敷 島 随 想

(百人一首歌人旅)



「連 載」 第 69 回  *** 第87番(その1)***
*****  寂蓮法師ー秋の夕暮れ  *****

目     次
<生い立ち> <和歌の世界> <趣向をこらした歌叢>

<生い立ち>
 俗名藤原定長(保延五年・1139?〜建仁二年・1202)は、醍醐寺阿闍梨俊海を父として生れ、
伯父藤原俊成(俊成・俊海兄弟の兄)の養子となり、定家誕生(応保二年・1162)によって養子を
辞して、出家(承安二年・1172)したと言われています。

 嵯峨に住み、西行や寂然等と親交を結びつつ、西行のように諸国遍歴を重ね、東は鎌倉、西は出雲
などに及んでいます。
 九条家歌壇で活躍後、御子左家の一員として、俊成の期待に応えたようです。

 官職は禁中の政務を執る職務として従五位上中務少輔にまでなり、出家に転身して、「少輔入道」と
呼ばれるのです。晩年は建仁元年・1201和歌所寄人の一員として「新古今和歌集」撰者の一員と
して参画しながら、編集業務進行中になくなりました。彼は、結局「新古今和歌集」の完成を見届け
られませんでした。
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<和歌の世界>

 寂蓮法師の歌は千載和歌集(7首入集)を始めとして、自ら撰者になった新古今和歌集では35首
(入集撰者中第8位)も入集し、西行・定家などとともに最重要視された歌人になったのです。

 彼の歌は新古今集までの八代集以降も二十一代集に至るまで、毎集2〜9首採歌されており、何時の
時代でもその歌風は撰者の目を引いたと言うことになります。
 彼の私家集である「寂蓮法師集」に彼の和歌世界を探索してみましょう。

 現地を訪れて詠んだ歌(実地詠歌)と、歌合せの時に歌枕としてのみ引用した歌に大別されましょう。 

 (1)実地詠歌 (イ)都周辺 :嵯峨(3)、宇治山(1)、石清水(1)
         (ロ)奈良近辺:三輪社(3)、柿本明神(2)、石上寺(1)、磐余池(1)
         (ニ)畿内  :住吉(2)、芦屋(1)
         (ニ)畿外  :出雲(3)
 (2)歌  枕 (イ)都内  :白河(2)、大井河(2)
         (ロ)畿内  :宇治山(1)、逢坂(1)、竜田(4)、高野(1)、
                 河内高安(1)、昆陽(1)、吉野(1)、明石・須磨(6)
                 初瀬(1)、三笠山(1)、三室山(1)、信太(2)
                 田蓑島(1)
         (ハ)近江  :比良(2)、志賀浦(3)、余呉の海(1)、比叡(3)

 歌枕の世界は別にして、寂連法師が最も多く私家集にの取り込んだ嵯峨と出雲の地に十二から
十三世紀頃の世界を想像してみましょう。  
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<趣向を凝らした歌叢>

 「寂蓮法師集」に見られる興味ある詠みを二三採り上げてみます。

 (その1)門田の稲葉

      千載和歌集にも採り上げられた寂蓮流の「田家秋風といへる事を」詠んでいるのが次の
      歌(第24番歌)です。

      「をのへより門田にかよふ秋風に稲葉をわたるさをしかの声」
                              (千載集・巻5・秋下・325)

      明らかに次の源経信歌の本歌取りでしょう。

      「夕されば門田の稲葉おとづれて蘆のまろやに秋風ぞ吹く」
             (百人一首第71番歌)(金葉集・巻3・秋下・325・大納言経信)
 (その2)わが庵

      「わが庵は都のいぬゐ住みわびぬうき世のさがとおもひなせども」
                              (寂蓮法師集第117番歌)
      「わが庵は都のたつみしかぞすむ世をうぢ山と人はいふなり」
             (百人一首第8番歌)(古今集・巻18・雑下・983・喜撰法師)

      この歌も明らかに喜撰法師の歌の向こうを張っています。
      「たつみ」であれば「しかぞすむ」と広言や高言でなく公言できるのに、「いぬゐ」では
      どうして「すみわび」ることになるのでしょうか。住まいの方向も詠んだ歌の内容の
      方向もすべてひっくり返した寂蓮法師流のパロディでしょうか。
      ただし、皆とうち揃って訪れたときは、しみじみとした風景を詠じています。

      ー宇治山の喜撰あとなど云ふ所にて、人人歌よみける秋のことなりー
      「あらし吹くむかしのいほのあとたえて月のみぞすむ宇治の山もと」
                              (寂蓮法師集第160番歌)

 (その3)秋の夕暮れ 4首
      寂蓮法師の百人一首歌にあわせて、「秋の夕暮れ」詠4首を集めました。

      「さびしさはその色としもなかりけり真木立つ山の秋の夕暮れ」
                        (第264番歌)(有名な新古今集・三夕の歌)
      「夏ふかきもりの梢もうつせみのはにおく露は秋の夕暮れ」
                        (第286番歌)
      「むら雨の露のまだひぬ真木の葉に霧立ち上る秋の夕暮れ」
                        (第289番歌)(百人一首第87番歌)
         「たれもみなしのびし跡に松風の音のみ残る秋の夕暮れ」
                        (第356番歌)

 「あきのゆうぐれ」体言止め歌で、著名な平安時代歌人は、寂蓮法師以外にはいないのでは
ないでしょうか。いわば「秋の夕暮れ歌人」と呼んでも良いほどです。
  
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平成14年4月28日・磯城島綜芸堂・主筆 謹言
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