薔薇の埋葬        片翼・紗央里
第5話:泣く薔薇









可気朗の言葉に、男性は少し焦りを感じたらしく、ネイロンの入ったカプセルをゆっくり机の上に置くと、可気朗を止めるように肩に手を置いた。
「やめておけ、サラバンドを止めようだなんて考えるな」
「うるさい!!!あそこには俺の大事な奴が居るかもしれないんだ!!止めても俺は行く!!」
男性の手を可気朗が叩き落す、男性はしばらくあっけに取られていたようだったが、シュートとマインが「やめておけ」と男性を止めるので、仕方なく、目を伏せた。
そして、机の中から一枚の紙を取り出すとそれを可気朗に手渡す。
極普通の紙には、研究施設までの道となにかの番号が四つ書かれていた。
「この地図どおりに行けば、いけるはずだ・・・。それと研究施設に入るにはそこに書いてある暗号が必要になる。気をつけていくんだぞ」
「・・・ああ!」
男性からもらった紙を丁寧におり、ポケットに可気朗は入れると、静かに頷いた。
マインとシュートはこの男性をあのゾンビが来たときに守るといい、可気朗は一人研究施設へと急ぐため、ドアを開けた。
そんな時
どんっ! と何かにぶつかった、前をよく見てなかった可気朗は自分の前に立っている人物をみてあっと声を漏らす。
「あれ?可気朗じゃん。って事はビンゴ?」
可気朗にぶつかったのはライドだった、後ろには虎の刃もやってきている。
可気朗は驚き、しばし言葉を失ってしまった。
何で、彼はこんなところに居るのか・・・。彼は自分の正反対の方向へ向かったはずなのに。
考えれば考えるほど、分からなくなってきていた。
別にライドは方向音痴というわけでもない、なら・・これも運?
驚きを隠し切れない可気朗に、虎の刃は少し汗を漏らしながらも家の中にいるマイン達をみて話し掛けた。
「マインさんにシュートさん。貴方達もここに来てたんですね」
「ああ、そうだが・・・。どういう意味だ?」
「俺達はそこにいる男を捜してたんだ」
男?といいつつ、ライドとシュートに可気朗が振り返る。そこに居るのはあの男性。
男性は、不適な笑みを浮かべながら家に入ってくるライドにどこか冷たい視線を向けた。
「何か用か」
「ああ、アンタだろ?チャイナ・クローズってのは」
「・・・・ああ」
ライドの言葉に、男性―チャイナ―はこくりと頷き、机に置かれている液体を見た。
ネイロンは静かに浮かんでいるだけ。ただの細胞だが、チャイナにとっては唯一自分の傍に置ける物だった。
このライドが自分の所に来たということは、彼は何らかの方法で自分の情報を見ることができたのだろう。
そこまで知られると、反対に何もかも話してしまいそうになってくる。
しかも、このライドという青年。自分達とは違う目をしている・・・。そう思わずにいられなかった。
「ライド、彼の名前を知っているのか?」
「ああ、たまたま見たんだ。パソコンでこいつらの情報を」
「こいつら?」
「ああ、他にもカジノっていう科学者と。シャルルっていう紗織にどこかにた女の人、で、あんたが監視してたっていうケンティフォーリアっていう男」
ライドがケンティフォーリアといったとき、ふとチャイナの手が止まる。
まるで、思い出したくない過去を振りかざすかのように、チャイナは口を一文字に閉じた。
目はどこか悔やみが帯びている。
そんなチャイナに、可気朗は問いただした。彼は何かを知っているのだから。
「チャイナ。お前何か知ってるんだろ?ケンティフォーリアって奴らについて・・。5年前の事件となにか関係が有るんじゃないのか?」
可気朗に言われて、チャイナは静かにため息を付いた。
たしかに、可気朗が言う5年前の事件、つまりチャイナがネイロンと逃げてきた事件のことなのだが、可気朗はそのとき何か合ったのではないかといっているのである。
はっきり言って、可気朗の言うとうりだった。
図星をつかれ、チャイナはただ目を細め眉を寄せるだけだったが、しばらくして余にも真剣な可気朗の瞳を感じ、椅子に座ると、重い口を開いた。
「ケンティフォーリアというのは、研究施設でエリート的な存在と共にサラバンドの監視人だった一人だ・・・。そして、今回の事件を起こした人物・・・・」







チャイナの話は五年前にさかのぼる、5年前。
それは、このスリーピーホロウに研究施設ができてすぐのことだった。
警察機構より、自分で考え成長する生物兵器を作るために作られた施設が此処だった。
管理を任されたのは、カジノ・ハーベルというもう歳な老人。
そのほかに、数人の科学者達と、チャイナ、そしてケンティフォーリアだった。
その当時、チャイナは数ある実験台の1つネイロンの監視役を任せられ、その部下であるケンティフォーリアはサラバンドの監視役を任されていた。
「チャイナ博士。聞いてください。今日はサラバンド少し動いたんですよ?」
「そうか、それは大きな成長だな」
ケンティフォーリアはまだ18歳の子供だったが、類まれなる頭脳の持ち主で、この若さで研究施設にきた人物だった。だが、まだまだ子供。
彼は、事あることに年輩であり上司であるチャイナにいろいろと頼ってきていた。
それがどこかかわいいと思いながら、チャイナは弟ができた気分で接していたのである。
そんな時、一人の女性がこの研究施設にやってきた。
「はじめまして、同じサラバンドの監視役になったの。よろしく」
「え・・・あ・・よろしく」
それが、シャルル・エフィルだった。
何事にも明るく、前向きな彼女にケンティフォーリアが惹かれていくのは時間の問題で
ケンティフォーリアはすぐにシャルルの事を好きになってしまった。
何事にも明るく元気で前向きな彼女なのだからしかたがない。
チャイナはこの二人をどこか応援してしまっていた。
しょっちゅう自分の所に来ては、『シャルルは何が好きだろうか?』『彼女はどんな花が好きかな?』と聞いてくるケンティフォーリアはどこか嬉しそうだった。
だからでもある。
シャルルも、そんなケンティフォーリアに惹かれていた。
だからこそ、シャルルは笑顔を絶やさなかった。
「ケンティフォーリアって。本当に頭いいね」
「なんだよ急に?」
「ただ言ってみたかっただけ。だってね、私地元では結構有名だったの。神童って言われて。なのに、この研究所に来て見たらどう?チャイナ博士やカジノ博士・・それに貴方。皆皆。私以上の頭を持って、もうびっくり」
「シャルルは、それ以上の物をもってる!大丈夫・・ほんとだ・・・」
「・・・うん・・・ありがとう・・・・」
二人の仲は、いつのまにか誰もが認める恋人になっていた。
お互いに刺激しあって、お互いに思いやる。
そんな二人が、仲良く笑いながらサラバンドに教育をしている所をチャイナは何度も何度も見た。
自分も、あんなふうにそばに居てくれる女性がいつかはできるのだろうか・・・
そして、このネイロンをいつか、彼らみたいに笑いながら話をしてあげることができるのだろうか。
そう思っていた。
だが、そんな幸せもあまり長くは続かなかった。
事の発端は、ケンティフォーリアがサラバンドを教育していてあることに気が付いたことだった。
「聞いてください!!チャイナ博士!!すごいことに気が付いたんです!!」
「なんだ?何かあったのか?」
「サラバンドを・・いいや、このすべての実験台達がもしかしたらすごい力を持つかもしれないんですよ!!すぐにカジノ博士に話してきます!!」
ケンティフォーリアは何かを見つけたようだった、チャイナが聞こうとすると秘密だとしか言わず、ただできてからのお楽しみとはぐらかすだけだった。
それから、ケンティフォーリアはその実験に打ち込むため、部屋に閉じこもった。
真剣に打ち込む所為か、ご飯を食べるのを忘れ熱中することもしばしば・・・。
そんな時に、シャルルがチャイナの所へ尋ねてきたのである。
彼女はチャイナに話があると、部屋までやって来た。
「話ってなんだい?シャルル。」
「あのね、実はその・・」
「ん?」
シャルルはどこか深刻そうだが、顔を赤らめながらチャイナのところへ歩いてきた。
「できたのよ」
「なにが?新しい研究かなにかかい?」
「ちがいわ。子供。ケンティフォーリアと・・私の・・・・」
「・・・・なっなんだってえええ!!!!!」
シャルルはどこか恥ずかしそうに、チャイナの叫び声を聞いていた。
仲がよく、いつかは結婚するのではないかと思ってはいたが・・まさかこんなに早く時期がくるとは、チャイナも思わなかったのである。
だがしかし、この二人ならどこか幸せな家庭を持つことができるのではないだろうか。
こんな、人の道を外れた最低な研究なんて止めて・・・そう、どこかで幸せに。
「ケンティフォーリアはこの事知っているのか?」
「いいえ、なんだか研究に没頭しているみたいだから。ひと段落ついてからにしようと思ってる」
「そうか・・おめでとう!シャルル。大丈夫。ケンティフォーリアなら絶対に喜ぶさ!」
「ふふっそうね。ありがとうチャイナ博士。相談に乗ってくれて」
彼女の笑顔はいつも輝いていたが、このときはそれ以上に輝いていた。
一人の女性として、この世でケンティフォーリアと共に生きていく・・そんな決心をした彼女。
もしかしたら、自分は彼女のことが好きだったのかもしれない・・・。
心の底にありすぎて・・気づかなかったけど・・。
でも、チャイナは今この目の前に居る二人をみて、幸せを感じた・・。きっと。

その後、シャルルはカジノ博士に呼ばれていると言われすぐに部屋をでた。
あっという間の出来事で驚きを隠し切れなかったけど。
チャイナは、早くケンティフォーリアの実験が終わることを待ち望んでいた。
シャルルから、この話を聞いたら・・彼はどうするだろう。
きっと、うれしさのあまり。自分の所に駆けつけ、1日中、新婚生活について話し出すのだ。
そして幸せな彼らの風景を想像して、チャイナは床についた。




そんなチャイナの願いが通じたのか、ケンティフォーリアの実験は次の日に終わった。
部屋をでてすぐ、ケンティフォーリアはチャイナの元を訪れ、シャルルの事を聞いてきた。
どうやら、実験が終わったら。話したいことがあるといわれていたかららしかった。
もちろん、それはシャルルの妊娠のことだろ。
「チャイナ博士、シャルルは?」
「シャルルは、今日まだ来てないよ。もしかしたら休みかもしれないな」
「そっか・・・残念だ。明日来るかな?」
「来るだろうよ」
ケンティフォーリアの輝やんばかりの瞳をみてチャイナは笑いながらそう答えた。
実際、妊娠した所為であまり調子が良くないと言っていたシャルルの事だ。
二三日したらすぐに出勤して、ケンティフォーリアに妊娠の事を話すだろう。
だから、彼女がここにこなくても別に驚きはしなかった・・・。
だが、後に思えば・・どうしてあの時家に言ってあげなかったのか・・とチャイナは思う。
もし、あの時、自分がシャルルの様子でも見に行ってあげれば・・・・。
自分のふがいなさを今に感じてしまう。


シャルルはこなかった。
四日目になってもこないことを不安に感じ、チャイナは街へ、ケンティフォーリアと彼女の家へと彼女を尋ねに言った。
だが、彼女は居なかった。
それどころか、彼女の研究していたサラバンドの情報全てが彼女の家から消えていたのである。
「シャルル・・・・」
この事態を重く感じた、チャイナとケンティフォーリアはすぐにカジノ博士を尋ねた。
彼は、チャイナに仕事に戻るように告げると、ケンティフォーリアだけを部屋に残し
ある真実を告げたのだった・・。

「ケンティフォーリア。シャルルが失踪した件なのだが。彼女は反警察機構組織のメンバーだったらしい・・・」
「え・・!?なんですって!?」
反警察機構組織。
その言葉のとおり、警察機構のしていることを阻止し警察機構を何とかしようとしているグループの事だ。
警察機構の実験などのことも、表上では非公開なのでそれを阻止するために戦っているとも言える。
なにより、警察機構の敵だ。
そのメンバーが・・彼女?
あんなに、明るく自分に接してきてくれた彼女が・・・敵!?
「まさか・・・そんなはずは・・・」
「その証拠に、彼女はFX―R2サラバンドの情報全てを持ち逃走した・・・」
「・・・・・・・・・」
カジノの言葉に、ケンティフォーリアはなんともいえない表情をしてうつむいた。
信じたくないというのが本心である、だが実際に情報は全て持っていかれてしまっている。
なら、どこに疑う余地があるのだろうか・・・・・。
「ケンティフォーリア。住民の情報で、シャルルが国境近くの今はもう使われていない、処刑場に向かったというのを聞いた。行ってくれるか?もし、彼女が情報を全て返すなら・・殺すまでもない・・。いや・・あんな子を殺すのは・・・」
「いえ・・・殺します。反警察機構組織なら・・。彼女は・・・僕を・・だましたんだから・・・・」
ケンティフォーリアはそういうと、静かにカジノの部屋を出た。
もちろん、処刑場に向かうためである。チャイナにも言わない・・一人で行くつもりだ。
どこか寂しい背中をしたケンティフォーリアはすぐに行ってしまった。
だが・・そんなケンティフォーリアをみて、微笑む人物がいる。
そう、カジノ博士である。
彼は、どこか冷酷なまでに冷たい笑みを浮かべると、数人の研究員を連れて研究施設を出た。




スリーピーホロウ国境近くにある、処刑場。
昔は、警察機構にはむかった人物や罪で処刑を言い渡された人間が殺されていた場所だ。
処刑場の裏は、大きながけになっており。飛び降り自殺者が多い事でも知られている。
今は使われておらず、鍵が閉まっているはずだった。
だが、ケンティフォーリアが処刑場につくと、鍵は開いており明かりがついていた。
反警察機構組織の一員だったシャルルが、仲間と落ち合うために鍵を開けており明かりをつけておいたのかもしれない・・・。
そう思うと、ケンティフォーリアは慎重に中へと足を進めた。
暗がりの中、かすかなランプの明かりだけでなんとか保っている処刑場は気味が悪かった。
壁のあちらこちらに、引っかいたような傷があったり。
ふいても取れない血の跡があったりと、なんともまがまがしい。
動かないはずのエレベーターが動くので、ケンティフォーリアはそれに乗った。
場所は最上階、エレベーターが止まると、ドアが開きすごい勢いで風が中に入ってくる。
ケンティフォーリアは手で風を避けながら、エレベーターを降りた。
そして、そこに居る人物をみてどこか静かなため息を付いた。
「シャルル・・・・」
すごい勢いの風が、彼女の髪を無造作にも揺らし、彼女はゆっくりと振り返った。
ずっと泣いていたのか、目が赤くはれている。
「ケンティフォーリア・・・・」
シャルルはどこかおとなしげな声でケンティフォーリアの名前を呼ぶと、静かに目を落とした。
そんなシャルルをみて、ケンティフォーリアはどこか辛さを覚える物のすぐに、懐から短銃を取り出し彼女に向けた。
彼女がどこか驚きの表情を浮かべる。
「シャルル・・・まさか君が・・・君がこんなことをするなんて・・・」
「何のこと・・・・?」
「とぼけないでくれ!!君は・・・君は反警察機構組織の一員だったんだろ!!!」
ケンティフォーリアが大きな声で叫ぶ。
その言葉を聞いた、シャルルは信じられないように顔を左右にゆっくりとふるとまるで訴えるような瞳でケンティフォーリアを見た。
「ど・・どういう意味!!そんな!誰がそんなことを!?私はちがうっ!私は反警察機構組織の一員なんかじゃないわっ!!!」
「嘘言わないでくれ!!じゃあなんでサラバンドの情報を全てもって逃げたんだ!」
「そ・・それは・・・・」
シャルルがどこか顔を下に向ける、痛いまでのケンティフォーリアから向けられる視線に耐え切れなくなったからだ。
風があらあらしく二人を吹き付ける、短銃を向けられているシャルルはどこか言葉を言わないようにしているようだった。
「君は・・情報を手に入れるために・・・僕に近づいたんだ・・・」
「ちがうっ!私は!!!」
「言い訳は止めてくれ!!!」
ケンティフォーリアの叫び声と共に、彼が持っていた短銃が火を噴いた。
小さく、どこか弱弱しい悲鳴が聞こえ、シャルルは足を押さえながら倒れこんだ。
銃弾は足を掠っただけだったが、彼女が動けなくなるには十分だった。
痛いのに、涙も出てこない。
苦しいのに、息をすることもできない。
シャルルが上を見上げると、ケンティフォーリアが今までに見たことないような辛い表情をしていた。
「ケンティフォーリア・・・・」
シャルルがケンティフォーリアの名前を呼ぶ、するとケンティフォーリアはどこか意を決したような表情をし、彼女に銃口を向けた。
頭に一発、すぐに死ぬように・・・痛みを感じぬように・・・。
それが、ケンティフォーリアが今できる彼女への最後のたむけだったのかもしれない。
そんな時である、急にケンティフォーリアの背中に鈍い痛みが生じた。
それはすぐに強烈な痛みとして、彼を襲った。
急いで、後ろを振り向きケンティフォーリアが自分を撃った研究員に短銃を向け発砲する。
研究員はケンティフォーリアに打たれ、すぐに倒れた。
そして、その後すぐに、エレベーターから一人の人物が出てきたのである。
白髪に、灰色のにごった瞳をした老人・・・。カジノ博士である。
カジノはどこか笑みにも見える表情をしながら、銃をケンティフォーリアに向けてきた。
背中がずきずきと痛む、目はどこか朧で白いカーテンが引かれたようになってきた。
だが、此処で気を失うわけには行かない。
それはイコール、彼の死を意味していたからだった。
「これは・・どういう意味ですか!!!」
ケンティフォーリアが怒りのこもった声でカジノに叫ぶ。
「ケンティフォーリア。君は実に優秀だった。君のサラバンド達実験台に神霊能力者のDMAを埋め込むという発送は実に良い。きっと警察機構から表彰されるだろう。だが、表彰されるのは君じゃない。私だ。お前は邪魔なのだよ」
「それじゃあ・・・シャルルが、反警察機構組織の一員だというのは・・・」
「嘘に決まっている。だがそれは本当になるよ。君が反警察機構組織の一員、スパイだった。だから、暗殺命令がでて私はやむなく君を射殺した・・。そして君は後ろのがけから彼女を道ずれに命を投げる」
「ふざけるな!!!!」
カジノの言葉にかっとなったケンティフォーリアはすぐに彼に飛び掛っていった。
だが、他の研究員に取り押さえられ、じたばたを足を動かす。
カジノはそれを見ながら笑っていた。
この上ない幸せを味会うかのようにして・・・・・。
カジノがケンティフォーリアを崖の辺りまで連れて行く、背中に銃弾を受け、もはや動く力のないケンティフォーリアは言われるまま、研究員にがけの近くまで連れて行かれていた。
「さようなら、君の分まで私は出世してみせるよ」
銃口がケンティフォーリアの頭を狙う、ひきがねに指が入れられ今にもカジノは銃を発砲しそうだった。
「ケンティフォーリア!!!」
そんな時、シャルルがカジノを突き飛ばした。
銃は反動を受けて、研究員に当たる。ケンティフォーリアを捕まえていた研究員は頭から血を流し、倒れた。
その隙をつき、シャルルがケンティフォーリアを抱きしめ、崖下に落ちる。
すごい振動と、風が二人を揺らして、二人は海の中へとまっさかさまに落ちていったのである。






頬に冷たい水が当たる、ケンティフォーリアはそんな感覚を覚えて目を覚ました。
なんだろう・・背中がまるで燃えているように熱いのに、とても心が冷たくて気持ちがいい。
誰だろう・・自分をそっと抱きしめている人物は・・
そして・・・頬に当たる冷たい水は・・
なんなのだろう・・。
そう思ったところで、ケンティフォーリアは静かに体を起こした。
「ケンティフォーリア・・。おきてたの?」
「・・シャルル・・・」
目の前にはシャルルが居た、いつもと変わらない笑顔を浮かべ、彼をどこか落ち着かせてくれる。
辺りを見渡すと、そこは処刑場の真下だった。
そうだ、あの時自分はカジノ博士にだまされて、シャルルを反警察機構組織の一員だと思い込んだのだ。
そして、彼女を殺そうとしてしまった・・・・。
その瞬間、背中を激痛が走る。よく見ると、白衣は水に濡れ重く赤く染まっていた。
「・・・僕は・・生きているのか・・・」
「生きている。じゃないと私とあえないでしょ?」
「そうだね・・・」
ケンティフォーリアに微笑む彼女はいつもと変わらなかった、自分は彼女を殺そうとしたのに。
あんなに愛していた人を殺そうとしたのに・・・。
彼女はまったく怒らない。
それどころか、何もかも分かっているような居ないような瞳をしてケンティフォーリアを見る。
彼女はただ、ケンティフォーリアを見つめていた。
やがて、ケンティフォーリアが決意したようにシャルルの手を掴む。
シャルルは最初、驚いた物の、すぐにもとの冷静を取り戻してケンティフォーリアを見てきた。
「どう・・したの?」
「シャルル!!二人で逃げよう!もし僕達が生きていることをカジノ博士がしったら・・・僕達は殺されてしまう!!!だから・・二人で・・二人っきりで生きよう・・。どこか静かな街で」
「ふ・・たりで・・・・そう・・そうね」
ケンティフォーリアの言葉に、シャルルはどこか寂しげに微笑んだ。
そして、ケンティフォーリアに撃たれた足を見ながら静かに答える。
その顔はすぐにでも泣き出してしまいそうなぐらい辛そうだった。
「ケンティフォーリア・・・チャイナ博士の所へ行って。私は・・動けないから」
「・・シャルル・・・、僕がおぶるよ」
「だめ。一人の方が早いし・・私足手まといになりたくないの。さぁ!」
「シャルル・・・・わかった。すぐに帰ってくるから!!」
「うん・・・・」
シャルルの力強い言葉に背中を押され、ケンティフォーリアは急いで駆け出した。
背中の痛みなんて、お構いなし。
大丈夫だ・・自分は普通の人間とは少しばかり違う・・だからこんなことでしにはしない。
だから・・・だから、今は一刻も早く、彼女を助けるためにチャイナ博士を呼ぼう。
そう彼は考え走った。
暗く暗く・・・五年間も走りつづけることになる道を・・・・



ケンティフォーリアが走って姿が見えなくなると、シャルルは静かにため息を付いた。
そして、おなかを必死に押さえる。彼女のおなかを強烈な激痛が襲っていた。
とっさの判断で、ケンティフォーリアを抱きしめ海に飛び込んだとき強く打ったのだ。
絶え間なくやってくる激痛と、彼女は心の激痛に悩まされた。
『二人っきりで逃げよう』
彼はそういった、そのとき、彼女は確信してしまったのだ・・・・。
やっぱり、彼はそれを望んでいたのだ・・・と
あまりの辛さに涙が流れてくる、何日も何日も悩み悩みつづけて、目を真っ赤に晴らした。
チャイナに相談してもらいたかったが、彼は仕事が忙しくつかまらなかった。
だからこそ、彼女の心境はどん底につき捨てられたのだ。
あの時、チャイナに妊娠したと言うことを知らせ、帰り道、シャルルはカジノの場所へと向かっていた。
この妊娠のことを一番にチャイナへ教えたのは、彼女のチャイナへたいする信頼である。
ケンティフォーリアにあっと驚いてもらおう!そう思って、彼女はチャイナに放した。
先に、チャイナが知っていたと聞いたら彼はなんと言うだろか。
笑いながら、子供のことをいろいろと聞いてくれるだろうか・・・。
そんな気持ちでいっぱいだった。
だが、
「あの、カジノ博士。何か御用ですか?」
「いやね、御用というわけでもない。ただ・・行っておこうと思ってね」
「はぁ・・・」
「シャルル。君は妊娠してないかい?」
「ええ!!どっどこから聞いたんですか!あっ!さてはチャイナ博士ですねぇ!もぉ!!秘密っていっておいたのに」
カジノの言葉にどこか赤くなりながら話すシャルル、彼女はチャイナが嬉しさのあまり、カジノに放したと思い込んでいた。
だからこそ、こんなふうに笑っていられたのである。
だが、次にカジノの口から発せられた言葉はそんなに甘い物ではなかったのだ。
「おろして貰いたい」
「え・・・・・」
一瞬、何のことか分からなくなってしまった。カジノはそれぐらいさらりと言ったのだ。
まるで、珈琲を頼むといっているかのように。
彼女は頭を左右に振りながらどこか後ろに下がった。
「ど・・・どうしてですか・・・。どうして!おろさないといけないんですか!!」
「研究の邪魔になるからだよ。私の口から言うのもなんだ・・。その・・ケンティフォーリアがそう望んだんだよ・・」
ケンティフォーリアがそう望んだ
足ががくがくと震えているのが分かった、いやな感情が頭を支配する。
彼が・・そんな・・・彼が・・・・
喜んでくれると思っていた、先のことを一緒に考えてくれると思っていた。
なのに・・・・。
カジノが近寄ってきて、シャルルの肩をそっと叩く。
カジノは本当に申し訳なさそうな顔をしながら、彼女を見た。
「私も・・彼にいろいろと説得はしたんだ・・だが・・彼は断固で、おろせと・・・・。すまない・・私の力がたりないばかりに・・・」
「そ・・そんな、いいんです。私・・・平気です・・本当に・・平気です・・・」

彼女は、すぐに部屋に帰って泣き喚いた。
せっかく、幸せをつかめると思ったのに・・・神様はなんて無情なんだろう・・・
どうして、ちゃんと信じてくれないんだろう・・・。
どうして・・・・
それから四日、彼女はサラバンドの情報をもって研究所を出た。
ケンティフォーリアへのあてつけなんかじゃない、せめて彼を助けてあげようと思った。
彼は、前々からこの実験に疑問を感じている人物の一人だった。
だから、情報を全て消去して、彼を助けてあげようと思った・・・。
だが、それは全て仕組まれていた。
全て。カジノが裏で手を組んでいたことだったのだ。
彼女が、研究所を出たのを確認したカジノはケンティフォーリアにシャルルを反警察機構組織の一員と思わせた。
そして、運良く二人とも殺そうと考えたのだ。
だが・・・そこまで・・彼女は・・シャルルは知らない。
ただ、自分が利用されていたということぐらいしか分からない・・・。
なにより、もう、自分のおなかの中に居る子供は・・・助からない。
そう思うと、涙は止まることを知らなかった。
最愛の人からも、捨てられ。
最愛の者となる者も死に。
そして・・・彼女の心は壊れてしまった。
そっと、目を閉じる。
感情のない、風音がただ一身に彼女の頬を荒々しくなぜていた。
そのまま、彼女は小さな子ビンを手にもち目を閉じた。
その後、彼女が再び、優しげな微笑を見せることはなくなったのである。
「なんだって?」
「ケンティフォーリアが、反警察機構組織の一員だったらしい・・・。シャルルを殺して彼は逃げた」
部屋で待機していたチャイナの耳を通ったのは、同じ同僚の言葉だった。
最初は何の事を言っているのかさっぱり分からず、頭が混乱したが。
それはすぐに解消された。
ケンティフォーリアは反警察組織の一員で、サラバンドの情報をもち逃げした。
それは別にいい、だが一番気になったのは、シャルルが死んだという事だ。
彼女が死んだ?まさか・・・・。
その時、チャイナは机の上に置かれていた一枚の紙を思い出した。
花柄のついたかわいい便箋に小さく書かれた文章、それはシャルルの手紙だった。
『幸せだと思ってた、彼ならきっと包んでくれると思ってた・・・。なのに・・。こんなことになるなんて・・・。新しい命は邪魔みたいなの・・。相談したかったけど。仕事みたいだから。また後でくるね・シャルル』
と書かれていた。
紙の内容を見て、すぐにわかった。
何らかの形で、ケンティフォーリアがシャルルの妊娠を知り、おろせといったのだ。
手紙からそれはすぐにわかってしまった。
なんて事だ、こんなときに限って自分は役に立てないなんて・・・。
同僚の話を聞き終えた、チャイナはこの話が明らかにおかしいことを知った。
なぜだか分からないが、そう感じてしまうのである。
別に確信があるわけでもなければ、証拠が有るわけでもない。
だが、なぜだかそういう気がするのだ・・・。
そんな時、ドアがばんばんと激しくノックされた。
「な・・なんだ?」
一瞬、肩を震わせる物の、チャイナは平静をよそおって、ドアに手を伸ばした。
そして、目を大きく見開いてしまった。
「ケンティフォーリア!!!」
「チャイナ博士・・助けてくれ・・。シャルルが・・シャルルが・・・・」
どさりと倒れこむ、ケンティフォーリア。
チャイナはとっさにケンティフォーリアが見えないようにドアを閉めると、すぐに彼をベットに運んだ。
体中怪我だらけ、何より背中の銃弾を受けた傷が酷かった。
血はまだ出血していたし、なにより顔色が真青だ。
さっきの噂話で、ケンティフォーリアが処刑場に言ったというのは聞いていた。
処刑場はこのスリーピーホロウにある、研究施設まではかなりの距離がある。
人間が歩いて来るのなら、せいぜい4時間は走ってもかかるだろ。
それを、こんな傷でケンティフォーリアはやってきたのだ。
つくづく、この人物の底知れぬ体力にはあっと驚かされることがある。
ベットに運んでしばらく、水を入れに行っていたチャイナは帰ってきた時、ケンティフォーリアがベットから身体を起こしてるのを見て驚いた。
「ケンティフォーリア!おきても大丈夫なのか!?」
「え・・ええ・・・・チャイナ博士・・。いそいで処刑場の崖底に行かないと・・・」
「崖底?」
「シャルルが・・・シャルルが居るんです・・・・」
「なんだって!?」
チャイナはその言葉を聞いた瞬間、胸がすごいスピードで高鳴っていくのを感じだ。
嫌な予感だ、しかも長い長い予感だ。
そう簡単に終わりそうもない・・・。チャイナは無理やり動こうとするケンティフォーリアを押さえ。
部屋に誰も入れぬよう、鍵を閉めると、崖底に急いだ。
だが、遅かったのである。
彼女は死んでいた。
口から血を流し、手には小さな子ビンを持ち、目から涙を流して死んでいた。
そっと近づいて、その冷たい手に触れてみる。
彼女の美しく、赤いほてった頬はまるで冷たく・・元の面影を残していなかった。

「シャルル・・。お前は・・・最後の最後で・・どうしてアイツを信じてやらなかったんだ・・・。アイツが・・ケンティフォーリアが・・そんなこと・・言うわけないじゃないか・・・・全て・・カジノ博士がたくらんだことだったんだ・・・・」
どこか声が震えて上手いぐわいに喉を通らない、チャイナはその場で、人知れず泣いた。
声を押し殺し、最後の最後で泣きながら心を壊し、死んでいった彼女を見ながら。




全てはカジノの企みだった。
アイツは、ケンティフォーリアの研究。(サラバンド達に神霊能力者のDNAをいれる)を横取りしようと考えた、それには研究者本人とその身近にいた人物は邪魔になる。
だから・・・無罪のケンティフォーリアに反警察機構組織の一員という罪を着せ暗殺した。
いや・・・させたと思っている。
結果、全てカジノの思い道理に行かなかったとはいえ、奴は大体自分の思ったとおりにしてしまったのだ。
そうなってくると、今度危険が迫ってくるのは自分。そして、まだ生きているケンティフォーリアだ。
チャイナは、涙をぬぐい。シャルルの死体をそっと海に流しながら静かにつぶやいた。
「やすらかに・・・・」
胸に着けていた、薔薇のブローチ。
彼女は、薔薇の花がとても好きだと言っていた。
そして、この薔薇のブローチは、三ヶ月ほど前に三人で縁日に行ったときに三人で買ったものだった。
チャイナは薔薇のブローチを海に投げ込んだ。それこそ海に叩きつけるように。





研究施設に帰ってきたチャイナは、すぐにケンティフォーリアと逃げようと考えた。
しかし、部屋に帰るとそこに彼の姿はなかった。
ただ、さっきまで使っていた血に染まっている包帯だけが、椅子の上に置かれていた。
嫌な予感は当たる物だ、そして続く物。
彼は、その時。
この研究施設を出る決心をした。
自分がいつか、傍にいて良いと思える存在・・・ネイロンと共に。
いつか、かならず、ケンティフォーリアはカジノに復讐しに来るだろう・・・。
そう感じ、彼はこのスリーピーホロウの裏町で生き続けた。
そして、日は来たのである。
ケンティフォーリアはついに、事を起こした。
全ての者に復讐するために・・・・。









「・・
・・・・・・」 チャイナの話を聞いて、ライド達はしばし言葉を失った。
なんだか、非常に心の中を包み込む喪失感が、なんともいえない。
後で知ったことらしいが・・・。
ケンティフォーリアはシャルルが妊娠したことを知らなかった。つまり、おろせといったのも
カジノの罠だったわけである。
その所為で、シャルルは最後の最後で、彼を信じきれず自殺した。
ケンティフォーリアも、今この街を・・いや国を滅ぼそうとしている。
この二人の強運が、ライド達を驚かせていた。
「不思議な物だろう?人間は弱い・・・全てにおいてな。だがケンティフォーリアはそれを越そうとしている・・・。全てを滅ぼし、もう涙を流さぬように」
「そんなこと!絶対にだめに決まってる!」
「ライド・・・」
「涙を流さない、辛い思いをしないために全てを壊すなんて、ばかげてる。全てがあるから、悲しみも嬉しいこともあるんだ、なのに、壊す打なんて間違ってるぜ!」
「そうだな、俺もそう思う。今のケンティフォーリアって奴はただの子供だ。1つの方向しか見ていない馬鹿な」
ライドの言葉と可気朗の言葉が、チャイナの話で辛気臭くなっていた部屋を明るくする。
どこか、二人の会話に誘われて、マインとシュートもそうだと頷いていた。
チャイナは、そんなライド達をみて、どこか驚いたような表情を見せる。
そして、どこかふっと微笑むと、椅子に座り込んだ。
どっと肩の力が抜けたような、感じである。
「そうか・・・・そうだな・・・。お前達は・・いつも前を見て進もうとしている・・。だから明るく光っているんだろうな」
チャイナが微笑みながら、笑い出す。その目にはどこか涙がたまっていた。
静かに流れた涙は一滴だけで終わった・・・・。

「たのむ。ケンティフォーリアを助けてやってくれ。お願いだ・・・・」
「よし!」
「まかせとけ!!!」
ライドと可気朗が大きく頷く、彼らはすぐにドアを開けて、研究施設の方へと向かっていた。
ドアがちゃんとしまわず、ぎぃぎぃと音を立てる。
それを、チャイナはマインとシュートの三人で、どこかあっけに取られてみていた。
「彼らは本当に明るいな」
「今ごろ気づいても無駄無駄。あいつら結局は熱血馬鹿だから」
「熱血馬鹿はお前もだろ?」

マインとシュートがどこかまじめじゃない喧嘩を始める、ほのぼのしたこの風景はどこかチャイナには新鮮で、昔を思い出させる。
あの時は楽しかった、幸せといったほうがいいのかもしれない。
だからこそ、それを失ったときの悲しみはとても大きかった。
でも・・・・。




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(管理人からのコメント)
第五話でした、今回は彼等の過去が明らかになりましたねぇ。うう…シャルルが可愛そすぎる、んでケンティフォーリアも悲しい…純粋とは脆い物です。
揺らぎ易く壊れ易い、だからこそ綺麗なのかもしれないなぁ、などと思ったものです。そしてゆえに壊れた時 いかようになるかわからない危うさも秘めている。
第六話へGO!
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