平成社会の人々の動き



第 1 話  「コンサート」とは「音が苦」世界か?


「コンサート」に何を求めるか
  人間の生活に音楽は欠かせないものです。衣食住と違って、音楽は確かに無くっても、
生きていくことは出来ますが、それはそれ(いでそよ)、言い古された

 「人はパンのみに生きるにあらず」

の典型的な人生目標のひとつでもあるのです。

 それは未開地域の人々の生活や私たちの先祖の素朴な生活の中における音楽の役割を思い
浮かべれば十分に理解できることです。
 また文明が発達すればするほど、人々の行動は単純でなくなり、複雑な社会構造の中で、
物理的に、さらには精神的に人々は格闘しながら生きねばなりません。
 だからこそよけい音楽というような精神的栄養分が要るわけです。

 人によってはその日の食費を切りつめても、すなわちパンを鱈腹食べるところを半分に
してでも精神的憩いを求めるものです。
 平成現代社会のように、物質面では、まず不足することのない時代にも、なおさら
精神面の充実を渇望して、人々は「癒しの音楽」とやらに興味が傾いています。
  
 筆者もご多分に漏れず、「癒しの世界」を「コンサート」に求めました。
 ところが、その結果、「コンサート」の世界は本来求めたような世界でないことが分かりました。
ある音楽団体とのやり取り
 <演奏団体へのお願い> 
    本日は、内容の濃いプログラムで、一生懸命の演奏を楽しませていただきました。
    いい演奏だけによけい次の点が気にかかり、アンケートに次のようなお願いを
    書かせていただきました。
    
    どうしていつも雑音を出す乳幼児、未就学児を演奏会場に入れるのでしょうか。
    その親御さんが、音楽を楽しみに来られるので、というのは、答えになりません。
 
    一人の音楽ファンのために、その何百倍の音楽ファンが迷惑しているのです。
    中には、音は出さないが、横でごそごそする子がいます。雑音はだしていませんが、
    いい音楽の雰囲気丸つぶれです。
    ご一考願います。

 <演奏団体の回答>
  先日は当団の演奏会に、ご来聴頂き有難うございました.更には大変貴重なご意見を
  有難うございます.
  折角のひとときに周りの雑音から不愉快な思いをされたとのことで,私たちとしても
  とても残念です.

  この件に関しましては以前よりご指摘を頂いていまして,当団としても場内放送などで
  母子室の利用をお勧めしたり,定期演奏会とは別に、主に子供連れのご家族のための
  演奏会(ファミリー・コンサート)を定期的に実施するなどの活動をしてきました.
 
  しかしあなたをはじめ,少なからぬ方からのご指摘を受けるように,残念ながら
  期待するほどの効果を上げていません.

  小さな子供の入場制限などには,団内でも色々な意見があるのですが、楽団の活動の
  歴史的経緯や根深い文化のようなものもあり,なかなか踏み切れないのが現状です.

  色々な制約があるものの,アンケート等から寄せられたご意見は,団の運営に大変貴重な
  ものです.私たちとしてはこれらのご意見が活かせるよう,最大限の努力をしたいと思います.

  どうか今後とも,楽団の活動を暖かく見守って頂くよう,また忌憚の無いご意見が
  頂けますようお願い致します.


  <さらにそれに対する当方の追加コメント>
    ご返事が頂けるものとは思っていませんでしただけに、かえって恐縮です。
    事務局として、大変なご苦労は理解出来ます。

    とにかく、親御さんの自覚を待つしかないのですかね。入口に大きく看板で掲示するとか、
    もう一度、入場時に子供連れの親御さんにチラシを渡してはどうですか。
    それと、各人に条件を付けて、「ひとりでも苦情がはいったら、あなたのお子さんではなくとも
    幼児全員退場になりますが、責任を負ってくれますね」と念を押すわけです。

    小生のように、音楽もさることながら、交響曲の始まるあの何秒かの演奏者、指揮者、
    開場の緊張した「無の時間」、それと演奏終了と同時のそれまた零点何秒かの「無の時間」を
    味わいたいために音楽会に行っている人もいるということを忘れないで欲しい。

    子供を連れいてく親のなかには、「こどもの教育」と分かったようなことを言う人がいるが、

      音楽は「教育するものではない」のです。
      音楽は楽しむものなのです。
      喜びを感じるものなのです。
 
      喜びを求めていったところが、嫌な思いをして帰ってきたのでは、何のために音楽会に
      行ったのか分かりません。
    これを言い出すときりがありませんので、やめます。

    とにかく、より多くの音楽ファンが貴団の音楽を楽しめる将来を願うところです。
    ありがとうございました。
日本人の公徳心
  音楽を公衆道徳の面から眺めるというのは、どうかと思いますが、上記の問題を直接あれこれ
詮索するには、どうしても音楽そのものを離れて、「公徳心」というような堅い言葉を使用し
なければなりません。

 日本人が公共の場を体験するようになったのは、少なくとも明治維新以後でしょう。
 それまでの「公衆」という用語で代表される公の場とは、せいぜい村落や目に見える隣近所
世界での極限られた地理的、歴史的条件付きの世界です。別の言葉で言いますと、運命共同体の
世界が「公衆」であったのです。村の広場や、集会場に集まっても目的がはっきりしており、
集まった人はみんながみんなを知っていますから、「公衆」というより「仲間」であったのです。

 明治の世の中になって生活の世界から地理的、歴史的條件が取り払われ、見知らぬ人同士が
場所や時間を同じく体験する機会が増えました。
 都会に人が集まる。公園という不特定の人がばらばらに集まる場所がある。喫茶店というこれまた
身も知らぬ人が、部屋一つを同じにする。列車に乗ると体を接してまで、全くの他人と同じ列車の
中に乗らねばならない。美術館に行く。ただ絵を見るだけに人が集まる。そして、音楽会場に
音楽を聴きに行く。映画館に映画を見に行く。すべて、隣の人は、知らぬ人、しかし、みんな
同じ目的で集まって、同じ行動をしている。

 これらのことは、日本人にとって歴史が始まって以来経験したことないことばかりです。
 こういう場合にどう行動したらよいか、全く見当が付かなくて、戸惑うこと既に100年。
 日本の場合、これらの公共施設をその必要から設置されていったのではなく、西欧の形だけを
まずまねて、後で中身を入れて、辻褄を合わせようとしているために、人の理解や心がついて
いけないのです。

 公共施設に於ける身の処し方とは、「滅私奉公」でも、「我田引水」でもなく、ただただ
「お互いの利益のために、あるいは享楽のために」、参加している個人として如何に処すべきか
につきます。
 もっと分かりやすく子供向きに言いますと、「居合わせた人に対しては、迷惑をかけない」
「自分自身は、行動を共にとる人と共に楽しむ」という考えがないと、何をやってもどこへ行っても
西欧民族から見れば、極東の島民族の「公徳心」は、未開国文化と見られましょう。
 なんと言っても歴史的に、他民族の中でもまれてきていない島民族の運命なのかも知れません。
日本人のコンサート
 さて話を、音楽に戻して、一体日本人は、今日のようないわゆる「コンサート」を生活の
一部として、体験するようになったのはいつ頃からでしょうか。
 ごく一部の洋楽ファンのみが通うような特殊な音楽世界ではなく、誰でも何時でも、安価な値段で、
音楽を楽しめるようになったのは、20世紀の中頃からではないでしょうか。
 戦前にも当然数は僅かであっても、「コンサート」を提供できる音楽団体は存在したようですが、
今日のような状態ではなかったと思われます。
 
  参考として、戦前の大正・昭和期に於ける音楽界の状況を参考資料に依り、概説しますと、
下表のようにまとめられます。
       (出典:堀内敬三「音楽講座・音楽史」(昭和22年10月)音楽之友社 202頁)
年  代音楽界の状況
大正初期
(大正二年頃)
演奏会は多少ずつ邦人演奏家の有能な人達が
東京音楽学校から育っていった。
東京に於ける主要演奏会は三十三回(外人数名を含む)
交響楽の演奏が出来たのは東京音楽学校の管弦楽団のみ。
(一年に二回)
大正後期
(大正十年頃)
帝劇にバイオリニスト・エルマン、声楽家シューマン・ハインク
ロシア歌劇団、イタリア歌劇団も来日した。
洋楽レコードの売り高は急騰し、演奏会の回数は激増した。
邦人作曲家、演奏家も世界的水準を目指す。
音楽評論は新聞に載り洋楽専門雑誌も出版された。
昭和初期
(昭和十二年頃)
音楽コンクール(毎日新聞社)若い演奏家・作曲家を排出。
多くの音楽団体や音楽活動が興り、高級な洋楽レコード愛好家が
激増した。邦人演奏家も世界の舞台に立つようになる。
指揮者:山田耕作・近衛秀麿、演奏家:三浦環・藤原義江
戦時中殆ど音楽が壊滅状態
戦後へ日本の新しい音楽はまだ生まれていない。
背景はだいたい出来上がっている。もう一段の教養と愛と熱とが
日本楽壇に望ましい。
 戦後「労音」と称した一般大衆向けの音楽世界への団体運動が、洋楽の大衆化に大いに貢献したと
評価されています。
 そうとしますと、現在戦後わずか50年の「コンサート世界」では、音楽の享受は未だしも、と
なってもやむなしでしょうか。

 参考として、「日本人の音楽性と音楽環境についての評論」を引用しておきます。

平成14年2月2日   ***  奈華仁志  ***


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