先輩たちと別れた後、わたしたち王白姉妹括弧偽名括弧閉じは他愛のない話をしながらうちに帰っています。
って言っても妹の麻瑠 ーー これも偽名なんですけどね ーー は口数が少ないので、わたしの話にも「うん」とか「そう」とかの返事しかしてくれないので話が盛り上がらなくて困ります。悪い子じゃないんですけど。
「円、どうして理由 話せなかったの?」
不意に麻瑠から切り出されたのは、妙な伝言を愛しの先輩 ーー じ、自分で言ってて恥ずかしいです…… ーー 有由羽子さんに渡した時、伝言についてまるで触れられなかったことについてです。
「それは その……」
さっきのことが思い出されて思わず顔が真っ赤になっちゃいました。
拳の件も含めて、恥ずかしかったなぁ……。
それにしても……は〜あ、どうしてあの時勢いで言っちゃったんだろう……わたしのバカ、もっとしっかり伝えたかったのに。
「……大体わかった」
わたしの表情を見て、麻瑠がそう頷きます。
「そ、それで。麻瑠は理由話したの?」
本当にわたしの心の中まで分かられた気がして、思わずどもっちゃいました。
「うん。しきたりって答えた」
きっとわたしの時と同じように、羽子先輩の弟さんたちも「なに、これ?」ってリアクションをしたんだと思います。
「そっか……そういえばよかったんだよね」
妹の言葉で気づかされました、でもわたし元々マルー一族のしきたりとか重要視してないんですよ。戦うとかそう言うこといやですし。
それにあの時は弾みで告白しちゃって、マルー一族のしきたりがどうとかそんなこと考えてる余裕なかったんですよね。変な手紙でごめんなさいって気持ちしかなくって。
今度はちゃんと告白しないと……でも、でも……いつそんな機会があるんだろう?
そんなことを考えてたら、昔人払いのために作られたらしい わたしたちマルー一族の土地に入るための、少し大きめの橋に付きました。
わたしたちマルー一族は、どうもご先祖様が宇宙人だったとかで、地球の人から離れて暮らしていたそうなんです。
なんでもわたしたちのご先祖様は、闘争していないと禁断症状で その星を更地にするまで戦い続けるようになってしまうと言う、なんとも野蛮で恐ろしい人だったと聞いています。
それが祟ってこの宇宙中で残っているマルー一族は、わたしたちの血縁だけなんだと言う話です。そう言ったわけで、集落をこうやって隔離したところに作って、自分たちだけで加減しながら戦うことで全滅を免れたそうなんです。
そんな種族保存の抗争のころから、もう長い年月が経っています。今マルー一族の名残があるとすれば、やたらと耐久力があることと力のコントロールが容易なこと。そしてその力の幅が他の皆さんと比べて、格段に大きいことぐらいでしょうか? あ……後一つ、わたしたちの本名ですね。
この辺りの開発が進んだ今では、わたしたちと他の人たちを隔てるのはこの橋だけです。
「円、喋りすぎ」
「えっ?」
どうやらわたしの皆さんへの説明は、麻瑠に聞かれてしまってたみたいです。橋を歩いて少しして、横から肩をポンポン叩かれながらそう言われちゃいました。
「な……なんで聞こえたの?」
「……ないしょ」
驚いたわたしの質問には、楽しそうに表情をほころばせてのひとことで、そうやってはぐらかされてしまいました。声に出てたのかなぁ?
少し長めの橋を渡りきると、もうわたしたちのうちはすぐそこです。まるでおっきなユーフォーがおいてあるようなたたずまいのわたしたちのうちが正面に見えます。
「ただいま」
玄関のドアを開けてそう声を出すわたしたち。すると、それに答えるように地響きがします。うちの中でもとびっきり変なののお出迎えです。
砂埃を巻き上げながら徐々に近づいて来るそれは、はいはいはいはいと気合の声のような物を発しています。それが徐々に大きくなって、すぐ近くで止まりました。
「おかえるいい、姉ちゃんたち」
よつんばいでわたしたちを見上げるそれは、どう見ても赤ちゃんです。でも 今声を、それもとても特徴的な声を発したのもよつんばいのそれでした。
「あの……ね、央丸(おまる)。いつも言ってるけど、這排(はいはい)で移動するの やめて」
わたしが諭すように言いますが 当の本人はそれがいけないこととはまるで思ってないんです。あんなに埃を巻き上げちゃお掃除が大変だって言うのに、この子はぜんぜんわかってくれないんです。
それに這排は床を抉りながら進むので、家中がわだちみたいな痕跡でいっぱいなんです。
「なんでだいよう、おれあーこれしか移動手段を、しるああねええんだけっどもよ」
央丸の今まで普通だった目が、あからさまにいらいらした感じになってます。どうもわたしは口うるさいお姉ちゃんと言うことで、あんまり好かれてないみたいなんです。
「普通のはいはいで来ればいいじゃない。あの埃、お掃除するの大変なんだから」
わたしの説明を、この央丸は意にも介してくれません。
「赤ん坊がぁ動くのに、なんどぅえわずあわずあ、気を使わなきやあなるあねえんだい?」
赤ちゃんの姿でありながら、こんなに言葉が堪能だって言うのに 央丸は都合の悪い時だけ赤ちゃんであることを利用します。これにはわたし、いつも困ってます。
この子……おこらせると大変だから、わたし あまり強く言えないんですよね。お姉ちゃん失格かなぁ……。
「央丸」
そこで一歩前に踏み出して、麻瑠が央丸をキッと見下ろしました。この迫力はわたしにはまねできないなぁ。
「な、なんだいよう?」
流石の央丸も、麻瑠の迫力にたじたじです。
「お姉ちゃんの言うことは聞く」
ぴしゃりと言います。こう言う時、口数が少ないとかえって効果は大きいようで、央丸も迫力を失いました。
「これからは……気をつけるぜ。値久美(ちくび)姉ちゃん……」
マルー一族の特徴、それは……名前がとても恥ずかしいこと。わたしは先輩のメッセージカードにも書かれてたとおり、そ その……お おっぱいですし、妹なんて今聞いたとおり……ちくび です。解説するのも恥ずかしい……。
だからわたしたちは、外に出る時のみならず うちの中でも王白円と王白麻瑠としてすごしています。そんなわけで、
「その名前で……」
言いながら麻瑠は一歩、右足を後ろに下げました。そして、
「わたしを呼ばない!」
鋭い右足でのキックが、ちょうど顔を上げている格好の央丸のおでこに命中。央丸は「ぶるああああああああああぃっっ!!」とこの声を象徴するような特徴的な叫び声を挙げて、家の奥の方に吹っ飛んで行きました。それも縦回転しながら。
「……いこ」
明らかに不機嫌な麻瑠に答えて頷くと、わたしたちは家の中に入ります。さっきも言いましたけどうちの中は、央丸が動く時はほぼ常に這排と言う高速はいはいの移動技で動いているため、深い溝みたいな物がそこかしこにできていて歩きにくいったらないです。
溝に足を取られて転んだことなんて、いったい何度あったことか……だから、うちの中を歩くだけなのに妙に緊張するんです。
「改装しても改装してもこれだもんね。央丸専用の移動レーン作った方がいいんじゃないのかなぁ?」
床のわだちのような溝を見て溜息をついてから、わたしは何度目になるかわからないことを言いました。それに頷いた麻瑠は、「なんとかしないと火の車」と肩を落としてます。本当に央丸には困ったものです。
続きがありますぜ
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