敷 島 随 想

(百人一首歌人旅)



「連 載」 第 167 回  *** 第1番・その2 ***
*****  天智天皇ー百人一首カルタ会  *****

目    次
<近江神宮新春カルタ会> <カルタ競技大会> <カルタの歴史>

百人一首・第1番 秋の田の刈り穂の庵の苫をあらみ我が衣手は露に濡れつつ


<近江神宮新春カルタ会>

 百人一首第一番歌人・天智天皇を御祭神としてお祀りしている近江神宮において、年間の重要祭事と
なる「全日本かるた協会」主催の新春「小倉百人一首かるた競技名人位・クイーン位決定戦」があります。
 第50期名人位・第48期クイーン位決定戦は平成16年正月第二土曜日の10日、開催されました。

(左)平成16年試合風景(京都新聞・平成16年1月10日付)
(右)平成14年の優勝者(読売新聞・平成14年1月6日付)
  最近数年間の名人位は6年連続で西郷さんが獲得し、クイーン位には平成14年までなんと連続十一
連覇で通算十四期目の渡辺さんが就きましたが、十二連覇を狙ったものの、平成14年度に対戦した
斎藤さんに平成15年度は破れました。斎藤さん(荒川さん)は平成16年度初の防衛戦を征して
連覇し第四十八期クイーン位に就きました。

(左)平成15年度クイーン位に就いた斎藤さん(読売新聞・平成15年1月13日付)
(右)平成10年度連続七期クイーン位についた渡辺さん(産経新聞・平成10年1月5日付)
 天智天皇御祭神の前で展開されるこのかるた大会は、正に名前の通り、「儀式」ではなく、一種の
スポーツ的室内競技になっていますから、和歌を詠み合っての優雅なのんびりした新春の雰囲気など
全くなく、会場は競技者一対一対決場の「戦場」と化しています。
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<カルタ競技>

 近江神宮における社団法人全日本かるた協会主催のかるた競技の前身は、明治期の競技かるた会に
遡ることが出来ます。(引用資料:伊藤秀文「かるたの歴史と遊び」別冊太陽・昭和47年平凡社)

 明治37年(1904)2月11日、丁度日露戦争宣戦布告された時、萬朝報社社長黒岩涙香の
考案による従来の「変体かなかるた」から、総平仮名の「標準かるた」を提案し、かつ東京日本橋で、
「東京かるた会」を発足させたのです。したがって平成16年(2004)は、競技かるた100周年
として、かるた協会でも記念事業を展開しています。

  大正2年1月5日、第一回全国かるた大会が開催され、それに先立ち、大阪では、明治45年2月
18日第一回全国大会を開催し、これらは昭和9年大日本かるた協会の設立に発展しました。
 戦時中は一時中止させられ、戦後改めて、全日本かるた協会として再スタートしました。

 昭和36年(1961)から名人位戦が誕生し、二年後れでクイーン位戦も追加されました。
 その後さらに選手権大会も加わり、協会参加の愛好者や同好者のかるた競技団体は、全国各地に
結成されたその数は数百を越え、有段者数は数千人で、会員は数万人になると見られています。

 これは百人一首かるたを始めとする「かるた遊戯」に対して、日本人がその原形を平安時代に有し、
16世紀から17世紀の江戸期にかけて伝承されてきた永い歴史を持っていて、明治期にたまたま
遊戯として大いに発展させたに過ぎないのです。

百人一首札の並べ
 百人一首歌を用いたかるたの遊戯は、次のようにいろいろあります。

 その1 坊主めくり 坊主札十二枚をめくるごとに取得札を場に出すゲーム
 その2 チラシどり 江戸時代から各家庭で行われてきたゲームで、
           散らかした百枚の地札を取るもの
 その3 源平合戦  紅白組各50枚の取り札を払い出しあうゲーム
 その4 リレーかるた 源平合戦で選手が交代していくもの
 その5 さし取り  対戦者各25枚の並べ札を払い出していくゲーム 
  
 百人一首かるたゲームの基本は、詠み手が百人一首歌の上句を詠んで、下句の札を取ることですから、
百人一首歌を憶える必要があります。しかも上句全体を聞いて下句の札を探していたのでは、ゲームと
いうより「競技」にならないのです。
 まさに初句の五文字の最初の声を聞いた途端に下句の文字に反射的に辿り着かないといけないのです。
 かるた協会やベテランの競技者によるいろいろな競技のポイントが示されています。

 昔から言われているコツの一つに初句初音に一枚の取り札に繋がっているものに「むすめふさほせ」
があると暗誦させられてきました。すなわち「むらさめの」(87番歌)、「すみのえの」(18番歌)、
「めぐりあひて」(57番歌)、「ふくからに」(22番歌)、「さびしさに」(70番歌)、
「ほととぎす」(81番歌)、「せをはやみ」(77番歌)の7枚の札です。

 こういう見方をして行きますと、百人一首かるたは次のように分類されるのです。
歌数初句頭字初句(歌番号)
16あはぢしま(78)、あはれとも(45)、あらしふく(69)
あらざらむ(56)、あきのたの(1)、あきかぜに(79)
あまのはら(7)、あまつかぜ(12)、ありまやま(58)
ありあけの(30)、あさぢふの(39)、あさぼらけーう(64)
あさぼらけーあ(31)、あしびきの(3)、あひみての(43)
あけぬれば(52)
なにしおはば(25)、なにはえの(88)、なにはがた(19)
なつのよは(36)、なげきつつ(53)、なげけとて(86)
ながからむ(80)、ながらへば(84)
お(を)おほえやま(60)、おほけなく(95)、 あふことの(44)
、おくやまの(5)、おもひわび(82)、おとにきく(72)
をぐらやま(26)
わがいほは(8)、わがそでは(92)、わすらるる(38)
わすれじの(54)、わびぬれば(20)、わたのはらーこ(76)
わたのはらーや(11)
たかさごの(73)、たちわかれ(16)、 たごのうらに(4)
、たまのをよ(89)、たきのおとは(55)、たれをかも(34)
こころあてに(29)、こころにも(68)、これやこの(10)
このたびは(24)、こぬひとを(97)、こひすてふ(41)
みかのはら(27)、みかきもり(49)、 みちのくの(14)
みよしのの(94)、みせばやな(90)
はるすぎて(2)、はるのよの(67)、 はなのいろは(9)
はなさそふ(96)
やすらはで(59)、やまざとは(28)、やまがはに(32)
やへむぐら(47)
よもすがら(85)、よのなかよ(83)、よのなかは(93)
よをこめて(62)
かささぎの(6)、かくとだに(51)、かぜそよぐ(98)
かぜをいたみ(48)
いまこむと(21)、いまはただ(63)、 いにしへの(61)
ちはやぶる(17)、ちぎりきな(42)、ちぎりおきし(75)
ひさかたの(33)、ひとはいさ(35)、 ひともをし(99)
きみがためーは(15)、きみがためーを(50)、 きりぎりす(91)
うかりける(74)、うらみわび(65)
つきみれば(23)、つくばねの(13)
しのぶれど(40)、しらつゆに(37)
もろともに(66)、ももしきや(100)
ゆふされば(71)、ゆらのとを(46)

 競技者側から言いますと、「これだけややこしい、紛らわしい取り札があると、競技が有利に進め
にくい」ということでしょう。それがまた「百人一首かるた」を面白くしているところかもしれません。
 類似の「いろはかるた」であれば、「い」に対応して取り札は、「上方いろは」では、
「一寸先闇の夜」「石の上にも三年」「いやいや三杯」など、「江戸いろは」では、「犬も歩けば
棒に当たる」など、一音一枚と一義的に連結していて、何の予備知識もなしに取り札に到達できます。
 
 ところが「百人一首かるた」では、初句の5音聞いただけでは取り手が出せない場合もあるかと
思えば、「むすめふさほせ」の7枚札のように「いろはかるた」並みのものもあるのです。
 しかも、競技が進むにつれて、ややこしい、紛らわしい札がなくなっていくとともに、残された札の
取る條件もだんだん変わっていくという競技條件の変化にも対応しないといけない、というかなり
高度な知的反応を刻一刻と発揮していく必要があるわけです。
 だんだん取り札條件が簡素化されることに瞬時に切り替えできる「スポーツ的知能活動」とでも言う
べきでしょうか。
 単純なようで、なんとも精巧な競技としての「百人一首かるた」を育んできたものだと、先人の
遊ぶことにかけての賢さ、遊び心の深さに改めて感じ入るところです。

 それにしても、「百人一首生みの親」藤原定家は、自分の後世500年後には「百人一首かるた」
なる遊戯が庶民に流行していて、さらに300年程経った頃には、全国の一般市民が「百人一首」で
競技をしているとは思ってもみなかったことでしょう。

 なおこれらの競技詳細は前述の全日本かるた協会のホームページに紹介されています。
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<カルタの歴史>


 この百人一首かるた競技が競技化される前身は、単純な遊技の一種であったわけです。日本に於ける
「かるた」の歴史概略を参考資料より引用しておきます。

 人間は「食べて」「働いて」、そして「寿命を終える」だけでは満足しない生物です。必ず何れの
時代、何れの場所においても、「遊び」と称される本来目的のない「人間行動」が認められます。
 奈良の正倉院の御物の中にも遊戯具と解釈されるものが認められていたように、当然平安時代に
於ける上流階層の世界では、「双六」「囲碁」など、いろいろな「遊び」が存在したわけです。

(左)源氏物語絵巻)「宿り木」囲碁の遊び(中)双六盤(右)貝合せ
新修国語総覧(京都書房)(1992年)
 「源氏物語」においても、貴族の子女が源氏を中心にして「絵合せ」をする場面が描かれており、
当時は「絵合わせ」以外にも「香合せ」「貝合せ」などもありました。
 「貝合わせ」の最初の記録が長久元年(1040)とされますから、後世「かるた」なる遊具が
世に出回る大凡500年前から、カルタ遊びの素地が出来上がっていたと言うことになります。

 単に貝の優劣を競い合うだけに「貝合わせ」よりも、ゲーム性が高い「貝覆い」が公卿界で流行
しました。これは180個の貝を左右の貝殻に分け、貝模様をみて合わせて取っていくというもので
「源平盛衰記」定家の「明月記」「増鏡」「徒然草」などにも言及されているのです。
 室町時代になり、内裏内あるいは貴族間、さらには遊里でも傾城まで遊ぶに到るのです。
 この日本古来の遊戯にポルトガルから伝来の「カルタ」遊戯とが合体していわゆる「歌カルタ」が
誕生したのではと推測されています。

引用資料:ジェイサパトピックス第21号(2004冬号)(財)道路サービス機構
(情報提供者:通智喜人氏)
 「かるた」なる用語が登場するのは、鉄砲やキリスト教の伝来と同じく、16世紀後半になると
されています。
 江戸時代に入って、京や江戸に留まらず各地で「カルタ」が流行したのです。17世紀前半で
中院通村という貴族が、カルタを作らせた記録や後陽成天皇弟道勝法親王の筆になるという
「百人一首カルタ」が登場しているのです。したがって本格的な百人一首かるたは形を成してから
ほぼ400年経過したと言うことになります。

道勝法親王の百人一首カルタ絵の例
 江戸中期には一般庶民間でも百人一首かるたが盛んに遊ばれるようになり、ほぼ現在の百人一首
かるたの形が整ったとされています。
 幕末から明治始めに、従来、読み札に上句、取り札に下句を書いていたのを、読み札には全句書かれる
ようになり、明治37年の黒岩涙香による「標準カルタ」の考案を経て、全国的な規模で百人一首かるた
の普及をみたと言うことでしょう。
 標準かるたが出来て、平成16年で丁度100年を迎えました。日本人の中での伝統的な遊戯の
ひとつとなり、全国的な小倉百人一首競技も第50期名人位に西郷さんが、第48期クイーン位に
荒川さんが就いています。

(左)平成16年度の優勝者(中)近江神宮に於ける日本一決定戦の様子(右)六連覇の名人
(引用新聞記事:読売新聞及び産経新聞・平成16年1月11日付)
  百人一首かるた競技は単に全日本かるた協会の諸大会だけでなく、いまや、若い世代間にも競技の
世界は広がっていて、毎年8月初旬に全国の約二千校近くの高校から約4万人近い高校生が集まる
「全国高校総合文化祭」では、いろいろな文化活動の競技の一つに「小倉百人一首かるた」の
種目があるのです。
 一方高齢者間では「ねんりんピック」として同じ様な全国大会があり、平成16年度は10月に
群馬県で開催され、「百人一首かるた」が公式種目として行われる予定です。

  和歌に関係ある神社でも「かるた会」が催されるようになっています。
 スサノオノミコト(素戔鳴尊)が祭神である京都祇園の八坂神社では昭和46年から毎年正月三日に
「かるた始め」の祭事を行っています。平安朝の衣裳に身を包んだかるた姫が奉納試合を披露する
のです。

京都八坂神社の新春「かるた始め」風景(平成10年1月4日産経新聞記事より)
 一方和歌の宗家で、百人一首の御本家である冷泉家では、「冷泉家歌会始」として例年古式に則り
開催されていて平成十六年度の新春の状況は次の新聞記事の通りです。

冷泉家の歌会始の様子(引用新聞記事:京都新聞平成16年1月10日付)
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関連随筆シリーズ
「百人一首のー平平点描ー千年の言霊への誘い」
ー第一話 事始め(天智天皇)ー
併せて御覧願います。

平成16年4月22日・磯城島綜芸堂・主筆 謹言
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