Ring The Phantasy
―act.2 ビースト・ハント・ナイト
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第一章 神託の少年
「おなか、すきましたねぇ…」
白髪の女が、何気につぶやく。
それを聞いて、あたしはまた頭痛してきた。
「ティアさんも一緒になにか食べません?」
「な〜に、にこやかに言ってるのよ。前の村であれだけ食べといてまだ食べる気?」
白髪の女―リグ・リングに、あたしはそう言う。
リングとあたしが出会ってから1週間、あたし達は水の都と謳われる大都市・ヴァンプールを目指していた。
前の町・ルカナンから首都圏に向かうだけだから、楽な旅だと思っていたんだけど…
そうはいかなかった。
理由は簡単。リングのヤツが、思いきりマイペースだからだ。
歩くのは遅いわ街道筋の村は全て回るわ、あげくすれ違った旅人と話しこむわ。
この『おなかすいた』だって、ここ3日で8回も同じシチュエーションが起きてる。
しかも、そのうち3回は食後すぐ。
まったく、この大飯食らいが…。
「あ、ティアさん!あの村でまた食べましょうよ♪」
「あのさぁ…この調子だと、一月経ってもヴァンプールに着く気配すらしないと思うんだけど」
半ば諦めながらも、あたしはそんなことを言ってみたりする。
「いいじゃないですか。旅は楽しまなくちゃダメですよ♪」
リングはあたしを緑色の瞳で見つめながら、明るい声で答える。それも、心底楽しそうな声。
まぁ、楽しまにゃいかんのは違いないけど…なんか振り回されてないか、あたし?
夕日の光を浴びながら、あたしはそんなことを思ってみたりする。
そして、更に続けて思ったこと。
どう対応しても、この女のペースにはなんか勝てない気がするわ……。
「おいしかったですね、パイにタルトにシュークリーム♪ね、ティアさん!」
「いや…あたし、シュークリーム2個しか食べてないんだけど」
宿の2人部屋の中、あたし達はソファーに座ってゆっくりしていた。
あの後、結局リングに押しきられる形で、あたし達は近場にあった街道沿いの村・クラルに入った。
ここは、色々とお菓子のおいしいのが多いのでわりと有名なんだけど…。
夕食前にリングのやつ、『お店巡り』と称して甘味屋に片っ端から入っていったんだ。
それも、大量に持ちかえり用の菓子を買ってかえって……。
で、あたしの目の前の机には、菓子の包み紙やら箱やらが溢れかえってる。
まったく、夕食あれだけ食べた直後に、なんでこれだけ食べれるんだか。
宿に入った後、食堂以外でこれだけ食べるやつもそうはいないと思うぞ。
で、まだ幾つか残ってる菓子を食べてるリングを横目に見ながら、あたしは金品の整理にかかっていた。
こんこん。
「ん?」
不意にドアを叩く音に、あたしはすぐに反応する。
リングはというと、食べるのを一時的にやめて、ドアとあたしを交互に見やる。
…あたしに行けってか。
ソファーから立ち上がって、あたしは扉をほんの少しだけ開ける。
「どなたです?」
念の為、腰から短剣を抜きながら訪問者に言ってみる。
「あの…ティア・フィッツバルトさまがいらっしゃるのは、この部屋でございますですか?」
聞こえた声は人間の子供の、それもえらく緊張してる感じのする声だった。丁寧語、間違ってるし…。
ま、緊張してるって言っても、どうやら脅されてるんじゃなくて人前に出たこと自体に緊張してるみたいだ。
扉の外にいるのが襲撃者じゃないと判断して、あたしは短剣を腰の鞘にしまう。
それでも、あたしは少しだけ用心しておく。
「ティアさんは今、所用があって外出しておりますが、ご用件はなんでしょう?」
扉をもう少し広く開けながら、口調をいつもより丁寧にして尋ねる。
「あ、はい、その、Aクラスのハンターのティアさまに、どうしても依頼したいことがあって…」
声とともに、扉の向こうにいる相手の姿が見える。
それはシャツの上に大きめのエプロンをつけた、まだ10歳くらいの男の子だった。
ま、甘味屋見習いってとこか。
金髪碧眼、ってのは珍しいもんでもないけど綺麗だし、スタイルもいい感じ。
それに顔はなかなか…って、なに子供相手に値踏みしてんだ、あたし。そりゃ、背はあたしと同じ位だけど。
でも…わざわざあたしご指名の依頼ってのは、おもしろいかもしんない。
「用件の方、部屋の中でお聞きしましょう」
とりあえず口調はそのままで、あたしはこの子を自室に入れてやることにした。
「さてと、早速ご依頼っての、聞こうじゃない」
少年を向かいのソファーに座らせるなり、フツーの口調であたしはそう切り出す。
「えっと…あの…その…」
「どーしたの?用があるなら早いとこ言った方がいいわよ」
なんかこの子、顔赤くしてうつむいちゃってる。なに考えてんだか。
と、山とあった菓子類を全て食べ終わったリングが、あたしにそっと耳打ち。
「この子供さん、ティアさんの格好見て恥ずかしくなっちゃったんじゃないですか?」
……一理あるな。
あたしはまだ、いつもの格好でいた。
生足へそ出し、肩も出てる上に、この子には見えてないだろうけど実は背中も露出してる。
10歳かそこらの子供に、肌の露出度の高いこの格好は、確かに見慣れたもんじゃないかもしんない。
この年で見慣れてるってのは、逆に問題あるだろうし…。
だからといって、あたしはこの格好をやめる気はない。自分で気に入ってるし。
ま、こーゆーこともあろうと安い折りたたみマントも買っといたんだ。肩パットないから、ただの布とも言えるけど。
この子の意思を汲んで、あたしは身体全体を覆うようにして、マントを巻きつける。
これなら、子供が見ても恥ずかしくないだろう。
と、思ったら……。
「あの……白いマントから素肌が透けて見えるのって、余計にHな感じしません?」
ごちーん。
耳打ちするリングに、あたしは反射的にヘッドバットをかます。
「いたたた……。いきなり、なにするんですか!!」
「余計なこと言うからよ。そりゃあ、安い生地だからお店巡りしてた間に濡れたのに乾いてないし、濡れた白いマントが透けるのも知ってるけど、わざわざ言ったらあたしが誘ってるみたいに思われるじゃない!」
思わず、声も大きくなる。
ったく、フォローしなかったら、まるであたしがショタコンだと誤解されかねないじゃない…!
「あの、僕だったらもう大丈夫ですから…」
あたし達のやりとりを見てか、目の前にいる少年がそう言う。
あーもー、話が進まないったらありゃしない。
「で、用件は?」
あたしは少しだけ語気を強めながら、少年に話す。
少年は心配そうな顔をしながら、こう言う。
「その前になんですけど、ティアさん自身は今、どこに…」
「はい……?ああ、たしか戸口で話した時はそういうことにしてたんだっけ。悪かったわね。改めて言いましょうか。あたしがティア・フィッツバルト、トレジャーセンター公認のAクラスハンターよ」
あたしは腰のライトアーマーの下から、トレジャーセンターの認証カードを取り出して、この子に見せてやる。
あたしの写真が貼ってあるものだから、本人確認にはちょうどいいだろう。
「ティアさん、これはなんですか?」
リングが不思議がって聞いてくる。至極当然のことかもしんない。
なんせ、これを使うのはトレジャーセンターを介して仕事を受ける時とか、こーゆー本人照合の時に使うくらい。
リングがどこの田舎から来たかは知らないけど、あたしに会うまでトレジャーセンターの存在すら知らなかった。
ま、はじめて見るもんなんだから、説明してやらなきゃならないな。
「これはね、トレジャーセンターでの個人認証カード。仕事貰う時とかは、これがないとダメなの。
あと、業績のいいヤツにはランクが付くんだけど、その確認もコレでやるのよ」
「はぁ…なんとなく、わかった気がします」
リングは、とりあえずそう答える。
ま、なんでこんなもんが必要かといえば、以前よくいた『にせもの勇者様』というやつの出現を防ぐためだ。
英雄の名を語っては、金だけ貰って依頼をすっぽかす、ってことをやる輩は前々から結構いた。
トレジャーセンターは信用第一の業務。そーゆーのがのさばっているのはマズい。
で、個人認証カードを発行したわけだ。
このカード、見た目タダの紙っぺらだけど、魔法を応用した技術で、見えない形でさりげなく個人情報が書きこまれてて、もし他人のカードを奪ってもその持ち主になりすます、なんてことはできない。
実際、これが出来てからトレジャーワークス社の信頼がぐぐっと上がったらしい。
ちなみに、あたしの受けたAランクってのは、現役でやってる人がもらえるものだと最高位にあたる。
だから今回みたいに、ランクを目安にして依頼してくる人も出てくる。
「間違い無く、ご本人ですね。あの、隣の魔導師さんの方は?」
「こいつはリグ・リング。ま、少しヘンなところあるけど、腕の立つ魔導師には違いないわ。そーいえば、キミの名前聞くのまだだったわね。ついでに、今度こそ用件も聞かせてもらうわよ」
少年の問いに答えながら、あたしは強引に話を進める。…って、本題から逸れてる原因はあたし達にあるんだけど。
まだ幼さの残る声が、部屋に流れ出す。
「わかりました。僕は、エディ・クロフトっていいます。それで、依頼の方なんですけど…僕、お菓子屋と司教の見習いを兼ねているんですけど、3日前に、司教の見習いをしてる時に、笑い事にならない神託を受けちゃったんです」
「神託、ね。どんな内容?」
「内容は、厳密には『光満つる月の夜、太古の瞬狼が深緑より現りて、そなたの村を消し去るだろう』という内容です。司教さんの推測ですけど、これはウィアードビーストが現れるってことじゃないか、って話になって…」
「ウィアードビースト!?ちょっとそれ、本気?」
思わずあたしは聞きなおす。
司教とか法王とかは、時々天からなにか声が聞こえちゃうことがあって、これを神託っていう。
この神託ってのは、たとえどんな内容だろうと真実を現してる…らしい。少なくとも、今までは。
で、見習いが神託受けるのも珍しくないし、内容もよくあるタイプなんだけど…。
よりにもよって、ウィアードビーストってのが厄介だな。
「あの〜、ウィアードビーストって…」
「リング、悪いけど説明は後よ。で、エディ君…だったっけ?それであたしに、そのウィアードビーストが出てきたら狩ってくれ、って言いたいワケなの?」
あたしが聞くと、エディはこっくり頷く。
「はい。月が完全に満ちるのは明日ですから、それまでにこの事態をなんとかできる方を首都圏を回って探していたんです。それで、今日戻ってきたら…」
「あたし達がいたから、なんとか頼み込んだ、ってとこか」
エディの言葉に続けるようにして、あたしはそう言った。
ま、たしかに普通のヤツじゃ無理な仕事だけど…面白そうだ。
あたしを探してたワケじゃない、ってのは少し気にくわないけど、それはそれ。
せっかく、成り行きとはいえ村に入ったんだ。なんかあってもいい。
「あの、受けてもらえますか?たとえ何も起こらなくても、報酬は出しますから」
あたしが何も言わないので、必死になってエディが言う。
少し棒読み気味で、報酬とかって言い方してるってことは、多分司教さんにそう言うように仕込まれたんだな…。
それなら、この子よりそっちと話した方がいい。なんで本人が来ないかはわからないけど、何か事情があるんだろう。
赤味がかった髪をかきあげながら、あたしは答えてあげる。
「受けさせてもらうわ。ま、具体的なことも聞きたいから、明日色々と回る必要があるけどね。リングは?」
「よくわかりませんけど…なにか困ってるようですし、わたしもお手伝います」
あたし達の言葉を聞いて、エディが安堵のため息を漏らす。
ま、興味があったのは事実だけど、本音言うと半泣きになってたエディ君を前に、断れなかったってのもある。
まぁ、普通は断るに断れんよな…。これ、司教さんが狙ってやったことなら、あたしは本気で敬服するぞ。
「ま、こんなとこかしらね。待ち合わせは、12時に宿の前に、よね?」
「は、はい…。そ、それじゃ、また明日!」
とりあえず簡単な依頼受諾書をしたためて、あたしはエディ君を部屋から帰してやった。
…顔真っ赤になってたけど、あの子、女に免疫ないのかな……。
扉を閉めて、部屋に戻る。そして、リングの言った言葉。
「あんなに気前良く受けるなんて…ティアさんってば、やっぱりあの子に気があるんじゃないですか?」
「…っしゃらああぁぁ!!」
げしっ。
いらぬ嫌疑をかけるリングに、あたしの飛び蹴りがクリーンヒットしたのは言うまでも無い。
ったく、この女は何考えてんだか……。
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