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roundabout




練習が過酷であると評判の青学男子テニス部にも
他の部の生徒達に比べれば圧倒的に少ないが夏休みが与えられる。
明日から1週間休みが取れると知り、猛暑の中で息も絶え絶えに
なりながらの部活を終えた後でも部室は賑やかだ。
話題はやはり明日から始まる夏休みのこと。







「ねぇ!大石!明日からどこ行こっか?」
早々に着替えを済ませた菊丸が瞳を輝かせて大石を見る。
着替える手を一旦休めて、大石は苦笑しながら遠慮がちに尋ねる。
「英二。遊びに行くのはいいけど、宿題には手をつけてる?」
「うッ…。全然、やってないデス…。」
菊丸からは予想通りの答えが返ってきて大石は更に苦笑を深める。
「俺も手伝うから、少しでも宿題終わらせてから遊びに行こう。…な?」
「手伝ってくれんの?!マジ?やったー!!」
「え、英二…着替えられないよ。」
暑苦しいまでの大石と菊丸の仲睦まじさには敢えて目を向けず、
他の部員達も自分達の明日からの予定に話の花を咲かせている。










「手塚。君はどうするの?」
隣で黙々と着替えている手塚に不二は尋ねてみる。
浮かれている部室の雰囲気など全く意に介していないのは
手塚と不二くらいのものだろうか。

至って普段どおりの様子で手塚は着替える手を休ませることもなく
「かねてから予定していたハイキングコースに行くつもりだが。」
と心地よい低い声で簡潔に答える。
「そっか。」




ここでこの話題は呆気なく終了するのもいつもの事である。













帰る支度を済ませて、いつの間にか二人で帰るようになって
いつの間にか仄かな恋心を抱くようになって。
想いが言葉にならずにもどかしい日々を過ごすようになって随分経つ。






そして今日もいつものように手塚と不二は共に帰路を辿る。
大抵、沈黙の中で唐突に話を振るのは不二で、手塚が二言三言の
相槌を打って再び沈黙…の繰り返しだが
この日も例に漏れず、不二が口を開く。






「僕もついていったら邪魔かな?」
「……?」
一体何の話かと手塚は怪訝そうに眉をひそめて
隣を歩く不二を見ると、ああそういえば…と先刻のやりとりを思い出す。
「いや。別に邪魔にはならない。」
こう答えることで了承の意を示す。







「安心して。僕は英二みたいに宿題を
   君に手伝ってもらおうと思ってる訳じゃないから。」
不二が菊丸の狼狽振りを思い出してクス、と笑う。
「そんな心配はしていない。
    どうせ、お前のことだ。殆ど片付いているだろう。」
手塚にはどうしても最後まで慌てて夏休みの宿題に
取り組んでいる不二の姿が思い浮かばない。
「んー、まぁ…そうだね。そういう君も終わらせてるんじゃない?」
不二は何故か歯切れの悪い肯定と、同じ質問を返す。

不二にも手塚が夏休みの宿題に追われている姿など思い浮かばないのである。
当然だ、と返ってくるだろうと予想していたが、手塚も何故か歯切れが悪い。
「…ああ、そう…だな。」

互いに歯切れの悪い肯定を疑問に思いながらも話は二人で出かける算段へ。
一通り話し合いが済んで帰宅したのはいつもよりも遅い時間だった。
歩調を緩めて、更には遠回りをしていた為、帰宅が
遅くなったのは当然なのだが二人は全く自覚が無い。








それぞれの家に帰った後、これはちょっとしたデートではないかと
妙に胸を高鳴らせていたところも
次の日の朝には変な期待をかけるなと自戒して明日に控えた
ハイキングの用意をしたところまでもが
全く同じ手塚と不二だが、互いに相手がそんな葛藤を
していたなど夢にも思っていない。













「うーん、思ってたより涼しいね!」
持ち前の軽い身のこなしで難なく手塚の後をついていく不二が
素直な感想を述べる。
不二の言葉に同意する代わりに手塚はリュックサックの中から
何かを取り出して、不二に向かって放った。
「ん……?」
器用に受け止めて不二は何かと見てみると、それは日焼け止めだった。
「塗っておけ。確かに上に登れば涼しくなるが、紫外線は強くなる。」





山を登り始めれば木陰や標高の関係で涼しくなるが、
それに比例するように紫外線の放射が強くなる。
涼しいからといって油断していると身体中が灼かれるような痛みに苛まれる。
それを案じて手塚は不二に日焼け止めを渡したのである。

塗り終えるまでは休憩にしようということで、手塚は荷物を降ろして
近くにあった切り株に腰掛ける。
不二はその切り株に手塚と背中合わせになるように座って、
露出している肌に日焼け止めを塗りつけていく。

「ありがとう。」
「いや…。前の日に言っておけば良かったのだが。」
特にお前は肌が白いから紫外線には気をつけた方がいい、と
手塚は口早に忠告をくれる。
声音はいつもと変わらないのだが、どうやら照れているのだと知る。
不二はさり気ない手塚の優しさが嬉しくて、ふと頬が緩む。
「うん。そうだね、気をつけるよ。」













「でもさ、手塚。たまの休みぐらいは家で
    ゆっくり休もうとか思わないの?」
日々、過酷な練習をこなして疲弊した身体を家でゆっくりと
休ませたいとは思わないのだろうか、と不二はふと浮かんだ疑問を口にする。
「家にいるだけだと暑いからな。」
「あれ?君の家ってクーラー無かったっけ?」
確かあったと思ったけれど、という意味合いを込めて尋ねてみれば
「ああ、ある。だが、空調に頼るのは好きじゃない。」
「なるほど。君らしいね。」
と微笑む不二に手塚はああ、と曖昧な頷きで応じる。

この時は気付かなかったが、手塚は左腕の違和感を感じていて
空調で腕や肩を冷やすことを恐れていたのだと
不二は後になって本当に納得することになる。












日帰りでのコースを選んだので夕方には折り返して往路を歩く。
二人で他愛ない話をしながら甘く楽しい時間は過ぎていく。



「今日は楽しかった。ありがとう。」
別れるのが名残惜しいのだとは、おくびにも出さないように不二は微笑う。
「…家まで送っていこう。」
だが名残惜しいのは手塚も同じで、少しでも長くいられるようにと
送っていこうと申し出る。
「それじゃ、お言葉に甘えて…。」








いつものように二人で自宅への帰路を辿る。
やはり口を開くのは不二からだ。




「実はさ。」
「…何だ?」


「世界史だけ残ってるんだよね。」
一瞬、手塚は怪訝そうな表情をするが不二の言わんとする事が
分かったらしく、口元を僅かに緩める。

「俺も古典が残っているんだが。」
二人が言っているのは夏休みの宿題のこと。
自分で片付けられないことは決して無いが一緒にいられる口実が
出来るのならば、と敢えて互いに相手の得意科目の課題を残している。



まさか手塚も同じようなことを考えていたとは思わなかったのか、
不二は瞠目してから嬉しそうに微笑う。
「それは奇遇だね。明日、宿題片付けちゃおうか。」
一緒に宿題をやらないかと言外に誘えば、
手塚はそうだな、と僅かに目を細めて頷く。








同じ想いを抱いているにも関わらず、相手には未だに伝わらないという
もどかしい夏はこの年で終わる。




二人がめでたく想いを通わせるのは、もう少し先のこと。





      *  *  *  *  *





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