「決着(チェックメイト)だな」
カチャリとする乾いた音。それと同時にジンの声。
「お前の提示した条件、覚えているなエンシェル=フォルス。さあ、貴様の計画とセイジングケージのこと。洗いざらいはいてもらうぞ」
未だに自分の敗北で自身の時が止まったままのエンシェルは、ジンの言葉に答えるそぶりすら見せていない。
まるでこの男は、人形であるかのように微動だにしなくなった。
「ん? 人形……まずい! 伏せろっ!」
俺の声について来られたのは、エリーナとユナ そして秀奈だった。
「なに!」
ジンが俺の言葉を理解するのとほぼ同時、目の前のエンシェルが弾け飛ぶ。
「ジンッ!」
悲鳴を上げて吹き飛ぶジン。少しすると、エンシェルの横にあったはずのセイジングケージは忽然と姿を消していた。
「なっ! 今まであったろう?!」
俺がその事態に驚いていると、研究所内にひびく声。
「ここでは失敗したが、われわれの計画h」
「黙りなさい」
その声に静かに、だが底知れぬ怒りを称えたエリーナの声が答えた。
「これ以上死した者の魂が」
エリーナから発光現象。その輝きは薄い緑。
「理不尽な暴力のために」
その緑は強くなり。
「世界を荒らすことは許しませんっ!」
コトダマ様だったエンシェルと同じように、俺の視界を光で染め上げた。
「ごめんなさい、秀奈さん 兄さん」
光が収まった後、エリーナはジンと秀奈に平謝りをしている。まるで状況がつかめない俺にエルナが、
「エリーナさんが放った光で、セイジングケージと言う物は跡形も残らず消えてしまったそうです。そうエリーナさんが言ってます」
と説明してくれた。その光、わたしは見てないんですけど って苦笑のおまけつきで。
エリーナの怒りの一撃は、例の怨嗟の声とセイジングケージにのみ影響があったらしく 研究所そのものは無事だった。魔法ってのはそう言う打ち分けができるってことなんだろう。
「まあ報告書は、調査した結果 決定的証拠はなかった ってことにするしかないな。しかし、まさか温厚なエリーナがキレるとはなぁ。驚いた」
「すいません、みっともないところを……」
自分の激昂を見られたのが恥ずかしかったのか、視線を下にして目を合わせないエリーナ。
「ま 自分も被害者なんだしな、これ以上の暴虐を怒るなって方が無理だろう。しかしジン お前も元気だなぁ。エンシェルの爆発でけっこう破片刺さってたろうに?」
俺が言うと、ジンは苦笑混じりに答える。
「そりゃーな、このとおり服はボロボロだ」
言って俺にそのボロボロの服を見せるジン。しかしその色は、どこか水気を帯びている。
「やせ我慢かよ、かっこつけやがって」
皮肉と共に軽くジンの肩を叩く。すると「ぐっっ……」なんて肩を押さえ込んでいやがる。
「あ、あの風真さん。あんまりそう言ういじわるはやめた方が、ジンさんの傷に触っちゃいますよ」
エルナはそうやって、控えめに俺に注意してくる。
「へいへい」
両腕を上げてまいりました とジェスチャーする。
「さて、帰るか」
あくまでもクールに、それがジン=ハザードって男の目指す男のあり方らしい。俺にゃ、まったくわからんけど。
「無茶すんなよジン。あんまかっこつけてっとそのせいで死ぬかもしれんぜ」
「相棒になんとかしてもらうさ」
俺の忠告は、苦笑のジンのそんな言葉に切り替えされた。「了解です、先輩」と秀奈は元気よく頷いている。
「結局、あのセイジングケージってなんだったんでしょうね?」
研究所を後にしてすぐ、秀奈が唐突にそう声を発する。
「人の肉と魂 そして膨大な魔力を喰らい完成する無限機関。そう彼は言っていました」
エリーナは悲しそうな声色で答える。その声色の真相は俺には計り知ることはできない。
「無限機関か。使い方私大だったってことだな」
ジンはなんだか残念そうにつぶやいた。
「ええ、役にも厄にもなりえた高度な力。でも それを作るための犠牲があまりにも大きすぎたんです」
エリーナはテンションを変えないままで兄貴の呟きに返事をした。
「科学なんて物はいつだって犠牲の上に成り立つ技術。だからと言って、その技術にたどり着くための犠牲は世界には容認されないことだって多い。今回みたいにな」」
ふぅと言葉の後に溜息をつくジン。なんともしめっぽい空気だなぁおい。
「さて ユナ、ちいとまた休ませてもらうぜ。いいか?」
空気を換えるべく、わざとらしいほどに爽やかに言う俺。ユナは「うん、いいよ」と即答。
「やったぁ! またお茶飲めます〜!」
ユナの返事に秀奈のテンションは、いっきにうなぎのぼりだ。
「そうですね、やっとまったりできます〜」
エルナも嬉しそうだ。どうやら換気にゃ成功したようだな。
「んっじゃ、いこうぜ!」
と、ユナの肩を押して俺は走り出す。ユナは「ナビゲーターいなくてどうするつもりだよ?!」と慌てて俺を追い抜こうと橋っておっかけて来る。足音がおぼつかないってことは、どうやら俺の一押しでつんのめってるらしい。
「風真さん、まってくださ〜い!」
秀奈とエルナも追いかけて来る。
「やれやれ、しかたない奴等だ」
「いいじゃない兄さん」
なんて話しながら、ハザード兄妹はきっと自分らのペースで俺たちを追いかけて来てるんだろうな。
「いいのか? 家空けちまって?」
あれから暫く だいたい3時間ぐらい後か。ユナ宅でひとしきり寛がせてもらってから、いよいよ元の世界に帰ることにした。
それを聞いたユナが、自分もついてくると言い出した。それに対しての俺の答えである。
「うん、留守番役はいるしね」
とのことだが、この家にユナ以外の人影は見当たらない。いったいどこにいるんだろうか?
「でもユナさん。ユナさん以外の人、この家にいましたっけ?」
とエルナが俺の知りたいことをズバッと聞いてくれた、流石だ相棒。
「うん、ここじゃ ないんだけどね。きっと呼べば来ると思うから、留守番だとごねそうだけど」
困ったような笑顔を浮かべるユナ。ぜんぜん触れてないけど、こいつは中世的な整った顔をしているんだが、それが女子によってるもんだから こう言う表情されるとなんともカワイイ。
「いて、ちょっ なにをするエルナ!」
なんか耳引っ張られたんですけど?
「ユナさん男の子ですよ。鼻の下伸ばして、不潔です」
「なんのこっちゃ?!」
当人まったく自覚ないんですが?
「そういうことなら大丈夫だろう。その留守番役とやらを呼び寄せて行くぞ」
空気の読めん奴だ、などと思ってやらんでほしい。こう言っちゃいるけど、ジンの表情は楽しそうだ、こんなこと言ってるがもっと見ていたいんだと思うからさ。
「なに焦ってるの兄さん?」
エリーナが不思議そうに兄を見る。ジンは「別に焦ってなんていないが?」と言い放つ。焦ってるようにしか見えんって。
「少しかかるから先に行ってて」
と言うユナ。それに了解して俺たちは世界エレベータとも呼べる、例のエレベータのところに向かって歩き出した。
後半へ
本を閉じる