空間」と関係があるのかも?
 海岸線を越えると、円盤は高度を下げ、海面から約2000メートルの高度を飛び始めた。夜明け直前の時間で、暗過ぎはしないが、周囲が細部まで見えるほどには明るくもない。灰色をした靄の中を飛行しているのだ。
 出し抜けに、何もかもが劇的に変化をした。上空の空が、まるで巨大なオレンジ色をした螺旋のように、奇妙に輝き始めた。次の瞬間、円盤はその輝きに向かって吸い上げられた。オレンジ・ブルーの色をした靄の渦巻きに飲み込まれて吸い上げられていく。渦巻きは悪夢のようだ。ぬーっと現われてくるような巨大な物が一杯詰まっていて、それが青白い影や半分姿を現わした亡霊みたいに見える。あの世のようなぞっとする感じがあり、変化の動きが速くて、捕らえどころがなく、なにもはっきりとした物が見てとれない。
 それから数分間経ったと思われるころ、私を乗せた円盤は、星がさん然と輝く暗黒の深宇宙に飛び出していた。下のほうには地球がはっきりと見える。何千キロは離れているだろう。円盤は物凄いスピードであの幽界のような渦巻きの中を通ってきたに違いない。こんなに遠い距離をあんなに短時間で来たのだから。それとも、「窓」の空間を不可思議な力で吸い込まれて通過してきたのだろうか?
 地球の夜側には暗闇しか見えない。ただ、地球の曲面の地平線上に細い三日月が、明るく輝き始めた。多分、太陽が昇り始めたからだろう。深宇宙の背景はビロードのような黒色で、星は非常に明るく輝いていて、手を伸ばせば届きそうだ。とてつもなく壮大な眺めだ。私にとって本当にドラマチックな瞬間である。地球という惑星をこのように見るのは初めてだし、地球次元の深宇宙に自分の身を置くのも初めての経験である。
 別の円窓を覗くと、全く新しい物体を見つけた。400メートル位離れたところを浮遊している。すばらしい、ジャンボ・サイズの空飛ぶ円盤だ。おそらく私達を待っているのだろう! 少なくとも、幅が30メートル、高さは多分12メートルはある。円盤型で、上には巨大なドームがついており、いろいろな色をした無数の光が明滅しているのが半透明の胴体を通して見える。何か航空母艦のような母船に違いない。
 一方、地球の外観が徐々に劇的な変化をしていき、ほぼ全体が消えてしまった。それとともに、母船の姿も消えてしまった。だが、依然としてそこに存在はしているのだ。透明な形で実態のない幽霊みたいに。明らかに、円盤と私は、次元間移動の宙づりになった中間状態にいるのであった。
 しかし、私と私が乗っている円盤はしっかりとした固体のままだ。別の、完全に目に見えるようになった、大きな惑星もそうである。それは、眩しい「異次元の」太陽の光に照らされて、明るい青緑色に輝いている。他の二つの次元に挟まれた、この新しい中間次元は、私にとって大変大きな驚きであった。
 この間、私の円盤は、ゆっくりと幽霊母船に向かって漂い続けている。それどころか、母船の壁を通り抜けているのだ。実際、母船の頑丈な壁を突き抜けて壁の反対側に出て、そこで止まった。そうすると、母船は私達の周囲で徐々に固体化した。明らかに円盤は、地球の、そして、今や私達を内部に取り込んでいる母船の次元に、完全に戻ったのだ。
 今、完全に母船の中にいる。円形の格納庫の中だ。ここは、この円盤の停泊位置のようだ。この到着室の他にも、同じような部屋が六つ並んでいて、それらが母船の巨大なドームの基底部を取り囲んでいる。幽霊壁を突き抜ける直前、この輪のような配置をちらっと見ることができた。その時に、到着室のうち五部屋にはすでに他の円盤が入っていることにも気がついた。
 私の円盤は、ドアを開けた。暫くここに滞在するのだろう。私は、暗く光っている、頑丈なタラップに歩み出た。部屋の壁は真珠色で、継ぎ目も何の印もなく、一様に柔らかな光を出している。
 壁の隠れたドアが開き、気密室が現われた。そこに入る。背後でドアが閉まると、別のドアが左手に開かれた。そこを通っていくと、連結スイート部屋があり、そこから外のすばらしい景色が見える。床と壁の材質は、到着室の素材と似ているが、この部屋では、反対側の壁が床から天井まで、斜めになった「ガラス」窓になっている。実際には、この窓は母船の胴体の一部で、少し黄灰色がかかっており、指で触ってみるとプレキシグラスの感じがする。
 摩天楼の展望テラスにいる感じだ。ここからの眺めは、本当に壮大だ。地球とたくさんの星が見える神秘的な深字宙。そこに立って、暫くの間、深い感動を味わい、すべてを取り込んだ。
 母船から数百メートル離れたところで、字宙の一部が微かに光り始めた。徐々に円盤が物質化する。すると、その円盤はまた徐々にほぼ全体が消えていき、幽霊のような外見になる。その間、円盤はこちらに向かって漂って来る。間違いない。この母船の唯一空いている着陸室に、私たちと同じように、貫通して来ようとしているのだ。こうして、この円盤があ到着して、全室がふさがった。
 さて、今度は、目の前の光景全体がゆっくりと消えていき、その代わりに、別の次元の深宇宙の眺めが現われてきた。荘厳な星雲と、ひしめきあう星が見える。
 言うまでもなく、次元移動が完了したのだ。実際のところ、わたしたちを乗せた母船は物理的にも動いてもいる。他の星が遠ざかっていくのだから。確かに、私たちは、この異宇宙の何処かに向かっている。

第七章...宇宙旅行

 私は、母船内部の自分の「スイート」を見回した。六角形の部屋で、直径は4メートル位だ。壁は斜めになっており、高さ5メートルのピラミッドを形作っている。円形の家具が一点、このピラミッドの部屋の中央に置かれている。エアー・ベッドだった。一方の壁には、不透明のプラスチック製の厚板がある。トランクの大きさだ。もう一方の壁には、何かグロテスクなガラスの彫刻が立っている。この二つの物には何か実用性があるのだろうか? それとも、単なる装飾晶なのだろうか?
 六角形の残りの二つの壁が、例の窓を挟んでいる。この二枚の壁は、実際には引き戸式の隠しドアで、円盤内部のドアと良く似ている。この二つのドアの背後には、キチネット(簡易台所)と浴室がそれぞれ三角形の囲いの中に設備されている。
 窓の外では、宇宙の風景が著しく変わった。この区画からは、比較的星が少ない宇宙の広がりしか見えないが、数個の星がそれぞれはっきりと見えるようになった。ということは、物凄いスピードで飛んでいるに違いない。そうでなけれぱ、こんなに大きな変化がほんの短時間で起こったことを説明できない。あるいは、この窓は、宇宙の別の部分を見せているだけなのだろうか?
 エアー・ベッドの端に座って、宇宙の風景に見とれていた。少なくとも1、2時間はそうしていたろう。窓枠の左下近くに見える、特に明るい星の位置に視点を据えてみているうちに、この母船が実際には「降下」していることが分かった。宇宙では、上とか下とかいっても本当は意味がないことだが、自分の主観的感覚にとって違いがあるのは確かだ。とにかく、どうも「お尻を先にした」格好で、飛行しているようだ・・・
 初めて星を思う存分眺めたことに満足して、私は立ち上がり、少し背伸びをした。この窓を除くと、「スイート」の残りの部分は単に機能的な物に過ぎず、自分の気を引く物は何もない。この母船の他の部分はどんな風になっているのだろうか。探険する方法はあるだろうか。試してみたらいいさ、と思いながら、気密室に通じる出入り口が隠されている壁の部分に歩を進めた。
 両手で触れると作動するようだ。ドアが横に開き、気密室に入っていくと、今度は反対側のドアが開いた。そこを通っていくと、そこは奇妙に異なった世界が現われた!
 熱帯ジャングルのような温室だ。というよりも、ドームに包まれた、直径20メートルの岩の庭だ。ごつごつした、高さ7メートルの岩壁が周囲を囲み、それがドームの縁まで届いている。螺旋の通路がドームの縁まで続いている。その周囲は、とがった岩層と珍しい植物でいっばいだ。岩壁の底部には青葉がたくさん茂っている。赤い砂と緑の芝で作られた円形状の小道もあり、その緑には、所々に、ベンチや抽象彫刻が置かれている。
 円形状の小道の大分内側には、七基の原始的な石門がドームの中心を取り巻いている。あたかも「ストーンヘンジ(環状巨石群)」みたいだ。そのど真ん中には、噴水のような垂直のシャフトが床から出ていて、高さ12メートルのドームの頂上まで繋がっている。良く調べてみると、この噴水は直径2メートルの管状のシャフトで、その中には巨大な球体が床と天井の中間の所に浮かんでいる。円盤にある球体と全く同じだ。シャフトの底部は底の円窓と繋がっている。その周囲は、三段からなる「円形劇場」の輸になっている。
 全体に、樹木、花、岩、潅木、散歩道を配した快適な庭園だ。日本式石庭を想わせるところもあるし、古代の密林文明を想わせる面もある。空気には、心を浮き浮きさせるような芳香がたっぷりと混ざっている。控え目な色の光のパターンが、幻想の世界を思わせる効果を生み出している。彫刻、門、ベンチのそれぞれが異なった質の振動を発していて、際限ない空想やムードに浸るのに役立っている。このことが分かったのは、そうした物体の側に立ってみたからだ。相当な技量を持っていないと、こうした審美的な刺激物をすべて十分に使いこなせないに違いない。
 明らかに、これはUFO乗組員や乗客のレクレーション用のドームだ。全く、大変創意に満ちた配慮だ。長期の宇宙旅行になくてはならないものだ。だが、他の乗客やUFO乗組員といったら良いのか、彼らはどこにいるのだろう? この岩の庭にいるのは私だけだ。自分以外に乗船しているものはいないのだろうか? それとも、彼らなりの理由があって、私と顔を合わせることはないのだろうか? ま、とにかく、この庭園は、新鮮な空気を吸ったり、ゆったりと寛いだり、空想したり、ジョギングしたりするのに、便利この上ない。石の抽象彫刻の中には、昇る運動をしたり、足をふんばる運動にも使えるものがある。
 例の石門は「頭脳の一部」つまり偽装コンピューターの役目も持っている気がする。中央のシャフトに面している石門の表面は、無数の小さな光できらきらと輝いていて、円盤の計器盤のような二つの「脳葉」を想わせる。だが、似ているのはそこまでだ。この庭園の球体や門の中で起きていることは、何一つ私には解読できないからだ。動力変換機も蓄電装置も、それらしき物すら見えない。母船の構造内部に隠されている公算が高い。
 庭園を数回歩き回ったり、螺旋の散歩道をてっぺんまで歩いて昇り、そこから畏怖の念を起こさせる深宇宙のパノラマを見てみたりした。そして、庭園にある物をいくつかもっと細かく調査してみようとした。丁度そのとき、ドームの照明が暗くなり、ほぼ真っ暗になった。停電かな? と何となく思った。だが、そうではない。「ゲスト用のスイート」へ通じる出入り口が強力な明りで照らされている・・・
 そのとき気が付いたのは、照明が暗くなり、出入り口が強力な光で照らしだされたことが何を意味しているのかだった。庭園を出てピラミッドの居室に戻るように、と丁寧に促されているのだ。おそらく、他の人が庭園を一人で使いたがっているので、私の持ち時間が切れたのだろう。順番が来れば、またここに来れるのだろう。だが、奇妙なことに、目分の居室に通じるドア以外に、他のドアは見当たらない。他のドアは、岩壁の表面に継ぎ目もなくとけ込んでいるのだろうか?
 とにかく、自分のスイートに戻ると、すぐに、ドアが背後で閉まった。どうやら、私に割り当てられた庭園での時間が経過したことに間違いないようだ。私の演繹力もここまでにしておこう。それとも、演繹力ではなくて直感か? あるいは、庭園を出るようにとの依頼を理解したのは、テレパシーによる示唆のせいだったのか? ひょとしたら、ドーム内の探検を始めたタイミングもやはりテレパシーによる示唆だったのかもしれない。
 私自身は、今日はこれでおしまい、ということにしても構わなかった。トロントでは少なくとも午前5時にはなっているに違いない。就寝の時刻はとっくの昔に過ぎている。それに、本当に疲労困想している。ぼんやりしながら、ヘルメットをはずした。と、一瞬パニック状態になってしまった。だが、なんら悪影響は出ない。ただ、頭が急に非常に重く感じられる。でも、寝るにはこの方が良いだろう。ベルトをはずそうかどうしようかと迷ったが、それは着けたままにしておくことにしよう。「エアー・ベッド」だが何だか良く分からないが、その上で寝るのに別に邪魔にはならないだろう。
 そこで、スイートのピラミッドの部屋で大の字になり、眠りに落ちた。温度は一定していた。

 * * * * *

 目が覚めると、驚くほど気分が良く、満ち足りた感じがする。朝は機嫌が悪いのが普通なのに、これは大変珍しいことだ。部屋の中の何かが、素晴らしく心地よい気持ちにしてくれている。非常に寒い日に外から家に帰ったときに感じる、あの暖かさのような快適さだ。ピラミッド型の形状がこの満足感をもたらす効果と関係がある、という気がする。
 水なしシャワーで「体を洗って」から、キチネットで朝食にした。色の着いたいろいろな立方体をたっぷりと食べた。キチネットも浴室も、円盤に設備されている物より狭いがそれでも十分な広さだ。実際のところ、グリズリ・ベアのように大きな生き物や、アシカのような巨体を持つ生き物にも使えるだろう。こうした異星人の宇宙船は、地球人以外のあらゆる種類の生き物を輸送するのに使われているという気が強くしてならない。人間専用のものにしては、低過ぎるか広すぎるかだ。だから、1メートル弱から2メートル強までのものだったら何でも収容できる。収容設備といえば、髭剃りとか歯プラシなどのこまごまとした化粧品類を置いておくのを、誰も気がつかなかったようだ。でも、おそらく私が使い方を知らないだけで、同じ用途のものは置いてあるのだろう。どうも、一般的にいって、私が無知のため、利用できる設備のぼんの一部しか、私には使えないようだ。
 また、自動制御装置が外に見えないのは何故だろう。温度調節、空調、母船の駆動と動力等の装置が見えない。何もかも大変スムーズに機能しているし、すべてが非常に自然に感じられるので、疑念さえ生まれそうだ。この母船は、単なる飛行する機械ではない。何か、生きている鯨のようだ。音もしないし、急にガタンとなることもない。急加速もないし、眩量が起きることもない。重力も空気もいつも適切だ。そして、快適この上ない。広大な宇宙を物凄い勢いで飛んでるというのに!
 恐ろしいスピードで飛んでるのは確かだ。あらゆるものが、「前夜の光景とは随分と違って見える。宇宙の風景は、前よりもずっと混んできた。星群が至る所に見える。「近い」のもあれば、遠いのもある。かなり「空いた」部分からこの非常に混んでいる部分には、半日位で到達したようだ。だが、こんなことは全く有り得ない。光であっても、それこそ何年も、何年もかからなければ、こんなに遠い距離は飛べない。そうすると、母船のスピードは、光よりも数千倍も速いに違いない。もちろん、それは馬鹿げた考えだ。この次元の星系間の距離が光年単位ではないのか、あるいは、この状況に対する自分の判断が甚だしく間違っているのに違いない。それにしても、母船のスピードは光よりも遥かに速いのではないかという気がしてならない!
 不可思議な事だらけだな、と物思いに耽りながら、エアー・ベッドの端に座っていた。自分には、この信じられない星間旅行の背後にどんなプロセスがあるのか、理解できる望みは一かけらもないのだ。第一、「もっと単純な」事すら理解できない。たとえば、ポルトやネジがない継ぎ目無しの構造や、次元間移動のような「単純な」事すら自分の理解力を越えているのだ。
 「新鮮な空気」を少し吸って、朝の散歩をする時間にしよう、とエアー・ベッドから降りながら思った。ドアが隠れている壁の部分を両手で押す。手品のように、「それ!」という感じでドアが開く!「外に」出ていい、という意昧だ。問題は全く無い。だが、また考えてしまう。このタイミングは、運がいい偶然なのか、それとも、テレパシーで私の心に注意深く「引き起こされた」のか? もちろん、私のために庭園に誰も居ないようにする必要はなかったのだ、もともとこの母船には私以外乗っていないのだから、という可能性もないわけではない。だが、どういうわけか、その可能性はないと思う。ほかの円盤も一機残らず訪問者を乗せてきた、という気が強くする。それに、この円盤の母船を一人の人間のためだけに飛ばすというのも馬鹿げているではないか。
 庭園は靄がかかって露に濡れているようだ。あたかも早朝の雰囲気だ。自分自身が早朝の感じがしているので、庭園のセンサーか何かが私の気分に同調してくれているのかもしれない。とにかく、ジョギングとロック・クラィミングにはピッタリの状況なので、熱心にそれに打ち込んだ。非常に驚いたことに、石の彫刻の中には、運動器具に似たものに変わっていたものさえあった。
 運動を終えてから、庭園にあるものを細かに調べ始めた。実際には、何か新しいことが見つかったわけではないが、新しい事を発見しようとして大いに楽しんだ。たとえば、自分のスイートの入り口近くの門を選ぴ、その下に暫く座ってみた。すると、その門の振動が、自分の知性中枢にかなりの刺激を与えることが分かった。本屋で本の立ち読みをしている感じとか、何か哲学的な講演に出席している感じとか、文化的なものを歩きながら観光している感じとかが、交互に感じられるのだ。
 私は驚いて真っ直ぐに座り直した。この門は、私の趣味に合わせて作られているのか、それとも、この旅行に選ばれたのは私の振動がこの門のパターンと合致しているからなのか? 興味を引かれる見方だ。ほかの門は確かに、ずっと異なる質の振動を持っている。でも、憶測していても何の得にもならない。なぜか、いま私の頭はそんな事を考える状態には無い。そこで気づいたのは、プースター・ヘルメットをしていないと頭脳の働きに大分影響が出るということだ。どうしようもないほど反応が鈍くなっている。思考力だけでなく、どういう訳か、体全体もだるく感じられる。シャワーを浴びてから、ブースター・ヘルメットを破るのを忘れていたことに気が付いた。どうやら、ブースターを脱いでしまうと、その増幅効果はしばらくしたら消えてしまい、自分のいつもの振動率に戻ってしまうようだ。ということは、この状態のままでいったら、厄介なことになるかもしれない。そう考えると、少し落ち着かなくなったので、スイートにブースターを取りに出かけた。そこでまた考えてしまった。今の考えは自分のものだろうか、それとも、植え付けられたのだろうか。どちらなのか知る由もないが、どうも、テレパシーによる「思い出させる合図」は前よりももっと捉え難い、悟られにくい形で来るようになった気がする。こんなことを考えてはみたが、実際には矢張り、スイートヘ戻ってブースターを着けた。着けてみると、いやー、凄い。何て違いだ。着けてから1分もしないうちに、効果が出てきた。
 なぜか、庭園に戻る気がしない。そこで、座って星の配置を眺めた。だが、そうしながらも、何か心の片隅に引っかかっているものがある。距離とスピードに関係していることだ。そうか、分かったぞ。おそらく母船は何回か宇宙「ジャンプ」をしたのだ。スペース・ワープとタイム・ワープ、あるいはその両方を一緒に使ったのだ。こんなイメージが心に浮かんだ。つまり、蟻は、針金のコイルを端から端まで数秒間で歩いてしまうが、もし針金を伸ばして2キロの長さにしてしまうと、コイル状のとき歩いた二点間を歩くのに丸1日かかってしまう、ということなのだ。
 とにかく、目的地までどれくらい遠いのだろうか、また、到着するまで後どれくらいかかるのだろうか、と考え始めてしまった。自分が急いでいるからという訳ではない。それどころか、この素晴らしい旅行は減多に経験できないことなのだから、何か月かかったとしても自分は構わない。しかし、心理面から言うと、使えるレクレーション設備が限られている状態では、そんなに長い旅行は堪え難い。仲間がいるのならいいが。あるいは、宇宙飛行士が飛行中に作業をやったように、自分にも何か積極的に行う仕事があれば、あるいは、テレビがあるとか、本でもあればいいのだが。
 だが、ひょっとしたら、そのようなものを置いていないのは、わざとかもしれない。そうして、娯楽なんぞに頼らずに、自分の時間を建設的に使うことを学ばせるためなのかもしれない。たまには精神活動ゲームをやるのを覚えたり、自分自身のことを知るようにしたほうが良いのかもしれない。この考えは確かに頷ける……
 空腹感を感じた。昼食の時間なのかも知れない。腕時計を持っていないので、何時だか分からないが、腹時計はある。そこで、たっぷりと「食事」をした。食後は少し眠くなったので、昼寝をすることにした。

 * * * * *

 昼寝から起きると、「外に」出て散歩がしたくなった。驚いたことに、手で触れるとドアが今度も開く。庭園に行っていいのだ。今回は、「ブースター」を身に着けるのを忘れなかった。庭園のムードと照明は、また変化している。午後の半ばという感じで、私の感覚と同じだ。岩の庭の遠いところは、大変に遠いところにある山脈みたいに見える。その実際に広々とした屋外の感じをゆっくりと味わうことができた。庭園内の事物の遠近感が異なっているのだ。これは、非常におもしろいと思った。少し辺りを元気良く散歩してから、静寂感の振動を出している門の下に座って、牧場の日没の光景を心に描いてみる。非常に楽しい。絵の具があったなら、霊感にあふれた絵を1、2枚かけるのに、と思った。
 庭園には何時間とも思える間、立ち去り難くてぐずぐずしていた。じっくりと、ほかのいろいろな雰囲気や振動も味わった。後の時間を頭脳だけ使って忙しくするにはどうしたら良いか、いくつか素晴らしい方法も考え出した。何と言っても、精神機能の分野ではまだまだ学ばなけれぱならないことが多いのだ。それに、「精神活動」こそが円盤にとって重要なことのように思えるし………
 思索に耽っていると、庭園の照明が暗くなり、黄昏のような感じに変わった。スイートに戻る時間だ。部屋に戻ってから、エアー・ベッドに座った。先程考えた精神活動ゲームの手始めに、ある考え方を追求してみようと思ったのだ。それも、瞑想の形で。そのためには、部屋の照明がもう少し暗いほうがいいのに。
 と、思ったら、大変びっくりしたことに、部屋の照明が暗くなった。明らかに、照明が私の願いに応えてくれたのだ! その仮説が正しいかどうかを確かめるために、今度は、照明を明るく戻してほしいと念じてみた。何と、図星だ! それがきっかけとなって、照明を付けたり消したり、リズミカルにさまざまに変える遊びを始めた。それから、今度は、ひとつの壁だけ「やって」みた。その後、この照明遊びを広げて、いろんな種類の、複数の色のついた光のパターンにしてみると、何かサイケデリックなショーみたいになった。
 この偶然に見つけたゲームに本当に興奮してしまい、今後は、テレビで「遊び」たくなった。光のパターンを、斜めになっている壁の一部だけに限って、そこに自分の記憶の中から何か絵を映してほしいと「念じた」。すると、うまくできる! 間もなく、好きな映画の場面を再生出来るようになった。もっとも、最初は、場面の不確かな細部や連続性で問題があったことはあったが。だが、私の想起力は練習を積むにつれて向上してきた。どうやら、関連性のある細部はすべて、元来、記憶の普通の表面より深いところにファイルされているようだ。
 この考えの流れに邪魔されて、映画の「映写」に専念することが出来ず、関連の無いいろいろな画面が記憶から出てきて「スクリーン」上でご茶混ぜになってしまった。そこに滑稽な効果が出てきたので、「映画」は止めにして、手当り次第に頭から出てくる画面がパッと出てきたりパッと消えたりするままにしておくことにした。一種の「自由連想」だ。すると何とも奇妙なご茶混ぜが生まれた。映画の断片が出てきたり、テレビのCMが映ったり、更には電話番号が出たり、新聞の見出しが飛び出したりしてきた。言葉や数字が飛び出してきたことから、今度は、スクリーン上にテレタイプを打つことを考えついた。そして、何とか打電し続けて、手紙一通分に近い量を書き出すことができた。
 全体的に見ると、この新しく見つけたゲームには信じ難いほどの意味合いがあった。また、無数の可能性の組み合わせもある。ずっと頭を使ってきたので私はヘトヘトになってしまった。自分だけのこのメンタル・テレビを何時間やっていたかは、それこそ見当もつかない。次に思ったのは、このように映写したものを心の中に映し出すことが一体できるだろうか、ということだった。外部のスクリーン上にではなく、心の中にだ。ひょっとしたら、できるかもしれない。それに、そのような技術を考えてみることこそが、このメンタル・テレビゲームの訓練なのかもしれない。
 だが、今のところ、今日はもう止めにしたい、という気持ちだ。寝る前に、翌日は「音声」も作り出してみようと心に決めた。
 さて、次の日になって、まあまあまともな「音声」を作るのにかなりの時間がかかってしまったが、何か所か選んだ壁の部分に共鳴してほしいと「念じる」ことによって目的を達することができた。結局、ピラミッドの頂点を「拡声器」に使ったのだ。非常に楽しかったが、素晴らしい音楽作品や独奏曲を再生するのにはてこずった。大半の場合、途方もなく調子がはずれてしまったり、何小節かをまとめて飛ばしてしまったりした。どうも、私の記憶保持カか想起カのどちらかがかなり平均以下のようだし、偉大な音楽家になれる望みは全くない。残念だ。
 次に、素晴らしいことを思い付いた。心の中の「テレタイプ」で、母船の知性だか何だか分からないが、それとコミュニケーションを図ってみようというのだ。そこで、スクリーンに白文字で言葉を映し出した。
 「あなたと意志の疎通を図りたいという私の意図が分かりますか」
 待つまでもなく、回答が来た。スクリーン全体が素早く二度、明滅した。間違いない。理解してくれたのだ。
 「言葉で答えて頂けますか、この『テレタイプ』で? 手始めに、『イエス』と書いてください」
 返事が無い。光の明滅すらも来ない。質問の仕方を何度か変えてみた。だが、空くじを引いたように、何も帰ってこない。どうやら、異星の知性は、双方向の意志の疎通を望んではいないようだ。もし望んでいるなら、どんな方法であれ、返事をよこせたはずだ。焦るな。焦るな。と、自分に言い聞かせ続けた。何時か、何処かで、きっと何か触知できる形か、あるいは、「面と向かった」形で意志の疎通が行われるはずだ。時機が来れば。
 私は庭園にちょっと出かけていった。ひとしきりジョギングをしてから、門の下で、考えていた実験に取り掛かった。ところが、私の注意はそがれてしまった。畏怖の念を起こさせるような壮大な眺めが、母船の低部にある円窓から見えるのだ。母船が、目も眩むような螺旋状の星雲へと、落ち込んでいってる! そこに立って何分間か見とれているうちにも、星雲の中心にどんどんと急速に近づいていく。それに、星塵の大きな雲か、宇宙の気体ガスかに遭遇したに違いない。母船の周囲カ、至る所輝きと閃光とで一杯だ。そうこうするうちに、床から微かな振動が感じられた。飛行機に乗っていて突風にあおられたときのようだ。
 庭園の照明カ消えかかったかと思うと、数回明滅した。「シートベルトをする」時だと思われる。何か異常事態に遭遇したに違いない。狭いが気持ちのいい自分の部屋に戻りなさい、ということだ。ここに来たぱかりだというのに。
 とにかく、自室に戻り、エアー・ベッドに腰をおろした。外は嵐のように、荒れ模様になってきている。今、母船は、不吉な閃光を放っている紫の塵雲を突き抜けて降下している。時折、目も眩むような大きな光がサッと走り、母船がグラグラと揺れる。
 これには驚いた。母船は宇宙の「悪天候」の影響を受けないものと思っていたからだ。どうも、何かの手違いが生じたに違いないようで、大きな危険状態にあるようだ。
 私の部屋の窓はそれこそ文字通り、縦横に這いずり回る放電の光で、視界は遮られてしまっている。この母船は物凄い電気を帯びた嵐か、それと同じようにひどい何かの真っ只中にいるような気がする。しばらくすると、ピラミッド型の部屋のどの壁も、蛇のようにうごめく放電で充満してしまった。実際に、ミシミシという音やジリジリという音さえも聞こえてくる。
 これも母船の宇宙旅行に付き物のことだ、という風には思えなかった。直感で感じたのか、それともテレパシーで感じたのかもしれないが、これは第一級の不測の危険状態だという気がする。至急自室に戻らねぱならなかったその理由が、いま分かった。ピラミッドそれ自体、ないしはその素材が、どうしてだかは分からないが、効果的な盾のような役目をして、中に居るものを外の「悪天候」から守っているのだ。時々、緑色っぼい光が壁から外に向かって広がっていく。あたかも、身を守ろうとしているかのようだ。その緑っぽい光は拡大し続けて、深紅色の放電を遠くへ押しやっている。そして、その光は一瞬崩れてしまう。一方、室内の温度は非常に高くなり、不快感を感じさせるほどだ。実際のところ、何か断熱材が燃えているような、奇妙な匂いすらしてきた。
 正直言って、恐い。でも、自分には何もできないのだ。仕方なく、なす術もなく、うっとりとした状態でそこに座っていた。少なくとも一時間はそうしていたように思える。
 すると、突然、全てが終わった。また、暗い深宇宙の中に戻った。そのビロードの宇宙には、冷たい星の光が点在している。私はほっとしたが、完全に疲れ果ててしまった。部屋の温度がゆっくりと正常に戻っていくのを感じながら、私は眠りに落ちていった…

 * * * * *

 しばらく後に目が覚めてみると、母船はもう飛行していなかった。宇宙空間に静かに浮かんでいるだけだ。ゾクゾクとするような壮大な眺めが、窓の半分を埋めている。巨大な半透明の宇宙船が見えるのだ。青白い分散光を浴びて、字宙船は潜水艦に似た姿を見せている。太い葉巻のような形をして、小塔、フランジ、そして、水平舵もついている。そのとき、円盤が一機、物凄いスピードでこの母船から遠ざかっていき、宇宙船にむかっているものを見つけた。まだ巨大な宇宙船に到達していないというのに、その円盤はけし粒みたいに小さくなっていく。双方の相対的な大きさから判断して、宇宙船の長さは少なくとも1600メートルはあるに違いない!
 母船での旅行もやっと終わったという気がする。私も間もなく母船を去っていくのだ。ずっと下のほう、窓のちょうど下の縁のところに、暗い、静止した惑星の一部が垣間見れる。その曲面部は後方から光を受けて輝いている。きっと、背後にある太陽が昇りつつあるのか、あるいは沈みつつあるのだろう。
 何分もしないうちに、私の六角形の部屋のドアが開いた。ここを出る時がきたのだ。私もあの宇由船に連れていかれるのだろうか? それとも、惑星のほうへいくのだろうか? 本能的に、髪の毛と顔を調べて身たしなみを整えようとした。あたかも、誰かに合う予定があるかのようにだ。だが、櫛を持っていないのでボサボサの髪を梳くこともできないし、髭剃りもないので顎の不精髭を剃ることもできない。全く、こんなことを心配するなんで馬鹿げている。ここまで生きのびてきたことで十分だ。こう考えて、気密室を通り抜け、一か所開いているドアを通って行くと、円盤の駐機場に出た。言を待つまでもなく、出発しなさいということだ。そもそもこの母船に私を連れてきた、その円盤に乗って行きなさいということなのだ。
 私が乗船し、円盤がドアを閉めると、私を乗せた円盤は「半移動」状態になり、それから壁を通り抜けて、母船から出た。いったん母船外に出てしまうと、「正常」状態に戻った。お別れに、母船をちらっと見た。焦げたか焼けたような感じで、所々が醜く変色している。だが、それも定かではない。母船全体がだんだんと見えなくなって、細部が分からなくなったからだ。私を乗せた円盤は、下に見える暗闇に包まれた惑星に向かって降下を始め、近くの宇宙船からは離れていく。息を飲むような眺めだ。その光景を見て、本当にぞくぞくした。
 惑星の地平線の背後から太陽が昇ってくる。ところが、そのすぐ後から、もうひとつ太陽が続いて昇ってきた! 全く物も言えないほどに驚いた。一瞬、頭がおかしくなったのかと思った。だが、円盤が急降下している間も、双子の太陽がどんどん高く昇り続けているので、目にしているのは現実だ、と納得がいった。その後、円盤は雲海のような大気にぷつかり、間もなく、周囲は真っ暗になった。惑星の夜側に飛び込んだのだ。奇妙に見える赤い月だけが視界にすっと入ってきて、降下の道運れとなった。雲の層をいくつか通り抜ける。時折、はっきりとはしないが、下の陸地や海と思われるものがみえる。
 それから、色のついた光の点の集まりがいくつか、徐々に目に入ってきた。町だ! しかも、そこに向かっているのだ! 私はサンタクロースが来るのを待っている子供のように、はしゃいだ。
 町に近付くにつれて、紬かい部分がもっと見えるようになった。「ガラス」の巨大なドームが数十、間隔は非常にバラバラだが、びっしりと並んでいる。その形や大きさは様々で、内部には見上げるような尖塔が林立していて、複層道路が縦横に走っている。一つ一つのドームは、迷路のような曲がった「ガラス」の管で相互に繋がっている。そして、こうした管の中には、何らかの運搬手段が通っている。様々な色のついた無数の光が、林立する尖塔で輝いていて、摩天楼の窓のように見える。
 大変信じ難い未来の光景だ。頭がくらくらするような光景でもある! だが、もっと良く見る暇も、拡大装置を使って細部を観察する暇もなかった。円盤が、上部が半分開いた天文台のようなコンクリートのドームに向かって急降下していったからだ。間もなく、円盤は、ドームの開口部を通り、内部の床に着陸した。そして、一分もしないうちに、円盤はドアを開け、タラップを降ろしたのである。
 疑う余地はない。到着したのだ………


第八章...異星

 どんな形や様態であれ、異星人に初めて遭遇したらショックを受けるかもしれないと思い、気を引き締めながら、私は期待感を胸に秘めて、円盤から歩きだしていった。
 だが、何もない。私を出迎えたのは、ただのがらんとした、コンクリート製のような大広間だ。ドームの天井は頭上で閉じてしまった。空気は、大丈夫、呼吸できる。重力も正常だ。分散光が四方の壁から出ている。コンベヤー・ベルトみたいな動く歩道が、遠くの側のゲートに向かって続いている。私は肩をすくめてから、動くべルトに足を乗せた。そうしながらも、ぼんやりとしながらプースター・ベルトとヘルメットをしているか確かめてみた。確かに、ベルトはしていた。だが、びっくりしたことに、ヘルメットは脇の下に抱えていた。動く歩道の終点で降りると、ドアが開いているエレベーターが待ち受けている。だが、その中には表示もボタンもない。中に入ると、ドアが閉まり、自動的に上昇を始めた。
 エレベーターから出ると、そこにはまったく予想もしなかった、非常に当惑するような光景があった! こんなこと言っても信じてもらえないだろうが、何と、地球にあるのと全く同じようなピアノ・バアーに、いきなり足を踏み入れていたのだ! 赤毛の女性がピアノを弾きながら、ハスキーな声で『想い出のサンフランシスコ』を歌っている。普通の服装をした人が数人、薄暗い照明の小部屋のそこかしこのテープルに座っている。どうかしている、全くどうかしている! 私は頭を振った。幻覚に違いない・・・
 「今晩は。良くいらっしゃいました!」
 良く響く声が肩越しに聞こえてきた。驚いて、くるっと振り返ると、目の前は普通のカウンターで、その奥から見覚えのある男がにっこりと笑いかけてくる。緑色の目で、目付きが鋭く、髭もはやしている。そのせいで、見かけはごろつきそっくりだ。ハッと気がついた。あのときのタクシーの運転手だ。半年前、「サイキック・フェア」に私を達れていった男だ。
 「サイキアン連盟世界の一員、『オム・オン』系の惑星『アルゴナ』に、ようこそ。オムとオンとは、双子の太陽の名前です。さて、何をお飲みになりますか?」
 私はモゴモゴと何か言った。彼は、蓋を開いたタバコの箱とプタン・ガスのライターをカウンターに置いてから、ジントニックを二杯作った。私はヘルメットを置き、止まり木に腰掛けた。タバコに火をつけ、ジントニックを一口飲んだ。両方とも本当においしい。予想もしなかった地球のような雰囲気、そしてバーテンダーをやっているタクシー運転手の日常ありふれた感じの態度から受けた大きなショックは、まだ続いている。
 「私の名は、アーガス。いわゆる異星人、つまり、サイキアンです。この惑星で、あなたのお世話とガイドをまかされています」
 アーガスが私に向けた微笑みは、温かく親しみが籠もっていた。
 「おや、おや!」
 私は驚いて叫んだ。
 「むしろ、ぎょろ目の、緑色をした小さな恐ろしい人達を予想していたんですがね。レーザー・ガンを手にした・・・」
 「そうですか。そういうのもいますよ。ずーっと遠くの他の天体系にはね」
 「その代わりに、このような光景があり、貴方がいたという訳ですな」
 「何か異星人とのコネクションが私にあるに違いない、と疑っていましたね。あのタクシーの運転手の格好をしていたときに」
 「ええ。でも、そうではないかと疑うことと、確信とは別物ですよ」
 「全くおっしゃる通りです。だからこそ、円盤での旅行を手配させたのです。つまり、確信してもらうためにね」
 「手配させた? 完全に思う通りに操られている、と思ったこともあります。あの時もそうですよ。どういう訳か、貴方のタクシーに乗せられてしまった。あれがタクシーだったのならですが・・・」
 「タクシーではなく、単なるレンタカーでしたが、軽い暗示でそういう雰囲気を作ったのです。あの晩、ご自分では『サイキック・フェア』にどうしても行きそうになかったので、心理操作を少し使って、手配しておいたコンタクトの元へ行ってもらうより仕方がなかったのです」
 「あのプロンドの髪をした男、クエンティンのところへ? 道理で、彼は良く知ってたはずだ。彼もサイキアンなんでしょうね。今、ここにいるんですか?」
 「いや、彼はサイキアンではありませんし、ここにはいません。私たちは、宣伝もしなければ、説得もしません。貴方は関心がある様子だった。そこで、いくつか手掛かりを示して、それを追っかけさせたのです。最後までついてきましたから、円盤に乗せてあげることにしたのです。ご自分の気持ち、動機が鍵なのです」
 「それでも、どういうことになるのか教えてくれてもよさそうなのに」
 「ガイド付きの旅行ですか? そんなのは駄目です。自分で発見するという挑戦をぶち壊しにしてしまうようなことはしませんよ。ご自分で立派にやられたではないですか。私達が知っているのも当然の話です。貴方が勇猛果敢に未知のものに対処するのをずっと監視していたのですからね」
 「もちろん、楽しかったですよ。文句を言うつもりはなく、ただ、何故なのか知りたかっただけです。とにかく何と言っても、やってみた価値はありましたよ」
 「こちらにしてもそうです。冗談はやめにしたほうが良いですよ。ここで大事なのは相互利益ですからね」
 「相互の? どうして相互なのか分かりませんね。貴方達の世界は非常に高度なのに・・・」
 「そのうち、貴方にも分かりますよ。私達の役目はただ、お見せして説明するだけです・・・」
 ピアノを弾いている赤毛の女性は、フランスのポピュラーな「シャンソン」を歌っている。実際は、パリジャンの曲のメドレーだ。彼女の歌い方は、私の好みだ。ホスト役のアーガスに目を戻す。
 「だったら、説明して下さい。具体的な話を聞かせて下さい。あの無人の空飛ぶ円盤の操縦は、肉体から切り離されてはいるが生きている知性が、あの球体の中で行っていたのですか?」
 「お見事ですな。その通りですよ」
 「あの生きているが肉体のない知性は、あなた自身だったのですか?」
 「これは驚いた! あなたの論理の飛躍には全く感心します。委員会がこれを聞いたら驚くでしょうな」
 「それでは、答になっていませんよ」
 「ありていに言え、ということですな?」
 目が、強い関心でキラリと光る。アーガスは話すのを楽しんでいるようだ。
 「実際のところ、あの生きている知性は私自身ではなかったんですよ。私をアンドロイド(人造人間)と思ったんでしょう?」
 「ええ。動かないバイオコンピューターとして作られたのではないかと。それが、本質だけを現在のヒューマノイドの形に移したのではないかと思ってました」
 「参りましたね! でも、私は違いますよ。私は『生まれつき』人間です。もっとも、貴方みたいな地球人からすれば異星人です。特に、『バイオニック』の改造をいろいろと施していますので、その意味でも異質ですが。でも、確かに、貴方のおっしゃるような知性を持った二本足のアンドロイドもいます。大半の宇宙旅行や宇宙探険は、私達人間が行いますが、非常に難しいものや専門度が高いものはアンドロイドにやらせています」
 「もっともな感じですね。円盤の、例の動かない知性に話を戻しますが、なぜ人間のパイロットではいけないのですか?」
 「それは、次元間移動を何回も行うと、保護装置を身に着けていたとしても、私達人間に悪い副作用が出てくることがあるからです。貴方の次元に入るためには、苦痛を伴う振動低下を行いますが、それが特に悪影響を及ぼすのです。ですから、バイオコンピューターに定期的な往復飛行をやらせるほうがいいのです」
 「円盤の機体自体はどうなのです? 円盤自体も、何か『生きている』という印象を受けましたが。単なる機械ではないような気がします」
 「おっしゃる通りです。円盤は、有機的に育てられたものです。単なる機械では耐えることの出来ない次元間移動の影響や他の独特の重圧に耐えられるようにね」
 「例えば、地球上で特定の形をした巨大カボチャを作って、ファイバーグラスの船体の代わりに使おう、というようなことですか?」
 「ええ、そうなんですが、でも、喩えが役立つのは、概念を大雑把に掴むときだけですよ。ついでに説明しておきますと、私達は、有機体や合成物やバイオニックのものをいろいろと組み合わせて、動かないアンドロイドや二本足のアンドロイドなどを作ります。必要とされている機能に応じて、何でも作ります」
 「そうなると、誰が何で、何が誰だか分かりにくいでしょうね」
 「それだげではなく、元々は何処から来たのか、どんな形態で、何故かというのも分かりにくいんですよ」
 アーガスは深刻な様子で頷いた。
 「それには、もちろん貴方も含まれていますよ。宇宙の往来が頻繁ですし、相互移住も何世代にもわたって行われていますから、見分けにくいですね」
 「ということは・・・? これは大変だ。まさか、私のことを、今はこういう格好をしているが、移住して来た知性的存在かもしれない、何て言うんじゃないでしょうね!」
 「貴方がそうだとは言いませんでしたよ。実は、地球人には、一般的なパターンに驚くべき矛盾が見られることもあるんです。貴方の場合は鋭い洞察力をお持ちです。そういうことが時々ありますので、一般的にそうしたことをぜひ観察したいと思っています」
 「当然でしょうね。となれば、今現在も私は監視されていて、各種の特性値を読み取ろうとしているのかもしれませんね」
 「ほら、また始まった! 私達の委員会は是非とも貴方に会いたがると思いますね・・・ところで、ホスト役のことをすっかり忘れていました。もう一杯いかがですか?」
 「ええ、お願いします。その後で、貴方のお仕事やこの場所について話して下さい」
 アーガスは飲み物のおかわりを作り、また話し始めた。
 「そうですね、私はちょうど地球在住サイキアン・コオーディネイターの任務を終えたばかりです。いろいろとありましたが、とりわけ、人間事情の研究をしたり、関心のある人間に『異星人』である私たちサイキアンの存在を知らせる助けをしたりしました」
 「公然とあちこち歩き回るのは大変楽しかったでしょうね。どうやって正体を隠したんですか?」
 「隠し通せないこともありましたよ。私のことをはっきりと『異星人』だと強く疑っている人もいました。時には、心理的な煙幕を張って、その援護で退却せざるを得なかったこともありました」
 「かつてハンツヴィルに配置されていたことはありますか? その地域に地下施設はありませんか・・・? ある晩に私が出会った不思議な人のことはどうでしょうか・・・?」
「そのような細かいことには立ち入らないようにしましょう」
 アーガスはきっぱりと私の話を遮った。
 「とにかく、地球で人間のやり方を十分に学んだ後、ここに転属になったのです。地球式のレセプション・センターを、人間のゲストのために運営する手助けをする仕事です。ここの施設は完全に地球式です。食事や飲み物は、私達が合成した代替品ですが、それも地球のものに合わせています」
 「ずいぶんと手間暇をかけたんですね」
 「面倒なことは全然ありませんよ。皆さんに寛いで欲しいですからね。何しろ、ここは故郷から遠く離れて、周囲は威圧的な感じのする異星の印象だらけですから。ここでの休憩は心理的安定状態を保つのに役立ちます。それに、いつも他の天体系からもたくさんゲストが来ています。中には、貴方の次元からも来ていますよ。貴方の銀河系内の『隣人』と呼べる人もね。このような人達は皆、貴方の文明を越えた多様な文明から来ていて、地球の物事を熱心に研究していますし、地球の主要言語の大方を流暢に操ります。例えば、あの赤毛のピアニスト。名前はメロディーと言いますが、彼女は貴方と同じ次元にあるサターニアという惑星の出身です。こうした人々は、一つの地球任務を終えて次の地球任務に就くまでの間によくここに立ち寄ったり、あるいは、共通の関心事である地球プロジェクトで私達と協力するというはっきりとした目的を持ってここに送り込まれてくる人もいます。この状態ですと、間もなく、私達のレセプション施設をかなり拡大せざるをえないでしょうね」
 私はびっくりしてしまい、バーの中を見回した。
 「この人達はみんな『異星人』だというのですか?」
 「確かにその通りです。もっとも、彼らは、本当の地球人として通ることが仕事ですけどね。よろしければ、後で、彼らと知りあう機会がありますよ」

 そのとき、あたかも合図があったかのように、例の女性のピアニストが立ち上がって私達のほうにやって来た。
 「こんにちは。ちょっと立ち寄って挨拶してから、泳ぎに行こうと思ったの」
 彼女はバーの腰掛けにひょいと座った。
 アーガスが、私を地球から到着したものだと彼女に紹介して、彼女の望みのオレンジ・ジュースを注いだ。
 メロディーの髪の毛は目も覚めるような赤色で、目は海の緑色だ。非常に貴族的で極めて活気に満ちている。英語は完壁だ。北アメリカの金持ちの女性だといったら、大して疑われずにそれで通ってしまうのではないかと思う。
 「そうなの、地球から着いたばかりなのね?」
 彼女は温かい微笑みを投げかけてきた。
 「何て素晴らしいんでしょう! いつか、私もあのいとしい古い惑星に行くつもりよ」
 「というと、まだ一度も行ってないんですか?」
 私は本当に驚いてしまった。
 「では、音楽も仕草もあんなに素晴らしく出来るのはどうしてですか?」
 「それは、私の星で医学研修生だったとき、人類学の研究のためにいろいろな職業に就けるようにと万全の準傭をされたからよ。とにかく、地球のものを見たことはなくても文旬は言えないわ。もうかなりの経験をノヴァ・テラで積んできましたから。あそこは実際の地球とそっくりですもの」
 アーガスが口を挟んで、私に分かるように説明する。
 「ノヴァ・テラというのは、先程触れた共通の関心プロジェクトのことですよ」
 女医さんが遠くの地球プロジェクトに参加? 何て理解し難いことだ。私は、体を乗り出し、メロディーの手に触れて、訊いた。
 「なぜこんな奇妙な仕事を選んだんですか?」
 「奇妙?」
 彼女は大きな目を驚きで更に大きくした。
 「私にとっては、奇妙でも何でもないわ。私はいつも救い難いほどロマンチックなの。アンティークが大好きだし、本当に古めかしいものが好きなのよ。貴方の素敵な地球のものなどがね。それも別に不思議なことじゃないのよ。私はニュー・アトランティスの生きた博物館で育ったようなものだから。私の父は貿易委員会に務めていたの・・・」
 彼女は話を途中で止めて、アーガスを見た。助けか意見を求めているようだ。私は彼女が言及したことに興味を引かれて、もっと質問しようと思ったが、その前にアーガスが口を挟んだ。
 「メロディーが言いたいのは、彼女の音楽は大事な副業で、自分の専門分野の仕事に大変にぴったりと合った背景知識の一部を成している、ということなんですよ。実際のところ、彼女は真面目な女性科学者ですから、軽々しく扱ってはいけない人なんです」
「私、そろそろ行かないと」
 メロディーは椅子から立ち上がった。
 「美容体操をする時間なの。じゃ、またね。今度お会いするときは、仕事の話は抜きにするわ」
 彼女の去り方は全く自然に思える。だが、どうも腋に落ちないところがある。アーガスが口を挟んだとき、もう行きなさい、という警告を発したのだろうか? いま目の前で起きたことは「情報の漏洩」なのだろうか? それも偶然なのだろうか、それとも仕組まれたことなのか?
 「一時にすべてを知ろうとしても、それは無理ですよ」
 アーガスは肩をすくめた。私の口に出さなかった質問のことをいっているかのようだ。
 「時が来れぱ、分かることがだんだん多くなってきますから。ところで、この惑星『アルゴナ』を先ず探険してみませんか? ここは『サイキアンの応用芸術・科学』実験センターなんです」
 「着陸する前に見えた、あのドームに包まれた都市のことですか?」
 「あれはセンターの一部です。そのほかにも、田舎のほうには多種多様のコミュニティーがたくさんあります。そこには、サイキアン連盟の外部から来ている訪問者や、我々の銀河系の至る所からやって来ている訪問者がたくさん住んでいます。こうした訪問者の形状や人種はそれこそ様々で、ヒューマノイドもいれば、それとは似ても似つかないのもいます」
 「それは興味をそそられますね! ドームの役目は、異なる気候条件を維持することでしょう」
 「そうでもないんです。大半の訪問者はここの諸条件に耐えられます。保護装置を使わざるを得ないのはほとんどいません。ドームは、酷暑、湿度、砂荒らしといったものを締め出すためなんです。ここは季節の変化が激しいですから。というのも、この惑星には太陽が二つあり、磁場も移動するという非常に珍しい星だからです。芸術活動や科学実験には理想的ですが、普通の定住には適していません。ここの重力は、地球の重力よりほんの少し小さく、一日の長さは地球の約半分しかありません。ですから、長期的に見た場合、人間の新陳代謝にとっては過酷な条件です。後で、あなたもご自分の目で見る機会がありますよ」
 「その時が待ち遠しいですね!」
 「慌てないで下さい。あなたにはしばらく休息が必要です。夜になりましたら、必ず町をご案内します。ですから、これからお部屋にご案内しますので、休息を取られてもいいですし、ご自分で非公式に他の人とお話ししても結構です」
 アーガスと私はバーを出た。彼の後について行くと、フロリダに良く見られるような三階建のホテルを見下ろせるテラスに出た。ホテルはおよそ三十室位で、屋上にペントハウスがある。一階には、中庭テラスとプールが青々と茂った熱帯庭園の中に備わっている。何もかもが地球式のさんさんと輝く日光に包まれていて、大変に暖かく、空気も良い匂いがする。プール際には水着姿の男性が三人と女性が五人見える。この上もなく愉快で完壁だ。ただ、今ここは夜か早朝のはずだ。真昼なのはおかしい。
 「これはここ単独の日光効果です。フロリダと全く同じ状態にしているんです」
 アーガスが説明しながら、上の方を指差した。はっきりとは見えないドームの表面が、青空のように輝いて見える。
 「ご自分の部屋で着替えてから、ご希望ならば、下にいる人達のところにお連れしましょう」
 アーガスは一室に私を連れて行ってくれた。テラスに繋がる引き戸が付いている。部屋の中はエア・コンが効いており、家具は浴室も含めてすべてが地球式だ。嬉しいことに、剃刀も石鹸もある。それに、本物の水、歯ブラシ、パジャマ、体にぴったり合うレジャーウエア一式、水泳パンツまでも揃っている。
 「ところで、ヘルメットとベルトのブースターですが、このレセプション・センターでは身に着ける必要はないですよ」
 とアーガスが言う。
 「ここにはどのくらい滞在するんですか?」
 「現地時間で、三、四日です」
 「そうすると、ここに来るのに三日くらいかかったから、帰りを入れると、優に一週間以上も地球を留守にすることになる」
 「そうですね。ただし、本当の地球時間での経過時間は、せいぜい一日半というところですよ。転換率は七対一ですから。これも時間のパラドックスの一つです」
 「気が付いたんですが、他の面でも『七』というのは重要なんですね。例えば、母船の中で、円盤の数は七、それぞれが別個の振動を出していたあの門の数もそうでした」
 「その通りです。でも、時間の転換率の七と私達の二つの次元を分けている振動率とを混同しないで下さい。振動率の方は七を何倍もしたものですから。もう一点。母船内の円盤の数とそれぞれの円盤の位置は、ワープ・トラヴェル転換では重要な要因です。あの場合の形と配置は、機能と絶対の関連性があるのです。更に、もう一つ一言いますと、生命に対する生き物の動機付けと態度には、七つのはっきりと区別されたヴァリエーションがありますが、門はそれに対応する泉なのです。その門からは、とりわけ、快適さとインスピレーションに適したフィードバックが得られます」
 「母船のドームにはどうしてフロリダ風の小さなホテルがなかったのですか?」
 「えー、それはですね、大量の水を母船に運び込まないほうがいいからです。それだけではなく、母船のドームはもう少し多様なお客さんを相手にしますし、地球の人間専用ではないんですよ」
 とかくするうちに、私は旅装を解き、伸縮性のある水泳パンツを穿き、髭もほぼ剃り終えていた。奇妙なことに、こうした日常ありふれた行動が大変に素晴らしく感じられる。アーガスの言う通りだ。この異星の世界の冒険のさ中で、確かに、休息が必要なのだ。
 「さあ、下へ行って、あの人達と知り合いになりましょう」
 私はアーガスにいった。
 「ところで、あのプール際にいる人達の中に、アンドロイドもいるんですか?」
 「私の知る限りでは、いないはずです。一言注意しておきますが、今のようなことを詮索するのは礼儀に反しますよ。貴方がここで出会う人達は、それぞれいろんな故郷の世界から派遣されて、サイキアン連盟が指揮しているこの地球プロジェクトに参画しているのです。中には貴方の地球を訪れた経験のある人もいますが、そうでない人もいます。でも一人残らず、本当の地球人のように、自然に振る舞います。ですから、彼等と一緒に楽しんで下さい。ここは楽しむため、休憩するためにあるのですから。それと、別に秘密があるわけでは無いのですが、もし本当に何かを訊きたいということであれば、その質問は私に向けて欲しいですね」
 アーガスと私は下に行き、他の者達と一緒になった。彼らは皆感じが良くて、若い。ほとんどが三十歳以下で、素晴らしい肉体を持ち、元気溌剌として健康的だ。表面的に見ると、本物の地球人と見分けがつきにくい。だが、彼らには微妙な「異質なもの」が感じられる。不思議な特質とでも言おうか、どんな人混みの中にいても何か注意を引かずにはいられないものがある。一方、私自身はきれいに日焼けしていて元気だが、彼らの目には何者と映るだろうか? 彼らは一人残らず上手な英語を喋っている。紹介のときには、ありふれた名前しか名のらず、出身地も地球のいろいろな国の虚構の町の名を挙げている。
 それからの数時間は楽しかった。皆で、プール際で馬鹿騒ぎをしたり、ピンポンをしたり、テラス・バーのビーチパラソルの下で取り止めのないお喋りをしたりして過ごした。赤毛のメロディーとは特に仲良くなった。彼女は、私のことなら殆ど何でも熱心に興味を持った。この上なくチャーミングな女性を感じさせる興味の示し方だ。本当の経歴については二度と口にせず、ただニューヨーク地域出身のように振る舞っていた。
 日が暮れると、つまり、人為的な手段で日が暮れた感じになると、アーガスが、みんな二時間ほど休憩を取って、それから夕食前のカクテルを一緒に飲もうじゃないか、と提案した。夕食が済んだら、他の人達がそれぞれ文化的な活動をしに行っている間に、見学に連れていってくれるという。その後で、皆が戻ってから、夜遅くテラスでパーティーを開いて音楽やダンスを楽しむこともできるよ、とアーガスが言う。
 私は、地球のリゾートを訪れている本当のゲストみたいに、楽しくなり、夕方と夜の催し物が待ち遠しく感じられた。アーガスが、一眠りするんだったら、時間が来たら誰かを起こしにやるから、と言ってくれた。結局はそうなってしまった。自室に戻ると、ベッドの上で、疲れ果ててはいるが満足感も感じながら、眠りこけてしまったのだ・・・
 驚いたことに、夕食は正式だった。隣接する厨房から他の人達が、肉や色々と取り揃えた料理を運び込む。その細かいところまで手が込んだ手順は、驚きの遵続だ。だが、アーガスが白状したところによると、何もかもが合成蛋白質に過ぎないということだ。本物の食物がないという一抹の寂しさを埋め合わせたのは、笑いと楽しさだった。その晩と翌晩は、誰もが本当に楽しんだ。翌日の午後も、陽気な活動で満ちていた。宇宙とか次元とかいったことについての「仕事の話」は全く無い。有るのは、いつもの「地球式の休暇を楽しんでいる者の」他愛ないお喋り、冗談、文化的事物についての意見のやり取りなどであった。暫くすると、彼らが本当の「異星人」だと思うことすら出来そうにないし、彼らが鋭い科学者のグループで、本物そっくりの実験室で私の特質を密かに観察しているのではないか、という考えも持ち得ないくらいだ。事実はどうかというと、彼らは地球の人間事情を熱心に研究しており、地球にかかわりのあるそれぞれの役割を熱意を持って演じているのだ。私としては、彼らが一緒にいてくれて、有難い。特に、メロディーが一緒にいてくれるのが、嬉しいことは言うまでもない。また、完全に寛ぐ機会を与えてくれたのも有難いことだ。

 * * * * *

 この最初の夕食の後、アーガスは、例のグループから私だけを一晩連れ出した。飛行服と、宇宙の旅で身に着けていた例のベルトとヘルメットも身に着けろと言う。それから、エレベーターで準地下のガレージに連れていかれ、透明のミニカー位のホヴァークラフトに乗せられた。アーガスと私は、この殆ど音のしない乗り物で、気密室みたいなところを通って、出発した。
 アーガスの指が、床についている制御装置のキーポードの各種のボタンの上を走る。予想に反して、このようなところに何か目に見えるメカニズムを使っているのを見て、嬉しくなった。
 「市の交通コンピュータに私たちのルートをこの自動パイロットでインプットしたところです。これで、運転は任せ放しで大丈夫です。大変便利でしょ」
 アーガスが説明しているうちにも、ホヴァークラフトが離陸していく。
 「なぜ機械装置を使うんですか? なぜ円盤と同じようにESPを使わないんです?」
 「車一台ごとにコンピュータ一台か同等のマインド一つですか? それは無駄と言うものでしょう。この方法を使えば、中央コンピュータ一台で、市全体の交通を処理出来ます。それに、指示を与えるという決まり切った仕事は、精神の力でやるよりタッチ・ボタンに任せたほうが簡単なんですよ」
 「それなら、どうして同じようなタッチ・ボタン方式を円盤でコミュニケーションや自動制御切り離しに使わないんです?」
 「その操作は、複雑過ぎてボタンには任せられないんですよ。それに、コミュニケーションと自動制御切り離しは、方法を知っている者には精神的手段で出来るんです」
 私達を乗せたホヴァー・カーは、道路のない野原の上を滑らかに走り、遠くのハイウエイに向かう。やがてそのハイウエイに乗ると、舗装がされていないことに気がついた。地上に照明が目印としておいてあるだけで、まるで滑走路のようだ。多数の車両が双方向に高遠で疾走している。地上約15メートルの空中を走っているのだ。都市に近づくと、目に見えない車線や立体交差路や進入路の数がずっと増える。しかも、どれにも物理的に存在しているハイウエイというものが無いのだ。建設や修理の問題なんて、ここには存在しないのだ!
 アーガスは様々な景色を指し示してくれている。彼の話だと、ドームの多くには、あらゆる種類の研究実験所や工場が入っているとのことだ。ほかのドームは、電気・水道などの公共施設用、住宅用、レクレーション・運動場だ。こんなにいろんな構築物や照明パターンは、私には大して理解できない。時折、何か理想境の世界の博覧会場の上を、高速で走るモノレールに乗っているような気がする。私達のホヴァー力ーは、一番大きなドームの中に入って行った。都市の中心部だ。いくつかある到着ランプの一つで、私達は外に出て歩きだす。乗って来た車はひとりでに離陸して、地下のトンネルの中に消えて行った。
 私達がいるところは、噴水や巨大な抽象彫刻がある公共広場の端だ。動くベルトの歩道が、人々の群れをいろいろな方向に運んでいる。彼らは乗って来た様々な大きさの車両を降りると、すぐに動く歩道に乗るのだ。この人達はヒューマノイドだが、その種類は多様を極めている。見かけが非常に人間に近いのから、全く非地球的なものまで、いろいろといる。体色も、虹の七色のほぼ全部がある。身長もおよそ1.2メートルから2.1メートルまでと、幅がある。ここでは、私の恰好も、改めてしげしげと見られるには値しないな、と思える。
 ここは、この都市のレクレーション・センターだ、とアーガスが説明する。どのビルも形は未来的で、優雅で、ガラスみたいな構築物だ。パステル・カラーの照明のせいで、全体が魅力的な、夢みたいな感じを帯びている。全体の美的バランスは、大変心地よい。動く歩道やエスカレータに乗って暫くあちこち見て気がついたのだが、全般的なパターンは複層の段々になったコンコースになっている。何もかもが大変興味深い!
 あらゆるものがとても清潔で、真新しい感じだ。プラスチックみたいな舗装道路や床すらも、ピカピカと光っている。普通のお店はひとつも見えないが、何だか良く分からない物が山のように積んだものがあちこちで展示されていて、只で持っていけるようになっている。看板はひとつも見えない。だが、場所や方角を示す標識はたくさんある。そうした標識は、様々な色と幾何学的な形で暗号化されている。象形文字に似たシンボルがついていみ標識もたくさんある。アーガスによると、誰もが話すここの共通語は、銀河系間標準語だそうだ。だが、私の耳には、歌詞のない柔らかな歌声のように聞こえる。だが、その旋律はとても心地よい。
 何か所かで、アーガスと私は腰をおろして人の群れを見ていた。歩いている人、動くベルトに乗っている人、螺旋形のものに乗っている人、各種の上昇装置を使っている人など様々だ。見るものがたくさんある。詳細に観察してみたいものもたくさんある。頭を絞ってどういうものか考えてしまうのもたくさんある。公共の飲料取り出し機のひとつの使い方を自力で考えて、飲み物を取り出してみた。近くに座っている奇妙な恰好をしたたくましい女性がそれをじっと見ている。飲み物は、ひどくおかしな味がする。液体キャヴィアみたいだ。それを見たアーガスが、脇腹がよじれんばかりに笑いながらこう言う。
「その飲み物は、疲れた訪問者用の肉体のスタミナ増強剤です。あの女性の真ん前で、飲み物を取り出した格好は、ここの慣習では、あなたとセックスしたい、ということと同じなんですよ。」
 アーガスが急いで私をそこから連れ去ってくれたので助かった。さもなければ、強姦されるか逮捕されるところだった。ひょっとしたら、その両方だったかもしれない!
 ある総合ビルに入っていくと、中には巨大なドームの一群がある。ドームのひとつは、中に大きさがテントくらいのクリスタルのピラミッドが何百も、同心円状に配置されているだけで、他には何も無い。アーガスの話では、このドームは「力の」グループ用で、瞑想をする場所だという。同じ総合ビルの中で、開放されているホールの側をいくつか通った。中では演芸ショーをやっているみたいだ。だが、アーガスによると、それはほぼ完壁なライブ劇場の効果をもたらす立体テレビを見る場所だという。そのほか、スポーツ広場のようなホールもあるし、トルコ式風呂の浴場の待合室のような臭いや、香を嗅ぐ部屋のような臭いのするホールもある。だが、ここでは前のような実験をしないことにした。実際には、大半の場合、ただ見て回るだけで満足した。だが、見て回るだけでも一仕事だ。精神的な疲れからスピードが落ちてきた。信じられないほどの量の新しい事物、珍しいことばかりに攻め立てられてきたのだから。
 つかの間、アーガスから離れて、手の込んだ装飾のドアに足を踏み入れていった。公衆洗面所に思えたのだ。だが、これも間違いだった。たちまち、私は強力な蒸気の流れに体ごと上に押し流されてしまった。蒸気の流れはシャンペンみたいな味がする。私の体は軽くなってふわふわと漂っている。重カ零のダンスホールの空中高く浮いている。すばらしいサイケデリックな効果と、音楽と共に舞い上がっている。アーガスがやっと私を見つけ出し、本物の洗面所に引っ張って行ってくれたが、その頃にはもう私はかなり「うっとりとした気分」になっていた。まるで酔っ払った金魚みたいに………
 その後も、もう少しあちこち見学を続けた。やっと、総合ビルの一番内側の、一番大きなドームにやって来た。何だかプラネタリウムみたいなドームだ。立ち寄って様子を見ることにする。どの座席にも、座る人が被るヘルメットが置いてある。丸天井の内側に、頭が混乱するような、色のついた光のパターンの寄せ集めがディスプレイされている。ヘルメットを被ったお客は、それを見上げるわけだ。見終って立ち上がると、平たいプラスチックの板が肘掛けから滑り出してくる。お客はそれを持って帰る。アーガスの説明によると、このやり方は、占星術で目分の位置を見て、最後に運勢を記録したものをもらうのに若干似ているという。
 ただし、ここのは単なる占星術による推測ではない。丸天井の色のついた光のパターンは、検証できる宇宙の力や要因をたくさん示している。ヘルメットは、それを被った人にとって関連性のある、選ぱれた星座にその人を「つなげて」、その星座の超自然的な解釈の面でも「助ける」のだ。このようにして、自分の「人生の蓋然性の起動」上の位置を評価し、再チェックできるし、自分の事業などの短期的にみて好ましい行動や決断の示唆を受けることができる。平たいプラスチックの本体は、都合の良い時にゆっくりと再生することができる記録板であり、そこから出ている振動を掌で感じ取れば良いのだ。
 明らかに、これはかなり精密な補助具で、自己開発用に科学的に承認されたものだ。そして、自己開発こそがこの惑星を訪れるすべての人の目標なのだ。だが、この補助具は私には使えない。私自身の「人生の蓋然性」パターンが、別の次元に属しているからだ。
 私はあらゆるものに強い印象を受けた。人々は皆健康で晴れやかな顔をしているし、成功したVIPみたいに自信に溢れている。アーガスが言うには、非常に高いレベルで活動する自己実現した人なら自然なことだ、という。更に、少数の地球人、つまり「人類の最高級の人達」が、ここで一般に見られる状態に近い、という。それでも、そのように高度に発達した人々もここに来て、一層の自己開発をしているのだ!
 アーガスが微笑みながら説明する。動機は必ずしもただ熱心な自己改善だけではない。むしろ、高めた自覚を通して、もっとも完成された状態に到達したいというのが動機だ。彼らの成功は奨励されている。というのは、彼らの才能は社会全体を高めることになるからだ。だから、この惑星の受け入れ施設も、自己意識と自己知識の改善、感性や修養や自己表現の向上に資するように作られている。それも、存在のあらゆるレヴェルで行われている。このプロセス全体それ自体が楽しめるものだし、関係者全員が得られる全体的な利益もそうであることは言うまでもない。
 私が完全に理解していないことを察知したアーガスは、更に詳しく説明する。この自已開発は、むしろ言うなれば、億万長者用の美しい魅惑的なリゾートの島に出掛けるようなものだ。そこでは、自分の技能を高め、何もかもすべてが楽しめるのだ、という。それを聞きながら、私は、そうだな、そんな「学習プロセス」なら自分でも何年かかけてやるプロジェクトとして受けられそうだな、と皮肉な考えをした。アーガスは続ける。一方、自己開発は、禁欲主義的ないし神秘主義的な方向に重きを置きながら、それと交互に芸術活動か科学的活動を行うこともできる。どのような組み合せであれ、どのようなパターンで行こうと決めるにせよ、それを左右するのは自分自身の評価だけだ。ただ、例えば、ここの「アストロ・ドーム」のような所でコンサルティングを受けたければ受けて、それによって自分の判断力を強めることもできる……
 今まで経験したことのない新しいことを大量に見聞きしたため、私の頭は飽和状態になってしまった。それに気が付いたアーガスは、見物と講義は今夜はこれでおしまいにすることにした。そこで、私たちはランプに降り、ホヴァークラフトを取りに行った。不思議なことに、ホヴァークラプトはひとりでに出てきた。まるで忠犬のようだ。私たちは離陸して宿舎があるレセプション・センターに、そして、私が楽しみに待っているあのテラスでのパーティーに向かった。

 * * * * *

 翌朝、早めの朝食を取ってから、アーガスはホヴァー・カーで私を半日旅行に遵れ出した。田舎を見せようというのだ。
 レセプシヨン・センターと「文明」から凄いスピードで遠ざかっていくにつれ、空気は甘く、芳香がしてくる。それで、少し眩量がする。地平線は、柔らかな、曇った銅色の朝靄に隠れていて見えない。日中の色は、まごつくまでに、緑銅色っぽく、夢想家ヴァン・ゴッホの絵画みたいだ。特に、青緑色の空に既にいくぶん昇った二つの太陽が投げかける奇妙な二つの影には当惑する。惑星アルゴナと名づけるよりも、私だったらむしろオキシダスと呼びたい。この惑星はあたかも「酸化」しているように見えるからだ。
 異星の世界から受ける鮮明な影響は、痛切に感じられる。だが、それは、脅威を与えるものとしてではなく、むしろ心地よい詩的な幻想の世界としてだ。というのも、ここの景色は、その不思議で微妙な質が実際には美しい。アーガスは、画家にとっては素敵な場所だ、という。珍しい様々な色合いやぼんやりとした雰囲気は、画家の探究心を引き付けるに十分だ。また、詩心を持ったものにも強い霊感を与える場所だ。その説明は、私も抵抗なしに信じられる。特に、放埒に成長した、首を傾げたくなるよな植えこみなどを見るとそうだ。酔っ払った植物学の手で配置されたに違いないような植えこみだ。だがやはり、私はこの惑星が気にいった。軽いポヘミアン的な興味を起こさせるものが、この惑星にはある。気違いじみた魅力も……
 アーガスの話によると、全く同じ都市が何十もこの惑星の至る所にあるそうだ。そうした都市の周囲には、田舎の風景が何百キロも続いており、そのようなところに散在するコミュニティーに大半の訪問者が滞在している。訪問者は、自分が求めている活動の種類次第で、何処にでも滞在できる。こうしたコミュニティーの種類は多岐にわたり、賛沢なリゾート地から、風変わりな芸術家の村、さらには禁欲主義的な鍛練のための質素な修道院までいろいろとある。
 それが位置する環境も、亜熱帯の美しい場所から、荒涼たる人を寄せつけない山脈まで、と様々だ。
 各コミュニティーの近くに、ドームに包まれた大きな地域が数カ所あり、隔離した実験場となっている。私は、コミュニティー自体よりも、こうした実験場のほうにずっと強い好奇心を感じた。ドームのなかには、無人に近いものもある。だが、そこには子供くらいの大きさの「シャポン玉」がたくさん地上高い所に浮かんでいる。しかも、大変驚いたことに、そうした泡の中には人が入っていて、自分の力で空中浮揚しているのだ。他のドームには、内部が奇妙な建設現場といった感じのものもある。石板が何処からともなく「物質化」してきたり、どうやってやるのかその方法が見えないのに、炎で切断されたり、クレーンもないのに、高く浮き上がって適当な場所に収まったりする。アーガスの話だと、このようなことは基本的には超自然的な種類のエネルギーを発生させ、それを転換して行うそうだ。また、猛り狂うエネルギーの嵐と放電流が入っているドームもある。実験者が神秘的な方法で発生させ、意のままに向けたものだ。
 「いま目にしていることは、このような強力な『作動力拡大』の場の中でしかできません。その目的は、人間の潜在力を実証することと、いくつかの基本的技能を身に付けることにあります。しかし、ただ単に意志の力だけで何か劇的なことを生み出すことは、深い所、根本の因果律のレベルに存することであって、平均的なサイキアンであっても現在は手が届きません」
 アーガスは肩をすくめながら、そう説明した。
 それでも、私はやはりとてつもないほど感心した。私の頼みで、ホヴァークラフトを離れ、あるドームに入ってみた。そこで、私はついに小さな細長い紙を一枚動かし、テーブルから10数センチ浮かせることに成功した。くだらない! とはいっても、その「成果」に心が弾んだ。
 他の種類のドームも見に行った。いくつかのドームには、いろいろな種類の、大変にまちまちの格子のような構築物がお互いに遠く離れて建っている。アーガスの話によると、ここにいる人達は振動の共鳴を実験して、宇宙の何処ででも応用できる純和声理論の研究をしているそうだ。例えば、新しい種類の音楽、詩、精神状態、工業技術等々の創造への応用などである。
 しかも、こうした人達は皆、専門家どころか、単なる普通の平均的市民に過ぎず、あらゆる職業の人で、ほんの数カ月の滞在予定でここに来ているのだ。アーガスが言うには、サイキアン連盟に属する各星群には、この惑星と同じような場所があり、各人の職業での創造性や生産性を高めながら、人生をより充実させる手助けをしている、とのことだ。
 この人達は、この別の次元でどのような人生を送っているのだろうか。アーガスによると、彼らの主たる関心事は、最大限の経験と喜びと成長で、それも万事についてそうなのだそうだ。そうではあっても、。長期的に見れば、皆が皆、生産的な仕事で社会に貢献している。遊びの気持ちから行った実験の産物でさえも、文化か経済の何らかの部門で使えるからだ。製造、電気・水道などの公共事業、運輸・輸送などはほぼ完全に自動化されているので、人々はもっと価値ある活動に従事できるよう解放されている。地球人にとっては逆説に聞こえるが、ここでは労働は経済上の必要では全くなく、むしろ楽しみであり、特権であるのだ。このことは私にもはっきりと分かる。ここでは、動機となっているのは、言うまでもなく、創造への内なる衝動、優秀さへの内なる衝動で、あたかも、皆が国家の補助金を受けている職人のようだ。
 私は見聞きしたことを心の中でじっくりと考え、こう思った。果たして地球の人類はそこまで到達できるだろうか、と! どうも、地球の貧困、無知、貧欲などのせいで、地球は悪い方へ、悪い方へと悪循環を続けているようだ。だが、すべての人にとって潤沢さのある肯定的な、前向きの循環も、すなわち、成長と賢明な生活様式という良い循環も、いったん始まりさえすれば、悪循環と同じように、簡単に続いていく可能性はあるのだ。しかし、今の状態からそのような状態に到達するには、一体どうしたら良いのか? 説教や口先だけいいこといっているのでは、駄目なことは確かだ。それにしても、悪循環をどう断ち切るのか? もし答があるとすれば、その答は何なのか?
 アーガスは、私の考えが行き詰まったことを読んだに違いない。宿舎に戻る途中、彼はこういった。
 「この見学旅行には十分な理由があったんです。明日は、他のいろいろなものをお目にかけましょう。そうしたら、いつか近いうちに、自分の旧態依然たるいつもの行動から脱却するのに、自分の力で何が出来るかがはっきりとしてくるでしょう………」

 * * * * *

第九章...異星人使節

 翌日は、全く外出しなかった。遅めの朝食を取って暫くしてから、アーガスは自分の書斎に私を違れていった。彼の書斎は心地よく過ごせるような調度品が付いている。コーヒー・メーカーもおいてあり、地球に見られる他の設備も傭わっている。
 一方の壁には、巨大な、何も映っていないスクリーンがある。彼は、講義形式でいろいろな事実を説明し始めた。その例証を示すのに、壁のスクリーンを使う。スライドや映画を映し出すのだ。だが、プロジェクターは目に見えないし、何のボタンも押さない。どうやら、意志の力だけで行っているようだ。膨大な情報がどこから来るのか聞いてみると、別にこれといったトリックはない、教育を受けたサイキアン人ならほとんど誰でも出来ることだ、という。自分のメモリー・バンクを使うか、あるいは、図書館のコンピュータに接続すればそれでいいのだ。
 アーガスはまず最初に、前の晩に訪れた「アストロ・ドーム」で、人生一般に影響を及ぼすいろいろな宇宙の力や要因のその時々の配列が示されていたことを、私に思い出させた。スライドが一枚スクリーンに映し出される。「アストロ・ドーム」でディスプレイされる密集した色のパターンの見本みたいだ。それぞれの色は各種の宇宙の力や要因を表わしている、とアーガスが言う。例えぱ、ある太陽系内の惑星同士の相対的な位置は、それぞれの部門の世界の出来事に重要な影響を及ぼす。彼は、もし地球の人々がこのことを信じないと、一般に「木星効果」といわれている1980年代前半の惑星直列のときに、ひどいショックを受けるかもしれない、と語った。
 私はスクリーンのディスプレイを良く見た。どの色をとっても、その色のついた点を合わせると、密度はいろいろだが、力の線のパターンか雲になっている。数十もの、様々な宇宙の主要な力や、惑星の磁場や、精神からの放射物には驚いた。それが、自然の出来事や人為的な出来事に影響を及ぼす、触知できない「環境」の構成に寄与しているのだ。
 アーガスはこう言う。大気汚染とか水質汚濁は地球で良く知られている要因だが、精神の汚染が真剣に考慮されることは滅多にない。だが、精神環境は人生のあらゆる側面の形成にとって非常に大事なことだ。各個人の性格や動機から、全世界的な規模のイデオロギーやそれがもたらす結果までが影響を受けるのだ。アーガスは、スクリーン上のくすんだ色の高密度の雲を指さして、私の次元などの近隣の天体系から「窓の領域」を通って漂って入ってくる「精神の死の灰」を表わしている、と説明する。この死の灰はここの天体系の数多くの重要な機能にとっては毒であり、時折、もっと影響の大きい場所ではとんでもない混乱状態を引き起こすことがあるのだ。
 アーガスが映し出した尺度の大きな次元間の地図のスライド数枚には、地球がこの精神の死の灰の大きな発生源であることが示されている。というのも、いかに距離があるように見えても、宇宙空間は一様に直線的というわけではないからだ。それは、歪みや交差する流れといった異常状態がたくさん存在していることによる。「類似宇宙」の場合は、次元間には重なり合っているところや相互に入り込んでいるところがたくさんある。したがって、信じられないほどの距離で隔てられている二点であっても、精神の死の灰に関しては、隣り合っている状態に近いこともあり得るのだ。
 それから、アーガスは、こうした精神の死の灰がどのようにして、また、何によって生み出されたかを、説明し始めた。次に映し出された数枚のスライドには、地球がもっと詳細に示されていて、精神汚染の厚い「雲」が文字通り、中東や南アフリカなどの上に、見える。インドや極東の上にはたくさんの点があり、ヨーロッパと南北アメリカ大陸の数カ所にも点がいくつか見える。こうした雲や点が何を示しているかは明らかだ。これは、憎悪と恐怖、暴力、社会不安などをはっきりと示している地図なのだ。「平和を愛する」豊かな国々の人口密集地の上にある点が何かは、推測に難くない。恐怖心、貧欲、妬み、激しい競争心などが放射されているところだ。北米のある大都市をクローズアップした地図では、差別、偽善、粗雑な物質主義などの死の灰が推測できる。これらが合わさって、全般的な精神スモッグとなり、今度はそれが原因となってスモッグの量が増えたり、質がさらに悪化したりしてしまう可能性もある。地球の「精神の天気図」のスライドは、全く説明を要しない。私は心の奥深いところが、つき動かされるのを感じた。
 講義を一時中断して、コーヒー・プレイクとなった。この機会をとらえて、私は不思議に思っていることを訊いてみた。つまり、他人に配慮をしない人間の行動が、何年もの間にかくも大きな不幸と苦悩をもたらしてきた、だがその一方で、自然も同じような残酷なやり方で適者のみを生存させてきたのは何故だろうか、と。それは状況次第だ、とアーガスは言う。低いレベルでは、適者生存の原則は確かに妥当なものだ。しかし、生物がいったん十分に進化すると、チームワークと協力がなけれぱ、文明のさらなる発展はない。
 そうなると、その前の段階での適者生存という考え方は、全くの障害物となり、非常に危険ですらある。集団全体の最適な福祉というのは、各人がお互いのことを本当に考えるべきであることと、一人にとっての善はすべてにとっての善に従属すべきであるということを、皆が認識した場合にのみ、達成できる。
 講義が再開された。次にスクリーンに映し出されたスライドには、様々な地球環境のいろいろなグループの人達と、彼らの精神の放射物が一緒に示されている。特定の活動、例えば、勉強、ホッケーの競技、商品の販売、宗教的礼拝などが、独特のはっきりとした特徴のある放射物を生み出しているようだ。これは、グループ単位だけではなく、グループ内のどの個人にも当てはまるが、個人の場合は、特定の行動とは別に、各人それぞれに基本的な放射物がある。
 アーガスは、数枚のスライドを次々と素早く連続して映し出した。人物のシルエットの写真と、その人の周囲に「オーラ」を形成している精神の放射物の色だ。オーラの色の内側の部分は、その人の基本的「振動」、つまり、健康要因、遣徳面の価直観や方向性、心的態度と動機などの特徴を示していて、オーラの外側の部分は、むしろ、表面的な感情や状態、関心事などを示している。
 アニメーションのようにスライドを「流しながら」、アーガスは平均的な人間の一日の主な活動を説明して、それと共に起きるオーラの変化を示す。次に、五人家族の行動と、各人のオーラの変化が示される。教会に行くところ、昼食に出かけるところ、浜辺に行くところのスライドだ。各人それぞれがお互いにずいぶんと異なり、共通の場面での反応の仕方や関係の仕方も大いに異なる。私は夢中になって見ていた。
 つまるところ、オーラは個人の極めて内的な特質を示していて、その人がある状況でどういう態度をとるかが大体予測できる。オーラを一目見ただけで、その人の道徳的資質、内的なバランス、個性の強さ、価直観、完成度などが簡単に分かるのだ。
 簡単に分かるというのは、アーガスのような人や円盤の中枢知性にとって、ということだ。私はオーラの色やパターンの大体のことは理解できるが、十分に深いところまで知るというのはそれ自体が科学だ。群衆の中にいる人を遠くから特定できたとしても、多数の人間の中からその人の微妙な心理状態や全体的な人間性をすぐに評価できるのは、やはり専門家でなければ無理だ。こうしてみると、なぜ円盤が遠くから私を選び出せたか、どうして私の心が読めたか、が分かる。
 アーガスの話では、地球の人間の中には部分的にオーラが見える人もいて、その力をもっと発達させた人間もいるという。だが、ここの次元の人達の場合は、そのような能力は自然に傭わっていて、ちょっと「チャンネルを合わせ」てみようと思えば、それでオーラが見え、大体のことは目星がついてしまうという。アーガスは今度は、平均的な地球の人間とここの次元の平均的人間を二人並べたスライドを映し出した。後者のオーラのパターンは、精神的・心霊的資質に関して、全般的により健康で、強く、はっきりとしている。このスライドについてアーガスは、人体の七つの「パワーセンター」(チャクラ)を指摘し、こうしたセンターが十分に機能しているならば、そこからそれぞれ独自の強力な振動が出ている、と説明した。地球の人間の場合、このパワーセンターは、機能が極めて弱いか、あるいは全然機能していないか、のどちらかだという。こうしたセンターのパワーの強度によって、人間の全体的存在のレベルが低くなったり高くなったりする。言うまでもなく、例のプースターの目的はそこにあった。つまり、適切なパワーセンターの機能を増幅することで私の振動率を高める手助けをし、私の心身が共に暫くの間ここの次元で機能するようにしているのだ。だが、この状態は恒久的なものにはできない、とアーガスは言う。私がチベットに連れていかれ、その結果、肉体の化学的性質と分子構造が変化していても、無理だという。
 人々の分析と診断が終わったので、個人が良いほうに変化するにはどうしたら良いか、とアーガスに訊いてみた。それには三つの方法がある、という。第一は、分別のある前向きの生き方をすること、第二に、自覚意識のレベルを高めること、第三に、振動率を変えること、だという。どれから始めても、変化は残りの二つにも累積的な影響を及ぼす。結局は、この三つの側面は、同じ目標につながっている異なる入り口に過ぎないからだ。振動というのは人間の肉体と生命の機能にどういう関係があるのか、と訊くと、アーガスはこう説明する。全てのものはそれ独自の特定の周波数で振動しており、それには人間も含まれる。
 「人間は、DNA分子を通して遺伝子によって作られた単なる生物化学的な機械ではなく、もっとそれ以上の存在です。暗号化された遺伝子や生物化学的性質のほかにも、私たちの形態と機能は実は触知できない組織要因に依存していて、この組織要因は、振動の場と呼ばれるエネルギーのパターンを通して現われます」
 アーガスは話を続ける。
 「各人の全体的な振動の場の中で、人間のいわゆる生命の場ないし『工ーテル体の場』というのが、原子や分子、細胞や器官を支配している要因なのです。ですから、こうした下位場の振動率を変えると、分子構造と化学的性質が変化し、今度はその変化がその人間全体を変えることになるのです。こうした変化には多岐多様なものがあることはもうご覧になった通りです。変化の結果、異なる次元に存在することもできますし、人間の潜在能力、ESPの能力、が顕在化することもあります。範囲は限られていますが、地球の人間もこの振動原理が作用しているところをすでに目にしています。というのも、これは地球の人間にとって常識になっていることですが、熱、音、光、電気通信、核放射能・・・こうしたものは周波数が異なっているだけなのですから」

 「先程言いましたように、人間の化学的性質と機能の本質を支配しているのが、全体的な『エーテル体の場』です。そして、この『エーテル体の場』に影響を及ぼしている、もっとずっと触知できない組織要因があります。それは、人間の理解をはるかに越えているもので、『コーザル体の場』と呼ぱれています。この『コーザル体の場』こそが、実際には、『エーテル体の場』とそれと共存している『メンタル体の場』を生み出しているのです。そして、『エーテル体の場』が肉体を、『メンタル体の場』が精神・心を生み出しているのです。私たちが治療をする場合、単に肉体や心理面を医学的に治療する代わりに、各種の場のバランスを治すという方法で根本的な原因から治癒します。その結果として、健康面で深刻な問題は滅多にありませんし、寿命もずっと長くなっています」
 「そのほか各種の変化を『エーテル体の場』や『メンタル体の場』に、技術的な方法や心霊的な方法で、起こすこともできます。しかし、このような方法で大きな変化を起こしても、それは恒久的にはなりません。『現状』を維持する『コーザル体の場』のパターンが、それを許さないからです。成長か発達か、どちらかの自然なプロセスなら恒久的な変化は起きます。この自然のプロセスというのは実際には、自分の『コーザル体の場』のパターンの潜在能力が最大限まで段階を追って発展していくことで、これはあらゆる生物に共通しています。このように、字宙的な意図全体も徐々に明らかになっていきます。ただし、それには、はっきりとしたサイクルがあります。例えば、惑星のサイクルは、非常に原始的な状況から、あらゆる面でもっともっと洗練された状況へと変わっていきます。そのようなあるサイクルから次のサイクルヘと変化していく姿は、ショックを覚えるような非常に大きな飛躍のように思えるかもしれません。地球の先史時代の地質的なサイクルの変化とか、根本的な気候の大変化などを考えれぱそれはお分かりでしょう。サイクルの変化を無視すると、自分の身に危険が及びます。凍え死んでしまうか、焼け死んでしまいます。あるいは、恐竜と同じ運命を辿ることになってしまいます」
 「惑星地球は今、もうすぐで根本的な宇宙サイクルの変化を経験するところに来ています。人間の時間で精々一世代もしたら、次のサイクルが、現在の地球環境の次元とは大分異なる次元で始まっていることでしょう。黄金時代の始まりです。本当に賢明な美しい世界が、今よりずっと高い振動のレベルで始まるのです。残念ながら、現在の地球は依然として、振動が低く、偽善的で、同胞を傷つけあっています。この避けられない変化までに残された短い時間内に大きな向上が見られなければ、全世界的な大きな問題がたくさん出てくるでしょう。これからやって来るサイクルの振動は猛烈に高く、精神汚染で一杯になった地球と衝突して、凄じい大改革を引き起こすでしょう。本質は浄化であっても、このサイクルが基本的な力を爆発させるのは避けられず、精神が下劣な人々や心の狭隘な人々を打ち砕き、政治面での混乱と破滅的な戦争を引き起こし、大規模の天災すらも惹起するでしょう。また、そのような状況から精神の死の灰が更に増加し、私達としては避けたいのですが、ここの次元にいる私達も影響を受けてしまうのです」
 「これは分かりきったことですが、もっと平和的な形でこの新しいサイクルに移行できれば、そのほうが関係者全てにとってずっと良いのです。そこで、この次元の私達が登場してくるわけです。私達は長い間、地球の状況を改善するお手伝いをしようとしてきました。また、巨大な宇宙船の大艦隊も準備しています。これは、大規模の壊滅状態になる恐れがありますので、それが起きてしまい他に選択の余地がなくなった場合、できるだけたくさんの人々を救出するためです。振動率の高い、新しい次元に住めることのできる生存者は、全地球人口のほんの一握りの人達でしょう。彼らは、ブースターの助けを得て地球の次元から脱出するのに十分高いレベルの人達です。初期の救出作業では、このようなレベルの高い人達は、「オーラ探知」で字宙船から簡単に見つけ出せますし、様々な方法で救出できます」
 「新しい次元に順応でき、その意思もある生存者達は、救出された後で、『ノヴァ・テラ』という地球に似た惑星に案内されていきます。この『ノヴァ・テラ』は既にここと地球の間の次元に準備中です。貴方の乗った円盤がもっと高い中間の次元で母船に収容されたとき、貴方はこの地球に似た惑星を既に垣間見ていますよ。そこに地球の生存者達は滞在するのです。十分に進歩して、振動率の高いレベルに住めるようになるまでそこに留まります。そして、地球が浄化・正常化され、高い振動率の新しい次元になり、再定住の準備が整ったら、向上した人類が移っていくのです。『ノヴァ・テラ』から・・・」
 アーガスの途方もない言葉に、私は体中がショックを受け、動揺した。喉の渇きをいやすものが必要だった。その後、はっきりとしない点がいくつかあったので、アーガスは丁寧に説明してくれた。
 「この新しい、向上した人類が、『ノヴァ・テラ』という一時避難用の惑星に滞在するのは、移行期だけでしょう。やがては戻っていくという理由は、彼らにとって地球が何と言っても本当の故郷であり、地球にはそれなりの進化と運命があるからです」
 「地球の人間は素晴らしく多様性のある貴重な種族です。比較できないほど貴重な資質や潜在能力をたくさん持っていますし、絶対に助ける価値があります。それに、この次元の将来の運命は、地球人類の運命と密接に繋がっているのです」
 「私達は、地球の人々を助けることができる立場にありますし、私達の倫理では、助けるのを避ける方法はありません。大事なことを一つ言い残しました。それは、この問題に関して私達には選択権はないということです。私達を越えた強大なパワー、私達が『ガーディアン』と呼んでいるパワーが、助けてやって欲しいといっているからです。彼らは、あらゆる人類の『兄』であり、『普遍的法律』の執行者なのです」
 「では、なぜUFOは『惑星地球』でいろいろと隠れんぼみたいな活動を行っているのですか? 全世界に公表されるように正式に接触して、なぜ皆に伝えないのですか?」
 と訊くと、アーガスは次のように答えた。
 「それは、そんなに徹底的に干渉するのは正しくないからです。絶対に必要な場合は別ですが。私達が大挙して地球に着陸した場合の、心理的な影響の大きさを考えてみて下さい。地球の運命線にあからさまに手を加えることになってしまいます。地球の運命は、地球の人間だけが自分の力で解決すべきものです。とはいっても、私達は地球の破局や迫り来る大戦争を先伸ばしにし続けていますが、これは最低限の、表に現われない方法でやっていますし、新しい宇宙のサイクルヘもっと平和的に移行できるように時間を稼げればいいと思いながらやっているのです。今までのところ、希望は確かにあります。『水瓶座の時代』のかなり平和的な夜明けとなるのではないでしょうか」
 「それでもやはり、地球の人々に私達が存在しているという真実をやがては知ってもらいたいと思います。宇宙に存在しているのは地球の人間だけではない、地球の人間が最高に進化していないのは明らかだ、という事実に気づいてもらいたいのはもちろんですが、先ほど述べた理由からも私達の存在を知ってもらいたいですね。本当のことを浸透させるのは、最初はゆっくりと、そして徐々に加速していったほうが良いのです。ついでに言いますと、私達の遠くの協力者である『エーテリアン』は、こうした浸透作戦みたいな宣伝・普及に関しては最高です。彼らは、滅多に姿を現わしませんが、地球の人々に対してテレパシーによる情報伝送を活発に行っていますよ」
 「UFOもたくさん目撃されていますし、接触も時折あります。被接触者、コンタクティー、の中にはUFOに乗せてむらえる人もいますが、その形態はいろいろです。いつも少しづつ異なっているのです。見せたい側面がいろいろとあるからです。UFOの種類もたくさんありますし、到来する形態も形も様々です。それは、サイキアン連盟世界の他にも、私達の銀河同盟にはたくさんの天体系があり、多種多様な文化があるからです。ほんの数日間で貴方に全てを見てもらうことはできませんから、私達の最も特徴的な方法を少し貴方に知ってもらうために、ある方法を考えざるを得なかったのです」
 「だからこそ、貴方には特に異例な方法で、この特種な惑星に来てもらったのです。できるだけ十分な背景情報を得てもらい、最大限の直接体験をしてもらうためです。他の地球の人間は、貴方の場合とは違った接触をされているかもしれませんし、旅行も異なっていたり、伝えられる『メッセージ』の指導方法も異なっているかもしれません。でも、伝えられるメッセージの最も重要な部分は、どこでも同じです。つまり、『地球人よ、変わりなさい、さもなくば滅ぴますよ!』ということです」
 「貴方や貴方のような人達については、自分の変容を加速しなさい、というアドバイスを差し上げましょう。変化を加速すれば、新しい黄金時代に入れます。本当にその気があれば、そうする方法は見つかります」
 「自分の友人や、できるだけたくさんの人に、この冒険に満ちた旅で自分が学んだことを伝えなさい。伝える相手が多ければ多いほど、賢明な方向修正を大々的に行える可能性が高くなります。私達のことを知った人の中には、マスコミに話したり、講演をしたり、本を書いたりした人もいます。自分の経験を人に伝えるか、全然伝えないか、それはまったく貴方がご自分で決めればいいことです」
 「これで、貴方に伝えたいことは全部伝えました・・・」
 私は、沈黙したままだ。何を口にしたら良いのか分からない。アーガスの講義から洪水のように出てきた意外な新事実に圧倒された感じだ。今の話をちゃんと整理できるだろうか、とおぼろげながら思った。
 「じゃ、これで私の滞在も終わりですね」
 私は沈黙を破って言った。
 「そうです。最も重要なことはご覧になりましたからね。間もなく、故郷の惑星地球に輸送されるでしょう。もっとも、それは他の者が手配しますが」
 アーガスは椅子から立ち上がった。
 「もう来ているはずです。引き継ぎにご案内しましょう」
 エレベーターでペントハウスの階に上がる。アーガスが装飾のあるドアをノックし、開けて中を覗き込み、私の方を振り返った。
 「お入り下さい。スペクトロン司令官が既にお待ちです」
 アーガスは脇に寄り、親愛の情を込めて私に敬礼した。
 「ごきげんよう。貴方のご無事を祈ります、兄弟よ・・・」
 アーガスが、静かな声で言った。

 * * * * *

 ドアが背後で閉まる。そこは圧倒されるほど広く贅沢なスイート・ルームだった。壁という壁は書棚と控えめのパネルで覆われ、幹部専用クラプみたいな趣だ。
 背の高い、プロンドの髪をした男が一人、皮革の肘掛け椅子がいくつか置いてある部屋の隅に立って、私の方を向いている。宇宙艦隊提督のようだ。上品に体にぴったり合ったチュニックを着て、胸には見覚えのある大きなメダルをつけている。温かい微笑みを浮かべながら、私に椅子に座るようにと合図した。
 私は驚きで気が動転してしまった。その男は、誰あろう、何と、あのクエンティンなのだ。半年前、(カナダのトロントの)サイキック・フェアで会うように仕向けられた、あの不思議な男だ・・・
 「こんなところで会おうとは!」
 やっと声を出すことができた。
 「お久し振りですね」
 彼は、サイドボードからプランデー・グラスを二つ取り、一つを私に渡して、
 「それでは、再会を祝って乾杯しましょう」
 と言った。
 プランデーの味は素晴らしかった。落ち着きを取り戻すため、床から天井まで書棚にびっしりと詰まっている何千冊もの書籍を見回した。
 「不思議に思っているかもしれませんので言っておきますが、ここにあるのは地球の本の複製です。大体が訪問者用ですが、装飾の役目も果たしています」
 クエンティンが書籍を指差しながら、説明した。
 私の目はクエンティンのところで止まり、彼を見つめた。非常に堂々とした姿だ。人を引き付けずにはおかない魅力に満ちている!
 「貴方がサイキアンの宇宙司令官だなんて誰が想像したでしょうね?」
 と私はまた口を開いた。
 「先日アーガスが、貴方はここに来ていない、と言ってましたけど」
 「彼は本当のことをいってたのです。その時、私はここにいなかったのですから。それに、私はサイキアンではなく、スペクトランの顧問です。私は全く別の次元の人間です。職務はいろいろとありますが、とりわけ、適した訪問者をこちらに遠れてくるのが私の責任ですので、それに相応しい『スペクトロン司令官』という仮の肩書きをくれたというわけです」
 「そうですか。でも、あなたが責任者なら、アーガスの役目は何なんですか?」
 「アーガスの役目は主に、調整役と接待役です。しかし、それも、自分で訪問予定者が安全な人物であると証明してからです。アーガスはサイキアン宇宙艦隊諜報部の参謀将校なんですよ」
 「それで、アーガスは字宙の交通や相互移住が気になるんですね?」
 「まさにその通りです。ですから、心霊的に心の調査をしていて、『奇妙に』閉じた心の部分が見つかると不安を感じるのも当然です」
 「たとえぱ、私の場合のように?」
 「ええ。でも、心配しないで下さい。複数の方法で調べましたが、本質的に、あなたは大丈夫ですから」
 「それはどうも。ところで、一番最近の徹底的な調査は楽しかったですよ。あのプールの側にいた人達との『楽しいパーティー』はね。でも、なぜこんな遅い段階でやるのか分かりませんね。私の訪問はもう終わりなのに」
 「そうです。間もなく、貴方は惑星地球に戻ります。でも、もちろんそうなんですが・・・でも、別の旅行に出る気がおありなら、つまり、ずっと『遠く』へ旅してみたいという気がおありなら別ですが」
 「で、その旅行というのは?」
 「例の委員会に会いに行く旅です。お望みなら、ですが。委員会は貴方に直接会いたがっている、という兆候が既にあるんですよ」
 「是非、行きたいですね」
 「それは嬉しい。でも、そんなに簡単ではないんですよ。この旅はかなり危険です。私達の観察によると、貴方がこのような旅に適していることは分かっています。また、危険もできるだけ少なくします。でも、やはり、あくまでも貴方自身の意思によらなければなりません」
 「行きます。どうせ、私には何も失うものはありませんから」
 「気が狂うかもしれません。もしかしたら、命を失うことになるかもしれませんよ。そういうことになる可能性は非常に少ないですが。しかし、性格が変わることは確かです。良くなるほうへの変化でしょうが、決して、以前と同じというわけにはいきませんよ」
 私は、ちょっと考えてから、肩をすくめてこう言った。
 「『好奇心は身を誤る』というけど、行きたいですね」
 クエンティンは微笑んだ。
 「そうおっしゃると思ってましたよ。じゃ、これで決まりです。ここで少しお話をしたら、すぐに出発できます」
 「ところで、この委員会というのは一体何ですか?」
 状況が良いと思える間に、少し細かい説明をして欲しいとせっついた。
 「ガーディアンの委員会です。人類の兄達で構成されているんです。全ての次元で作られている世界に存在しているんです。貴方の世界もこのたくさんの宇宙の一つに存在していますし、ここの世界も、別の次元にある私自身の遠い世界もそうです」
 「兄達? 宇宙の兄弟とか、古代の兄弟とか、グレート・ホワイト・ロッジとかについての物語に出てくるような人のことですか?」
 「まあ、それに似たようなものですが、まったくその通りというわけでもありません。それに、名前や概念は大事ではありません。大事なのは、本質です。ですから、便宜上、『ガーディアン』ということにしておきましょう」
 「この惑星にはいないんでしょうね。別の次元に住んでいるんですか?」
 「彼らには、次元なんてありません。複宇宙のどの物質的次元を探しても、そんなところにはいないんです。彼らは、こうした複宇宙の構造『外で』、完全に非物質的なレベルの最上位に存在し、機能しているんです。彼らは霊的な存在で、部分的にすら顕在化していないのです・・・」
 「すると、幽霊みたいな存在?」
 「違います。彼等は死んだことはありませんからね。彼らは、ずっと昔のことですが、まだ人間の肉体にある間に不老不死になったのです。肉体はもう必要としませんから、彼らの意識は『魂の本質』とも呼びうるものの中に住んでいて、物質界にとっては近づけない存在です。そこから彼らは、私たちの物質世界が適切に機能し進化していくのを監督していて、必要な場合に小さな軌道修正を行います。ただし、この修正は、宇宙全体の構想と合致している場合ですが」
 「合致しているかどうか、どうして分かるのですか?」
 「グレート・アンマニフェスト(偉大な潜在)界からの洞察力を通して分かりますし、時々、諸条件が整えぱ、アセンディド・マスターズと協議をして分かることもあります」
 「『潜在』というのはどういう意味ですか?」
 「物質界のものであれ非物質界のものであれ、どんな世界や生物にとってもまったく手の届かないものです。それでも、潜在界は存在しています。潜在的にね。『無』とか『宇宙的無意識』と呼びたがる人もいますが」
 「そうすると、彼らガーディアンが宇宙全体を支配しているのですか?」
 「そうではありません。彼らが導くのは人間界だけです。他にもいろいろな天体系や次元、字宙があり、そこには様々な人間ではない異星の生命形態が存在していて、彼ら独自の指導・支配階級があります」
 「すると、全体を支配しているのは誰ですか?」
 「それについては、はっきりとした事実を掴んではいません。ただ、主観的な考えはありますが。『究極』のことになると、簡単な答というのはありません。宇宙について分かっているところ全体、それ自体が深遠で、測り難く、ダイナミックで、常に進化しています。『無』の深みから展開し続けているのですから・・・」
 「彼らガーディアンは、なぜ私たち物質的宇宙の面倒をわざわざ見るんですかね?」
 「私達の世界が、彼らの庭みたいなものだからですよ。私たちが健康で幸福であればあるほど、彼らにとって好ましいのです。芸術家肌の庭師みたいに、技能を使って悪を防ぎ、私達を栄えさせたいのです」
 「ひょっとしたら、善を装った悪の勢力かもしれませんよ」
 「いや、そうではありません。彼らが善であることは、その行動から非常にはっきりとしています。結果を見れば、分かります。もちろん、そういう疑いを持たれても、貴方を責めることはできません。地球の低開発地域の人々も、豊かな諸国からの援助行為に対して同じように感じますから。ところで、貴方は、深宇宙からの何か悪の力の『トロイの木馬』に私達がなっているのかもしれない、と恐れていますが、それでもやはり、私達は、地球ミッションを推進していくしかないのです。というのも、私達としては、他のもの、ひょっとしたら冷酷な異星人の可能性もありますが、そのようなものに先んじられて、私達の『裏庭』でコンタクトを取られたくはないからです。本当に、宇宙には命取りになる勢力が存在しているんですよ。ですから、私達が自分の同類にぴったりとつくのもまったく当然のことです。人類の宇宙間『連邦』のようにね」
 クエンティンの話は何もかも筋が通っているようだ。私は信じる気になった。というより、少なくとも、彼の話に有利な解釈をしてみようと思った。正しいとも間違っているとも、今は証明できないからだ。
 クエンティンは話を続ける。

 「とにかく、本質がむき出しになっているレベルでは、嘘をつく方法もないし、嘘をつく必要もないんです。ガーディアンが『光の勢力』の側についていることは、全く明らかです。傲慢な『暗黒の勢力』のあからさまな敵意が明らかなようにね。実は、この赤裸々な悪は、同じような精神構造のものにとって依然として強い魅力があり、味方について頼みごとを引き受けてくれと誘われてさえいるんです」
 「このガーディアン達は、仕事をする代わりに、どこかパラダイスみたいなところへ行って、楽しく過ごすということはできないのですか?」
 「実際のところ、そうしようと思えばできます。彼らは永遠の至福の権利を獲得していますからね。ところが彼らガーディアンは、この展開していく宇宙の中に、自分達から見れば『【外に』、留まる道を選んだのです。それは、『暗黒の勢力』から私達が破壊されるのを守り、私達の進化の道に沿った成長を導き、後進地域の無知による不要の苦しみを和らげるためにです。どこかの天体の『平和部隊』の隊員みたいに、喜びに満ちた創造力に通じる前向きの、もっと効率の良い様々な方法を示すためなのです。ですから、彼らガーディアンはこの仕事を続けます。私達皆が無知から解放されて、ほどよく完壁に近い状態になるまでです」
 「そうすると、アセンディド・マスターズは、これに関わっていないようですね」
 「全く関わっていないわけではありません。彼らは、もはやこの世のものではない、想像もできない高みまで昇ってしまっていますが、それでもガーディアンを通して接触は保っています」 「ところで、なぜ私達はそもそも最初から完壁にできていないんですか?」
 「いや、ある意味では、完壁にできていますよ。赤ん坊のときは完壁だったんです。分化していない空白の状態でした。ところが、それからは、無数の個人的な経験を通して、性格、知識、愛などの完成にむけてしか成長できないのです。そして、この成長の旅こそがまさに存在の意味なのです。生きるというプロセス自体はその所産であって、最終的な結果ではないのです。どの時点であれ、その時その時の経験は一つ一つが同じような重要性を持っており、どの瞬間でもそれぞれが他と比較できないほどユニークなのです」
 「もし私達の現在の『今この場』というのが、壮大な宇宙的存在のそれと同じように重要ならば、ゆっくりと時間をかけて成長を続けたら良いじゃないですか。なぜ急いで向上する必要があるんですか?」
 「それは、貴方がたの現在のサイクルの時間がなくなって、根本的な変化が差し迫っているからです。貴方の惑星の有史以前の過去に、間違った出発や挫折が多すぎたんです。地球の人間は、生命の成長の真の方向をもはや無視できないところまで来ています。破壊的なパワー・ゲームを続けて、真の進歩を避け続けることはできません。もっとも、地球人類という種族が、地球の過去に存在していた恐竜のように絶滅したい、というなら話は別ですが。引き続き適応して行くか、あるいは絶減するか、二者択一です。例えば、宇宙を航行している超文明を持つ何らかの異星種族が、間もなく接触してくるかもしれないという強い蓋然性を無視することはできません。文明化した行動をとり始めなければなりません。現在の狭隘な人間の信条体系を超越・拡大して、様々な新しい要因をたくさん吸収する必要もあります。夢にまでみた、今よりずっと高度の生活様式を実現するとてつもない可能性があるのですから、それを無視することはできません。ところが、地球の人間は旧態依然として、さもしい物質主義と偏狭さに満ちたひどい生活をしているではないですか。これから貴方の惑星にやって来るサイクルの変化と振動率の増加を無視することはできません。そうした変化を生き延びられるのは、より高度の精神構造を持っているものだけなのです」
 「そうですね。私にはかなりはっきりと分かります。地球人はもっと健全かつ建設的な価直観が必要だということですね」
 「そうです。でも、生命の各側面はそれなりの環境内で重要です。ですから、全体的なバランスと全体論的な視点に立ったアプローチが必要です。貴方の物質性・身体性にとって、貴方が人間であることは、詩学や精神性と同様に童要なことです」
 「貴方の言いたいことは、はっきりとしていると思います。つまり、『地球人よ、襟を正せ、さもなくば、破滅するぞ』ということですね?」
 クエンティンと私は、沈黙したまま暫く座っていた。それから、私がまた口を開いた。
 「先程の話では、ガーディアン達は、物質世界からは近づけないレベルで、魂の本質に存在しているということですが、そうすると、肉体を持ったこの私はどうやってガーディアンに会うのですか?」
 「具体的な仕組みは私には話せませんが、貴方は問題なくその場に運ばれますから、大丈夫です。私に話せるのほ、私が関わっている部分だけです。でも、その前に、もっと長い一般的な背景情報から始めないといけませんね」
 「私のほうは準備はいいですよ。どうぞ始めて下さい」
 「この銀河系の中心にかなり近いところに私たちは今いますが、その中心は非常に奇妙な星雲状態のなかなか通り抜けられない空間で、『大混沌(カオス)の障壁』と呼ばれています。あらゆる種類の宇宙船が、そこを迂回せずに突っ切っていって反対側の天体系に行こうとしました。数多くの宇宙船が怪物のような電気嵐に遭遇して、航行不能になったり行方不明になったりしています。通り抜けられそうな道を探したり、周辺で希少な元素を採取している間にそうなったんです。今日まで、その障壁地帯はこの銀河系の中で最も不思議で最も困難な場所になっています。この回転し、常に移動する混沌障壁の広範囲にわたる螺旋状の腕の中で、私たちの初期の探険家達は、異なる次元の他の宇宙につながる複数の『窓の領域』を偶然に発見しました。こうした『窓』の一つが、貴方の宇宙の地球の太陽系につながっているのです。貴方はその窓を通って、例の障壁の中心から遠いほうにやって来たのです。それで、ここに到着するのに迂回路を通りましたから、比較的長時間かかったのです。仮に、今戻るとすると、窓までは今度は一っ飛びです。それは、窓の位置が近いところに移動しているからです。既にお分かりのように、密度の濃い貴方の天体系に移動するのは、私たちにとっては難しく、称賛に値することです。従って、私達としては、大半の場合は無人の宇宙船を使いたいわけです。ところで、貴方は既に、この障壁を遠くからご覧になっていますよ。貴方が最初の次元間移動を終えた直後に、遠くに星雲のようなものが見えましたでしょう。それがそうだったんです。それに、母船でこちらに来る途中、最後の方で奇妙な電気嵐を経験されたでしょう。ご記憶ですか? 惑星落下のほんの数時間前のことですが。あの電気嵐の原因は、障壁の遠くまで伸ぴている螺旋状の腕の一つだったんです。その腕が突然に貴方の飛行進路に移動してきたんです。命を落とさなかったのは本当に運が良かったんですよ!」
 「すると、その障壁は、ここの空を支配するくらいだから、近いところにあるはずですね。でも、惑星落下の時に見た記憶はありませんがね」
 「遠すぎて、はっきりとは見えないんです。貴方の乗っていた母船の航行速度は、標準遠度と比べても信じられないほどのスピードでしたし、それに加えて、『スペース・ジャンプ』も何度か行いましたしね」
 クエンティンはこう答えてから、話を元に戻した。
 「とにかく、この混沌障壁の核となっているところは、今もって全く未知の状態です。私達の銀河系の人口に膾炙している『宇宙神話』によると、あの猛り狂う嵐の奥深いところに『幽霊船』がいるとされています。そして、『幽霊船』は勇敢な冒険家を『目』の中に連れていくこともある、と。その『目』は、『神々』の住む世界だといわれています。もちろん、公式には、これは単なる馬鹿げた話に過ぎませんで、地球の捉え難いUF0の話と大体同じ扱いです。公式には、この障壁全体は依然として、航行不可能の神秘的な場所とされています」
 「でも、実際には、『幽霊船』は存在してるんですよ。一般の人には知らされていませんで、一握りの選ばれた人しか知りません。それがガーディアンの意向なのです」
 「それでは、我が友よ、貴方を連れてきた母船がこれから貴方を混沌障壁そのものの外側の広がりの中へ、ガーディアンの訪問者用の特別連絡船の近くまでお連れします。つまり、『幽霊船』へです。母船内にも円盤内にも、この丸一日かかる旅行の間は、食料も飲み物もありません。あるのは、清め用の噛む物質だけです。円盤から最後の乗り換えをする前に、必ず腹の中を空にしておいて下さい。
 『幽霊船』に乗ったら、自分に割り当てられた部屋にすぐ入り、身に着けているものをすっかり脱いで、体にぴったりと合う服だけを着て下さい。そしてすぐ座席に座るように。それから、『幽霊船』は貴方を『目』への移転ゾーンに連れていきます。そこから先は、サイキアン艦隊の頭脳達さえも知らない様々な力やプロセスがやってくれます」
 「お話は以上です。さあ、引き継ぎはこれで終わりです。間もなく出発できますよ・・・」


第十章...ゼロ点での逆転

 七機の円盤を満載した母船は、いくつかの螺旋状の腕の側を通り越して、恐ろしい『星雲』障壁にぐんぐんと近づいていく。私が母船に乗船した時点では、既に他の六機の円盤はそれぞれの停泊位置に入っていた。そして、私の円盤が私を乗せて出発する時間が来ても、他の六機はまだ元の位置のままだ。
 私を乗せた円盤は、あの大混沌のくすんだ、激しく荒れ狂う宇宙空間に一直線に飛び込んでいった。二時間ほどすると、円盤は揺れに揺れ、私は転げ回るほどで、本当に何かにしがみつかざるを得ない状態になった。それが過ぎると、ぼやっとした、あちこち動いている蜃気楼みたいなものを見つけた。『幽霊船』だ。その大体の辺りを円盤は大きく一周した。だが、『幽霊船』の位置や正確な形をつかむのは容易ではなかった。『幽霊船』が移動しながらその形を歪めているのと、荒れ狂う状況のためだ。暫くして、数分間だが比較的はっきりとした姿をとらえることができた。
 『幽霊船』は巨大な、不透明のくらげのようにちょっと見える。節が多数あって白癬のようだ。ガラスのような物質のひれ(水平柁)がいくつかついている。一群のロケット発射管が船尾から突き出している。船首と思えるところは大きな『鼻』みたいなドームで、その回りには斜めになった円窓を通って七つの魚雷管の開口部がある。
 『幽霊船』の腹部が開き、円盤を一機吐き出した。円盤は物凄いスピードで飛び去り、見えなくなった。別の円盤が外側から現われた。飛び跳ね、揺れている。どうやら、『幽霊船』の開かれた腹部に入ろうとしているらしい。だが、どうも無理のようだ。と、そのとき、紫色の波紋のついた光線、明らかにネットのようなエネルギーの『牽引ビーム』が『幽霊船』の腹部から伸びてきて、それが円盤を引っ張り込んだ。間もなく、その円盤は最初の円盤と同じように吐き出されてきた。その後で、私の円盤が『幽霊船』の方向にゆらゆらと傾き始め、『牽引ビーム』に捕まり、腹部に引っ張り込まれた。中で、円盤のドアが開き、私は外に出た。そこは、密閉された、上部が湾曲した、管のような通路だ。そこを通っていくと、七つの不透明の個室がある円形の部屋に出た。個室の二つは既に使用されている。だが、無人の個室がひとつ開いている。私が使うためのようだ。
 個室の中に入ると、出入り口は背後でぴったりと閉じた。私はブース夕ーもブーツも、銀色の宇宙服も一緒に脱ぎ捨て、そこにあったドライバー用の服に似た、真新しい自己密封式の服を着た。足の底は厚く、一体式のフェイス・マスクもついていて、そこから何とか呼吸もできるし、目の位置からは外も見える。柔らかく、絹のような感じで、暖かく体にぴったりとしている。まるで蛇の皮膚みたいだ。私の新しい服は、リン光を発している幽霊のように見え、きらめくサイケデリックな模様で活き活きとしている。
 私は、唯一備えられているリクライニング式の椅子に座り、複雑に入り組んだ背負い革を身にまとって締めた。すると、椅子は凹型の円筒を半分に割ったような台座に乗っかったまま自動的に上昇していく。そこに、円筒の残りの半分が上から降りてきて、二つの半円筒がばちんと合わさって閉じた。透明な弾丸の形をしたカプセルに包まれたわけだ。私を入れたカプセルは魚雷管みたいな個室の中で何の支えもなく浮かんでいる。私の正面は斜めになった円窓だが、半透明の壁を通して他の方向も見える。
 その間、さらに四機の円盤が到着し、飛び去っていった。明らかに、さらに何人かの乗客を乗船させたのだ。そうすると、七つの個室全部が埋まっているのだろう。『幽霊船』全体が揺れ、震えている。私が乗船してからずっとそうだ。だが、弾丸型カプセルの中にいると、動きの感覚が全くない。最後の円盤が去って暫くしてから、『幽霊船』が動きだすのが感じられ、航行が始まった。
 肉体を持たない声が、何処からか聞こえてくる。
 「皆さん、『幽霊船』にようこそ。私は皆さんの自動パイロットです。『幽霊船』に内蔵されている頭脳で、本船が実際には私の肉体なのです」
 「それは本船が生きている存在で、固体の固い金属構造物ではないからです。私の船体の多くの部分は、金属メッキを施されているに過ぎません。残りの部分は有機的な連鎖分子で、あらゆる種類からなる合成物質です。合成物質の部分と金屑部分は、有機金属シナプスで結合されています。この神経結合は非常に良くできていますので、私は自分の船体のどの部分も、どの機能も感じ取ることができます。私には何千ものセンサーがありますので、外部環境も、私達の航路のずっと先の状況も感じ取れます。私は『準バイオニック船』、つまり『幽霊船』と呼ぱれていますが、それは私の数多くの接合部分が全体に柔軟性を持っており、形状をある程度変えることができるからです。私が作られたのには、具体的な目的があります。それは、『大混沌障壁』の荒れ狂う、歪んだ宇宙空間を航行するということです。『大混沌障壁』では、固い構造物の在来型宇宙船は、どんなものであっても、すぐにバラバラになってしまうか、ブリキ缶みたいに捩じられてクシャクシャになってしまうか、自爆するか内破するか、自らを電気で処刑してしまうか、あるいは粉々になってしまうでしょう。ついでに申し上げておきますと、私の船体は、逆に、この混沌の外側、つまり、いわゆる『正常な宇宙空間』では、十分な機能を果たせないか、あるいは長くは生存できないのです」
 「ここでの私の任務は、皆さんのような肉体的・物質的存在を混沌の中心部へ往復輸送することです。私達の終着点はプラック・ヴォーテックス『黒い渦巻き』の近くです。それから先は、肉体的・物質的なものは何も通過することができません。そこにある無の点の反対側では、宇宙が時間を超越した無限の、だが非物質の世界へと逆転します。その世界のどこか高いレベルに、ガーディアンとマスター達が住んでいるのです。『目』のずっと中に入ったところにある転換領域に着きますと、皆さんはカプセルに包まれたまま『黒い渦』の中へ発射されます。その中の無の点で、皆さんは反対側の持つ力によって拾い上げられ、きちんとした世話を受けます。そこで、皆さんは何か未知のプロセスを経て大変貌を遂げ、この非物質世界を訪問することができるのです。現在の人格を全くそのまま維持した状態でです。この全体性には、言うまでもなく、現在身に着けている完全に有機的な『幽霊皮膚』の服も含まれています。この服の目的は、放射能を防御し、振動を高め、知覚力を増強し、ESPの転換と増幅をすることにあります」
 「反対側への訪問が首尾よくいきますようにと願っています。それでは、発射時間が来るまで、『大混屯障壁』内部の旅をお楽しみ下さい。皆さんのカプセルは、円筒形の個室内部の力の場で宙吊りになっていますが、これは『もっと上下に揺れる』宇宙空間の捻れの波の中を自由に浮遊できるためです。揺れる時に、『幽霊船』のあちこちが、曲がったり、形や大きさが少し変化するのを目にしても驚かないで下さい。この影響は、カプセルの補正の場の中ではほとんど中和されます。時々少し不快感を感じることがありますが、それは我慢して下さい。私の船体はジグザグに航行しますが、これは水平時空障害と真正面からぶつかるときの衝撃を避けるためです。私達は、正常宇宙空間標準巡航速度で航行します。つまり、光速の十分の一のスピードです。私の推進エネルギーと内部エネルギーは複数駆動力に基ずいています。つまり、在来型の準原子核工学、流動場、反重力素粒子に加えて、旧式の固体燃料装置も使っています。その時その時の条件次第で、こうした駆動力を交互に使います。それは、どれかひとつの駆動力だけに頼ることはできないからです」
 「それでは、ガーディアンの好意による旅行を、十分お楽しみ下さい」
 メッセージは以上で終わった。一方、私達は確かに航行を続けている。猛り狂う地獄のような巨大な爆発。恐ろしいまでに渦巻く気体の塊。吼えるような塵の嵐。百万ものくねり回る稲妻で満ちたイオン化空間。このような環境の中を、『幽霊船』はローラーコースターに乗っているように、『蛇の如くくねり』、突進していく。この気違いじみた地獄のような状態は次第に酷くなり、『幽霊船』はますます激しく飛び跳ねくねりながら、縫うように進んでいく。他方、外の色、肌合い、パターンは恐怖感を覚えるほど変わり続けている。時折、私の飛び跳ねるカプセルが、円筒形の個室の壁にもぐり込まんばかりに押しつけられる。体の方は、吐き気の波が押し寄せてくる度に、海老のように曲がるのが感じられる。これが『軽い不快感』だって? そんな馬鹿な、と思った。
 快適な楽しい乗り心地とは、言い難い。何度も何度も、ただただ恐ろしくて目を閉じてしまった。だが、そうしながらも、心の片隅では、起きていることに引きつけられ、畏敬の念を感じた。このような状態で、何時間たったのだろうか。突然、不気味に静まりかえったところに出た。あたかも、大きな無の器に飛び込んだような感じだ。
 言うまでもない。混沌の『目』に入ったのだ。物凄く黒い、ばかでかい渦巻くクレータが真正面にある。『黒い渦巻き』に違いない。それが、目の前一面に迫ってくる。背後と両側では、混沌の無数の猛り狂う花火がまだ踊り続けている...
 突然、魚雷のような物体が『幽霊船』から物凄い勢いで飛び出し、『黒い渦巻き』の中心に向かって急速に小さくなっていく。『幽霊船』がカプセルを発射し始めたのだ。転換区域に到着したに違いない。
 もうひとつのカプセルが飛び出して行き、視界から消えていった。そのすぐ後で、体が出し抜けにガタンと揺れたかと思うと、勢いよく動きだし、壮大な暗い宇宙空間に飛び込んでいくのが感じられた。これまで見たこともないほど黒い暗黒に向かっているのだ。飛んでいる、というより、自由落下しているに違いない。それも物凄いスピードでだ。首を伸ばして見ようとしても、混沌の移り変わる色が全然見えない。私を包んでいる、良く識別できるカプセルの先端と周囲が、微かな輝きを反射しているだけだ。私の高ぶっていた気持ちが徐々に消えていく。無の中をすごいスピードで通り抜け、何ともはっきりとしない状態に突入していくのは、不気味な程の雄大感だ。
 突然、パニック状態になった。カプセルが揺れ、きしみ始めたのだ。ギシギシと音を立てている。そして、見ている目の前であっという間に粉々になってしまったではないか! 氷のように痺れる冷たさに飲み込まれて、表面が微かに燐光を発する幽霊みたいな私の肉体が、今度は、全くの剥き出し状態で、確実な死に向かって自由落下していく。何か酷い手違いが生じたに違いない...
 次の瞬間、絹の網を次から次へと突き破って行く感じがする。かと思うと、今度は、自動洗車機の強力な水の噴射で洗車されているような感じだ。何か怪物のような力が私を押し潰してパルプ状態にしようとするにつれ、燐光性の私の肉体が光る。鋭い痛みが体中を走る。と、私の肉体が突然に無くなった。肉体の感覚もない。肉体もばらばらになってしまったのだろう、そして、自分は、最後の意識に上る知覚を記録しているだけなのだ、という苦痛に満ちた思いが、今や急速にかすれつつある心をよぎる...
 そうか、これが死なのだ...

 * * * * *

 それからは、空白状態が続く...
 奇妙だ! 大分時間が経ったと思えるのに、まだ私の目には、遠くの混沌の徐々に小さくなる微かな輝きが映っている。それからもう少しすると、私は全くの暗闇、絶対の暗闇に飲み込まれた。肉体と切り離されたこの『私』というものが何であったにせよ。
 疑いを挟む余地はない。転換操作に何か手違いがあったに違いない。それで、私は完全に死んでしまったのだ。それ以外には考えられない。肉体も、何の肉体感覚もないのだから。だが、この状態でもどういうわけかまだ、『見える』という奇妙な考え、を抱いている。何か見えるものがあれぱ、だが。
 そうはいえ、私は依然として何らかの形で存在している。この沈黙の空間の中の『私』というものが何でありえようともだ。奇妙だ。具体的にどこにあるのか分からないが、自己意識がある。おそらく、記憶の断片がしつこく残っているのかもしれない。あるいは、『私』の触知できないものが何であれ、それがしばらく残っているのかもしれない。間もなくゆっくりと消え去る運命にあるものが...
 大きな悲しみと精神の苦痛、それに憂鬱感が『私』を打ちのめす。非常に苦しいまでに憂鬱だ。そこで、この嫌なことを終わりにしてしまおうと思った。この苦悩に無意味に苛まされるより、そのほうがいい。ちょっと『眠って』しまおう。二度と目覚めなければいいのだ。でも、肉体の記憶の断片はどうやったら眠れるのか、私には分からない。だが、精神的に参ってしまった私には、もうどうでもよかった。意志の力でゆっくりと意識を失わした。あたかも、肉体の中で眠りにつくように。意志の力で呼び続けた眠気が襲ってくる。そして、ゆっくりと、だが、本当に、意識を失っていった...
 暫くして、目が覚めた。明らかに、何か気違いじみた形で、まだ生きている。というより、むしろ、『死ではない』死だ。何もかもが奇妙だ。一体全体、私はこんな状態で何をやっているのか? 死んだ後は、全くの忘却か、あるいは、『死後の世界』での何か前とは異なる存在かのどちらかだと、いつも思っていたのに、そのどちらでもない無の状態というのは嫌で嫌でしょうがない。それとも、罰としてか、あるいは気紛れ的な偶然で、『地獄の辺土』に投げ入れられたのだろうか? あるいはもしかしたら、誰かが、何かの『霊』が、やがて挨拶にやって来るのかもしれない。だから、パニックしないで、暫く待とう、と自分に言い聞かせた。でも、その『暫く』というのは、どれ位だろうか。一時間か、一週間なのか、一千年なのか? ひょっとしたら十億年もの長い間になるのだろうか?
 他に何も『することがないので、メンタル・ゲームをして楽しむことにした。先ず、『自分』の今の状況を良く調べた。どうやら、精神の機能はしっかりしているし、記憶もちゃんとあるようだ。自分が自分であるという意識もまだある。それで思い出した。この『私』とは実際誰のことなのだろう? 単なる名前なのか? 統計の数字に過ぎないのか? 人格なのか?
 仮に『私』がこの『地獄の辺土』に信じられないほど長い間いたとしたらどうだろう。そうなると、自分のいろいろな記憶は薄れてしまうか、ごちゃ混ぜになってしまう可能性が高い・・・ひょっとしたら、残って機能するのは想像力だけになってしまうのかもしれない。それがどんなに変なものであれ...
 このようにのんびりと時間を過ごしていたが、やがてそれにも飽きてしまい、また『眠り』についた...
 目が覚めても、事態は依然として前と同じだ。そこで、またメンタル・ゲームをひとしきり始めた。ありとあらゆる記憶と重要なニュースを回想したのだ。また、いつの日か自伝を『書く』のもいいなと思ったり、何か作曲をしてみようとも思った。もちろん、あくまでも頭の中でだが。どうやら、私の頭は普通の時よりもずっと大量のデータにピントを合わせておくことができるようだし、普通より簡単に様々な事柄を頭の中で扱うこともできる。もっとも、それ以外に、他にやることが何かあるのか?
 このような状態のまま何日とも思える時間が経過した。私の精神機能はかなり向上している。少し誇りすら感じ始めた。たぶん、練習をすれば、本当に『頭』の中で本を一冊書き上げることも夢ではない。絵画の制作も、作曲も、建築も、風景を『創造』することも、できるだろう...
 興奮の波が押し寄せてきた。そうだ!創造力だ! 最初は幻想かもしれないが、やがては何かを創り出せるのかもしれない・・・何と言っても、考えをこね回すのは非常にうまくできる。概念を創り出せるのだ。幻想の世界を『建設』して、そこに『人を住まわせる』こともできるし、想像力を使って、そのような場所に自分が実際に住んでいると思いこむことすらできる。練習の問題に過ぎない。時間はたっぷりあるのだから!
 私の頭はこの考えに熱狂的に取り組み始めた。独りよがりの幻想世界の構成概念を投影して、現実の何か『触知』できる形態に、つまり恒久的な幻想の有形物と自分がみなせるものに、固体化するにはどうしたら良いかを考え始めた。ひょっとしたら、光の『創造』から始めたほうが良いのか...
 と思った時、突然あることを悟った。一体自分は何を想像しようとしているのだ? 自分の光などを想像する必要はないのかもしれない。自分の頭が機能している以上、それはエネルギーの一形態として存在しているはずだ。したがって、このエネルギーは何かのスペクトルで私に見えてしかるべきだ。もし、そのエネルギー・スペクトルで物を見るのに適した特殊な目が私にあれば、だ。そうすると、東洋の神話に出てくる例の有名な『第三の目』はどうだろう。さもなくば、『魂の目』とか何かはどうだろう...
 しばらく沈思黙考するとともに、黒い無の中で周囲を目のない目で『見つめて』から気づいたのは、実際に何か微かな光が自分の中心から出ているということだった! 本当に存在している、と確信した。自分の想像ではない! 最初、光は非常に不確かだったが、『見つめている』うちに安定した光になっていった。優しい黄色っぼい輝きの縁に焦点を『移して』みて、『私』が光の球体でできているのを発見した。この丸い光体はこの上なく細かな、また精緻を極めた模様がついていて、目分の中心の周囲を流れるというか旋回している。一方、球体の外側は、依然として全くの『地獄の辺土』だ。
 私は大きな幸福感に包まれた。私は『死んでいない』死者かもしれないが、自分の置かれた状況を大幅に改善するというはっきりとした希望が現われたのだ。興奮でへとへとに疲れたので、『うたた寝』をすることにした...
 『意識』が戻ると、十分休息を取った感じがし、幸福でしかも興奮感もあった。新しく発見した自分の光は、見たければ依然としてそこにある。だから、これは本物であって、妄想ではないのだ。
 どこかに何らかの形態の他の『存在』もいるはずだ、と思った。ひょっとしたら、この広大な宇宙空間に、ある種の『物体』か構成総概念も存在しているのかもしれない。そこで、私は意志の力で自分を動かし、他の光の源『に向かって』動き続けた。『私』が実際に動いているのが感じられる。もっとも、それを確かめる手だては何もない。周囲の壮大な暗黒を探るように見続けた。その手段は、新たに見つけた『目』と以前には持っていなかったある種の新しい感覚だ。この新しい感覚というのは、一種の内蔵レーダーというか精神の触角みたいな感じだ。このようにして私は動き続けた。実際は、何かか誰かを『追尾』しているような気がする。大分経ってから、『何者』かが、何かの存在が、非常に遠いところから徐々に近づいてくるのを感じ始めた。新たな興奮の波が襲ってきた。いやー、
これは本当におもしろい! それが何かは分からないが、何かの存在が近づいてくるのは絶対に確かだ。
 そうするうちに、見よ! 微かな輝きがずっと先のほうに実際に見え始めた。二つの星のようなきらめきが一組、どんどん近づいてくる。ところが、ある距離まで来ると、私が止まったのか、二つのきらめきが止まったのかは分からないが、私と光の間の距離が変わらなくなった。二つのきらめきは美しい光の球体で、非常に強力なエネルギーの振動を発している。ある種の生命体だと分かる。温かみと親しみ、好奇心と励ましの気持ちが滲み出ている。この二つの光体も私をはっきりと目にしたのだ。おたがいに遠く離れたまま、どのくらいそこに『停止』していたのかは分からない。この『邂逅』が終わると、二つの光体はぱっと消えてしまい、二度と現われなかった。
 そのとき以降、私はもう孤独感も感じず、意気消沈もしなかった。向かっている方向はこれで良いのだと分かったので、ただひたすら前進し続けた。私の『レーダー触角』が前方に『陸地』みたいなものを感じ取った。はっきりとはしないが、暖かさと光の兆候も感じられる。近づくにつれ、現実の固体が大きくなるのが感じられ、あたかも触知できるものの世界への通路に接近しつつあるかのようだ。遠くで音が聞こえたので、私はぎくっとした。ひょっとしたら、水が流れている音か? そのすぐ後で、私は洞窟の中を浮かびながら、一群の微かな光に向かって流れていった。その光は、間もなくはっきりと目に見えてきた。私は霞の層の上に浮かんでいたのだ。周囲は素晴らしい水晶の岩層でできた巨大な洞窟だ。岩層は、最初は全く天然のように自然に見えたが、だんだんと人工物のように秩序だったパターンの度合いを強めているようだ。水晶の無数の表面からは、色のついた光がたくさん出ていて、それが揺れ動いている。その回りに流れるエネルギーのパターンが簡単に識別できるようになった。洞窟全体が生きているのだ。あたかも、この水晶の複合体全部がひとつの生命体のようだ!
 一方、霞の層は水みたいな流れのきらきら輝く表面みたいに若干変化していった。そして、この流れは私を上に乗せたまま、トンネルのように狭くなった洞窟の先に向かっている。私の光の球体は今や、何とか泡と分かるものの中に包まれたようだ。おそらく私は、この地下を流れる川に浮いたままどこかに運ばれていく途中なのだろう。
 程なくして、川は暗くとても長いトンネルに入った。そのまま、どんどんと前進する。やっと、先に微かな光が見えてきた。トンネルの出口だった。光は明るく強くなった。昼間の『現実世界』への入り口に到着したかのようだ。光が強く明るくなるにつれて、私の興奮感も高まっていった。それとともに、自分がほぼ肉体化・物質化しつつあるという感覚も強まっていった。実際のところ、今や泡の中の自分が少し『重くて固体』だという感じがあり、何か物質を生み出したかのようだ。
 そのうちに、トンネルからぽんと飛び出した。そこは河峡で、両側には目も眩むような日の光を浴びた岩がごつごつと出ている。本当の物質でできているような世界だ。何て嬉しい光景だ! 見上げると本物の空がある。だが、雲はない。太陽も見えない。ただ、分散光が上から降り注いでいるだけだ。その状況は早朝を思わせ、岩層は実際に影を投げかけている。少し地球に似ている。その独特な不思議な美しさはもっと地球に似ている。何もかもが鮮やかに輝き、感動するほど申し分がない。あたかもパラダイスの入口にいるみたいだ。空気も経験したことがないほど豊かで甘い匂いがする。
 もう一つ、びっくりしたことがあったが、これはありがたい驚きだ。例の泡の中にはもはや光の球体は無く、その代わりに、本当の肉体、私の肉体があるのだ。少なくとも、肉体に近いものがある。動くことはできないが、刻々と重みと現実味を増していくのが感じられる。本当に嬉しくて、狂喜に近い感じだ。私は生きている、生きているのだ!

 * * * * *

 私を包んだ泡が前に流れていくうちに、大きな喜びが燃えるような満足感に取って代わる。曲がり角の辺りで、河峡が広くなり幅がニキロ弱の湾になった。
 はるか前方の湾岸は木々の茂った田舎地方を思わせ、なだらかな段丘が見える。その背後のずっと遠方には、信じられないほど高い山脈がぼんやりと見え、頂のほうは霧と雲に覆い隠されている。
 右手を見ると、遠くにかかっている虹の下で、真珠色をした水域が広大な海原となり無限の水平線につながっていて、不思議なことをたくさんと喜びの秘密を教えてあげるからいらっしゃい、と手招きしている。
 そのとき、姿のない声が頭の中で聞こえたような気がした。それとも、心の中にぱっと浮かんだ直感をいつもの習慣で自動的に言葉にしただけだったのか。
 その声はこう伝えてきた。
 「さすらい人よ、非物質界へようこそ。この世界で目に見えるものは全て、思考が固体物性化したものに他ならず、それは顕在化した概念パターンの複雑な多焦点場から生まれたものである。地球人の心はこれを物質界のイメージのように知覚したがる。とはいえ、地球人の知覚様態もそれなりに同様な妥当性を持っている。実際のところ、その知覚様態の手助けがあったからこそ、トンネルから飛び出したあとで、貴方の肉体が復元されたのだ。幽霊のような皮膚の保護膜に包まれた貴方の肉体は、『変質』の中間状態にある。もっとも、これから貴方の肉体は機能の仕方が馴染みあるものに見えることだろう。それは現実には、心理的にそう見えるだけに過ぎない。したがって、すべては順調だから、愉快に過ごすように」
 「貴方の右手、先程貴方が見ていた大海原は『至福の大洋』である。入る価値あるものだけが入ることを許される。引き寄せられて、あの虹のアーチ道の下を通って行くのだ。その他のものは全て、あのアーチ道から締め出されている。貴方の左手は、『秘密に満ちた七つの海』につながる水路だ。これは、進取の気性に富んだ大胆なもの向きだ。既にお気づきのあの遠くの山脈は、あくまでももっと高度のレベルの宇宙的認識を得たいと思うものが登るためにある。霞に覆い隠された山頂は想像もできない高みまで達している。そこに貴方が会いに来たガーディアンが住んでいるのだ。依然として顕在化している世界の頂き近くに居るのだ」
 「こうした『光の山脈』と呼ばれる山々の麓に行くには、前方に広がる『影の平面』を横断しなければならない。時間がどの位かかるか、横断するのがどれほど難しいかは、貴方自身にかかっている部分が大きい。山脈に着いたら、ある高さまで登らないと、ガーディアンの方でも貴方に会いに降りてこないであろう」
 「それでは、幸運と道中のご無事をお祈りする!」
 こう言って、例の声は次第に消え去っていった。
 とかくするうちに、私を包んだ泡は浜に漂って行った。砂浜にぶつかると、泡は破裂して消え、私の新しく手に入れた肉体をうつぶせに波の中に落としていった。私は一見すると『本物の私』に見える自分を良く調べてから、意志の力で立ち上がり、背伸びをした。何もかも調子が良く、体中が良い気分だ。
 それにも拘らず、突然に、『一眠り』したくなった。おそらく『地獄の辺土』みたいな中間状態を経験したことによる緊張感と不安感の影響が出て来たのだろう。この自然の反応に逆らわずに、一眠りすることにした。その欲求が心理的なものなのか、あるいはそうではないのか、この際どちらでも良かった。
 そこで、贅沢三昧に耽ろうと温かな砂の中に体を横たえた。そして、ゆっくりといつの間にか眠りに落ちていった...

 * * * * *


第十一章 逆説領域

 浜辺で眠りから覚めた。真っ昼間のようだ。この上なく爽快な気分だ。立ち上がり、内陸に向かって歩き始めた。小山に生えている草を突っ切って行く。
 全てがしっかりとしていて、十分に現実味を帯びている。地面も、植物も、私の肉体もだ。体は軽く、調子も良い。例の幽霊のような皮膚は体一面を足から頭まで覆っている。ただ、両手と顔は別だ。そこは触れた感じは普通だが、シェラックワニスみたいな物質を薄く塗ってあるようだ。生理的欲求も全然感じられず、私にとっては全く都合が良い。空腹感にも、喉の渇きにも、疲れにも煩わされなくて済む。もしそうしたものに煩わされても、それはただ心理的にそう思うのに過ぎないのだ、ということも分かっていた。
 間もなく森の入口に着いた。幅約六メートルの未舗装の道路が森の中に続いている。しっかりと固められた自然観察遊歩道みたいで、何の足跡も車輪の跡もない。例の山脈の方向に向かっているので、この道を歩いて行けぱちょうど良い。おそらく半日位で行けるだろう。
 森の壮大な背の高い古木は多分樫の木だろう。木々は人を酔わせる芳香を出しており、環境は素晴らしいの一語に尽きる。そのうちに曲がり角辺りで何か楽しいことに出くわすのではなかろうか。それが何時なのかはどうでもよい。別に急ぎ旅でもない。この素晴らしい気分を、完璧な環境を、できるだけ長くじっくりと昧わいたかった。はちきれんばかりの元気に溢れているし、全てが至極順調だ。あの姿のない声が言ってた通りだ・・・この魅力に満ちた森をもう何マイルも歩いたただろうか。普通の場所ではない。古い節くれだった木々から巨大な茸まで、何もかもが生き生きとした雰囲気を滲みだしている。まるで『自然の妖精』が中に住んでいるようだ。ここまでは、人にも物にも出会っていない。だが、鳥のさえずりや何かの動物が潅木の中でガサガサと音を立てているのは聞こえてきた。枝葉から漏れてくる光から判断すると、もう午後の遅い時間になっているはずだ。高くなった所から下りて行くと、木の無い広い場所に出た。
 まさか、こんなことがあるのか! 物語の本にちょうど誂え向きの光景だ。子供の夢が現実になったみたいだ。かわいい地の精が可笑しな服を着て輪になって踊っている。そこはショーガ入りケーキで出来たかわいい小さな家々があるミニチュアの村の端だった。輪の中では、三人の妖精がグループになって楽しそうに跳ね回っている。そして、地の精も妖精も、子供のような小さな声で歌を歌っている。
 こんな馬鹿なこと、あるはずがない。誰かが悪ふざけをして私を騙そうとしているに違いない。そう思ったが、坂道を下りるのを途中で止めて、広場に一番近い大木の幹の陰に隠れた。その光景の細かいところまで良く観察して、これは悪巧みか幻覚ではないかと思い、何かおかしなところはないかと探してみる。だが、何もかも本物で全くの現実のようだ。かわいらしい生き物達は、保育園児がやるような滑稽な仕草をして、大いに楽しんでいる様子だ。
 やっと、私は行動に移ることにした。木の陰でずっと立ち尽くしているわけにもいかないし、日も暮れようとしていた。そこで、広場に足を踏み出した。
 その結果はとんでもないことになった。小さな生き物達は叫び出し、身を隠せる場所を求めて逃げ出したのだ。あっという間に広場には誰もいなくなってしまった。広場と、十数軒の小人用の家からなる村の中を歩いてみたが、誰の姿も見えない。ただ、おかしな格好の猫が一匹、木の家の側の高いところに座って私に歯を剥いている。誰も私と話たがらないのは明らかだ。あるいは、ひょっとしたら何か極悪な怪物と間違えられたのかもしれない。とにかく、夕暮れがそこまで迫っているので、舗装していない道に戻って、また歩き始めた。

 * * * * *

 辺りは暗くなり、森には音ひとつ聞こえない。空気はめっきりと涼しくなってきた。だが、不安感は全然ないし、疲れも全く感じない。道の輪郭はまだ見えるし、蹟かないで歩ける。このまま歩き続けることにしよう。
 それから数時間たったと思えるころ、道の分岐点にぶつかった。右側の道を歩き始めると、巨大な目が二つ私の頭の近くで瞬いた。と同時に、不気味な鳴き声に私はぎょっとして飛び上がる。フクロウだった。私のようなかわいそうな放浪者を脅かさないようにピシャリとたたいてやらねば。不気味な声の正体は分かったが、気が動転してしまったので、左側の道を行くことにした。森にあった親しみの雰囲気はもうなくなり、辺り一面に悪意と脅威感が感じられる。ぞっとするようなものが暗闇をはいずり廻っている。
 少し先に進むと別の空地に出た。また驚くことが出現した。何か幽霊の出そうな薄気味の悪い城が丘の上に建っている。数百メートル先だ。小塔が気味悪く見える。月明かりに照らされた空を背景にしているが、月は見えない。道の先は暗黒の絶壁で、それに沿って道が続いている。谷はどのくらい深いのか底は見えないが、下のほうからは硫黄のような悪臭が吐き出されている。全くひどい場所だ。近くに、遮蔽された橋が架かっている。
 丘の上に登って城を間近から見ることにした。橋の軋む板をドシンドシンと歩いて渡りながら、何か恐ろしいことが起きるのではないかというぞっとするような予感がある。だが、勇気を奮い起こして前に進み、絶壁の反対側の並木道を登っていった。
 最初の曲がり角を過ぎたところで、その場から動けなくなってしまった。はっきりと聞こえる。城の方向から、早足で近づいてくる馬の蹄の音だ。それから、何か恐ろしいものが目に飛び込んできた。まっすぐ私に向かってくる。馬が一頭ギャロップで走ってくる。大きく揺れている乗り手には、頭がない! 私は横に飛び退いたが、突然パニックに陥りつまづいて転んでしまった。一体どうなってるんだ、これは! 私は恐怖におののいて道端で体を丸くした。馬が側を疾走していく。蹄の音を轟かせて橋を渡って行く。反対側に着くと、向きを変え後ろ足で立った。またこっちに向かってくるようだ。今度も脇を通るだけなのか、それとも殺すつもりか。
 戦わなければ! 早くしないと。倒れている木の枝を掴む。
 枝が木から折れると、その端が腐れかかっている植物の燐光物質で明るく輝いている。それに気がつくと、ひどく面白い考えが涌いた。こっちからも少し脅かしてやろう。燐光物質で体と両手両足に長い筋を数本急いでつけて、浮かれ騒いでいる骸骨に似せた。その時、馬が蹄の音を轟かせて橋を渡り、こっちに向かってきた。私は、道の真ん中に飛ぴ出した。絶好のタイミングだ。そして、端が発光している棒を持って手足を目茶苦茶に振り回した。突進してきた馬は急に止まって後ろ足で立ち、恐怖でいななく。馬は方向転換して逃げ去っていった。乗り手は道端に投げ出されている。頭のない恐ろしい乗り手は急いで立ち上がり茂みの中に駆け込む。その時、着ている物の折り返しが開き、そこから人間の姿がちらっと見えた。頭はちゃんとついていて、私と同じように幽霊のような皮膚を身に着けている。私は激怒した。何て奴だ、こんなふざけたことをするなんて。私と同じ宇宙船から来たと思われる巡礼の仲間がなぜこんな汚い悪戯をするんだ?
 そう思ったが、巡礼仲間と思われる者のひねくれた性質をけなす時間はなかった。コウモリの群れが騒々しくキーキーとかん高い声で鳴きながら攻撃してきたのだ。非常に大きいのも何匹かいる。吸血コウモリに還いない。私は茂みの中に潜り込んだ。だが、何かにつまずいて倒れ、そのままズズーツと滑り、なす術もなく底知れない穴に転がり落ちていった。

 * * * * *

 落ちた場所は嫌な臭いのする沼だった。体中が汚泥だらけだ。そこから脱出しようとしているうちに、方向感覚が完全になくなってしまった。怪物のような気味の悪い獣達がいっぱいいる沼で身動きができなくなったわけだ。暗闇は何とか我慢できるとしても、恐らく多数の鰐と数匹の巨大な爬虫類がいるのではなかろうか。醜い形をしたものが心地悪いくらい近いところで盛り上がったり、水をバチャバチャさせている音から判断するとそう思える。あーあ、怪獣の国へようこそ、だな。とんでもないことになってしまった。何かの間違いに違いない。物質界ではないなんて、全くの嘘っぱちだ! 何もかもが非常にしっかりとした物性を持った固体ではないか...
 だが、残念ながら、全てがそんなにしっかりとしてはいなかった。悪いことに、私がしがみついていたずんぐりとした木は、何と、小さな浮き島の一部だったのだ。それが、私と一緒に沼のもっと広いほうへと漂っていく。気違いじみた獣に押しつぶされたり、飲み込まれたりしなければいいが。そんなことになる前に、夜が明けて何とか乾いた陸地へ逃れることができれば、と望むだけだ。
 それから大分たって、神経が疲労の極限に達しそうになったころ、薄明かりをつけた原始的な舟がどこからともなく現われた。石器時代の格好をした毛むくじゃらの原始人が十数人、舟を漕いでいる。その舟にぶっきらぼうに引きずり上げられながら、少なくとも彼らは人間の形をしている、と思った。だが、本当に助けられたのだろうか、それとも、朝食兼昼食用に料理するために捕らえられたに過ぎないのではなかろうか。更に数キロ行くと、しっかりとした岸にぶつかり、陸に上がった。そこから、岩がごつごつしている広い空地に連れていかれた。近くに、丘の斜面に掘られたかつては壮大だったと思われる異教徒の寺院の廃墟がある。空地は原始人で一杯だ。巨大な焚き火を取り巻いて踊ったり歌ったりしている。明らかに、何かのお祭りが行われている最中だ。私はベンチみたいな岩の上に座らされた。周囲は、十数人の素っ裸に近い、美しいプロポーションをした娘達だ。どうやら、賓客として扱われているようだ。
 間もなく気がついたのだが、行われているのは多産の儀式に違いない。彼らの動ぎや身振りからすると、間違いない。数人の美女が私の近くで体を丸めた。一方、はっとするような美女が一人、私のすぐ目の前で誘惑するように踊っている。昔懐かしい肉欲が体内に湧き上がってくる。本気で参加するように誘われているのではなかろうか。だが、そのような機能を果たせるのか。例の厚い幽霊みたいな皮膚で密閉されたままの体で。
 結局は、それを確かめる機会は来なかった。劇的な出来事によって、その光景が突然、台無しにされてしまったのだ。地震が起こり、地面がぐらぐら揺れ、原始人たちは逃げ出してしまった。私も素早く高い所に向けて走った。どんどんと丘を昇って行く。間もなく皆を見失ってしまった。地面の揺れもずっと遠くになった。だが、安全を期すため、走り続けた...

 * * * * *

 大きな岩を回った所で、急斜面に飛び込みそうになった。非常に大きなクレータの縁で立ち止まり、ハアハアと喘いだ。クレータは何キロにもわたっていろいろな電気の明かりで一杯になっている。これは驚いた。巨大な宇宙基地の夜景だ。私に近い所では、多数の各種宇宙船の周囲で人影が小走りで動き回っている。遠くの方には、宇宙都市の未来的な塔や構築物が空を背景にシルエットを映し出している。そして、この巨大なクレー夕全体が、透明なガラスのような物質でドーム状に覆われている。
 私は本当に圧倒された。心がゾクゾクした。だが、同時に、こうしたひどく対照的な環境が併存していることに大きな謎も感じた。今度は、ちょっとやそっとで諦めないでここにいて、何とかすべてを理解してやるぞ、と心に決めた。そう決心したら、様々な出来事の間に出くわした謎や自分のへまに対する答が欲しくなった。そこで、宇宙基地に下りて行って、そこにいる人達と意志の疎通を図ってみることにした。
 丘を小走りで下りて行く。ドームが『力の場』で保護されているかもしれないなどと考えてみることもしなかった。それに気がついたのは、周囲でスパークの火花が飛び散り空気が光りだしてからだ。だが、それは何とか切り抜けた。しかも、何の影響も受けていない。それ自体も謎だ。自分が本物のフランケンシュタインになったような気がするし、ひょっとしたらそう見えたかもしれない。鋭いクラクションの音が辺り一帯に聞こえ始め、制服に身を包んだ一群の男達が、とあるビルから飛び出してきて、私に向かって走ってくる。言うまでもなく、私が侵入したので警戒装置が作動し、警備員が動きだしたのだ。
 警備員達は半円形になってジワッジワッと私に追ってくる。と、何の前触れもなく、その中の二人がエネルギー・ビームを私に向けて発射した。胸の辺りがパッと光り熱くなったと思うと、すぐ放電が消えた。何の影響も受けない。無傷だ。今度は、他の四人が私に向けてビーム放射を続けた。今度も、私の体は光ったが、何の影響も受けない。私が何の影響も受けない代わりに、その四人が四人とも身を捩って地面に倒れてしまった。あたかも、彼らが発射レたビームがどういうわけか逆転して、彼らがそれを受けてしまったかのようだ。残りの警備員達は狐につままれた感じで、ヒソヒソ声で相談してから、後退して事態を見守っている。
 間もなく、プルドーザーのような車両が三台猛スピードでやって来て私を取り囲んだ。その一台が機械装置で私を掬い上げ、私をトロフィーのように掲げたまま、先に私が侵入してきた『力の場』突っ切って、凄いスピードで走っていく。丘を登り、クレータの縁を越えてどんどん前進して行く。この奇妙なドライプは相当長く続き、途中で夜が明けてしまった。どんどん走り続け、不毛の砂漠に何キロも奥深く入った所で私をドサッと捨て、来た道をさーっと戻って行く...

 * * * * *

 ホッとはしたが、このような馬鹿げた出来事に前よりもずっと当惑してしまった。体は無傷だ。しかも、それほど疲れてもいない。他にすることもないので、荒涼たる場所を歩き始めた。当てにする標識は一つもないが、砂漠の環境にそれほど不安も感じなかった。歩き続ければ何処かに着くだろうし、そうでなければ、また何か嫌なびっくりすることに出くわすだろう。例の山脈の方向に向かっていればいいがとは思ったが、それを確かめる方法もない。視界はせいぜい二、三キロしか効かない。地平線は、霞がかかっているのか土煙がかかっているのか、見えない。
 そのような状態で一日中歩き続けたが、風景には大した変化も見えない。奇妙なことだが、真っ昼間の殺人的な暑さにも拘らず、不快感はそれほど感じない。それでも、午後遅くなって、別にこれという理由もなく歩くのを中断して、その必要もなかったが座って体を伸ばした。何かはっきりとした目標がいると思った。そうすれば際限なく歩かなくても済む。そこで、一眠りすると、生き返った気がして非常にさっぱりした。
 目が覚めたのは、日が落ちてからだった。風景は月明かりに優しく照らされているかのようだ。もっとも月はどこにも出ていないが。視界はずっと良くなっている。地平線もかなり広がっている。およそ八キロ先に聳え立つ山々が見える。私がよくやることだが、今度も山々と平行に一日中歩いていたに逢いない。別に驚きもしなかった。心のどこかでこのような可笑しな偶然を経験するのではないかと思っていた。実際のところ、はっきりとはしないが、この『影の平面』での旅がどういうことなのか、朧げながら分かり始めていた。
 立ち上がって、山脈に近づいていった。間もなく、自然の岩層と巨大なアーチに出くわした。非常に魅了されるように素晴らしい風景なので、歩くのを中断した。巨大な岩石に挟まれた急な峡谷の入り口だ。暫くそこに佇み、神秘的な光景を楽しんだ。私はどうしようもないロマンチストなのだ。それに、どこかに急いで行かなければならないわけでもないし...
 そこで小山の上に座った。そして、素晴らしく静かで荒涼と広がる自然の中に座り続けた。この場所が気にいった。こうして一人っきりでいると、体全体が大いなる平和に包まれる。だが、絶対の平和ではない。暫くすると、触知できない存在が私を取り囲んでいるのを感じ始めた。好奇心に満ちた複数の目に見つめられている感じだ。二度ほど、視野の端に何かが動くのがちらっと見えた気もする。何かが起こりつつある。私の鋭い感覚が、好奇心に満ちて親しみのある振動だけでなく、はっきりと悪意に満ちて何かを企んでいるような振動も捉えている。『彼ら』が何かは分からない。だが、気にはしなかった。『彼ら』には私を傷つけるつもりがないようだ。それに、私のほうにしても、そう簡単に新たな災難に遭いたくもない...

 * * * * *

 夜が明けた。様々な色の素晴らしいパレードだ。魂を揺れ動かすような壮観にうっとりとする。
 私は立ち上がると、峡谷にふらふらと入って行った。八キロほど中に入ると、行き止まりになった。岩壁は乗り越えられないほど垂直に立っていて、表面は滑らかな赤い岩だ。引き返さざるをえず、亀裂や岩棚のある登れそうな岩壁のところを探して、幸抱強く登り始めた。この岩登りは非常に油断できないか、不可能に近いかのどちらかで、一日の大半を費やして、やっとのことで高さ一キロ半の高台に到達した。眼前に、高く聳える山がひとつ見える。上のほうは霞におおわれている。高台の端は、大きな峡谷へと落ち込んでいる。底は見えない。これは凄い。少なくとも幅一キロ半はある非常に壮大な峡谷だ。残念ながら、その大きな亀裂が私とあの見上げるように高い山の間に横たわっているのだ。
 それでも、あの山にどうしても登らなければならない。目の高さより少なくとも一キロ半高いところを見上げると、バルコニーと小塔のついた建物の正面が山腹に彫り込まれているのが分かった。砦か修道院のようだ。反対側には、そこに通じる道もある。あの場所が私の目指すところなのだ。そう直感した。何とかして眼前の峡谷の向こう側に行けさえすれば...
 左手の方で、峡谷が狭まっているようだ。その方向に八キロ程歩くと、山まで精々数百メートルの場所に出た。都合の良いことに、岩の岬が峡谷を横切って山の方に突き出している。当然これを渡らない手はない−−−そして、先端まで歩いて行こう。
 だが、生憎、私が歩いたことで、緩かった岩層の微妙なバランスが崩れてしまったに違いない。岬の橋が私の背後で崩れてしまい、轟音を立てて底無しの谷に落ちていってしまった! そのため、今や全く孤立してしまった岩の頂点に取り残されてしまった。高台からも山腹からもまだおよそ百メートルの距離はある...
 何て馬鹿げたことだ! 何時間も何時間も考え込んだが、脱出する方法が考え出せない。修道院もそこに行く道路も何キロも離れていて見えないので、助けてもらうという望みもない。何処かで何かが動く気配もしない。おそらく何千年も全く何も動かないのだろう。仰向けになり、太陽も雲もない空を見つめた。あたかも、そうしていれば何か答が出てくるかのように。そうこうするうちに、知らぬ間に夢うつつの状態に入ってしまった。途切れ途切れに暫く眠ってしまい、目が覚めると真夜中になっていた。そして、朝が来てゆっくりと午後になっていく。本当に憂鬱になってきた。永久にこうして座り続けることになる可能性もある。もちろん、その前に気が狂ってしまえば別だが。今の状況は、実際に死ぬことや、『死んでいない』地獄の辺土の状態よりもずっと始末が悪そうだ...

 * * * * *

 そのうちに、微かな希望の光を感じた。はっきりとはしないがある考えが頭の中でゆっくりと形をなしてくる。この旅の途中で、それほど前のことではないが、絶対の宙ぷらりん状態から脱出して完全に元のまとまった状態に戻ったことがある。それが出来たんだから、そのプロセスを逆転してみたらどうだろう。そしたら、身体的・物理的方法ではなく何か別の手段で今の窮状から脱出できる手立てがあるかもしれない。この風景だって、つまるところは、想念形態に過ぎないはずではないか...
 そう考えて、寛いだ瞑想の姿勢で座った。外界に対して目を閉じ、感覚が感じる刺激もすべて遮断する。ここまでは簡単だ。だが、心の混乱状態を静めるのにはてこずった。とうとう諦めた時は、また夜になっていた。暫く、穏やかな夜の景色を見続ける。そうしているうちに、寛ぎが訪れた。心配するのは一時止めにして、当座はこの詩的な景色を味わおう、と思った。
 数時間の間ぼやっとした気持ちで特に目標物も定めずに眺めていると、目の前がぼやけてきて、夢でも見ているような状態になった。これは気持ちが良い。無念無想の状態だ。すると、突然、あることが自然に起こった! 暗闇の空間に体が浮いているのだ。薄い黄色の光が体の中心から出ている。微かに分かるだけだが、綿菓子みたいなくすんだ灰色の物質が何重にも重なっていて、それが凍った煙で覆われているのが見える。私の微かな黄色い光はそのような綿菓子の小さな塊の上に乗っている。私が取り残された例の岩の頂点に相当する想念形態なのだろう。向こう側に見える大きな固まりは、山を表わしているのに違いない。
 奇妙だが、そんなことに気がついても興奮もしない。自分の意識は遥か遠くにあって、まるで自分のではなく他人の意識のようだ。冷静に、拡散している自分の光の一部を『意志の力で』一本のビーム光線にした。峡谷の向こう側に飛ばせるようにだ。だが、数回試みても効果はなく、曳光弾に似たかろうじて知覚できるくらいの波状の光線を『放出』できただけだ。曳光弾の波状光線は心にぼんやりと抱いていたイメージとは大分違う。うんざりして諦めた。曳光弾は峡谷を横切った状態で固体化するようだが、脆くて何の役にも立たないものが不規則にもつれた状態に過ぎない。心に映っているこの不確実な状態の光景を捨て、しばらくこの奇妙な状態から出て表面の世界に戻ることにした。
 だが、目を開けてみると、信じられないことが起こっていた! 物性を持った現実では、もつれた状態の荒縄が峡谷を横切っているのだ。原始的な橋に似ている。明らかに、想念形態が物性を持って固体化したのだ。両端は岩に溶け込んだようにしっかりと埋め込まれている。私は立ち上がって、ロープでできた珍奇な仕掛けを引っ張ったり急に力一杯ぐいと引いたりして、試してみた。これは本物だ。強度もある。
 物凄く浮き浮きとした気分が波のように押し寄せて来る。脱出できるということに加えて、想念形成プロセスが証明されたことにもいたく感動した。それに、そのプロセスを初めて試みた結果が上出来だったことにも感動した。
 それからすぐに、揺れ動いたり捻じれたりするあの橋のような物に、できるだけ上手なやり方で取り組んだ。両手両足を使って這いながら、苦労して峡谷を渡り、山側の岩棚に辿り着いた。異常に興奮した安堵感を覚える。それがゆっくりと静まっていく。何とかそこから奇跡的に脱出できた、あの一つだけ取り残された岩の頂点に最後のお別れの視線をちらっと投げかけてから、前進する方向に意識を集中する。
 と、突然、何か動くものが視野に飛ぴ込んで来た。これはびっくり仰天だ。巨大な蝶々が峡谷の深いところから舞い上がり、山の正面に沿って上へ上へと飛び続けていく。間もなく、見えなくなってしまった。私のいる場所のずっと上のほうだ。蝶々の体は人間の大きさで、人間の格好もしていた。形からして女性であることは疑いない。また、幽霊皮膚も身にまとっていた。それは私と同じだ。だが、私と違うのは、巡礼仲間であっても私より頭が良いので、この山を登ることをしないで、飛んで行くほうを選んだ点だ。自分はどうしてその方法を考えつかなかったのか?
 とにかく、私は狭い岩棚を修道院に向かって歩き始めた。数キロ先に行くと、ジグザグの本物の道路に出た。いつまで続くのかと思えるほどのジグザグ道を登っていくと、ついに、山腹に掘られている階段の下に出た。ここだ! 岩の階段を昇り始めると、心臓がどきどきしてきて脈が速くなった。目的地はすぐそこだ、もう一息だ...

 * * * * *


第十二章 超越

 長い階段を昇って行くと、三日月形をしたテラスに出た。向こう側には、幅広い出入り口が岩の壁に出来ている。既に午後も遅い時間だ。下の峡谷に最後の一瞥をくれた。
 それから出入り口を通っていくと、松明に照らされた通路になった。そこを進むと、円形の岩の部屋だ。そこで、通路は七つの異なる方向に分岐している。円形の部屋の壁の一画に沿って古めかしい椅子が五脚置いてある。その背後は暖炉で、丸太が燃えている。どういう訳か、この光景は畏怖の念を起こさせる。
 僧衣を着た一人の人間の姿が椅子から立ち上がり、私のほうに向いた。その姿は素晴らしく荘厳な雰囲気をかもしだしていて、背筋がぞくっとするほどだ。偉大なものの面前にいるという自覚があった。そのうち、僧の頭巾が後ろにずり落ち、見覚えのある顔が現われた。だが、馴染みのない聖人のような輝きを放っている。その輝きには骨の髄まで感動した。その顔を見て、私は茫然とした。その男はクエンティンだった!
 私達は黙ったまま暫そこに立ちつくした。ついに、クエンティンが、温かく微笑みながら、口を開いた。
 「ようこそ、ワンダラー(放浪者)よ! 余り長いこと私を待たせはしないと思っていましたよ」
 私は驚きのショックから立ち直って、いろいろなことを喋りまくり始めた。大方は質問だった。
 彼は、私の洪水のようなお喋りを制止するかのように、片手を上げて言った。
 「ここが貴方の旅の終着点ですので、今だからお教えしましょう。貴方はまさにこの場所に来る運命だったのです。実際のところ、貴方達七人の巡礼者全部がそうなのです」
 「そんなことではないかと思ってました」
 私はそう言うのを押さえることができなかった。
 私達は、優しく燃えている暖炉の火の方に半分正面を向けて、古い肘掛けいすに腰を下ろした。クエンティンが話を続ける。
 「貴方をここで歓迎するために、ずっと早くここに着いていました。でも、貴方のとは違った方法でね。例えば、私は宇宙船を必要としません。『スペクトラン方式』で旅する方が好きなのです。つまり、『変換』です。ついでに言いますと、この方法は地球の古代の神秘派に関連した一部の人々にも知られていたものです」
 私はゴクリと唾を飲み込んだ。クエンティンは私が知っている普通の人間とは少し違うのではなかろうか。
 「貴方は一体何者なんですか? 天使みたいな存在なのですか?」
 「どう呼んでも構いませんよ。でも、名称や表現に拘泥しないように。本質だけが重要なのですから。本質が表わしているものもね。とにかく、この辺りでは、私のようなものは『コズミック・トラヴェラー』、宇宙の旅人と呼ばれています。私はどこにも属さない自由な存在で、自分の意志でガーディアン委員会の仕事をしているんです。いくつかの領域や宇宙を旅する移動代理人みたいなものです。今の任務は貴方を案内することで、これは貴方が最初にUF0に遭遇してからずっとそうです。そして、最終的にはあなたを、巡礼仲間六人と一緒に、ここにお連れすることです」
 「他の六人はここにいるんですか? あの蝶々の女性は?」
 「到着していないのがあと二人います。あの地球の女性はもう着いています。彼女は、想念形態による形状変化については非常に創意に富んでいました。貴方のロープの橋という解決策も、非常に単純明解で、彼女の方法と同じようにおもしろいものでしたが。ところで、彼女は貴方と同じように、人間なんです。いつの日か、おそらく出会いますよ。多分、かつて一緒に巡礼した仲間だということはお互いに分からないでしょうがね。こうした楽しい驚きや神秘的な『偶然』というのは非常に楽しいものです」
 と、クエンティンは面自そうにちらっと微笑んでみせた。
 「なぜこんなに手の込んだ見せかけ騙しや不思議なことを経験させるんですか? もっとずっと簡単な方法でここに連れてくることもできるでしょうに」
 「添乗員付きの、ファーストクラスの旅行のようにですか? いや、いや。この方が自分で学ぶことがずっと多いんですよ。自ら経験し、問題が出てくる度に自分でそれを解決する。それに勝るものはありません。それが、真の向上への唯一の方法なんです」
 「全くその通りでしょうね。でも、下の『影の平原』で経験した災難の数々の意味は全然分かりませんでしたよ。何もかも単なみ固体化した想念形態のはずなのに、岩のようにがっちりとした物性を持った実体のように感じました。実際に実体のあるものだったのでしょうか、それとも実体ではなかったのでしょうか?」
 「全く実際のところ、ここに存在している空白の何も無い風景は、純粋の想念形態ですが、それを貴方の自我が地球類似環境の感覚印象として知覚したがるのです。さて、この基本的には何も無い空白の形態は、誰かの類似環境枠を通して常に変化していきます。自分でそうする場合もあるでしょうし、誰か他の人の『心の世界』に入ってしまう場合もあるかもしれません。後者は、自分がその人と共振し、潜在意識のフィードバックを行う場合に起こります」
 「妖精が踊っていたあの光景は、別の巡礼仲間の想念が構成したものでしたが、貴方が不注意に壊してしまったのです。お城の場面では、貴方を恐ろしい動物と勘違いした別の巡礼仲間と貴方が、お互いに脅かしっこしたということです。沼地の悪夢は、貴方のひどく抑圧された潜在意識の産物に過ぎません。多産の儀式の光景は、長いこと見捨てられていて消滅しつつある想念形態ですが、貴方の活力ある共振活動が過剰であったため、あの想念形態が生き返ったのです。ところが、貴方に疑念や罪悪感があったために、地震を起こしてその儀式をすぐにぶち壊してしまったわけです。砂漠ではその逆のことが起こり、物質化する可能性のあったいろいろなものに貴方は応えないほうを選択したのです。あの宇笛基地は非常に強力で活発な想念形態で、一群の反逆者が作り出して押しつけてきたものですが、彼らを貴方はどうしても変化させられないし、彼らも貴方を変化させられなかったので、唯一の解決策として貴方を丸ごと外に捨て去ったのです」
 「さて、それぞれの場面で貴方の心の反応は異なっていましたが、貴方の性格からしてほぼ予想できる反応でした。時には完全に被害妄想的になったり、あるときは公然と攻撃を仕掛けて一連の準備されていた出来事全体を変えてしまいました。こうした出来事は全てテストの役目があり、貴方の精神能力や臨機応変の才を通して貴方がどの程度進化してきたかを知るのが目的です。ガーディアン委員会は貴方が現在どの段階にいるかを掴みましたし、貴方にも自分の進化の度合いが分かったことと思います」
 「貴方も他の巡礼仲間も、各人それぞれ自分なりのぺースでやって来ました。自分の全くの習慣に従って時間を『昼』と『夜』に分け、自分の精神構造が作り出す独特の冒険を経験しました。ここで必要とされる高い振動率で生命を維持するのに貴方に割り当てられたエネルギーはもう残っていませんから、貴方の訪問も終わりです。貴方と巡礼仲間がみんな、進んでいると思われる方向も時間の長さもそれぞれ大幅に異なっていたのに、最後には正に『同じ場所』に『同じ時』に着いたのはなぜかとお思いかもしれませんね。それは、この世界では時間と場所という要因は関係がないからです。この場合の共通要因は、前もって準備された出来事の共有ということで、それがここに『集中』して『同期』する役目を果たすのです」
 クエンティンの話を聞きながら、奇妙な考えが頭を横切った。もし普通の時間がここでは関係ないとすると、巡礼仲間の中には私が地球を出発した一九七五年夏よりも数年早いか遅いかの時代から来た人もいるのかもしれない。
 クエンティンは次のような説明を続けた。
 「というのは、ここは時間も空間もない領域だからです。とはいっても、貴方にとって実際の生物学的時間は依然として経過したのです。ただ、非常に短時間だけですけどね。それは、加速した振動差の転換率のせいなのです。混沌障壁と『幽霊船』に戻ると、その時点からは、発射と帰還の迎えの間は一時間も経過しないでしょう」
 「ここに来られた目的である出来事の共有がそろそろ始まります。他にも参加者が何人かいます」
 クエンティンは椅子の上に掛けられている衣類の束を指さす。
 「僧衣を着て、ついてきて下さい。他のものも同じような僧衣を着ます」
 私は彼の指示に従い、灰色っぼい僧衣を身に着け、頭巾を引っ張り頭を隠した。クエンティンが壁から松明を一本取り、ついてくるようにと動作で示す。私たちは真ん中の出入り口を通って行く。そこからは通路の迷路だ。クエンティンのすぐ後にぴったりとついて行く。彼は、疲れを知らぬようにしっかりとした足取りで迷路をあちこち曲がって行く。迷路はずっと上り坂になっている。私たちはどんどんと高いところに登って行く。だが、依然として山の内部だ。円形の部屋の高度よりも少なくとも一キロ半は高いところに来たに違いない。と、前方に明りが見える。開かれたところに通じる出口に近づいたようだ。やっと、迷路に入ってから初めてクエンティンが口を開く。
 「もうすぐ『ガーデン』に出ます。そこに着いたら、物事は説明するまでもなくかなり明らかか、あるいは、関連性のある疑問に対しては、自分の心が答えてくれます。これは自然の法則によってこの高いレベルで起きることなのです。この高いレベルは、ガーディアン達がそのままの姿で降りて来れる一番低いレベルなのです」
 クエンティンが話しかけながら私に先に行けと手で合図するうちに、私たちは開かれたテラスヘと足を踏み出す。
 「ここが『ガーデン』です。『フェスティバル』と呼ばれる出来事の共有はここで行われます。『フェスティバル』は、地球の時間で百年に二回だけ行われます。遠くの貴方の地球でもお祝をする人も一部にはいます。そうした参加者から沢山の人が『幽体離脱』してここに短時間来ますよ。さあ、他の沢山の人々と一緒になって参加しなさい。彼らも貴方と同じように『肉体化』してここに来ています。行って、楽しんでらっしゃい!」

 * * * * *

 はっと息をのむように美しい眺めが目の前に現れた。信じられないくらいだ。床に大理石を敷き詰めたテラスの上に私は立っていた。周囲は精緻な彫刻を施された巨大な柱だ。テラスは肥沃な渓谷を見下ろしている。目に見えない高さへと聳え立っている山の峰々に囲まれた渓谷だ。この峰々はどのくらいの高度だろうか? 眼下には、三日月形の高台が拡がっている。幅は数百メートル、長さはニキロ程。若干植物園に似ていて、信じられないほどの各種の花と潅木で一杯だ。鼻孔に微かに匂ってくる芳香は形容し難いほど芳しい。オゾンをたっぷり含んだ空気は明らかに人を陶酔させる。何もかもが神秘的で、想像を絶するほど素晴らしい。天国とはこんな感じに違いない。私が通って来たばかしの人を寄せつけないほど荒涼とした峡谷や地下迷路とは、劇的な対照をなしている。
 幅広い大理石の踏み段が下に向かって続いていて、そこから別のテラスにつながっている。テラスからは様々な通路や階段を通って、『ガーデン』そのものの三日月形をした高台に降りて行けるようになっている。そして、そこには何百という、いやひょっとしたら何千という人々が僧衣を着て集まっている。ベンチに座ったり、芝生の上で手足を伸ばしたりしている。『ガーデン』の高台から上のほうの山腹には、私が立っているのと同様のテラスが多数あり、それが半円形状に散在している。そうしたテラスの中には、階段を降りて行く独りぼっちの人影を擁しているのもある。
 日が急速に暮れ始めたので、私も動きだすことにする。そうクエンティンに言おうと思って振り返ると−−−彼がいない。消え去ってしまったのだ。そこで、一人で大理石の石段を降り始めた。まるで、かつては活気に溢れていた古代のアクロポリスから降りて行くようだ。気分が大いに高揚し、嬉しい幸せな期待感に満ちている。
 『ガーデン』を突っ切って高台の反対側に歩いて行く間、誰も話しかけて来ない。反対側に着くと、辺り一面の素晴らしい眺めが得られる草の生えた斜面に腰を下ろす。皆それぞれ一人でいるが、私は彼らに親しみを感じ、寛ぎも覚えている。渓谷に夜の帳が降り、暗闇が向こうの山の尾根や霞に覆われた峰々を包み始める。
 暗くなると、多数の小さな点のような光が秩序だった列をなして、向こう側の尾根から降りてくるように見える。その有様は、松明を掲げた僧達の行列を思わせる。厳粛だが心温まる音が響いてくる。あたかも、天国からやって来た五音音階の聖歌隊みたいだ。私の身も心も、平安と厳粛さと崇敬の念で満たされていく。
 今度は、パステル色をした優しく光り脈動する光の球体がいくつも、あたかも歩哨のように、支柱のついたテラスというテラスに出現した。その数はおよそ五十。皆生きている力強い存在だ。「ガーディアン達が到着した!」興奮に満ちた『テレパシーの囁き』が、そこに集まった群衆を走り抜けて行くのが聞こえる。そうか、これらのかなり著しく非肉体的な形態が、かの偉大なガーディアン委員会を構成しているのか!
 渓谷の上の空気が、何千、何万という小さな光点でゆっくりと満ちていき、暗黒が至るところ煌めき出した。どういう訳か、その正体が私にはすぐ分かった。こうした光点は実際に生きている意識で、アストラル体の形式で旅をしてきたのだ。幽体離脱だ。肉体は遠くのいろいろな次元に置いたまま、この深遠な出来事に磁石に引かれるようにやって来た意識なのだ。時折、もっと強力な光点が数個、視野にぱっと入ってきたり、ずっと上空から少しずつ下りて来たりする。あたかも、離着陸の激しい空港に着陸をしようと最後のアプローチをしている航空機みたいだ。近づくと、これらの球体はガーディアン達の球体とほぼ同じくらい強烈な光を発しているように見えるが、色合いは異なっている。彼らは着陸せずに、辺り一帯に低く浮遊し続けている。どういう訳だか、今度も、その正体がはっきりと分かった。彼らは、字宙の旅人、コズミック・トラヴェラーだ。ガーディアン委員会の『現場代理人』として、各自の使命を帯びて多次元宇宙をあちこち移動する自由な立場の存在だ。コズミック・トラヴェラー達は今は純粋のエネルギー形態で現われたが、具体的な役割に適した他の形態も取ることができるのだ。ちょうどクエンティンがやったように! 彼らの本質がどのようなものなのか、その手掛かりをほんの少し得ただけで私は恐れを感じた。
 この頃になると、音楽のスタイルは大幅に変わっていた。突然、四方八方から、また様々な方法で聞こえてくるようだ。だが、全てが融け合ってひとつの調和のとれた音楽になっている。そのうちに、突然、あることに気がついた。ガーディアン達とコズミック・トラヴェラー達の超高速の相互コミュニケーションが実際に漏れ聞こえてくるのだ。だが、同時に聞こえてくるので、個々のチャンネルのようには区別ができないが、融合して、複数のオーケストラが演奏する一曲のシンフォニーのように聞こえる。本質を取り出すと、『シンフォニー』の構成要素は、各人の演説、報告、遠く離れたいろいろな世界の状況に関する情報交換、一緒にいることを非常に楽しく熱狂的に祝っている言葉などだ。私はただ単に漏れ聞こえてくることを耳にしているだけに過ぎない。それでも、大きな喜びと一体感のうねりが体全体に湧き上がってくる感じだ。点滅している小さな光点は肉体が遥か離れたところにある参加者の意識だが、それすらも何か喜びに満ちたリズムで踊っているように思える。
 今度は、聳え立つ山腹全体が明るくなりはじめた。あたかも昇ってくる太陽の黄金色の光線を浴ぴているようだ。光は目が眩むような高いところへ急速に拡がっていき、古代の黄金都市の夢のような宮殿や尖塔のきらきら輝く建築群がたくさん現われてきた。非常にドラマチックな視覚的現出だ。霊妙な優雅さと美しさをもった本当にこの世のものではない光景だ! それから、非常に遠くの高みから、異なった色をしている物凄く強力な生命体が七つゆっくりと降りてくる。彼らの目も眩むような素晴らしいオーラは壮大な流星のようで、虹の七色を網羅している。今回も、質問も発しないのに、自分の当惑する心の中に既に答は出ていた。『アセンディド・マスターズ(高級教師)』の到着だ! 彼らは依然として顕示化している創造物の一番上のところからわざわざ降りてきたのだ。『距離』で言うなら、私が地球からやって来た旅に匹敵する旅をしてきたのだ。彼らが自分たちの領域の一番低い境界線まで降りてきたのは、私たちと直接会うためであり、様々な方法で総体的交流をするためだ。その方法は私の今の状態では到底窺い知れないとしても、起こっている状況の本質を薄々感じているだけでも非常に幸せで満足だ。
 マスターズの到着で、素晴らしく高揚した気持ちと意気揚々とした先見の明に満たされていくのを感じた。まるで、突然、無数のべールが取り払われたかのようだ。異なる実在物が生存している驚く程多数の次元や領域を際限なく垣間見ることができる。そして、こうした領域の一つ一つは無数の種類の生命体で満ちていて、その生命体が各領域の非物性的な環境か、何らかの物性を持っていると思われる環境の中で生きているのだ。この急激な『メガトン』級の知識の爆発で、心のフューズが全て飛んでしまいそうだ。自分の意識が恍惚とした感じで拡大していくのが感じられる。今や、その意識は宇宙の信じられないほど広大な範囲を含んでいるようだ。勝ち誇ったような喜びの気持ちは想像を絶するほどだが、私は今にも爆発して永久に何処かに吹っ飛んでしまいそうだ。このようなビジョンを『自分の』中に抑えておくのはもう全く不可能だ。細かいところまで鮮明で、しかもこんなに大量にあってはとても無理だ。千人の人間の心であっても、入り切らない量だ。
 だが、幸いにも、ちょうどそのとき何か新しい動きが起こり、その他のもの全ての影が薄くなった。私の貧弱な人間の心の中の非常に壮大な宇宙パノラマも押しのけられてしまった。頭上では藍色の空の中心が文字通り開き、目が眩むほど眩しい金白色の光が私達みんなの上に、あらゆるものの上に、優しくなでるように降り注がれてきた。私の心が、私の全存在が、耐えられないほどの喜びで満ちあふれる。自分が、またそこにいる全ての人も、大いなる愛に触れられ、包まれているのだ。
 「あのお方だ! あのお方が来られる!」
 群衆が歓喜するのが、テレパシーで『聞こえ』てくる。だが、不思議なことに、何の名前も『口にされない』。しかし、この場合、それも至極当然に思われる。
 力の大きな高まりに私はいたく感動した。と、突然、一千もの目を通してあの金白色の光を覗き込んでいる気がした。理解し得ないながらも、大きな調和状態からなる形容し難いたくさんの球体で構成される膨大な集合体の中をじっと見つめた。それには驚く程たくさんの種類の純粋エネルギーからなる巨大な存在が詰まっている。そして、それらの総体が内部に納められていると同時に纏まって唯一つの、全てを包含した存在、つまり『あの方』になっているのだ! これこそ究極の存在形式に思われる。それ以外には、もっと高い領域と形式の存在を示すものはほんの微かしかないし、それを越えたところでは、私の全存在は金自色の光それ自体が拠ってきたる源の中に溶けてしまいそうだ。
 私が壮大な光景を『外に見ている』のと同時に、自分の中心部を『覗き込まれ』、調べられ、私と私の『地球の』人類がどの段階にいるのかを分析され、評価されている気がする。『自分』を『彼らの目』を通して実際に見ることができそうな程だ。一瞬くらくらっとして、私が『外を見る』のと彼らが『覗き込む』のとが交差し融合して、彼らが本当は『私』なのか、私が本当は『彼ら』なのか、誰が誰なのか分からなくなった。だが、本当はどちらでも良いのだ。私たち皆が一つに融合しているのだし、外部とか内部とかいうことは、視点が分極化しているときの問題に過ぎないのだから。
 そのうち、小さな『自分』と、良くは分からないが強力な『彼ら』とを分離しようとする試みをあきらめた。比較・分類するのをやめてしまった。どういうわけか、こういう状態も合点が行くことだと思った。あらゆる二元性もずっとずっと高い視点、全てを包み込む視点からすれば、解決されているのだ。唯、明らかに限界がある自分には十分把握できないだけだ。自分の理解力を十分に発揮してこの最高のところまで達したのだということ以外に私が感じたのは、大きな安堵感だけだった。何もかもが申し分なく、全てが、私が目にしたどの高級な生命体とも同じ位、私なりに、私の段階で重要なのだと気がついたからだ。私達は最も単純なものから最も高尚なものまで、一つの大きな家族なのだ。形態や領域や形式はどうであれ、私達は皆同じ膨大な人類というグループに属してているのだ。将来のいつかの時点で私は彼らみたいになるかもしれないし、彼らもかつては私のように微々たる存在だったのだ。いろいろな存在形式を通して経験を積み重ねていくということに過ぎない。その間、学習し、知識や能力や資質が常に成長していくのだ。だが、この成長はいろいろな段階を経ていく大いなる冒険であり、その各段階は、それ自体がそれぞれ同等の重要性を持っていて、各段階を丸ごとそのまま十分に昧わうべきであり、その瞬間瞬間を十二分に経験すべきなのだ。唯一大事なことは、『今この場』に生きることだ。『今この場』こそが自分の存在、自分の成長の常に一番新しい先端なのだ。『今この場』に生きなければ、まさに存在そのものの意味を完全に見失ってしまうことになる。
 形態、形式、レベルといったものは意識の産物に過ぎない。時間と空間は純粋の意味では本当には存在していない。唯、自らを限定してしまう様々な体系の副産物として存在しているに過ぎない。私の属する地球人類のようにそれほど進化していない存在は、一時に一つの体系内でしか機能しない。だが、もっと進化した存在は、同時に多数の体系内で生存できる。適当と思えぱ、どのような形態でも、あるいは無形態でも生存できるのだ。例えぱ、マスターズは本質のみの存在が主で、どんな形態も持たない。だが、その時々に相応しい形態を選んで顕在化することができる。自らの本質を適切に象徴する形態を取れるのだ。
 もちろん、感覚増幅器を身に着けていなければ、私は何も知覚することすらできなかっただろうし、いわんや増幅された状態で知覚したことのほんの一部でも理解することすら到底覚束なかったであろう。だが、増幅された状態であっても、真実にまあまあ近い複製みたいなものが得られたに過ぎない。感覚知覚に基ずいた私の心理構造では、せいぜいこのような解釈しかできないからだ。
 ここに記したことや記してないことも含めて、私が得た洞察は全て、その時の『存在』がどういうものであったにせよ、私の『存在』に自動的に充満されてきたに過ぎない。私自身の意識は『ガーデン』にいた全てのものの意識と同じように、物凄く拡大されたに違いないが、私(私達)は合体して一つの大きな集団意識の場となり、個々の焦点は同数の抽象的な『私』として維持されていたに過ぎないのではないかと思う。
 暫くすると、事物がぼやけてきた。私自身が、こうした顕示や現出の単なる形態ではなく、本質を楽しむことにしたからだ。すると、自分の一部が『本質』を探し求め続けるうちに、自分の存在全体があの金白色の光の中に超越していくような気がし、忘我の至福の波が後から後から押し寄せてくる...
 私が最後に意識していた考えの断片はこうだ。全ては見当違いもいいとこだ。何もかももはや重要ではない。私は『我が家』に、本来あるべきところに、戻ったのだから。人が手に入れることができる、唯一本当の『我が家』に...

 * * * * *

 どのくらい『意識がなかった』のだろうか。分からない。『正常な』自分に戻ると、周囲は暗闇で静かだった。『ガーデン』はがらんとして誰もいない。だが、そこは依然として親しみを感じさせ、平和に満ちている。私は幸福感に満ち溢れ、非常に軽やかな気分でもある。周囲には誰もいない。いるのは、ただ、私と、頭巾を被った僧が六人、近くに寄り集まっているだけだ。靄が地面から立ち籠め、既に余り良くない視界を更に悪くしている。
 僧衣を着た人影が露の中から姿を現わし、私達七人の小さなグループのところまで来て止まった。その男は頭巾を披っていない。そのプロンドの髪の毛から容易に誰だか分かった。クエンティンだ。確かに彼なのだが、雰囲気が随分と違う。静かに輝いているのだ。優しい後光がさしていて、別世界のものかと思うほどだ。何という変化だ!
 「こんにちは、勇敢な巡礼者の皆さん」
 クエンティンが話し始めた。明らかに、私達みんなに向かってだ。
 「フェスティバルは終わりました。その力強さと美しさがいつまでも皆さんに残り続けますように。この催事全体の長さは、皆さんにとっては数時間の出来事としか思えなかったと思いますが、他の人達にとっては一か月も続いた感じでしょう。全ては相対的で、各人の理解力のレベルに応じているのです。フェスティバルが終わったことで、皆さんのこの領域への訪問も終わりました。皆さんのオデッセイの目的は果たされ、私の使命も完了しました。皆さんは記憶すべき旅を経験されたのです。ガーディアン委員会を目にし、アセンディド・マスターズもご覧になりました。彼らのほうでも、皆さんを目にし、皆さんと皆さんの属する地球人類が宇宙的進化のどの段階にあるのか、また皆さんの将来実現可能な潜在能力にはどのようなものがあるかも、直接知りました。彼らは、皆さん一人一人と徹底的な個別のコミュニケーションを行いましたが、群衆の他の人達みんなと一緒に、同時のコミュニケーションも行ったのです。このプロセスの一部については、皆さんは賞賛に値するほど素晴らしい理解力で把握しました。それに加えて、皆さんはこのオデッセイを経験し、かつ、出来事を共有するフェスティバルを皆さんが慣れている普段の生身のまま、肉体を維持したまま経験し、夢や空想だけでなく、皆さんの『客観的な』感覚作用で全てを知覚したわけです。この全人的参画がこのミッションのもう一つの目的でした。だからこそ、皆さんを深宇宙旅行と手の込んだ分子プロセスを経て肉体のままここにお連れしたのです」
 「しかし、いくら必要であっても、いくら人を感心させても、テクノロジーは究極の答ではありません。皆さんご自身で、ご自分の内的宇宙(心)で同じような旅をすることはできましょう。もちろん、肉体なしで、意識のみでです。それこそ、真の旅人、真の経験者です。意識が進化すれぱするほど、様々な次元への旅は、一層真に迫ったものになります。もちろん、最初は、ためらいがちでしっかりとせず、認識も想起もかなり曖昧でしょう。このプロセスは、地球人がいう『アストラル体による旅』や『魂の旅』(幽体離脱による旅)と微かながら似ています。これは適切な瞑想法やそれに関連した方法で開発できるものです。こうした方法はとっかかりとしては極めて役に立ちますが、最終的には皆さんがご自分の創造性を生かして、ご自身で身につけなければなりません。そうしないと、うまくいきません」
 「さて、皆さんの訪問は終わりです。皆さんそれぞれの故郷にこれから戻ります。間もなく、エーテル船がここに着陸し、例の『目』を通過して混沌障壁地域に皆さんをお連れします。これからやって来ますこの船はどちらかというと想念形態みたいなもので、この時のためにガーディアン委員会が創造しました。仕事を果たしますと、この船は消えてしまいます。船の推進力には、ますます重さを増していく皆さんの物質的振動を使い、方向探知は、皆さんが身に着けられている幽霊みたいな皮膚に備わっている『幽霊船』自然追尾機能が行います。非常に独創的な程単純な仕掛けです」
 「皆さんの意識は高まったままですので、帰路の妥当な『技術的』詳細は全て理解できるでしょう。これは、船の操縦知性に自然に備わっているマインド(精神・心)連結プロセスによって起こります。皆さんは船のマインドを『読む』ことが簡単にできます。これから到着するエーテル船であれ、『幽霊船』であれ、円盤であれ、どれでも同じです。実際、これで皆さんはそのような乗物ならなんでも操縦できることになります。しかも、これはガーディアン委員会が意図したことなのです。実は、ガーディアン達は皆さんに操縦も覚えてほしいと思っていました。それも皆さんのオデッセイの目的のひとつでした。地球に戻る途中で、皆さんは大型の『救助用円盤』の操縦訓練を受けます。何百人も収容できる円盤です。更に、一時に何千人もの人を移動するための『宇宙のノアの方舟』を操縦する訓練も受けます。この訓練を受けておけば、危機状態になって『救助作戦』が必要になった場合、皆さんも色々な方法で役に立てます。ガーディアン委員会は、皆さんの自由裁貴で、地球人の救助を責任を持って引き受けることと、現地の状況が必要とするなら船の中枢。マインドを無効にすることも行って欲しいと思っています。もちろん、それには一つだけ条件があります。宇宙の法との調和に基づいたガーディアン委員会の意図に従うということです。これについては、その時が来れば皆さんも十分に認識されるでしょう」
 「皆さんが吸収することになる操縦知識は非常に複雑ですので、普通の状態にあるときに意識的に思い出そうとしても想起できません。しかし、記憶に留まっていますので、振動の加速によって適切な引き金作用が働いて想起できるようになります。必要性が生じたら、私たちから連絡がいきます。ただし、公共の利益のために皆さんが協力したいということが前提です。それまで、沈黙するなり、ご自分の経験を他の人に語るなり、ご自由になさって結構です。しかし、皆さんが経験された出来事について、それらしき筋道の通った形で思い出すのにも、普通の状態では暫く時間がかかるかもしれません。部分的記憶喪失も良くあることです」
 「より完全に思い出すのを助けるのに、瞑想が役立つかもしれません。特に、同じような考え方をする人達とグループで瞑想するのが良いでしょう。集団エネルギーを増幅用に使うと、驚くべき成果が得られることがあります。特に、その中の一人がエネルギーの総体を選択的に方向づけする方法を知っている場合はそうです。それから、こういう方法も有益かもしれません。つまり、もっと分別のある価値観や生活様式、もっと価値のある新しい意識に向けて方向を修正するのを目的とする種あるいは元となるグループを作るか、そのような既存のグループに参加するのです。いわぱ『光』を目指すグループとでも言いましょうか。というのは、このようなプロセスは一般的には『光』に向かっての方向転換として知られているからです。地球では、『光のセンター』や『光の寺院』が既にたくさん存在していますし、これからもグループ活動を通してもっとたくさん開設されていくでしょう。そこでは、似たような考え方の人々が情報を得たり激励を受けたり開発されたりして、これから到来する新しい『水瓶座の時代』を迎える準備ができるのです」
 「間もなく、マインド連結とはどういうものかを味わえますよ。地球への帰還の旅で皆さんに共通の部分では、同じ宇宙船で行きますが、お互いに身元が分からないように別々の個室に入ります。しかし、お互いの『本質』は自然のテレパシーによる浸透で分かるようになります。このプロセスは言葉やイメージでは全く理解できないものですが、あるレベルで皆さんのマインドがお互いに流れ込むのです。そこからどのような知識を更に合成できるかは、各人の能力次第です。でも、これは、マインド・プーリング(マインドの共同作業)と相乗作用の興味ある実験となるでしょう」
 「将来、皆さんは多分お互いに出会うことでしょう。あるいは、私達と様々な『旅』を経験したり接触をした人達と出会うこともあるでしょう。そのような場合、『第六感』で気づきます。そのような勘に従って、そういう人達と接触をする価値がある場合も時にはありましょう。共に力を合わせれば、皆さんそれぞれのジグソーパズルを解くのが楽になり、パズルが解けたら、そこから、皆さんがオデッセイについて抱いているたくさんの不明確な側面に対する答が分かる可能性もあります。そのうち、どうやってここにやって来たか、どのように出来事を知覚したか、そしてどのような解釈をしたかによって、それぞれの人の話が若干異なっていることに気がつくかもしれません」。

 * * * * *

 微かにちらちら揺れる光が、星のない藍色の天空に現われ、私達の方に向かってくる。私達の近くに着陸しようと接近してくるうちに分かったのだが、それはダイアモンドの形をした青味のかかった白色の優美なまでに透明な宇宙船だった。実際のところ、むしろ今にも壊れそうな想念形態のようだ...
 『これが皆さんのエーテル船です。乗船して、各人の個室にお入り下さい。あとは自動操縦になっています」
 クエンティンが言った。
 「さて、『さよなら』と『楽しい旅を』と言う時が来ました。皆さんとご一緒に仕事ができて本当に楽しかったです。地球に戻られたら、皆さんが地球を出られてからおよそ三日間しか経っていないことに気がつかれますよ」
 「それでは、またお会いする時まで、ごきげんよう!」
 クエンティンは、別れながら温かく手を振り続けている。
 私たち七人の巡礼者は、既に着陸して私達を待っているダイアモンド型のエーテル宇宙船に向かって歩き始めた。地球への帰還の旅と大いなるUFOの冒険の幕引が始まったのだ。だが、奇妙なことに、私にはスペース・オデッセイの終わりに近づいているという気がしない。むしろ、新たな始まりの感じだ。私は身体中が興奮していた。あたかもこれからもっと大きな冒険に出発するかのようだ...

 * * * * * * * * * *

<完>



Mail→takashi@bb-unext01.jp


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