「転校するのいやだったけど、それってわがままだよね」
 赤根は新しい自分の部屋で荷物を整理しながらそんなことを呟いた。
 父親は自然に囲まれた田舎で暮らすのが夢で、念願かなうことが出来この町に引っ越して来た。
 転校して成績が下がったとなると、赤根的に物言わぬ反対をしているような気がしていやなので、自身の心情の変化を成績に影響させないように頑張ろうと決意した。
 決意を固めたのとほぼ同時に、一階から母親が夕食が出来たと声をかけてきたので、赤根はそれに返事しつつ階下へ向かった。
 メニューはカップラーメンだ。まだ引っ越したばかりで、ちゃんとした料理を作る準備ができていないのでしかたがない。
 が桜井家は、重度のラーメン好きなので問題はない。どれぐらい好きかと言うと、おいしいと聞けば全国どこへでも行ってしまうほどだ。
 ラーメン特集をしている雑誌など見ようものなら表紙買い、そして特集記事を切り取って収集している。当然ながら特集記事以外に興味はないので、廃品回収に出してしまうのである。
 雑誌を残しておかないところは無駄なスペースを雑誌に占拠される心配がないので感心物だが、結局記事収集の数が半端ではないので同じような物であった。
 そういうことも手伝ってか、赤根は家族といっしょにいるのが好きだ。以前クラスメイトと話した時、他の人がうざいと言っていたが赤根はそれが不思議でしかたなかった。
 勿論赤根の答えは大好きである、笑顔でそう答えた彼女にクラスメイトは逆に不思議そうだった。食事を一人で食べたり、夜中まで遊んでいると一緒に住んでいるだけの関係になってしまうと言うのが赤根の自論だ。
「明日から学校だな」
 食事を始めて間も無く、 不意にかけられた父の言葉に赤根はうんと答える。
「魔法学園って言うのよ、学校の名前」
 母のありえない言葉に赤根は驚いた、まるで魔法使いの学校みたいな名前だからだ。
「ほんとに魔法使いがいたりして」
 そう冗談を返した赤根に、父はすかさず「そんなわけないだろ」と笑いながら答える。
 それに同じく赤根は「そうだよね」と笑う。
 それにつられるように家族三人は暖かい笑いに包まれた。・
 
 翌日赤根は魔法学園に登校した。怪しげな名前の学校だが、今のところそれに沿った現象は起きていない。
 近所には科学学園と言う、これまた怪しげな名前の学校が見えた。いったいこの町はなんなんだろうかと赤根は怪訝である。
 廊下で赤根のクラス担任車田に逢ったので、そのまま彼女に続いて教室に向かった。
「今日は転校生がいるぞ」
 男口調で話す車田、それが絵になってしまう彼女は、170の長身で肩甲骨まで伸びた黒く光るきれいな髪が印象的だ。
 口調のおかげで、綺麗と言うよりかっこいい印象を赤根は受けた。
「さあ名乗るがいい!」
 車田のテンションの変わりように少々驚きつつ、赤根は無難な自己紹介をした。
「桜井赤根です よろしくお願いします」
 と軽く会釈をした。すると後ろに座っていた 金髪のロン毛でバラを咥えた男子が急に立ち上がりこういった。
「好きだー!」
「えーっ!?」
 赤根はこけた、ありえないことをされたので、ギャグマンガよろしくずっこけた。
 続けて縦ロール金髪でフリフリの服を着た女子が叫ぶように言った。
「オーホッホッホッホ! あなたこのわたしと円城寺様の間に割ってはいろうたって、ちくわの穴ほどの隙間もないわよ!」
 その女子に答えるように、金髪の男子が今度は。
「お前は黙っていろ、俺はめっちゃラブやねん」
「なんで最後関西弁?。って、飛んできてるしーっ!!」
 赤根の突っ込みをまったく無視して、いきなりすっ飛んで来たパツキンロンゲを反射的にカバンで打ち返した。
「I!LOVE!YOU!!」
 とかのたまいながら、ロンゲは天井を突き破り、やはりギャグマンガよろしく星になった。
 するとまた金髪縦ロール女が。
「円城寺様に何するのよ!!」
 当然ながら赤根は言い返した。
「あの変人が飛んできたから打ち返したんでしょ?」
 赤根はだんだん頭が痛くなってきた。この怪しげな名前の学校、やはり普通ではなさそうだと彼女は思わざるをえない。
「恋とは必ずしもうまくいくものじゃない。だからおもしろいんだ」
「なんで?!」
 さっき打ってギャグマンガのように星になったはずの、パツキン変態は教室にいた。
 車田はこの段階でやっと口を開く。
「桜井。お前にこれをやろう」
 重くてでかい銃のようなものを渡された、赤根は騒ぎのことはおいといて質問する。
「なんですか? これ」
 ニコニコしながら車田は答えた。
「火炎放射器だ」
「笑顔でこんなもの渡さないで下さい」
「愛は勝つって言うだろ」
「ぜんぜん脈絡ないです」
 教師にまで電波な言動をされて、頭がリアルに痛くなりかけていると、いきなりパツキンヘンタイは高笑いをし出した そして。
「ならば俺は必ず勝つ! 赤根君に対する愛は誰にも負けない!」
「うるさいっ!!」
 パツキンヘンタイがあまりにも不気味なので、赤根は車田から強制的にGive Meされた火炎放射器を、容赦なくぶっ放した。
「汚物は消毒だあああ!!」
「アベシ!」
 そんな台詞を吐きながら、瞬時に電波一号は黒焦げになった。
 電波一号 ーー おそらく円城寺と言う名前と思われる彼奴(きゃつ) ーー のところへ、さきほどの金髪縦ロール女が近づきなにかをしようとした。
 が、しかとして彼奴は意識がなくなる前に、
「おせちもいいけどカレーもね」
 と言い放ち気絶した。赤根はそんな黒焦げに。
「意味わっかんないよ!!」
 ものすごい突っ込み魂をもった16歳である。すると?
「早くとどめ刺しちゃえ。いや、殺れ! 殺ってしまえ♪」
「先生が言わないでください……」
 へらへらと笑いながら車田はまだいう。
「円城寺ってむかつくじゃん。あ、円城寺ってのはあれの名前ね。なんかむかつくから適当にどついていいんだよ、ぜんぜん気にしないし」
「気にしてないのは誰ですか?! あいつ? それとも先生?」
「ん? ああ、当然俺。円城寺ももっぱつ喰らった程度じゃくたばらないから、ほらもっぱつもっぱつ♪」
「(……ほんとに人間か? 先生もあれも……)」
 最早円城寺を車田含めて「あれ」扱いである。それにしても教育委員会は、こんな教師と学校を放置しておいてもいいのかと、赤根は思った。
 そんなことを考えている間に、もう黒こげが復活し動き出した。目を見開いて、「え!?」と濁点がつくほど驚いた赤根。と、そこに一言「いい加減にしろよ……」と言う控えめな男子の声がした。
 車田はその男子をからかう。
「倉井? ほんとにお前はマジメだなぁ。もうちょっと放置しときゃいいのに。まさか桜井にほれたのか?」
 そう言われた倉井は、顔を赤らめて俯き黙り込んでしまった。それを見て車田は楽しげに赤根に「もてるなぁ桜井〜。と言う。
 苦笑を返した赤根。正直変人しかいないと思っていたところの倉井の登場は、赤根に円城寺に対してとは違った驚きを与えた。
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