いったん自室に戻ろうと居間を通ると、炬燵でつっぷして今にも寝そうなるなちゃんが炬燵から出て来た。
「ついてってもいい?」
 一瞬驚いたけど、かまわないことを伝えてぼくは自室に向かう。
「その手紙と箱。もっかしてチョコ?」
 姉さんみたいに茶化すつもりだろう、るなちゃんはにやにやしてる。
「そうだよ」
 無造作に机に置いておいた、麻瑠さんからもらったチョコの箱から例の紙を取り出す。姉さんにああは言ったものの、ぼくも麻瑠さんからチョコをもらってすぐ食べてたりする……人のことは言えなかったぼくでした。
「きざむくんもてるなぁ〜このこのぉ〜」
 ものすごく楽しそうにぼくを突っついてからかうるなちゃん、そんなことないと笑いながら言うぼく。
「で? その紙ってやっぱし告白文?」
 例の手紙を指して聞いてくるるなちゃん、興味津々だ。正直これにはどう答えていいものか、考えることたぶん位置秒くらい。
「まあ……ある意味ね」
 ぼくの歯切れの悪い答えに、「ん?」と不思議そうにぼくの顔を下から覗き込むるなちゃん。
 まさか果たし状だとも言えず、その手紙を持ったまま姉さんの部屋に足を向ける。勿論のことるなちゃんもいっしょだ。
「お? るなちゃんも来たんだ」
 再度の姉さん部屋への訪問。るなちゃんがいることに少し意外そうな姉さんは、そうやってぼくらを出迎える。
「ねーねー、マンがみして〜」
「うん、いいよ。ちょうど少し前に読み終えたのあるから見る?」
「うん!」
 元気いっぱいに頷くるなちゃんに、姉さんは微笑んで自分の机においておいた漫画を渡す。なるほど、るなちゃんの目的は姉さん部屋の漫画だったのか。
「わー、ありがとー」
 読み終えたばっかりなのが嬉しかったのか、パーッと笑顔になって姉さんに礼を言うるなちゃん。
「丁寧に扱ってね」
 満足げに数度頷いてからそれだけを言うと、姉さんはぼくに視線を移す。
「さて、戻って来たってことは手紙の件よね?」
 わかっている、と言う姉さんの表情にぼくも頷いて返しつつ、麻瑠さんからの手紙を見せる。
「なるほど。妹ちゃんらしい文章だわ」
 さっと目を通して姉さんは頷きながら納得する。
「で、姉さんの方はどんなのだったの?」
「しっかりしてるわよ。ほれ」
「あの……胸の谷間にそんなの挟まないでよ……」
「ん? そんなのって、ならどんなのは挟んでもいいの?」
「たっ、楽しげに変なこと聞かないで」
 体中がかーっと熱くなるのを感じた。そしたら赤くなったぼくを見て姉さん大爆笑……この姉は。
 るなちゃん今の会話聞いてなかったかなぁ? 見てみたら漫画に夢中でこっちのことは目にも耳にも入ってないみたい。よかったぁ。
 で、手紙を読んで見ると、明らかに姉さんをピンポイントで狙った内容だった。
「こっちと内容が違うよね」
 読み終えて手紙を返しつつのぼくの感想。それに「そうだね」と考えるようなしぐさの姉さん。
「はてさて、これはおやじに見せるべきか否か……見せなくてもいいな」
「ちょ え えぇっ?!」
 勝手に自己完結してしまった姉さんに面食らってしまった。
「なに驚いてんの気障夢」
「だ、だって。答え聞きそうな言い方したのに……」
 まだ動揺してるぼくに、「答えは聞いてない、って奴だよ」ってニッと楽しげな笑みを向けてくる姉さん。
「な……なんだかなぁもぉ……」
 そうして深く息を吐く。そういえばページをめくる音がしないなぁと思ったら、るなちゃんはぼくらのやりとりを少しぼんやーりとした表情で見ていた。つっぷしたあの僅かな時間に寝でもしたのかなぁ? だとしたら器用だなるなちゃん。
 
 食事時。羽子先輩たちのおうちはごく普通の食事風景だったのかもしれませんが、わたしたちマルー一族こと王白家はそうじゃありませんでした。
「おっぱい。どうだったんだ? 思い人に告白はできたのかよ?」
 いきなり恥ずかしい名前 ーー 本名なのがとっってええもいやですけど ーー でそんな話を切り出したのが、兄弟のうちの一人座敷丸(ざしきまる)、わたしと同い年です。
 食べてた煮っ転がしが変なところに入っちゃってむせました。よかった飲み込む直前で、口に入れたばっかりだったら命にかかわってました。
「けふっ けふっ……も、もぉ。いきなり変なこと聞かないで けふ けふ。それとわたしのことは円って呼んでって言ってるでしょう?」
 うちの男家族は、殆どの人がわたしを含めた女家族を本名でしか呼びません。恥ずかしいからやめてって言うのにぜんぜん聞きません、だから央丸がわたしたちのこと恥ずかしい名前で呼ぶんです まったく。
「で、どうだったの?」
 改めてわたしに答えを促すのは、唯一のお姉ちゃんの霖(りん)。
「手紙渡したところで、その……勢いで言っちゃったの。でも、先輩はちゃんと思い受け取ってくれたって言ってた」
「よかったじゃない」
 わたしのことなのに、にこにこ嬉しそうに喜んでくれるお姉ちゃん。男家族と違ってわたしのことは円って呼んでくれるし、こうやってからかうでもなく接してくれるからお姉ちゃん 好きなんですよ。
「さて、こっからどう確変するかねぇ?」
「パチンコじゃないんだから、進展って言いなさいよ極武丸(きょくぶまる)」
 軽く喉にチョップで弟に突っ込みを入れるお姉ちゃん。弟の極武丸は「あぐえっ!」って痛そうです。この極武丸、男家族からいつも丸出しって呼ばれてます。
「んで、そういう丸出しは浮いた話はねぇのかよ?」
 どうも座敷丸、色恋沙汰に興味があるらしくって やたらとコイバナをこうやってみんなに振ります。
「浮いた話どころか、女子からさけられてるよ。なんでかねぇ?」
「名前のせいでしょ?」
 冷ややかにお姉ちゃん、言って味噌汁飲みました。
「なんでだ? 極武丸って変な名前か?」
「変でしょうが「変だよ」「変」
 姉妹揃っちゃいました。男家族ってみんな本名で外出るから外で会いたくないんですよね、どうして偽名使わないんだろう?
「学校でもあだなが丸出し」
 麻瑠がそうひとこと補足を。それじゃ女子からさけられて当然です。
「そりゃ女子からさけられるのは当然じゃない。局部って言うだけでも恥ずかしいのに、あだなが丸出しだなんて……名前は勿論あだなすら呼びたくないわよ 普通」
「そうなのか」
 目を伏せて溜息のお姉ちゃん。わたしも溜息しか出ません、麻瑠もそうみたい。
「そんなこと言ってる凛」
 そこで一瞬間が開くと、兄弟全員が「月っっ!!」と叫びでハモります。食事時にお姉ちゃんの名前を呼ぶと必ずこうなります、うるさくてしかたありません。
「姉はどうなんだよ?」
 兄弟たちに続けて、まったく違和感なく続きを話す座敷丸も、やっぱりちょっと変な子です。
 そう言うわけで、お姉ちゃんの本名は凛月(りんげつ)です。本当にお父さんのネーミングセンスはどうなってるんでしょうか……、マルー一族のしきたりにかこつけて変な名前つけて楽しんでるんじゃないのかなぁ?
 よくお母さんが愛想尽かさないなって思います。それで、そんな名前で呼ばれたお姉ちゃんは、
「貴様ら……その名であたしを呼ぶなと言ってるだろうがぁっ!!」
 座敷丸以外の兄弟全員にチョップでおしおきします、それも次から次にまるでワープしてるんじゃないかって思うような速さで。
 するとあっちこっちから「未練だぜ」とか「ごしゃ!」とか「山岡さん!」とか「わらえよ……」とか変な悲鳴が聞こえてきます。山岡さんって誰なんでしょう?
「まあ、あたしも浮いた話はないわね」
 そんな超人パワーを披露したお姉ちゃんですが、自分の席に座りなおすとさっきの座敷丸みたいに不通に質問に答えてます。そうして味噌汁を飲み終えました。
「そっかぁ、なーんだ」
 心底面白くなさそうな座敷丸。変な人ばっかりの王白家ですけど、わたし 麻瑠 座敷丸 お姉ちゃんの四人はまともです。少なくとも他の兄弟よりはまともです。
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