「いってきます」
二人の声が家の中に投げ込まれる。それでドアをしめた俺は、近くに止めてある俺の愛車のカバーをとる。
この声 一つは勿論俺でもう一つの声は、クソ兄貴なんかの声じゃ勿論ない。俺の肩に座っている新しい同居人、天使型MMS アーンヴァルのエリンだ。
「あのマスター、マスターの学校 神姫がいっしょでも大丈夫なんですか?」
ほぼ耳元からの声に、俺は頷いてこたえる。
「ああ、授業の邪魔にならないようにって神姫用に部屋が設けられてるくらいだからな。さてエリン」
「はい?」
俺の言葉のついでで呼ばれ、肩の少女は首をかしげる。もう、こいつはいちいち動きがかわいいんだよちくしょう。
「けっこうスピード出るから、落ちないようなとこに入ってた方がいいんだ。どこにする?」
愛車ことママチャリにまたがって聞いてみる。ほんとはマウンテンバイクとかそう言うかっこいいのがよかったんだけど、どうにも俺はバランスを取るのが苦手らしく 安定して乗れたのがママチャリと言うわけだ。実にかっこ悪い。
「そうですねぇ、それじゃ」
言うと器用に制服の胸ポケットにエリンは滑り込み、上半身だけ出した状態になる。ウィングユニットつけてもないのに、よくこうもするっと入れたもんだ。
「うし、じゃ いくか」
言うと俺はペダルに乗せた足にゆっくりと力を入れていく。徐々に動き始める愛車に、俺のテンションも上がってく。
「ま、マスター? あの、ちょっと早くありませんか!?」
ペースが乗って来たところで、胸元から悲鳴じみた声がする。
「いつもこんなもんだけど?」
軽やかにペダルを動かしながら、風の音にギリギリまけない程度のボリュームのエリンの声にこたえる。
「こ、こわいですよぅ〜!」
不意に制服の胸ポケットに重みがかかる。おそらくはエリンが怖くて服を握り締めてるんだろう。
「もうちょっとだ、我慢してくれエリン!」
「きゃああっ! スピードあげないでくださいいっっ!!」
エリンの怖さを早く終わらせてやろうとスピードを上げたが、どうにも逆効果だったっぽい。ほんとにこれが高速戦闘のアーンヴァルなのか疑問に思う。
「よし、見えた!」
スピードを緩めないまま、俺はそう呟く。視線の先には学校の駐輪場、ここからは一直線 けどこのスピードのままじゃ流石にあぶない。
ので徐々にブレーキをかけて行く。
「きゃっ!」
と見せかけて急にブレーキを強く握る、そのせいでまたエリンが短く悲鳴を揚げた。キュキュッと地面とタイヤが強く擦れ合う音がここちいい。これを聞くためにこの距離までトップスピードを維持したままここまで走って来るのだ。
「な、なんてあぶない運転をするんですかっ!」
愛車が停止してそれから降りようとしていると、胸ポケットから泣きそうな絶叫が聞こえて来た。
「このブレーキ音が聞きたくってさぁ」
「ききたくってさぁじゃありませんっ! いっしょに乗ってるわたしの身にもなってください! それに、もし事故とかになったらどうするんですか! わたしもマスターもただじゃすまないんですよっ!」
駐輪場まで愛車を手で押しながら、そんなエリンのお説教を聞いている。
「はいはい、わかってますって」
「わかってません! マスター、そこに座りなさい!」
駐輪スペースに愛車を止め、校門に向かおうとするのをそんなエリンの鋭い声が制する。
「すわるってどこに?」
「そこです地面です大地ですよっ!」
よっぽど俺の愛車に乗ったのが怖かったのか、エリンは大層にご立腹らしい。
「なんだよ」
「なんだよじゃないって言ってるじゃありませんか。早く、座ってください」
「いや、もうそろそろ校舎行かないとなんだけど……」
指差すは校舎の壁にはめこまれるようにして存在するでっかい時計。
「む……そ、そうですね」
エリンは俺の指の先を見て、しかたなさげに言う。
「マスター、これからはもっとゆっくり走ってください。本当にあぶないんですからね」
校舎に向かう間にも、そうやってエリンは俺にあのここちいいブレーキ音を鳴らすのをやめさせようと最早必死だ。
「ああ、はいはい……」
昨日あんなにかわいらしく笑って恥らっていたのと同一人物 いや同一神姫とは思えないほど、エリンの剣幕はすさまじい。もうなんか頭がガンガンする、それほどに声の迫力がすごいのである。
「わかってません、その態度は。しっかりわたしの話をきいてくださいマスター!」
「声がでかくて頭にひびいてるんだけど……」
「えっ……あ」
俺の言葉で我に返ったらしく、しまったって反応の後 それっきり黙ってしまった。彼女に視線を落とすと、顔を真っ赤にして俯いている。
靴箱で靴を履き替えて教室に行くまでが、妙〜〜に気まずかった。
「よう圭二。お前 神姫買ったんだな」
自分の席について、どうしたものかと考えていると そう声をかけられる。声の主はダチの観方修吾(みかた しゅうご)。
「ん、ああ。兄貴のをぶんどったんだけどな」
「ずいぶん必死じゃねえか。そんなにほしかったのかよそのアーンヴァル?」
ニヤニヤしながら聞いてくる修吾。
「ん、ま まあな」
事情を説明するのはめんどくさいので割愛することにする。彼の肩を見てみると、神姫が一人乗っている。
「あれ、お前持ってたの飛鳥タイプじゃなかったか?」
俺の言葉に修吾はなんとも言えない顔をした。彼はたしか一昨日辺りに神姫といるのを見た時は飛鳥タイプの神姫をつれていた、けど今彼の肩に乗っているのはストラーフタイプだ。
「ま、まあ……ちょっとな」
話しづらそうな空気、ストラーフの方はなにも言わないし表情は変えるものの マスターの言葉に特にショックを受けた様子ではない。もしかすると事情を知っているのかもしれないな。
「あの、マスター」
胸ポケットからおずおずと遠慮がちな声。
「なんだ?」
「その……さっきは、すみませんでした」
「あ、ああ……俺の方こそ な」
「お? なにがあったんだお前ら?」
興味津々な修吾、それに俺は「まあ、ちょっとな」と今さっきの修吾をまねして言う。
「でだ、名前とか教えてくれないか?」
俺らの空気を察してか、修吾はそうやって話題を変える。こいつのおかげで気まずい空気は一瞬で済んで、正直ありがたい。
「ん? ああ、エリン。出て来れるか?」
緊張しているかもしれないと踏んで、俺は少々遠慮がちに声をかける。すると「あ、はい 大丈夫です」との声。その後でぴょいっと器用に机の上に着地する。
「初めまして、アーンヴァルのレイネリアス。エリンです」
丁寧に一礼、それに習ってか修吾も「おう、観方修吾だ。んでこっちはストラーフのナナヤ。よろしく」と返す。
「改めまして、ナナヤです。よろしくおねがいしますお二人とも」
こちらはマスターの肩の上で恭しく一礼する。俺もエリンも頷いて「よろしくな」「よろしくおねがいします」と同時に返した。
と、そこでチャイムが鳴る。すると、いろんなところからなにかを机に置くような音がするのと同時に、少女たちの小さめな声。
クラスメイトの神姫たちが出て来た音だ。毎日この時間、神姫とマスターたちはしばしのお別れの挨拶をするのだ。
他の学校はどうか知らないけど、うちの学校は神姫がそばにいると授業に集中できないと考えているらしく、こうやって授業時間神姫とマスターを別々の場所にわけている。
「ナナヤ、暫く遭えないけど寂しくて死んだりするなよ」
「マスター、わたしはストラーフですよ。ヴァッフェバニーならまだしも、そんなことはありません」
やれやれと肩を落とすナナヤ。
「ってことで、少なくとも俺は昼間までは神姫側の様子は見に行かないと思う。だからエリン、他の神姫に失礼のないようにな。後慣れた神姫にいろいろ教わるといいぜ」
「クスッ、マスターったら 先生気分ですね。それじゃあナナヤさん、行きましょうか」
そういえば神姫部屋の場所教えてなかったな、と思ったけどなんでかわかってるらしくナナヤの方も頷いてる。
「じゃ、マスター。居眠りとかしちゃ駄目ですよ」
そんな余計なことを言い残し、エリンはまたも器用に教室を出て行く。勿論エリンの後にナナヤも続いて行った。
後半へ
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