変形を終えたエンシェル。その姿は、どす黒い紫色の体、無数の口……じゃない。
よく見たら目の部分にはきっちり目がある、だけど睫毛がある部分が妙に分厚い……唇だ。
瞼が唇になってる。まるでなにかが目を食ったかのように、口内みたいに見える形で人間と同じような目がある。
髪の毛なんかはなくて、まさにどす黒い紫色をした人型だ。正直不気味以外のなにものでもないなこりゃ。
「あ……あなたは……コトダマ様。どうして?」
また驚愕の声を揚げるエルナ。聞いた覚えのない言葉が聞こえ俺はそれを尋ねた。
「はい。コトダマ様って言うのは、わたしたち言霊の民が神様として進行している存在です。ちょうど今のエンシェルさんのような姿をしてるんです」
「なるほど。それでわたしの空間が歪んだことを空気が哭くなどと言ったわけか、言霊の民だったとはな。して少女 どの世界の言霊の民だ?」
コトダマ様になったエンシェルは、人間の姿の時と多少口調がかわってた。
「どこの世界……?」
考えるような声色でエンシェル……いや、コトダマ様って言うことにするか、つまるところ奴の言葉を繰り返すエルナ。
「そう。お前はいったいどこの世界の言霊の民だと聞いているのだ」
「そんなこと、わかりません」
首を横に振るエルナは、コトダマ様の存在感に圧倒されてか少し声が小さくなっている。
「御託はいい。さっさとデータを渡してもらおうか」
ジンはジンの武器の一つ、魔力を弾丸にするセミオートの銃を取り出し 言葉の後で安全装置を解除する。勿論銃口はコトダマ様に向けてだ。
「聞いていなかったのか? わたしを黙らせることができれば情報だろうとなんだろうと提供する。そう言ったはずだが? 爆ぜよ」
言葉の直後、コトダマ様の左手が弾け飛ぶ。
「な、なんだ?」
左手が弾け飛ぶのを見た直後、なんだか四方から小石をぶつけられたような痛みが体を襲った。
「うぅぅ……」
「エルナ、大丈夫か?」
「痛い……です」
小石をぶつけられた程度でこれほど痛そうにしてるのは、エルナの身体が俺ほど頑丈にできてないからってだけじゃなさそうだな。
「言霊の民の娘、力を使ったことが仇になったか?」
嘲るような調子で言うコトダマ様、それっていったい?
「どういうことだエルナ?」
「はい……。この痛みは、誰かの嘆き 悲しみ 苦しみ。そう言う負の思いです」
「どういうことなの? それがこうして痛みになるって?」
ユナがエルナに問いかける。
「コトダマ様はあらゆる自然物に魂が宿ると言う信仰から生まれた言霊の力、その象徴です」
「そしてその思いは聖の物だけではない。理不尽への嘆き 無力差への悲しみ 悔しさ 怒り。
そういう物は祈りではなく罵倒と言う形で言霊として発散される。それが言霊の力の象徴に対する物ならば、募ったそれはこうして一つの力と形を得る。
それがこのわたしエンシェル=フォルスと言うわけだ。無論聖なる思いもこの体の中には含まれているが」
エルナの言葉を、そうやってコトダマ様が補足する。
「つまり、人間の負の感情の集合体と言うわけか」
「細かな差異はあるが、概ねそういうことだ」
ジンの納得と疑問を同時に含んだ声にコトダマ様が答えた直後、ジンはその引き金を引いた。赤い光弾がコトダマ様の右肩を貫く、けど。
「突き抜けた!? ……そんな、先輩の魔力弾が通じないなんて」
僅かに顔が青ざめる秀奈。どうやらジンの魔力弾は今まで目標に当たれば必ずダメージを与えていたようだ。
「違う、吸収したのだ。お前の今の光に、わたしを打ちぬける要素はなかった。なぜだかわかるか?」
答える代わりにジンは歯噛みした。
「お前の力の圧縮である今の光、そこには怒りしかなかった。言ったはずだ、わたしはほぼ負の感情の塊であると」
「でも、負だけじゃない。それなら貴方自身の心はどうなんですか?」
こいつの被害者の一人であるエリーナが、そう問いかける。
「集合した思い、それが擬人化した存在。それがわたしだ、わたし自体に心などない。あるとすれば、それは彼らの嘆きの清算。つまり強い力で理不尽を叩き潰すこと、それへの興味のみ」
「コトダマ様。貴方は大きすぎる多数に飲まれてしまった小さな少数に気づけないような方なのですか?」
突如、エルナがコトダマ様にそんなことをせつなげに聞いた。
「なにを言っている?」
「わたしは大きすぎる多数から救ってもらった小さな少数です。そして救ってもらえた時、貴方にとても感謝しました。貴方がいなければきっとわたしも今ここにはいなかったんじゃないか。そう思ってます」
「なんだ……この力は?」
エルナの瞳は、どこまでもまっすぐに相手を見据えてる。横にいるからそれはわかる。そしてそんなエルナの強い思いがコトダマ様を僅かに動揺させた。
「だから、そんなに悲しみばっかりを背負わないでください。これはわたしの一方的な思いかもしれませんけど コトダマ様はそんな、人間みたいなこと考える方じゃないと思ってます」
優しい声色で語りかけるように紡がれた言葉は、コトダマ様に変化をもたらす。
「ぐぅ、ぁぁぁ……!」
エルナの言葉を聴いたコトダマ様はそうやってうめく。そして……。
「黙れ小娘」
その声はおかしい。さっきまでエンシェル=フォルス一人の声だったんだけど、今はまるで音声を合成させたように複数の声が重なってる。それでいて今のひとことは憎悪に満ちた声で、まるでエルナのまっすぐな思いを弾き飛ばそうとするように響いた。
声だけじゃない、変化は額にも現れた。額全てを塗り潰すように現れた、三つめの目にしては巨大な眼(まなこ)が開かれたんだ。
「貴様にこの負の念が理解できるものかぁ!!」
「っっ!」
「エルナっ!」
声と同時になにかが放たれたらしくて、エルナは声も出す間を与えられず吹き飛ぶ。そっちに走る俺、エルナは無防備に地面に背中から落下してた。
「おい! 大丈夫かっ?!」
呼びかける俺に、うっすらと笑顔を作って「はい……かなり痛いですけど、生きてますよ」って答えが返ってくる。
「……野郎!」
俺は握り拳に気迫をこめる。そうしたら俺の右拳から黄金の光が伸び、それはある程度の長さまで行くと伸びるのを止め 薄いエネルギーの塊へと姿を変える。
「ぜってえ叩き切る!」
この力は俺の術の一つ、見た目的にはものさしみてえなもんなんだけどな。でも異形に対しての威力は抜群だ!
「ジン、素直にこいつの言うこと聞く必要はねえ! そこにある資料とりあえず確保しとけ!」
俺はセイジングケイジとか言うヤバイ物を指差して言う。ジンはそれに了解しチャンスを伺う体勢を取った。
「俺たちを悉く踏みにじった力への報復手段。渡してなるかぁっ!」
コトダマ様がそんなことを言いながら力を収束し始める。ふと見て見ると、さっき自らの力で弾け飛ばした左手はいつのまにか修復していた。目が開いた時にでも再生したんだろうか?
「俺たち だって? っと、考えてる場合じゃない。とりあえず防護壁を……怨念が相手なら」
コトダマ様の言葉に疑問を持ったのはユナだった。コトダマ様の力の収束に合わせるようになにかの詠唱を始める。
「負を構成する英知。其たる怨念を遥けき光の煌きに委ねよ……誘い(いざない)は今ここに。ディスアビューズ」
言うが特に視覚的に変化がない。ほんとに防護壁が展開されてるんだろうか?
「皆さん、ぼくの後ろにいてください!」
慌てて言うユナ。ユナとエルナ以外全員ユナよりコトダマ様に近い位置にいたためだ。その声にまずジン 秀奈 エリーナが、その後で俺が歯噛みしながら黄金の光塊(ひかりかたまり)を消してユナの後ろに行った直後だった。
「こざかしい……! 貴様ら全て砕け散れっっ!!」
コトダマ様はそんな憎悪の叫びを揚げると、紫だった色を一瞬真っ黒にしたかと思ったら、刹那黒い本流を迸らせた。前にいるはずのユナもセイジングケイジも、全てが闇に覆われたように真っ暗になった。
俺は……俺たちは、どうなったんだ?
ーー 本編後の雑談 ーー
ぷちミント「第5話ですた」
秀奈「お久しぶりですねぇ」
ぷちミント「それなりにはお久しぶりですな」
秀奈「約一箇月ぶりですね。それにしても うぅ、活躍したいです」
ぷちミント「いきなりかいw」
秀奈「だって、わたしなんにもしてないじゃないですかぁ〜」
ぷちミント「た……たしかに」
秀奈「エリーナさんもなんにもしてませんけどね……」
ぷちミント「そーですね……。とりあえず今回はユナが壁を勤めたがはたして、ってとこで終わったしな」
秀奈「そうですねぇ。はたしてどうなりますか」
ぷちミント「ってなところで、また次回お会いしましょう」
んじゃま次でさ
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