その日はいつもどおり、よく晴れた日だった。
翼は夏休み前の午前授業を終え、当番だった掃除をしていた。
「ふう…暑いなあ…」
額の汗を左腕で拭いながらつぶやく、気温は彼の感覚では30度はゆうにあっただろう、しかも彼のクラスの教室は日当たりがいいため、鬼のような暑さになっている。
「ううん…もういいかな?」
教室をぐるりと見回して、彼は頷いた、他の掃除当番の生徒たちは、すでに暑さでへたっていた。
「お前 よく疲れねーな?」
生徒の一人が声をかけると、翼はいつもどおりのにこにこした笑顔で答える。
「ぼくだって疲れてるよ でも当番はちゃんとしないとね」
翼は、17にしては言動が少々幼い、それに関連してか 特撮やマンガ アニメなどが大好きなのである、が拓也という友人に出会ったことでTRYと言うヒップホップグループも好きになった。
翼の言葉をきいた他の生徒達は「仕事熱心な奴だなあ」と、感心というかあきれるというか そんな感じで翼を見ている。
「片付けぐらいは手伝ってよ?」
にこにこしているところから見て、とりあえず当番には参加してほしいと言う意志の現れであろう、他の生徒たちは しかたなく参加することにした。
片付けを終えた教室は、妙に日の照り返しがよく、余計暑くなってしまった、ということで生徒たちは ゾロゾロと下校していく。
「〜〜〜♪」
掃除が終わったので機嫌がよくなったのか、自分が好きな特撮番組、スーパー戦隊の「青空戦隊スカイレンジャー」のテーマソングを鼻歌しながら下駄箱に向かっている。
「(そういえば…一人で帰るの久しぶりだなあ)」
いつも翼は、拓也や他の友人といっしょに帰っているため 最近は、一人で帰っていなかった。
下駄箱を出て校門に向かう時、ふと翼は妙な視線を感じた気がした。
「(ん?誰か ぼくを見てる…拓也たちはもう帰っちゃってるし…誰かなぁ?)」
とか考えた直後、彼は、突然奇妙なことになった。
「・・・(あれ?どうしたんだろう…ぼく)」
翼はおかしいと思った、自分が思うことがいっさいできない、歩こうとする、それは今でもしている…しかし、自分の力で歩いているわけではない。
「・・(えっ?あれ?どこいくのぼく??)」
そしてあらぬ方向に足が向いている、その方向にはほどなくしてスーパーがある、それはわかっているが 翼本人そんなところには行くつもりなどない。
「・・・(喋れない…たすけてって言っても誰も信じてもらえないかもしれない…でも それもできない…)」
そんなことを頭の中で思うが それは実際行動には出ず、自分の行動を不信に思いながら 翼はエスカレーターに乗り、上の階に上がる。
ツバサの向かっているのは、どうやら料理道具の売り場のようだ。
「(なに買うの?ぼく…っ!は 刃物!?…な なんでこんなの…見てるの?!)」
いろいろな道具があるが なぜか真っ先に庖丁やナイフなどが売っている場所に行くと そこに並んでいる物を片っ端からチェックする。
電気を反射して光る刃物を見ると、翼はゾッとしたが それはほんの一瞬で、またツバサが動き出す、ちょうどよく通りかかった店員にツバサが尋ねる。
「他にナイフが売ってるところはありませんか?(えっ!ぼ ぼく こんなこと 言いたくないし…尋きたくもないのに…)」
翼の思いとは 全て反対に物事は動いている、ちなみにツバサの声は 普段の翼の声よりわずか低くなっている。
「うちではここにあるのが全部です」
四十代半ばの女性店員はそう答えた、表情に出さないようにしていたが一瞬だけ曇った。
いったいなにに使うのかも知らないのに、「少年がナイフを買い求める」と言う行動だけで、瞬時に武器として使うことを連想したのだろう。
店員の言葉に頷くとツバサは、最後にチェックしたスライディングナイフを購入しポケットにしまった。
スーパーから出たツバサはナイフを取り出し、ナイフのハンドルについたスイッチを押しながら一振りする、と 刃が飛び出した。
それを確認すると再びスイッチを押して刃を収納しポケットにしまう、そして 不気味で冷淡な笑みを口の端に浮かべた。
「(な…なにしてるの‥ぼく…怖いよ…誰かたすけてよ!)」
彼の悲痛な訴えは、自分の中に木霊するだけだった、なにものかに操られているツバサは 落ち着いた足取りで駅へ向かう道を歩き出す。
「(これで…もう…大丈夫…だといいなあ…)」
駅に向かっているので 翼は、もうこの奇妙な状態から解放されると思った、しかし体の主導権は未だにツバサのままである、そしてキップを購入し それを見て翼は気が付いた。
(これってたしか…大地の家に行く駅だよねえ…逢えるかなぁ?)
大地とは、近頃学校を休んでいる翼や拓也の友人である、もしかしたら重たい病気になっているかもしれないと心配しているので 逢えたらいいな と翼は思った。
ちょうどよくその方向へ向かう電車が来たので、ツバサはそれに乗る、車内は当然ながら涼しく 汗を掻いている翼には心地好かった、が 流れる汗を拭こうとしないツバサ。
ひじょうに流れてる汗が拭きたかったが、ツバサに体の自由が完全に持っていかれているため それもできない、できることならこのままここにいたいと思ったが ツバサはそれを許してはくれなかった。
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