俺たちはエリーナをナビゲーターに目的地へ向かっている、彼女いわく大した距離じゃあないらしい。
「言霊の民が一 コトノハの名において、我 汝等万象に願わん。其が力、我に貸し与え給うことを」
 不意に立ち止まったエルナがなにやら言ってるが、これはこいつがやる気になったことを意味してる。つまりこの詠唱は千党体制を整えたってことだ。
「あの、なんか足音 少なくないですか?」
 そう言って振り返ったエリーナ。俺にゃ足音の増えた減ったなんぞこんな一瞬じゃわからんけどなぁ。これも膨大な魔力によるのか?
 彼女は少しだけ距離の離れた俺とエルナに気づいて声をかける。
「エルナさん風真さん、どうしたんです?」
 問われたエルナはなんでもないと首を横に振り、俺はその動きに合わせるように「なんでもねえよ」って答える。怪訝そうな表情を少ししてから、「そうですか、それならいいんですけど」とエリーナは進行方向に向き直った。
「お前さ やる気になるとその詠唱するけど、いったいなんなんだ?」
 エリーナたちに続きながら、俺は少し後ろの相棒に声をかける。彼女は声のボリュームを落として「はい」とだけ答えた、前の面子には聞かれたくないことなんだろう。
「言霊の力を使うための詠唱です」
「言霊。たしか言葉に宿る力だったか」
「はい。わたしたちの村は、言霊と言う力を操る者の集落でした」
 声のボリュームは幾分か戻ったような気がする。
「それは全ての自然物に魂が宿ると言う信仰心による思いの力でした。以前は誰もが言霊を扱えたそうなんですが、今はあの村だけになっていました
 エルナはまだ村と言う小さな単位の地域で暮らしていた。もう村なんて単位は俺の世界では珍しく、天然記念物物とさえ言われている。
「その言霊使いがいなくなったのは、世界の機械化か」
「はい。ですからせめてわたしたちの村だけは言霊と言う力を絶やさずに守ろうとしていました。でも……」
 そこで彼女の声が寂しげな色を帯びた。
「……魔物の襲撃だな」
 そうですと静かに答えるエルナ。
「あの時風真さんたちが来なければ、わたしを含めて村は全滅していました。力と言っても風真さんたちほど大きな影響を与えることはできませんから、数の上でも力の上でもわたしたちに勝ち目はありませんでした」
 重たい雰囲気を纏うエルナの声に、俺は思わず足を止めて彼女を振り返る。するとやっぱり伏し目がちになって話をしていた。
「あの村の人間で、今自分だけが生きてることに負い目でも感じてんのか?」
 そんなエルナの顔を覗き込みながら問いかける。すると、小さく頷いた。
「そっか。お前の感性をどうこう言うつもりはねえけど、生きていられたことを悲観的に考えちゃ、人生面白くねえだろ? それに言霊使いを絶やさないって村の決意も守れる。これでもお前は不満なのか?」
 自分の思ったことを言う。エルナはそんな俺の言葉に真摯に答えを返した。
「助けてもらえたことは本当に感謝していますし、今の生活も好きです。でもわたし、だからこそ思うんです。一人だけ生き残ったわたしは、こんなに恵まれていていいのかなって」
「一人だけ生き残れたからこそ、楽しい思いをしていいんだと思うぜ 俺は」
「前向きですね、羨ましいです」
 溜息混じりに言うエルナに、俺はさらに続けた。
「生き残れたなら それはなにか意味があって生き残ったんだ。その解釈は人それぞれだろうけどさ、楽しい命であれ……そう思うはずだぜ。あの日以上に生きられなかった村人たちはな」
「そう……でしょうか?」
 考えるような表情のエルナ。そのせつなげな瞳に俺は一瞬言葉をつまらせたけど、「そう思った方が気も楽だろ?」と体を進行方向に戻した。
「ありがとうございます」
 それだけを言って、一つ深呼吸をするエルナ。俺は少し先に見えるジンたちの背中においつこうとするわけでもなく、エルナの視界から俺のサイズが小さくならない程度の歩調で歩いている。
 つってもま、エルナの視力がどんなもんだかはわかんねえんだけどな。
「あの いいんですかかずまさん。皆さんにおいつかなくって?」
 少し小さくなっているジンたちを見て、エルナは心配そうに俺に言う。
「……そうだな。じゃ、ちいと走るか」
 どうやらおいつけなくなるんじゃないかと心配なようだ。なのでそれに頷いて俺は小走りを始める。
「転ぶなよ」
 なんとも不安定な足音を聞いて、俺はそう後ろの少女に注意を促した……しかし。
「きゃっ!」
 案の定これである。
「やれやれ……言っただろ転ぶなよって」
 呻くエルナに左腕を差し出しながら、俺は苦笑する。
「……すみません」
 落ち込むエルナだけど、さっきの重たい雰囲気の落ち込みじゃなく 普段とかわらない雰囲気に戻ってることがわかり俺はほっとした。
「立てなそうなら掴まれよ」
「は はいです」
 腕を差し出したままで言った俺にそう返事すると、両手で俺の腕を掴み 不安定に身を起こす。……もうちょっと立ち上がり方があるだろう、そんな体勢で起き上がるとまたこけるぞ?
「体重預けて起き上がるとまた転ぶぞ」
 今思ったことを口にする。はたと気がついたらしく、地面をしっかり踏みしめる音がした。
「ほんと すみません……」
 しょんぼりしているエルナに肩をすくめつつ、「このままだとほんとにおいてかれるな」と溜息混じりに俺は言った。
「そうですね。急がないと」
「お前は急ぐと転びそうだから歩いて追い付くぞ」
 二の舞はごめんだと俺もエルナも思っているようだ、「はぃ」と言う力の入らないへこみ声が返って来た。
 
「お前ら、なにしてたんだよ?」
 一分ほど後、追い付いた俺たちはジンに溜息で迎えられた。
「わり、ちいとな」
「すみません。二度も待たせてしまいまして……」
 本当に申し訳ないと言う風に、エルナはぺこぺこと頭を下げている。俺も申し訳なくて頭を掻いた。
「まったく、一日で二度もお前に待たされるとはな風真」
「いやほんとすまんかった」
 おおげさな溜息と同時に言われてしまい、もうぐうの音も出ない。
「別に時間制限があるわけでもありませんし、気にしない気にしない ですよ。先輩はカリカリしすぎなんです」
 やれやれな調子で秀奈が言うと、ジンは「こいつを甘やかすとどんどんルーズになる」と俺を指差した。
「ほんと ごめんなさい」
 さっきと合わせてさらにへこむエルナ。秀奈はそんなエルナを見て、ジンに文句を言おうと口を開く。
「駄目じゃないですか先輩、エルナさん べっこべこですよ」
「い いえ あの……そこまでへこんでは……」
 どうするつもりですかと詰め寄る秀奈に、エルナはあわあわしながら秀奈をなだめている。
「先輩をこのままにしておくと、エルナさんが先輩恐怖症になっちゃいますから わたしがかわりに予防線をですねぇ」
「ああもぉわかったわかった、なにを言ってるのかはわからないが。とにかくだ風真、お前がルーズでなければ問題はないんだ。しっかりしろよ」
 矛先はあくまでも俺なわけか。
「……善処しますよ」
 ジンのなんと言うか、小言じみたお節介をそうやって止めさせる。兄貴ってこういうもんなんかなぁ?
「皆さん、そろそろです」
 そんなお笑いテンションを塗り替えたのは、真剣なエリーナの一声だ。言われて正面をしっかりと見る。
 するとたしかに、だいたい縦は3階分程度の高さの建物が聳え立っている。
「ここが敵地か」
「そのようだな」
 俺の後にジン、そして「な……なんか、緊張しますよぅ」とエルナ。
「たしかに、わたしも緊張して来ました」
 そう言う秀奈に頷くエリーナ。そうして最後にユナが「……いこう」と静かに発した。
「さてさて。鬼が出るか蛇が出るか」
「それに、鬼が住むか蛇が住むか ですね」
 エルナの真剣な声に、「だな」と俺は相槌を打った。
「エリーナ。俺たちから離れるなよ、この中では片時もだ」
「わかってるわ兄さん。風真さんたちに動向するから、兄さんと秀奈さんは自分の仕事を」
「わかった」「了解です」
「行動指針も決まったところで、踏み込もうか……!」
 俺の一声で、全員が気合を入れなおした。
 
 ーー 本編後の雑談 ーー
ぷちミント「第三話でした」
ジン「爆裂プリンセスと同じで進行が遅いな」
ぷちミント「……言わんといてorz」
ジン「どうも今回はエルナの話がメインだったようだが」
ぷちミント「せやね。ほんとはもうちょっと風真とエルナの出会いを詳細に書こうとしてたんだけど、あれで事足りてしまったねw」
ジン「次はどうなるんだ?」
ぷちミント「風真たちの大暴れを書こうかなぁと思ってる。あくまで予定は未定なんだけども、インスピレーション任せだから俺」
ジン「なるほどな。つまるところ、風真たちがうまいこと陽動になってくれて俺たちの仕事はサクっと行くって予定なのか」
ぷちミント「そういうことですな」
ジン「うまく行ってくれるといいんだがな」
ぷちミント「そやね。ま そんなところで今回はこの辺にしときますか」
ジン「やけに短いな」
ぷちミント「ま、たまにはね。つうわけで、また次回〜」
んじゃま次です
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