タイ・ビルマ(現ミャンマー)国境地帯を行く I メーホンソン県北部

 

1227日、早朝、チェンマイを出発、片道二車線の主要国道107号を北にメーテーンへ。そこから国道1095号に入ってパイ、メーホンソン方面に向かうと、対向二車線になった道は山にかかる。高度を増すと霧がかかり、それを抜けると折り重なる峰々の間に雲海が広がる。尾根筋を走ると松林もあり、爽やかな風に松の香りがある。

 

       

雲海の道                                                                                    雲海

 

下りになるとパイの町が近い。温泉の表示に惹かれ脇道に入ると、数キロで温泉が湧出している。山間の谷に白煙がかかり、湧出点では80℃以上ありそう。卵もゆでられる。入浴施設は無く、湧泉が小川になって少し下るあたりに水を溜め、足を浸ける程度。

 

             

パイ温泉湧出点                                                                          温泉にて

 

パイの町を過ぎ山地が続く。見晴らしの良い峠があり、山地民が土産物を売っている。前方、メーホンソン方向には、花崗岩質の山並みに松や照葉樹の生える西日本と似た風景がある。

 

       

峠からメーホンソン方向を望む                                                 峠の土産物

 

パンマパを過ぎたところで、山間の脇道に入ってみる。ほんの少しで山地民の村があり、学校兼教会のような建物。子供に聞くとラフ族だと言う。その先に道が無く国道に戻る。

少し先で、今度は警察のチェックポイントがある舗装された国道1226号らしい脇道に入る。十数キロ地点まで舗装が在り、途中アカ族らしい村などを過ぎる。その他、両側に村の表示があり、それぞれ更に脇道に入れば山地民の村に至るようだが、今回は国境を目指して本道を進む。タイ軍の兵舎に監視所のような施設を過ぎると、突然立派に舗装された区間が現われたりする。

 

        

ラフ村                                                                                        別の村、衛星アンテナとソーラー発電

 

尾根筋の先にやや立派そうな集落が見える。入って見ると村の入口までは車一台分コンクリート舗装があるが、その先は歩くしかない。住民の顔付きを見ると中国人のような顔もあるが、入口あたりの家屋は山地民風のもの。もう一段下に見える集落の建物が、やや立派な土間式の家屋で中国系の村かと推量するが道がきついので見送る。

本道に戻って少し走るとタイ軍のチェックポイントがあり、ここから先は進めないと言われる。兵士によれば国境は十キロばかり先とのこと。この地点は何と言うところか尋ねると、パーぺックとの返事だが地図によればそれはもっと西になる。このポイントあたりの道路は整備されている。

 

             

立派そうな集落                                                                          舗装道路が現われ前方の峠の先にタイ軍

 

道を折り返し、国道1095号に戻る少し手前で東側に下るとやや大きなシャンの集落、バン・メーラナ。水田に囲まれ、立派なシャン寺院もある。村で遅い昼食を食べる。壁にはシャン州の旗印とSSA(シャン州軍)のヨッ・セーク司令官が写ったカレンダーがある。そこに居た人間に聞くと、この村はかなり古いタイ・ヤイ(シャン)の村だが、村内には最近移住して来た者もいるとのこと。焼き飯(カオパット)を食べたが、やや切れ味が不足。

お寺に寄ると、小坊主が数人。奥から現われた僧がお茶を勧めてくれ、少し話す。実はバンコクで、ひと月ほど前にこのあたりの山地民村をまわったという知人から、シャンのお寺で話し好きな僧が居たと聞いたが、この方のことかと納得する。

 

             

メーラナ村、中央にシャン寺院                                                 メーラナ村に入る

 

国道1095号に戻って、メーホンソン方向に走ると、尾根筋に走る道路の右手に谷を挟んだ山並みが綺麗なポイントがある。1945年、ビルマ戦線から敗走してタイ領に入りチェンマイまで悲惨な撤退を行なった旧日本軍関係者の地図に、「蓬莱峡」とあったのはこのあたりかとも思う。

日暮れにメーホンソン着、湖に面したお寺の傍のゲストハウスを訪ねると、ちょうどエアコンのついた部屋がひとつ空いていると言う。これは幸運かと泊まったが、12月のメーホンソンは寒く、夜中に目が覚め、服を重ね着して寝ることになった。

メインストリートを歩いて、タイ・ヤイ(シャン)らしい食べ物があるか尋ねると、勧められたのは、銀行の前庭にござを敷き詰め折りたたみ机を並べた一画。まわりに米麺のカノムチーン(或いはカノムセーン)や惣菜を売る屋台があり、注文した客は靴を脱いでござの上の机について待つと料理が運ばれてくる。花見の宴のような風景。

 

1228日、朝から高台のお寺に登ってメーホンソンの町を望む。周囲の山には霧がかかり、いかにも高原の町である。滑走路が町の真ん中に在る。

 

             

メーホンソンの寺院                                                                   メーホンソンの町、左上に滑走路

 

昨日来たパイの方向に走り、北に向かう脇道に入る。簡単な地図を見ると、ほぼ真北に向かう道はいくつか山地民の村を通過して、国民党系の村のあたりで国境になるはずである。ところが、狭いが舗装された道を進むとタイ系の水田と果樹園を持った立派な集落ばかりで、やがて最後の集落を過ぎて舗装が切れ、山道を進んでひと山越えると牛の牧場のような施設。その先に再び登りになる道は、雨水の流れた痕が深い溝をいくつか作って小型の四輪駆動では限界に近い様相を示す。これ以上無理かと思うが、轍の痕があるので挑戦した。

何とか悪路を乗り越えて山肌に沿って曲がると、突然タイ軍のチェックポイントがあり、その前には黄色のソンテウ(乗合トラック)が止まっている。タイの国旗が揚がった兵営と小さな小屋があって、その先には木製の車止め。車を降りて、タイ軍の隊長と話すと「国境だ」と言う。この先500メートルが国境線で、その先500メートルにミャンマー軍のポイントがあるとのこと。

小屋では身内が日本に居ると話す兵隊が出入国記録帳のようなものをつけていて、隊長の説明では、元は国境を挟んで村があり、タイ側の村の住民はビルマ(現ミャンマー)側の村まで行き来できるそうだ。そんなことをしゃべっていると、今走って来た悪路をソンテウが一台やって来る!荷台から降りた住民はみんな大きな荷物を背負って、チェックポイントを過ぎる。担いでいるのはガソリンタンクで、タイ側で1リットル15バーツばかりのガソリンが向こうでは40バーツになる。ビルマ(現ミャンマー)からは牛が持ち込まれるそうだ。

 

             

国境ポイント                                                                             ガソリンを担いでビルマ側に向かう住民

 

国境から最初の村まで戻って昼食。道沿いのクイティオは普通の味。住民に村の名を訊くとバン・ファイサイカオとのこと。これも地図には載っていないが、どうやら国道1285号の突き当たりらしい。

 

             

国境に近い村                                                                             牛の群れ

 

             

幹線道路に近い村の堰                                                               幹線道路に近い村の水田

 

国道1095号に戻り数キロで、もう一本北に向かう砂利道がある。警察が居て、何処へ行くか尋ねられるが、山地民の村を見にと答えると、「数キロ先にカレンニーが居て、その先は道が悪いから戻って来るように」とのこと。果して村があり、その先へ少し進むと橋の無い川に当たる。水深は50センチぐらいで流れは速い。が、荷台に数人、人を乗せた小型トラックがやって来て、川を渡って行く。結構速い小型トラックを追って進むと、比較的大きな集落があり、情況から山地民の村と見えるがお寺まである。道はまだ続いており、大型トラックの轍があるから更に進むと、遠くに小規模のタイ系の村が現われ、それを過ぎると道はいよいよ狭い山道になり、軍用トラックが数台止まったタイ軍の兵舎がある。

 

             

お寺のある村                                                                             谷の奥に小村

 

これはもう国境に近いはずだと、それを過ぎると小さな山地民の村を通り、やや立派なタイ系集落に着いた。もうビルマ側ではないかと期待すると、しっかりタイの国旗が揚がっている。村に入ると道路は家並みに途切れ、村の入口に戻ってもうひとつ轍が残る道を進むと、村の水田に出た。数人が作業しており、細い道は村の水田地区を回り込んでその裏の山に続く。とことん行ってみようと、山を登ると道は尾根を越え、次の谷に下る。また登りになって尾根に近いあたりで人の気配があるが、村は見えない。樹木を払って少し開けた高台があり、隣の山並みが見えるので車を止めると、地面にHマーク、仮設ヘリパッドである。さて、ここがどのあたりなのかさっぱりわからない。国道からは二時間近く入っているし、最後の集落からも30分は走っている。時刻は午後四時半に近い。かなり北に来たはずだが、帰りを考えて引き返すことにする。こういう時こそGPSカーナビがあればと思う。

 

       

タイ系の集落                                                                             草を刈ったヘリパッドから

 

さて、陽の落ちる前にと走るが、国道に近い川をジャブジャブと渡るあたりでエンジンの調子がおかしくなった。2000回転以上回すと、止まってしまう。水温その他メーター類に問題はない。とにかく回転が3000に近づくと急に手ごたえが無くなって、ストンと止まる。数十秒待って始動するとかかるが、回転を上げると止まる。

日暮れも近づき、とにかくパイ方向でガソリンスタンドがあるパンマパまで、なんとか2000回転で走らせる。平坦路なら高いギアでまあなんとかなるが、すぐに道はあの景勝ポイントに向かって登りにかかる。ゆっくり走るのも難しいもので、一速の2000回転では時速20キロも出ない。パンマパまでは40キロ、このペースなら二時間!そう思うとついアクセルを踏みたくなり、3000回転に近づいてエンジンが止まる。

これも修行か、それとも50数年前にこの道で難儀をされた兵隊さんの苦労を偲べということかと、心で手を合わせながらソロソロと尾根を超え、下りになってややスピードが上げられ、なんとか六時にパンマパの町に。まず、少なくなったガソリンを入れてからエンジンの様子をチェックしようと、スタンドに入り、店の子が燃料キャップを開こうとすると堅い。力を込めてキャップを開くと、空気を吸い込む大きな音!原因は燃料タンクの通気孔の詰まり。

 

原因がわかったことで一安心、小休止ののちチェンマイ方向に走るが、パイ泊まり。白人バックパッカーやバンコクのミュージシャンとかに近ごろ人気の村だそうで、ゲストハウスは100軒を越すとのこと。一泊200バーツという部屋に決め、村のタイ・ヤイ(シャン)料理のレストランで食事。トマトなども使った柔らかい味付けで、結構いける。

 

翌朝、フランス風の名前の店に入ると、オーナーのフランス人は濃い目のコーヒーを煎れながら「パイでラフティングを始めたのは自分だ」とのこと。十数年前に何もないパイの町に住み始めた世代で、自称「パイの変遷を一番良く知る人物」だった。ちなみに昔から友人のドイツ人は、チェンマイの某有名ゲストハウスのオーナーだそうだ。

 もう勝手のわかった道路を一気にチェンマイへ。正午前にはチェンマイに入る。

 

 

 

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