「ムコウ山のテキ塔? そんなとこ行ってなにする気なの?」
 あれから一時間ばかり経った。食後、ハンマー夫妻はまたも気を利かせてくれ、ハンマー姉妹と過ごすように促してくれたため姫様たちはそれにありがたくのっかった。
 そして、今回このアチラヘンまで来た目的をスタンから聞いてのジュリーの問い返しである。
「あたしをなんとしても攫おうとするバカな連中がいてね。そいつらにちょいとお灸を吸えてやろうと思ったのよ」
 シェリーの淹れた紅茶をいただきつつ、こともなげに姫様は答える。
「城からテキ塔までかなりの距離じゃない?」
 呆れるように言うジュリーに、あっさりと「ええ、最短距離且つ一日の最長移動距離で往復六日かかるわ」と姫様はまたもなんてことないように言う。
「六日って……暇なのねぇ」
 今度はホワイトが、そんなことを言って来るジュリーに「ジュリーも相当暇そうだったけど?」と軽く皮肉をこめる。
「ま……まあ、あたしも暇っちゃ暇だったけど。流石にそこまで暇じゃないわよ……たぶん」
 と少々頼りない雰囲気でホワイトに返すジュリー。
「ところでシェリーってったっけか? 食膳からぜんぜん喋らねえけど、俺ら嫌われてんのか?」
 本人を目の前に、咬は誰にでもなく独り言のように発する。
「ああごめんね。シェリー、あたしとばっか一緒にいるから、あまし他の人と喋るの慣れなくってね。緊張してんのよ、気にしないでやって」
 咬の疑問にはその姉がそうやって代弁する。
「それなり回数会ってるはずのあたしともこれだからね、相当の人見知りなのよ。まああたしの場合は不定期訪問だから、それほど初対面とかわんないかもだけど」
 自分の状況を説明して、姫様は残っていた紅茶を飲み終える。
「おいしいわよね、この紅茶」
 少し飲み、まだ半分ぐらい残ってるカップをおいてからホワイトはにこやかに言う。すると淹れた本人が「ありがとうございます」とてれくさそうに答えた。
「ビール。やめときなさいシェリーは」
「あ? なんの話だよそりゃ?」
 唐突に姫様に言われ、咬は不思議そうな表情で言葉を返す。
「あんた、シェリーのこといいなぁって思ってんでしょ?」
「っ! げふっげふっ!」
 図星を突かれ、紅茶を気管に入れてしまいむせる咬。
「だからやめときなさいって言ったのよ」
「っ ふぅ……、で そいつはどういうことなんだ?」
 なんとか喉にひっかかった紅茶をやりすごした後、そうやって再度問う咬。本人を目の前に「この子彼女にしたいと思ってないか?」と言う会話をしている辺り、なんともなおざり感がする二人である。
「まあ……ちょっとね」
 言うのを憚られると、自分が咬にシェリーのことを止めている理由を、後で教えようと気を回した姫様だったが、
「気使ってくれてんのはサンキューだけどスタン。問題ないわよ、シェリー別にそう言われたり引かれたりしても気にしないから」
 なんでかシェリーの姉であるジュリーに、本人の前でその憚られる理由を話してしまってもいいと言う許しが出た。シェリー本人は、特になにかリアクションするわけでもない、本当に言われても問題ないらしい。
「いや、あたし的にはちょっとね。だからビール、後で言うわ」
「ん、ああ わかった。ところでジュリー」
「ん?」
「お前さんの良心とんでもないお人よしだな。いくら従姉の頼みだからって、なんの連絡もなしに、いきなり泊めてくれなんて 大概はOK出ないだろう?」
 「まあね」と苦笑して、ジュリーは話を続ける。
「うちの親、プローズ一家のことはまるっと信じてるから。あたしもちょっと警戒しなさすぎだとは思うんだけどね」
「だよな。スタンの親があんな人のいい人でよかったと思うぜ」
 国の王と王妃を指しているとは到底思えない答えである。
「そして、なんでこんなフリーダムな娘が出来上がったのか。まるでわからん、いぎゃっ!」
「ひとこと余計なのよビールは」
「いってって。こんのぉ、さらりと人の左頬に拳を叩き込むな……」
「あ、あの……大丈夫ですか? 少し腫れてますけど」
 軽く腫れ上がった咬の頬を見て心配そうに、シェリーが初めてまともな言葉を発する。
「ん。ああ こんなんいつものことだ、とはいえ……いてえもんはいてえけどな」
 苦笑して言う咬に頷くと、シェリーはなにも言わず部屋から出て行ってしまう。
「……なにに頷いたんだ?」
 シェリーがいなくなって最初に口を開いたのは、左手で腫れた頬を押さえる咬。
「濡れタオルでも持って来るつもりなのよ。さてスタン、話すなら今のうちよ」
 ジュリーは咬の言葉に答えつつ、スタンにさきほどの話の続きを促す。
「そうね。んじゃビール うさぎ オーディー、よく聞いてなさいよ」
 ものすごく真剣な声色で、姫様は三人の注意を自分に向けさせる。
「シェリーは重度のシスコンなの。だから姉様命で姉様以外の人に恋愛感情は持たない。まああれは憧れと恋愛感情がごっちゃになってる感じだけど」
「な……なるほど……」
「それでスタンは止めてたのね」
「ほんまでっか?」
 納得する二人と疑問を発する一体。ジュリーはその疑問に頷くとひとこと。
「そのとおり。いつも夜はあたしに身を寄せて寝るし、たまにオイタもしてくるし。おかげでこっちまで変な性癖に目覚めそうになるわよ」
 やれやれと、軽い調子で言うジュリー。そこで背後から声がする。
「……姉様、わたしのこと……嫌いですか?」
 今にも泣き出しそうな声。それは間違いなくシェリーの物である。
「嫌いってわけじゃないわよ。ただ、一緒に寝てる時にオイタするのはやめてくれない?」
 それまでより少し優しく言うジュリー。
「だって……姉様といっしょに寝ていると、たまになんか 無性に姉様に触れたくなっちゃうんですもの……しかたないじゃないですか」
 濡れタオルを持ったままで、そうやって恥らうシェリー。どうやら力が入ってしまったようで、少し多めに水分を含ませていたらしいタオルから水分が絞り出て床をぬらした。
「あっ、い いけない……」
 自分のやってしまったことに慌てるシェリーは、その濡れタオルを「あの、使ってください」と水のまだ滴っている状態で咬に渡す。無論ティーカップに水が入らないようにして。
「あ、どうも」
 受け取ると多少扱いに苦慮しつつも、どうにか腫れている部分に当てることで応急処置とした。それを確認すると、シェリーは再び部屋前から走り去った。
「ね、わかったでしょこれで」
 ジュリーの言葉に、オーディーを含めたシェリーの性癖を知らなかった二人は深く頷いた。
「触れたくなったんなら手握るとかにすれば可愛げもあるでしょうに」
 姫様は、軽い溜息を交えつつ言う。
「いや〜それがね。前はスタンの言うとおり、手を握る程度だったのよ。最近なの、胸やらこうエロいパーツばっかり集中攻撃するようになったのは……性への目覚めって奴なのかしらねぇ」
「ものすごい感慨深い感じで言ってるけど、ジュリーもジュリーで変態に片足入れてないか?」
 困ったように言う咬に、ジュリーは「え? そうなの?」と驚いている。
「だってお前、そのオイタやらせっぱなしなんだろ?」
「いやいや、止めてるわよちゃんと」
「けど姉様の止める時の声、すごくつやっぽいですよ」
 と、さりげなくシェリーが会話に入ってくる。その時の情景を思い出しているのか、彼女の頬は紅潮している。
「ほれみろ」
 肩をすくめて言う咬。ジュリーは「そうなのかなぁ?」と本気で考え込んでいたりする。
「じゃああれだ。俺がその現場を確かめてだなぁ……な、なんすか? ものっすごいじとめが六つばっかし俺を見てるんですけど……」
「「「なにを期待してるこの阿呆っ!!」」」
 そうして咬は再び、今度は姫様 ホワイト ジュリーの同時攻撃を喰らうことになったのだった。
 
 ーー 本編後の雑談 ーー
スタン「話が先に進まないわねぇ」
ぷちミント「進みませんね……」
オーディー「……空気や。わい、ほんまに空気や……」
ホワイト「まあまあまあオーディー、そんなに絶望しないで。ね ね」
咬「なあ、俺ボッコエンド いい加減やめてくれないか?」
ぷちミント「むぅ、こればっかりはインスピルエエションで書いてるもんだからなぁ……」
咬「なにゆえに巻き舌?」
スタン「次の話は、いいかげんアチラヘンを出発したいもんだけど その辺どう?」
ぷちミント「いいかげんって、……まあ丸々二話分いたんだから、文章量としてはそれなりにいたことになるのか?」
スタン「いつまでもハンマー家でのやりとりばっかしやってても冗長になるだけでしょう。サクサク進めないと」
ぷちミント「あいたたなところを……」
ホワイト「スタンの言うとおりね。一応旅の目的もあるわけだし、そんな長期にわたる話でもないんだから ある程度掻い摘まないと」
ぷちミント「むぅ、手厳しいなぁ……」
咬「後は俺の仲間にボッコられるって言う立ち位置な」
ぷちミント「だーから言ってるじゃないか。そこはインスピルエエエションで書いてるからわからないって」
咬「……そうかよちくしょうめ」
オーディー「てえことは、わいの出番も?」
ぷちミント「そうなります」
オーディー「はぁ、わい……このまま空気で終わるんやろなぁ……いじいじ」
ホワイト「あらら、オーディーいじけちゃった」
ぷちミント「ま まあ、そんなこんなで次の話まで。SARAVAっ!」
スタン「あ、逃げた」
次、行ってみますか
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